これからは週二〜三回投稿になると思われます。
これからも『起きたら茜ちゃん!』をよろしくお願いしますね!
違法研究取締機関において、隊員というのは基本的に名前をお互いに覚えないものだ。
これはいちいち全員の名前を記憶していると、殉職してしまった時に心が耐えられなくなることから起因している。
なので殆どの隊員は、覚える名前をせいぜい自分と組んでいるパートナーの名前くらいに留めているのである。
仲間意識がない訳では無いようだが、こうしていないと“ダメ”になってしまう人が多いので……こうするのは、事実上暗黙の了解となっていた。
しかしそんな隊員達にも共通して覚えられている名前がある。
その名前とは『尖兵のあかり』に他ならない。
尖兵というのは本来この仕事の中でも、特に入れ替わりが激しく、毎回同じ名前を聞くなど滅多に無いことのはずなのだが……彼女は違った。
彼女は一人で淡々と尖兵としての役割をこなしながらも、この仕事を始めてからずっと生き残り続けているのだ。そして仕事で成果を上げて「担当部隊を変えないか」と言われても、尖兵をし続けている。
それだけでも記憶に残ると言うのに、更に彼女の声はひたすらに美しかった。隊員服のせいで本来の容姿を知る人間は限られ、知っている者は彼女の相方と上層部くらいのものだが、それでも尚人気がある。
まるで創作みたいな活躍をする彼女は、記憶に残らないという方が無理があるレベルだ。
そんな彼女の周りに最近、引っ付くように後ろをついていく今まで見なかった隊員が一人現れた。
後輩の面倒を見ることにも力を入れ始めたらしい彼女は、その隊員を日々連れ回してミッションにも同行させている。
最初は皆珍しい物を見る目で見ていたが、しばらくするとやがて慣れていき、そして察したように理解した。
きっと彼女にもようやく信頼できるパートナーができたのだろうと。その隊員は声を聞く限り同じくらいの歳の女性のようだし、あかりに負けず劣らずの可愛らしい声をしている。
隣にいる人間としてこれ以上相応しい存在はいないだろうと周囲は認めている。
元々彼女に相方がいることを知っている者も、今はその相方の部署が違うことを知っていたので、新しいパートナーを作ることには特になにも思わなかった。
「このミッション終わればついにウチも中級や……!」
「ですね、でも浮かれすぎないでいつも通り頼みますよ?」
そしてその隊員もただあかりの腰巾着をしているわけではない。高い反射神経を使って、常に周囲を警戒して元から安定していたあかりの尖兵としての役割を更に安定するものにしていた。
二人合わせて、ずっと入れ替わらない無敵の尖兵コンビの誕生であった。あかりは茜の名前が周囲に覚えられるのも、もう時間の問題だろうと考えている。
「せやな……あ、どうやらこの建物、表の警備がすごいみたいやで。」
「裏が手薄な可能性が高いですね。むしろこれなら楽々潜入できるかも。」
今回のミッションもやはり、違法研究施設の研究対象奪取。できることならここに居るはずのマッドサイエンティスト共も一緒に捕まえたいところだ。
そう思い二人は雨の音と共に、静かに施設に忍び寄ってゆく。
「この辺から行きますか……いいですか?門の壁を越えたらすぐ裏手を目指しますよ。」
「わかったで。」
警備員が背中を向けたタイミングで門の端の方を飛び越え、物陰に隠れる。幸い着地音は雨の音に掻き消されたようだ。というか雨の日でなければ、こんな大胆な飛び越え方は選択しない。
そして隙を見てシュタタと、忍者のように隠密に裏手を目指し始めた。
「っ!!誰だ!!!」
しかし相手もそれなりの警備員。完璧にバレないように立ち回ることは不可能だった。なので──
「『にゃーお。』」
「なんだ、猫か。脅かしやがって……」
「(いやベタすぎるやろ。)」
あかりが持っている機器のひとつに、高音質で動物の鳴き声を再生する機器がある。
この機器を使い、見事に窮地を脱したのだ。
よくある鳴き真似だったら可愛かったかもしれないが、それはそれとしてバレていたかもしれない。
警備員を無事騙せたあかりはドヤ顔をかましていたが、茜は若干呆れていた。
これ、騙される方も騙される方なのでは?と。
そうして遂に裏手につき、予想通り警備員が周囲にいないことを確認すると一息ついた。
「ふぅ……予想通り裏手に人はいないみたいですけど、その理由はこれみたいですね。」
そう言って見上げるのは、入る場所が見当たらない一面の壁。
そう、表にしか警備員がいなかったのは、この建物に裏口が無かったからだ。
なるほど。たしかに表にしか入口が無いのであれば、裏を警備する理由がない。
「となると、『アレ』の出番やな?」
「ですね。あったあった、“フックショット”。」
そう言うとあかりは二つ、物を懐から出した。
先端に鋭い刃、後ろに取っ手の付いた物だ。
使用すると狙った位置に鎖のついた刃が発射されて、壁に刺し使用者をそっちに引き寄せる。
これで屋上まで行くつもりのようだ。
この仕組みがあまりにもとあるゲームに出てくるアイテムそっくりだったので、そのゲームに沿って二人はフックショットと呼んでいる。
元の名前はもう二人共覚えていない。ビリビリガンの件もそうだが、あかりはあまり正式名称を覚えようとしない。
茜も正式名称なぞどうでもいいので、こうなってしまうのは自然なことであった。
「さ、背中に捕まってください。」
「いや、ウチはこの程度の高さなら…」
「あぁ、そうでしたね。それじゃあお先に。」
そういうとあかりは茜を置いてフックショットで壁をせっせと登っていってしまった。取り残された茜は脚にググッと力を入れると……
「んしょっ──」
瞬間、凄まじい早さで茜の体が空に飛んでいく。
いや、ただ単にジャンプした。ただ凄まじい高さに跳躍しただけだ。
耳に風を切る音が入ってきて、それと同時に体全体にかかる風の圧も感じ、茜は心地良さそうに目を細める。
「──っと!ウチがお先ー!」
「……わぁ、もうついてる。相変わらずエグい身体能力してますね……」
そうして屋上に先に着いたのは茜だったようで、それを可能にする身体能力に今度はあかりが呆れている。そして同時に驚いてもいた。
今までも何度か身体能力の凄さを見せつけられてきていたのだが、その規格外さには未だに慣れていない様子。
「もう戦闘部隊行っても大活躍するんじゃないですか?」
「行きとうないで、だってウチあかりちゃん以外の前やと──」
彼女が身体能力をここまで発揮できているのは、あかりの前だからという理由に他ならない。
他の人間はデザイナーベイビーということを知らないので、仮にあかり以外にこの身体能力を見せてしまったらその異常性に違和感を持たれてしまうのだ。
最悪、上にそのことが伝わって茜の正体がバレてしまうかもしれない。
そもそもこの異常なまでの身体能力、後々からわかったものだ。
──二人が出会ってしばらく経過した頃。
健康診断の延長で、茜が体力・運動能力検査を受けた時のこと。
茜はてっきり普通の能力データになると思っていたのに、“反復横跳び”や“立ち幅跳び”辺りを測る時から異常性が見られ始める。『早く動こう』だとか『高く飛ぼう』と意識し始めた瞬間、凄まじい身体能力で体が動いた。
この体、反射神経だけではなく、身体能力も人並み以上だったのだ。
これには茜自身も驚いたし、計測員達は恐れを含む眼で見ていたし、あかりも一瞬「本当に軟禁されていたのか」と疑問視するレベルだった。
それから茜は、その恐れを含めた眼差しが怖くなり……結果的にその身体能力を極力抑えるようになってしまった。ましてや普段は隊員に紛れ込んでいる身、あかり以外の前ではその身体能力は見せるわけにはいかない。
「あはは、そうでしたね?それでは引き続きわたしのパートナーって事で。」
「そうやな、ウチもこのままが一番や。」
屋上で人の目が無いとはいえ、敵の敷地のど真ん中だと言うのにこんな話をする姿には余裕が現れている。
危険な仕事なのにも関わらずただの遠出気分の二人は、建物の中に繋がるドアに手を掛けると、機器でロックを解除し悠々と中に入っていった。
・琴葉茜③
体力・運動能力検査で、反射神経だけではなくまさかの身体能力まで良かったことが発覚した。本人もビックリ。
この身体能力や反射神経もあって、茜は足を引っ張るどころか、あかりのサポートを完璧にこなせる良いパートナーとなっている。
※一部掛け合いの呼び方を修正。読みやすくする為の修正なので、物語の内容には影響しません。