入学
試験が終わってから早数日。授業も終わりすることがなくなった学校での奉仕作業を終えて、家に帰って、風呂に入って、夜ご飯を食べている最中、両親が急に、やれ制服の採寸だとか、ローファー、上履きだとかの話をしだして何事かと思えば、どうやらトレセン学園に合格していたようだった。姉さんは少しも疑いを持っていなかったようで、当たり前だと自慢げに笑っていた。
後日、学校に行くと、私の他にも受かっている人がチラホラいた。自慢げに試験の時のことをひけらかす人、囲われて照れ照れしている人と、皆、年相応に嬉しそうだった。
私は平常運転だ。
制服やらなんやらの採寸では、なんだかコスプレをしているような気分になって背中が痒くなったり、トレセン学園入学前の説明会では、先生方の話やら、生徒代表として、あのシンボリルドルフ会長のお言葉を拝聴したり、その流麗華美な文の中に仕込まれたくっそしょうもねーギャグで居た堪れない気持ちになったりもした。貴方はTPOという言葉をご存知でないのですか。
そうして、諸々の入学前準備が終わり、小学校で過ごした6年の日々も、卒業式をもってつつがなく終了した。
ガクン、と身体が揺れて、はたと目が覚めた時、私をトレセン学園の敷地を隔てる赤い煉瓦造りの壁が出迎えた。
バスから降りると、私を過ぎて、我先にと駆けていく、紫色の真新しい制服に身を包んだ同級生。バスの通り過ぎていく音、肩に下げたスクールバッグの感覚、まだ嗅ぎ慣れない匂い。
手を握りしめて、思わず立ち尽くしてしまったのは、決して気圧されたからではない。
私たちを歓迎して開いた正門前は、散り際の桜並木に
、新たに芽吹いた新芽のような、未来への希望に満ちたウマ娘でいっぱいになっている。
その中の輪に入ってみると、やはり背中のぞわぞわが禁じ得ないのは、もう一生付き合っていくしかない後ろめたさなのか。いや、それはどうでもいいことだ。
周りを見て、聞き耳を立てながら歩いていると、どうやら入学式を前に、LANEの交換やら、「友達になろう」なんてベタな声も聞こえてくる。若い印だ。
そして、当然のことだが、私が一方的に知っている顔ぶれも、目を輝かせてこの場に立っていた。
「私、ナリタトップロードっていいます! よろしくお願いします!____」
おでこ丸出しのウマ娘は、素直で社交性のあるやつしかいないらしい。金髪で底抜けに明るい笑顔でいる彼女の周りには、すでに5、6人のウマ娘がたむろしている。
その脇をぬって、破顔したウマ娘達をかき分けて静かに歩いていくのは、青いメンコを片側につけたポニーテールのウマ娘――アドマイヤベガ。
入学初日に死地に赴くような雰囲気を醸しているのは、後にも先にも彼女だけなんじゃないだろうか。
そして、忘れるはずもない足音だ。
姉さんにも指摘されたが、案外、私は根が深い方らしい。
振り向くと、彼女と目があった。
周りの声、感覚が細まって、私の全神経が逆立った。
「……ん、君は……、あぁ試験の時の!」
尊大に、自分を信じて疑わない強い顔をし、金とエメラルド色の装飾が施された耳に、王冠を戴いたウマ娘。
いずれ、王の名に相応しい力を芝で振るうことになるウマ娘。
私が、姉さん以外で初めて敗北を喫したウマ娘。
「テイエムオペラオーさん、ですよね」
「そういう君は、ラスカルスズカさん、だったかな」
「……名前。覚えてくれていたんですね」
彼女はあっけらかんと答えた。
「このボクを
……
確かに、私は彼女にクビ差で負けた。
後ろから差されて。
「いい筋書きには
そう言って、彼女は小さな手を私の前に差し出してくる。
全く、口角が上がる。笑いが止まらない。体の内から湧き上がるこの熱は、なんなんだ。
「光栄ですね、テイエムオペラオーさん」
「固いなぁ、オペラオーでいいよ、ラスカルさん」
私は彼女の手を取って、柔らかく握りしめた。
貴方は感じているのだろうか、私の抱く熱を。姉さんにすら向けたことのない、この無駄な感情を。
「…… ふふっ」
彼女は、私の眼をじっと見つめた後、静かに校舎の方へ歩いて行く。
彼女の足音が遠ざかっていくにつれ、だんだん周りの喧騒が鮮明になってくる。喧騒に取り残された私を置いて、彼女はさらに進んでいく。
それが嫌で嫌でたまらなくて、私はその背を追いかけることにした。
スズカさんの同室
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スペちゃぁぁぁん!!!!!
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ラスカル