……ズカ!
スズカ!
「……あ」
「何ぼうっとしている……」
私は、自分が大概適当で、走ることとラスカルのこと以外には執着していないことを知っている。だから、昨日の夜、ふいに心の奥底から浮かんできた気の迷いなんて、あの子の体温を感じながら寝れば、スッと忘れてしまうだろうと思っていた。
それがどうだろう。朝、ラスカルの寝顔を拝んだ時も、一緒に走りに行って、ご飯を食べて、授業を受けている時も、例えば服のシミのようにこびりついて離れない。
目の前で呆れてるんだろうエアグルーヴにとってもらいたいが、彼女でも無理なんだろう。
「エアグルーヴ、なんで着替えてるの?」
「たわけ。次は外で自習だろうが…… お前らしくもない」
一番前、窓側の席が私の席。そこから教室を見回すと、ほとんどのクラスメートが制服を脱いで、中から体操服を露わにさせていた。
成程。私は重症だ。
「朝から覚束ないとみていたが…… 何かあったな?」
大人しく着替えていると、急にエアグルーヴが突っ込んできた。
じっと見つめても、逆にアイシャドウの入った強い目に反撃される。
「エアグルーヴ……」
「友人にお前みたいのがいたら、気になるのはしょうがないだろう」
エアグルーヴは世話焼きだ。聞けば答えてくれるし、聞かなくても察して関わりにくる。それが助けになる時もあれば、今みたいに厄介な時もある。
こうなると答えるまでしつこいから。
「添い寝ぐらい、エアグルーヴもするでしょ」
「それはまあ、あいつが寝ぼけて入ってくることはあるが……」
「それで、ラスカルが可愛かったから少し寝不足なだけ」
「嘘こけ」
嘘だ。きっちり7時間寝た。快眠だった。
ああもう、そんなにわかりやすいのか? 私は。
でも、言えるわけないだろう。妹が友達作って仲良くしていることに嫉妬していますなんて。低俗で最低で自分本位な悩みなのだから。こんなものがエアグルーヴのもとに晒されるのは嫌だ。
相変わらず、エアグルーヴの視線は私を捕捉したまま。しかし、今日は負けない。
これは私の尊厳をかけた争いだ____
「……妹が自分に嫉妬しているかどうか??? はぁぁぁぁ……」
「だから言いたくなかったのに……!!」
二時間ちょっとで負けました。
エアグルーヴのどこで培ったのか知れない巧みな話術で誘導されました。
対面で、ずごごとオレンジジュースをストローで啜って、まるで被害者かのような面持ちのエアグルーヴがはいたため息は、カフェテリアの喧騒にかき消される。
「お前は何もかも深刻そうだから…… 心配して損した」
「私の尊厳……」
「妹に不法侵入を強要して敷地内で抱き合ってた奴が今更何を言う……」
机の下で、なるべく不意を装ってエアグルーヴの足を蹴ったが、すぐに蹴り返してくる。
負け惜しみに机に肘をついてそっぽを向いていると、
「……そんなになってるなら、この際直談判すればいいじゃないか」
相当血迷った案がエアグルーヴから飛び出してきて、私の心に右ストレート。思わず振り返ると、彼女は氷をストローで突いて行儀悪く遊んでいた。
「できるわけ……!」
しかし、エアグルーヴは遊びをやめないで、ジトッとした目を私に向けてくる。
「お前の今までの話が全て誇張なしに本当なら、今更そんな言葉で関係が拗れることなんてないだろ……」
「……」
一理あると思ってしまった。
なんとなく、ラスカルはそういう子な感じはする。抱きしめて匂いを嗅いでも文句ひとつ言わないし、逆に仕返してくるんだから。
「スズカが勝手に悶々としてるだけなんだろう?」
「ムゥ〜……」
「って言ってもお前、変なところでひよるからなぁ」
耳が痛い。
「……なにか、打ち明けるための条件でも設定してみればいいんじゃないか? ほら、例えば直近でレースがあるんだ、それに勝ったら言おう! とか」
……
「フンギャァァァァァア!!!!!! ぁあ、負けまじだっ゛……」
『弥生賞の不安を吹き飛ばすような連勝を見せてくれましたサイレンススズカ____!!!』
よし、今日こそ言おう。そうしよう。
観客に埋もれててもわかる、人畜無害そうな笑顔で手を振っている、私の妹に。
スズカさんの同室
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スペちゃぁぁぁん!!!!!
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ラスカル