落ち着く雰囲気、あわわと焦る声、隙間に入り込むような華やかな音色の鼻歌、揺れるカーテンから漏れる陽光、紙の擦れる音、本の匂い。それが、私に考えを巡らさせる。
最近姉さんがよそよそしい。
こういう時、姉さんはうまく隠し通せていると思っているが、二十数年ヒト耳やって、ウマ娘になってからは十数年姉さんの間近で暮らしてきた私が、少しの違和感に気づかない筈がない。
「ふむ…… 君の姉というと、サイレンススズカ先輩じゃあないか。このボクを差し置いて最近注目されてる……」
椅子の背もたれに寄りかかり、頭の後ろで手を組んで、私の前に座るオペラオーはいかにも悔しそうに言う。その眼下には、真っ赤っかの数学の基礎ワークに教科書、凝った落書きだらけのノートが広げられていた。
あと一週間で定期テストだというのに、知っていてなお頭の痛くなる彼女の勉強の不出来さを目の当たりにして、時期的に倍率高めの図書館の席をとって勉強会を開いた私の努力は、全く徒労に終わりそうに思えて仕方ない。
一先ず休憩をというところで、世間話程度に聞いてもらうことにしたのである。
「何か言いたげなんだよね。私にさ」
「なんでしょう……? ラスカルさんの寝相が悪いのでしょうか〜……?」
まず反応したのは、オペラオーの隣に座る、本時勉強会におけるポンコツ助手――メイショウドトウ。残念ながら、私をギチギチに拘束してくる姉さんに私が文句を言うのが正しい。
オペラオーは、つまらなさそうに肘をついて、目を細めて私を見つめていた。
「オペラオーはどう思う?」
「ボクは、誰かの演目の役者を演じる気は無いね」
ジトーっと私を見つめながら、彼女はそう吐き捨てる。
そう言われてしまうと、私はもう笑って返すしかない。
オペラオーの察しの良さに感服して。
なら、もう隠しておくこともない。どうせ暇つぶしだし。
「えっえっ、どこかにカメラでも置いてるんですかぁ〜?」
「当てて欲しかったってこと。なんで姉さんがよそよそしいのかってのをさ。会話を引き出させるための、一つのやり方だよ」
「えぇ……?」
「オペラオーの察しが良すぎて失敗しちゃった」
役を演じる者が、他人の演技を見抜けない訳がない。とはオペラオーの談である。
とはいえ、私のそれも推察に過ぎないのだけれども。
でも、外してはいない筈だ。だって、私は姉さんの妹なんだから。
「姉さんは不安なんだよ」
それが私の結論。
姉さんは私に嫉妬しているんだろう。そうに違いない。だって、小学校ではろくに友人と呼べる人間はいなかった私が、トレセン学園に入学してからは、オペラオーにドトウという友人ができたから。
姉さんは、友達と接している私に嫉妬しちゃうぐらい、私が大好きなのだ。
そして、私は姉さんが電話越しに先輩と併走しただとか、今なら、エアグルーヴ先輩と関わっているところを見たりとか、そういうことに出くわしても、大して反応を出さなかった。そこに、前々からポーカーフェイスだって言われていたのが合わさった結果、
“ラスカルは、私が友達と一緒にいても嫉妬してくれないのね。”
こんなところか。
この説明をしていた時の私の表情は、さぞひどい
あのオペラオーが、少し椅子を引いているし。
「……それだけわかっていながら、キミからなにも言わないのは、少しイジワルなんじゃないのかい? 絶対嫉妬しているんだろキミ」
「私は姉さんの口から聞きたいの。だから待つの」
「あまりいい趣味とは言えないと思うが……」
全くその通りだ。でも、姉さんが迷って右往左往している姿をみると、たまらなく愛おしく感じてしまうのだ。
自分の思い通りに姉さんが行動していることへの愉悦感? 支配欲の現れ? 弱々しい姿に対する庇護欲? 姉さんが私を大好きだと再確認して安心したいというちっぽけな私の現れ?
いや、これら全てか。他にも知らないことがあるのかもしれない。
とにかく、今の姉さんはとても可愛いから、もう少し、もう少し見ていたいのだ。
「……さて、休憩は終わりにしようか?」
「oh…… 数式の並びに何の物語性を見出せば良いのだ、ボクにはあまりに不相応だよ」
「不相応だろうが点が取れなきゃ赤点なんだから……」
スズカさんの同室
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スペちゃぁぁぁん!!!!!
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ラスカル