やっぱり休日だと気が緩みますね……なんとか毎日投稿が間に合って良かったです。
あれから茜は、泣いてしまったのを慰めてもらい、そのまま成り行きで健康診断も終わらせていた。
あかりから聞いた話で特殊な生まれなのがわかったものの、それでも元のベースが人間であることに変わりは無い。普通の人間同様の健康診断が行われた。何かとんでもない人体実験をやらされるのでは?とまで考えていた茜にとっては、拍子抜けのようにも感じたが。
健康診断の過程で移動していてわかったのだが、どうやらここは病院というよりは、病院の機能も兼ね備えた施設──と言った感じのようだ。
他に患者はおらず、いるのは先程慰めてくれた彼女のような、施設側の人間ばかりが行き交っている。茜はすぐにここが病院ではないと理解した。
「茜さん、健康診断お疲れ様でした。」
「あかりさんもお疲れ様。付き添い感謝やで、もし一人だったら……今頃混乱してたこと間違いナシやし。」
そして健康診断中に会った他の人間には、揃いも揃ってある動きが見受けられたのだ。それは茜が珍しい存在だからなのかもしれないが──診断中ずっとこちらを凝視してきていたこと。少し薄気味悪く感じていた。
もしかしたら髪がピンクなのが珍しくて、気になったのかもしれない。
「いえいえ、お易い御用です!……そいえば、身体年齢見て驚きましたよ?まさかわたしと同い年なんて。」
「ウチはそれより、15歳なのに働いてるあかりさんにビックリしとるんやけどな……」
健康診断をした時にわかった事なのだが、どうやら琴葉茜の身体は、15歳相当だということが発覚したのだ。
そしてこの年齢があかりと同い年だということも。
これは余談だが、実は茜はもうひとつ衝撃を受けていたことがある。口には出していないが、「……同い年の胸か?これが……」と胸のサイズに驚いていたのだ。
神様は不平等なのかもしれない。
もっとも、茜を作ったのは神でもなんでも無いのだが。
そしてあかりが働いてるという話も聞き、この歳で働けるなんて、この世界の常識は知っている知識と異なるのか?と考え始めていた。
「わたしはこの組織の尖兵、所謂本部隊の前に動いて潜入とか偵察する役割をしてます。狭いところに潜入したり、最初に敵と相見えることもあるので、体が小さくて感覚が鋭い、若い人がこの仕事にうってつけなんですよ。」
「ウチらの家に最初に来たのも…」
「そう!わたしがこの役割だからですね。」
「なるほど……。」
聞くに、どうやら相当危険なバイトらしい。
……これはバイトなのだろうか?茜はこういう危険な職業は最早バイト等ではなく、もう一兵士の役割だと思っている。
「というか!同い年ならちゃん付けでもいいですか?!」
「? 別にええけど…」
「茜ちゃん!茜ちゃん!!」
「はいはい、なんの用やあかりちゃん?」
茜は、呼び掛けに答えながらも今更気づいた。
この子結構グイグイ来るタイプなのかもしれない……と。
「あはは、ありがとうございます。周りに同世代が居ないので、こういうの嬉しいんですよ。」
「そうなんや?──ウチで良ければいつでも話し相手なるで?」
そして、中々辛い境遇に置かれているのかもしれない……ということにも気づく。茜が過去に配信をしてた際、「学校から帰ってきたタイミングで配信助かる」というコメントを見かけたことがある。これで少なくとも、この世界に学校があるのは確定している。
それなのに潜入したり偵察する、命を落とすかもしれない仕事を生業にしているということは……即ち、なにか深い理由があるに違いない。
が、そのことについて詰め寄ることは無かった。茜にも人の事情に深入りしない、という常識は身に付いているからだ。仮に聞き出すにしても、それはもう少し仲が良くなった後になるだろう。
今はただ──友人としての会話を、初めて会った人間との会話を楽しみたいと思っていた。
「え!!ぜひお願いします!!!……ちなみにこの後はどうします?」
「そうやな……何も食べとらんし、とりあえずなにか食べたいかもしれへん。」
だが茜は起きてから、話して、泣いて、健康診断だ。
さすがに疲れて一息つきたかったところ。胃に穴があきそうなくらいお腹が空いているので、体はなんでもいいから食べ物を入れたがっている。
「ご飯ですか。ちなみに『○○が食べたい〜』とか、そういった希望はありますか?」
「ほな、海老天で!!!」
呼び出しボタンを押すのではなく、人に言って料理を頼むのが初めてなので少し新鮮に思える。とりあえずリクエストしても良さそうなので、一切の遠慮無しに好物を頼んでいた。
茜は食べ物に関しては遠慮が無く、妥協もしないようだ。
「海老天?あ、そいえばさっきも海老天って言ってましたもんね。好きなんですか?」
「エビ系は大体好きやな。特に一番はエビフライで──」
◆❖◇◇❖◆
あかりさんが食べ物を取りに行ってくれている間に一人になったので、少し隙間時間が出来た。
ので、ふと今までのことを思い返してみようと思う。
憑依してからの葵との生活。
嫌なことはガソリンを飲むくらいで、一日一日が楽しくて仕方なかった。二人でいつも同じようなサイクルを繰り返して。
日によって違うことは、配信でプレイするゲームくらいだったけど……その毎日の“いつもの”の積み重ねが、とても大事で。素敵なもので。幸せなものだった。
──取り戻したい。あの妹との生活を。
いつもウチを元気づけて、フォローしてくれて、助けてくれた大切な妹。
たとえ今の現状があそこから救ってくれた結果であるとしても、これが夢であって欲しいと思ってしまうくらい。ロボットだからとか、そんな事は関係無い。ウチのたった一人の妹は今までもこれからも、琴葉葵だけなのだから。
……と、思い返していると扉が開いた。どうやらあかりちゃんが戻ってきたらしい。
トレーの上に海老天が盛り付けられたお皿を乗せて来てくれた。そして背中にリュックサックを背負っている。
前から見てもわかるような、大きめのリュックサック。登山とかで使うタイプのでかいヤツではないか、あれ。一体何を持ってきたのだろう?
「お待たせしました、食事以外にも色々持ってきましたよ?」
「ん、助かるで!」
あかりちゃんに「葵とまた生活したい」と伝えたらどうなるのか。彼女なりに気遣って色々とやってくれているのは伝わるし凄く嬉しいことなのだけれど、それでもウチには葵がいないとダメになってしまいそうだ。
「はい、これ!茜さんの大切なものです。」
「…!」
彼女がリュックサックの中から取り出し渡してくれたのは、ウチの髪飾り。あの時の話を覚えていたようで、別室から持ってきてくれたらしい。
「ほ、ほんまにありがとう…!」
「いいんですよ。保護対象を安心させる為って言ったら、簡単に上から持ち出し許可が出ましたから。」
どうやら彼女の上司に当たる存在と掛け合って髪飾りと服を取り戻してきてくれたらしい。感謝しかない。
そして食べ物にも感謝しながら「いただきます」させてもらう。
──そういえば食器を使って食べるのは、初めてかもしれない。
幸い《前の知識》のおかげで箸を使って食事をとれるものの、普段から携帯食料しか食べていなかったので少しぎこちなくなる。だがそれと同時に、胃が喜んでるのも感じた。
「すごい食べっぷり。美味しそうに食べますね!」
「んくっ……せやろか?」
美味しそうに食べるね、とは過去に葵に何度も言われたことのあるセリフだ。
葵によると特にエビフライ味の時なんかは嬉しそうで、足までバタつかせて全身で美味しさを体現してたらしい。……もしそれが他人に見られたらと思うと……よし、これからは少し抑えてみようかと思う。
「というかお箸、使えるんですね。あの家を調査した時、食器の類が見つからなかったからてっきり使い方分からないかと……」
あ、やってしまった。
「げ、ゲームで見たことがあったんやで!」
「見ただけで使えるようになるとは……さすがデザイナーベイビーというかなんというか……」
嘘である。
ウチがやってきたゲームの中にお箸を使うゲームなんてものは存在してない。この「ゲームで知りました」発言はあくまで《前の知識》のおかげでできた行動の理由付け。
これからもこの発言で誤魔化すことが増えそうだ。
幸いあかりちゃんは、デザイナーベイビーすごい!と脳内補完してくれた。
「なるほど、ゲーム……あ!そういえば、茜ちゃんは葵さんと一緒に、ゲーム配信をよくしてたみたいですね!」
「そうやな、日常のひとつみたいになっとったで。毎日配信してたはずや。」
これも葵から聞いているのだろうか?
……配信チャンネル、今はどうなってるのかなぁ。聞けばあれから二日経過しているらしいし、元々毎日配信だったあのチャンネルの視聴者のことだ。突然配信が無い日が続いて、ウチと葵のことをすごく心配しているかもしれない。早く無事を報告したいところ。
「──その配信は、あなた自身の意思で?それか葵さん?」
「どっちでも無いで、“マスター”の指示や。」
なにやら葵と毎日やっていた配信に興味があるようで、その事についてグイグイ聞いてくる。返答に忙しくて、中々食が進まない。ちょっと困る。
「……マスター?誰ですかそれ、何者ですか?」
「葵によると“従うべき主”らしいで?ウチらの所有主……ってことやと思う。」
「ふむふむ……ちなみに茜ちゃんのチャンネルの収益ってどうなってました?」
「? そりゃ当然マスターのとこいったんやない?」
ウチがそう答えると、あかりちゃんは何やら神妙な顔をしながら考え始めた。
「? どうかしたん?」
「いや……その、マスターことあなたの所有主に関してどうかと思うことがありまして」
「どうかと思うこと??」
あかりちゃんの考えていることがよく分からず、オウム返ししてしまう。
「はい……何も知らない人に自分をロボットだと思いこませて配信をさせた挙句、収益だけ踏んだくるなんて!さすがにどうかと、嫌な奴だと思いまして。」
「たしかに考えてみれば酷い話やな……あ、でも葵はマスター好き好きやったで?」
「葵さんが……?あ、そういえば彼女の事なんですけど……その……」
少し歯切れが悪そうにしながら、あかりちゃんはとんでもない言葉を口にした。
「あの……葵さん、このままだと消されてしまうかもしれないんです…」
「はぁっ!?!なんやて?!」
一体どうして。葵が何をしたと言うのか。ただ二人で慎ましく暮らしていただけなのに。
理由を聞いてみると、あかりちゃんは「あの日、茜ちゃんを気絶させてしまった後にですね──」と話し出す。
話を聞くとどうやら、葵が侵入したあかりちゃんに気づいた時、葵が威嚇射撃をしたそうで。その際にできた壁の銃弾跡を機関の人間に見られたのが、ちょっと良くなかったらしい。
「待って、ちょっと理解が追いつかへん。そもそもウチ、あの家に銃があった事すら知らへんかったで……」
「葵さんの服の袖部分からスっと…」
「えぇー……?」
「とにかく、これが『人に向かってロボットが危害を加えようとした』と判定されてしまっていて、これが良くなくてですね──」
と、何が良くないか事細かに説明してくれた。
どうやらロボットが守らなければいけない“ロボット三原則”という法律のようなものの一つの、『人間への安全性』に欠けていると判断されたらしい。
「な、なにか葵が助かる方法は無いんか?」
「一つだけあるにはありますけど、その方法は茜さんの覚悟が必要です。」
「覚悟?」
「はい。命を懸けるような、覚悟。あなたにはその覚悟がありますか?」
どうやら“助ける方法”とやらはとても大変な事みたいだ。命を懸けられるかとか言うし、簡単に「うん」とか言ってはいけない雰囲気だ。でも。
「……ウチは、今までずっと葵に支えられてきたんや。」
真剣な眼差しでこちらの覚悟を見定めるように見つめてくるあかりさんに、強い意志を持って答える。
「せやから覚悟はあるで──」
葵にはいつも助けてもらってたから、ずっと元気をもらってたから、あの家でのウチ《琴葉茜》の全てだったから。
だから全力で救い出そうと思う。
その為ならなんだってやってやるつもりだ。
「助け出したい。今度はウチの番や。」
・違法研究取締機関の施設
違法研究によって作られた物や生物を回収した後に、安全に保管することを目的に作られた施設の一つ。様々な機器が揃っており、ここならどんな物や生物が相手でも隅々まで調べることができる。
今回はたまたま茜のベースが人間だったので、あまりこの特別な機器達の出番はなかった。
※急いで投稿したせいでちょっとミスが目立ったので、修正しました!少し文章量が増えていますが、物語に影響は無いので安心してください。
※あかりの呼ばれ方修正