____この世界は、競走馬に対して「こうであってほしい、こうなったらいい」と人が願ったこと、つまり人のエゴを叶えるための世界。それでいて、史実にも従う歪な世界。
誰が勝つか、いつ怪我をするか、どう劇的な回復劇を見せるのか、そういう“流れ”はあらかじめ決まってると考えた方がいい世界。
姉さんは天皇賞秋で足を折らないかもしれないし、折れたとして、劇的に回復するんだろう。人は、サイレンススズカが怪我をして予後不良にならなかったら、というIFと、怪我をしても立ち上がって復帰するというIFを見たがるものだから。
私には、この身体、ラスカルスズカという存在が、競馬の史実に存在しているのかわからない。
運営がモブとして用意しておいたキャラクターなのかもしれない。モブだとすれば、トレセン学園で勝つのは厳しい話になるだろう。モブはネームドキャラの舞台装置にすぎないから。
ただ、ラスカルスズカが競走馬として実際に存在していたとして、年間無敗という記録を持つことになるテイエムオペラオー、ネームドウマ娘のナリタトップロード、アドマイヤベガ、メイショウドトウがいるこの世代で、果たしてどれだけ活躍していたのかわからない。殆ど勝てていないのかもしれない。
だとすれば。
まあ、そもそも私は幸運なのだ。全力を尽くして結果が振るわなくても、それは仕方がないし、私には姉さんがいるし。
……
「これより、距離2000m、左回りの条件で、模擬レースを始めます!」
実際にゲートを目前にすると、流石に緊張が込み上げてくる気がする。少し目を滑らせると、不安そうに耳を倒しながらゲートの中へ入る者、勝ち気な表情をして堂々と入る者と、人によってさまざまだ。
一つ息を吐いて、口を開いたゲート、4枠のそこへ体を進める。暗く狭い、しかし、隣のウマ娘の声が不安を煽り、燻らせる。
そして、右隣の空いたゲートに、入ってくる気配を感じて、少し横目にすると、小さな王冠を戴いた煌びやかな風貌のウマ娘が、不敵に口を緩ませている。
それを見て、私は緊張が解けて消えたのがよくわかった。
完璧なレースをした。
セオリー通り、スタート後に二、三番手の後ろにつき、スリップストリームの恩恵を受けながら、終盤、第三コーナー辺りまで足を溜めた。そして、第四コーナーあたりで進出を始めて、ゴール板まで後方を突き放し続けた。
何もかもが噛み合っていた。今、トレセン学園で走ることを真剣に学ぶ前にできることはした。
だから、テイエムオペラオーが強かっただけなんだ。
スズカさんの同室
-
スペちゃぁぁぁん!!!!!
-
ラスカル