スズカになりました。   作:にわとり肉

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 私は別に、ヤンデレだとか、匂いフェチだとか、そういうのは癖ではないんです。本当に。


交錯した思い、倒錯したアイ

 姉さんがトレセン学園に入学して、もう二年は経とうとしている。前と比べて、時間経過の早さは雲泥の差だ。

 私も小学六年生となり、つまらない学校生活の合間に両親の手伝いをする日々を送りながら、目前に迫ったトレセン学園の入学試験に向けて、勉強とトレーニングの日々である。

 しかしだ。ファン感謝祭だったり、公開されているトレセン学園内でのレースだったりで、姉さんに会うことはできるが、一緒の部屋で過ごしていた時と比べれば、会って触れ合える時間が激減したのは言うに及ばない。

 毎夜、ベッドの上で、スマートフォンの小さな画面に映される、布団にくるまった姉さんの小さな顔を拝みながら通話をする。それぐらいしかないのだ。

 遠くに聞こえるストーブの燃える音も、この時間は煩わしい。

 

 「デビュー戦、1着おめでとう。生で見れなくて残念だった……」

 『ありがとうラスカル、でも、遠いんだから無理しなくていいのよ』

 

 ささくれ立った心をもつ人間だって癒してしまう声でそう言う姉さんは、多分、誰が見ても、その儚げな顔を寂しそうな笑みで染めていると思うだろう。そうに違いない。だって姉さんだもの。姉さんが一人部屋になったと聞いて、知っていたけど心配になったものだ。そういえば、今は何を抱きしめて寝ているんだろう____

 

 『次は弥生賞を目標にするらしいわ。今の私なら十分クラシック戦線に殴り込めるって』

 「あんな勝ち方(二着と7バ身差)すればね…… 弥生賞となると一ヶ月後くらいか。絶対見に行くよ!」

 

 一ヶ月も待たされるのか。

 

 画面に映った姉さんに、思わず手を伸ばしてしまった。でも、ばれないように、死角から。

 でも、硬く冷たい感触が、指の腹を無情に押し返してくるだけ。指の後ろで、姉さんは首を傾げている。

 

 『ラスカル?』

 「なんでもないよ、ぁあ、そういえば今日____」

 

____そういえば、私はよくポーカーフェイスだと言われた。

 私の日常の話、姉さんの話を続け、もういい時間だからと通話をやめ、LANEのトークルームの画面に通話終了の文字が飛び出た時、ふとそんなことを思い出した。

 ストーブは、運転延長のボタンを赤く光らせて止まってしまっている。

 隣をみると、毛布やらなんやらが剥ぎ取られ、フレームだけになった私のベッドが置いてある。

 耳鳴りが次第に大きくなって、静かな部屋の中で私を苛む。

 

 「はぁあ」

 

 枕に顔を落として、思い切り息を吸う。

 するのは私の匂いだけ。なら洗濯に出さなきゃ。

 

 学校の友達と遊ぶのは当然慰みにすらならない。本を読んでも埋められない。両親の仕事を手伝っても頭にちらつき続ける。ご飯を食べてもお風呂に入っても、何をしても、せいぜい一時、姉さんが居ないことを忘れられるだけで、夜になると毎日一人の部屋で寂しくなる。

 でも、きっと姉さんもこうなっているんだろうと考えると、少し胸が温まってしまって。

 

 全部姉さんが愛おしいのが悪いんだ。

 

 布団に潜り込んで、目を閉じる。

 私の匂いしかしない。

 あぁ、あの明るい髪の毛を撫でたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「らすかるぅ……」

 

 寮へ行く前に、私はラスカルの布団と枕を取っていった。もう随分使い古していた筈だし、あの子の匂いが染み付いてるから。

 でも、案外匂いなんて簡単に上書きされてしまうものらしい。布団をあの子に見立てて抱きしめてみたりしても、簀巻きみたいになっても、何をしても私の匂いしかしない。

 私と同じメンコをつけて、ボブカットで、私より少し肉付きが良くて、人付き合いのヘタクソな私を助けてくれるいい子で、いい匂いで可愛い私の妹の存在が感じられない。

 通話であの子を見るたびに家に帰りたくなる。私の布団を愛用してるかわいいかわいいあの子を思いっきり抱きしめて撫で撫でして吸ってやりたい。

 

 「ううう……」

 

 毎日悔しくて涙が出そうになる。あの子の通う学校の人たちはあの子と直接触れ合うことができるのだ。容姿端麗で機知に富んだあの子のことだ、私が居なくなった後、友達も沢山できたんだろう。当然だ。当たり前だ。できない方がおかしい筈だ。

 もしかしたら男子に告白なんて、されてるのではないだろうか。

 

 「ぐううえ……!」

 

 そうだ。きっと私はあの子の邪魔をしていたに違いない。どうやら人の逆鱗に触れやすいらしい私を助けていたのはあの子だ。姉としてなんて不甲斐ないことか。今だって、寮長や友達に度々言葉が足りないって言われるぐらいだ。

 

 ラスカルはもっと友達を作って、私にとらわれない生き方をした方がいいのかもしれない。良いに決まってる。

 

____いや、本当はこれも全部建前なんだ。本当は全部独り占めしたいくせに。ああ嘘つきなんだ私は。本当は自分勝手でラスカルが近くにいて先頭を走れるならいいだけの駄バ娘なんです。

 

 なんでラスカルはそんなに私の心を揺さぶるの。

 嫌いにさせたり怖がらせたりものすごく好きにさせたり。私がこうなったのはラスカルのせい。

 

 「……」

 

 弥生賞まで後一ヶ月……

 通話じゃ不完全燃焼なだけ。堪えられない。

 でもさみしい。

 さみしい……

 ……

 

 「……」




 本当に匂いフェチとかヤンデレとか特別に好きってことはないんです。
 スズカさんは素直に性癖です。

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スズカさんの同室

  • スペちゃぁぁぁん!!!!!
  • ラスカル
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