スズカになりました。   作:にわとり肉

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不審者S.Sは身を潜める

 入学式の最中、新入生の点呼で、小さな小さな理事長が頑張っているのをうつらうつらと眺めていた時、ふと、一人見ていない顔があると頭によぎった時だ。

 

 その瞬間、粛々とした雰囲気を突き破って、後方からガタンっと物音が響き渡った。

 次に聞こえてきたのは、嗚咽の混じった弱々しい声

 

 『お、おお、遅れましたぁぁ〜!!! 電車は止まるしバスは渋滞に巻き込まれて、うぇっええ……』

 

 あまりにも憐れな風貌の彼女――メイショウドトウが、よたよたとレッドカーペットの上を歩きながら弁明しているのを見て、あのテイエムオペラオーですら苦笑いを浮かべているのを見てしまえば、私もつられて吹き出しそうになるのは仕方ないだろう。かわいそうが一周回ってしまったような感覚だった。

 

 これまで経験した中で一番面白かった入学式が終わり、クラスに戻ると、すぐに担任の自己紹介だったり、今後の時間割等の事務的連絡、そして、中学生らしく自己紹介の時間。

 

 『____このようにして、このボク主役、世紀末覇王へと成り上がる鮮烈で輝かしくて気品あって可憐で美しくて力強い歌劇は幕を上げたというわけなのさッッッ!!!』

 

 長い。

 

 ともあれ、自己紹介、もといテイエムオペラオーの一人オペラ鑑賞会をもって、トレセン学園での初日は放課後のチャイムと共に区切りを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャイムが鳴り響く最中、ふと、午前中のことが頭をよぎる。

 

 今日はいつになく寝覚めが良かった。身体も軽くて、朝から夜まで走っていられると自負できるぐらい。食欲もあるし、頭も冴えていた。

 

 なぜなら、今日は始業式にして、入学式でもあるからだ。

 私の妹の入学式だからだ。

 私の妹の。

 

 「〜……!!」

 「そこで何してる、たわけ」

 「あうっ」

 

 太陽が真上からチョップしてきたのかと思ったら、後ろから聞こえてきたのは友人の声。振り返ると、そこには、手刀を引いて眉をハの字にした友人が仁王立ちしている。

 目線がチクチクする。

 

 「妹を待っていたの」

 「妹……? あぁ、件のウマ娘か。……またその辺で破廉恥な行いでもする気じゃなかろうな」

 「だから、別にそんなことしてないって」

 

 わたしは、校舎の正面玄関、そこの近くの柱の物影でしゃがんで待っていただけなのだ。だのに犯罪者を見るような目つきで見ないで欲しい。

 というか、私は別に、ラスカルとそういうこと(・・・・・・)をしているわけじゃないし、世の仲良い姉妹なら抱き合って匂いを嗅ぎ合うぐらいする筈なんだ。

 つまり、――エアグルーヴはすぐにそういうこと(・・・・・・)に結びつけてしまうような結構ピンクな思考回路をしているということになるってことだ。

 

 「……エアグルーヴ、ませてるのね」

 「は……? お前が言うな」

 

 また頭に軽く衝撃が走る。エアグルーヴは、アイシャドウで飾った目を伏せて、大きくため息を吐く。まるで私のせいみたいじゃないか。

 抗議の目線を送っても全く効いていない。むしろ冷たいを通り越した視線が私に降り注ぐ。

 仕方なく、エアグルーヴから正面玄関へ視線を戻す。あいも変わらず、玄関前は静かだ。

 

 「大体、お前は後で会えるだろ…… そんなところで出待ちしてるぐらいだったら、レースも近いのだから走りにでも行って、大人しく部屋で待ってろ。見ててみっともない」

 「もう無理。待てない」

 「お前がでしゃばれば恥をかくのは妹だぞ…… きゃっ」

 「トレーニングは欠かさなかったわ」

 「あーいえばこう言って……!! くすぐったい!」

 

 尻尾で足を叩いても何をしても立ち去らない親友に手をこまねいていると、私の耳は、確かに玄関前からの音を捉えた。

 

 耳に染みついた、どやどやと外へ出ようと殺到する足音だ。

 

 「____静かに」

 「むぐっ!? うっ!?」

 

 即座にエアグルーヴ(お小言星人)の口を押さえる。ラスカルのためにも自然さを演出しなければならないのだ。変に騒ぎ立てられては困る。

 物凄い怒気を背と掌に受けながらも、冷静に、クールにその時を待つのだ。いや、頼むから、後でいくらでも説教されていいからどこかに行っててくれないかな。

 

 「ん゛ー!!!」

 「お願いエアグルーヴ。ちょっと静かにしてて」

 「ばあっ……! おっ前な……!!」

 

 どんなに怒っていても、エアグルーヴは全力で頼み込むと折れてくれる。思い切り耳を引き絞っているが、今は息を潜めてくれた。

 

 もう近い。下駄箱が開く音、靴で地面を叩く音、ワクワクしてる聞き慣れない声、どんどん膨れ上がっていく。

 同時に、私の胸も踊り狂う。朝から見ていたが見るだけじゃ足りないのだ。あの子の柔らかい手と繋がりたい。何もかも感じたい。でも我慢。

 

 まだ我慢。

 

 もう少し。

 

 もう少し____

 

 ____!

 

 

 (きたっ!)

 

 

 ついに、真新しい制服に身を包んだ群れが、人もまばらな玄関前広場に殺到。寮で荷解きか学園内を探検するのかどうするのか知らないが今はとにかくラスカルを探す。流石に鼻と耳では無理だが、ウォーリーをさがせ! の最難関を30秒でこなしてみせた私ならば。

 

 「……!」

 

 時間がかかるわけがなかった。

 あのくすんだ緑のメンコ、緑のカチューシャ、弾ける笑顔に私より肉付きのいい体、間違いない、ラスカルだ。

 焦るな、こういう時ほど____

 

 「……笑顔?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は声をかけなかった。どうやら、あの子には友達ができたらしい。王冠を被った元気のいい子と、すごいでかいのを持っているアホ毛の弱気そうな子。なら、私が躍り出るのは無粋だ。

 

 さて。

 

 「……行かないのか? 行かないんだな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ふふっ」

 「む? ボクの風格に当てられたかい?」

 「いや、可愛いなって」

 「わ、私もそう思いますぅ……?」




 お待たせ、待った?

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スズカさんの同室

  • スペちゃぁぁぁん!!!!!
  • ラスカル
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