受かっているかな、不安だ、なんとかなるさ、家に帰ってまた走らなきゃ、……
私の周りを、希望と不安に満ち溢れた声が通り過ぎていく。試験が終了して、私を含めた受験生達は皆、荘厳なトレセン学園の校舎に一時の、あるいは(生徒としては)永久の別れを告げて、正門から帰路に着いているのであった。
とはいえ、友達を作って歓談していたり、写真を撮っている者も少なくない。お陰で道が詰まってしょうがない。
精神的にもう若くない私のような奴は、このような雰囲気には弾かれてしまうもので、荒れ狂う人の波から脱出するのには骨が折れる。
瑞々しい声を後ろに、ようやく道に出ることができた私の目に、自然と、トレセン学園の正門と道路を隔てて顔を合わせる、もう一つの門が飛び込んできた。
先にあるのは、ここに通うウマ娘たちが住む学生寮の敷地。
つまりは、ここの先には姉さんが住んでいるということだ。
なら、その門の端っこに、赤と白のジャージを着た姉さんが目をキラキラさせて、耳をぴこぴこさせながら待っているのは自然なことなのだろう。
後ろを見て、ギャアギャアと煩わしい子供たちの視線が外れていることを確認して、私は小走りで道路を横断、姉さんの前に立って、
「えっと、久しぶっ____」
言い切る前に、姉さんの手は、私の手首を掴んでいた。
ふわりと、懐かしい汗の匂いが香った。
「姉さん……、勝手に入ってもいいのかな……?」
「……」
姉さんの小さくて細い手がぐいぐい私を引っ張っていく。ふんふん鼻息を粗くして、誰が見ても興奮してる面持ちだと思う。私も別の意味でドキドキしている。寮には地下牢があるって噂だが。
キョロキョロと見回したり、止まったと思ったら歩き出したりと、私をガッチリ捕まえたまま挙動不審に動き回り続ける姉さんと敷地内を彷徨って、しばらくして、寂れた何かの倉庫裏にきた時だった。
「姉さっ、わっ!」
思い切り押されて、背中から転んだのだ。無論、犯人は目の前の明るい栗毛。
「わぶっ!」
さらに、胸にかけて柔らかい重みが寄りかかった。薄翠の瞳が私を貫く。ぬるい空気が鼻先を突く。
いや待って。何しようとしているんだ、何しようとしているんだな姉さんは。
ゆっくりな拍動を感じる一方で、私の心臓は加速度的に脈の速度が上がっていく。
いや本当に。
「まだ風呂にも入ってっ……」
「すぅー」
あぁ、今の私を吸うのか、姉さん____
さぁっと風が流れていく。私の熱い頬を覚ますには全く足りない。私の胸に顔を埋める姉さんの沸いた頭にはもっと。でも、姉さんの尻尾がとても嬉しそうに振り回され、足に当たる。
それに、濃い姉さんの匂い。
毒気を抜かれたような気分だ。
「ぶふー…… 久しぶりね、ラスカル」
「…… 姉さんは色々変わってないね」
すっと緑色のメンコに保護された耳が絞られて、抱きつく力が増した。私は中身のことを揶揄したつもりだったのだが。それに私は姉さんの体型が大好きだから変わらないで欲しいと思っている。
すると、不意に姉さんの雰囲気が変わって、
「今日の入学試験、どうだった?」
一瞬固まってしまったのを、姉さんが気づかない筈が無かっただろう。
「2着だった」
だから、簡潔にそう答えた。
それで終わりにしようと思った。
しかし、木の葉の隙間から見え隠れする青空を見ていると、なんだか喋らずにはいられなかったのだ。
「何も、レースは着順だけが全てじゃない。2着は悪い順位でもないし。それ以外にもレース中の視野、判断能力とかを総合的に見て判断するのが実技試験だから。それに、面接はバッチリだし、書類も____」
また、姉さんの瞳と目があった。
私と違って、曇りのないレンズ。見つめあって、目を逸らしたのは私だ。
「悔しいのね」
そう言われてから、不可思議なことだが、私は、自分がウマ娘になったと自覚できた気がした。
姉さんは、やっぱり私の姉さんであることも。
「よかったわ。ラスカルがそう思えて。…… すぅー」
「姉さん……」
スズカさんの同室
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スペちゃぁぁぁん!!!!!
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ラスカル