仲間がいないと、心細くありませんか?
こうなるのは社会的動物の性なのかもしれませんね。
機器を使ってドアのロックを無効化し、悠々と中へと進むあかりちゃん。そしてその後ろを、カモの子供のようにピッタリとくっついて行くウチ。
「思っていたより暗いですね。幸い、中の構造はスパイの人からの情報があります。その情報に頼って移動しますよ。」
そう言って端末を見ながらゆっくりと歩き始めたので、後ろを着いていく。
勿論できるだけ足音は抑えて、声も小さく。
そうして周囲を警戒していると、あることに気づく。
「あの……監視カメラとかあるみたいやけど……」
「先程話したスパイの話の続きですけど、施設警備の中でも『モニター監視をする役割』として潜り込んでくれてるんです。なので…」
「なるほど、問題無しなんやな。」
「ですね。むしろわたし達の姿を見て計画が上手くいってることがわかって安心しているかと。」
今回もやはり、事前に何から何まで計算し尽くされたミッションのようだ。
ちなみに今回の作戦は尖兵の自分達が潜入、裏取りをして、正面から突入する戦闘部隊と敵を挟み撃ちにする手筈になっている。かなりの強攻策。
そうして制圧した後に、ゆっくりと建物全体を探索するそうだ。
「でもどうせなら、外の情報も教えてくれたら良かったやん。」
「外の監視は多数の人が直接巡回してるみたいですからね。さすがにただのモニター監視で、外の情報まで知るなんてのは無理ゲーでしょう。」
「ふーん……にしても、えらい静かやな?なんの気配も感じないで……」
「まぁ上から来るなんて誰も思ってもないでしょうし……」
中は暗く、窓から差し込む月明かりくらいしか光源がなかった。怖いのでライトをつけてもらう。
そんでもって先程の話に聞いていた通り、警備員等の人員も外側や入口付近に回しているのか、ここ付近には人影一つ見当たらない。
暗さも相まって、まるで幽霊屋敷を探索しているかのようで。少し不気味に感じてしまう。
……こうして暗い空間を歩いると、なんだか夜中にこっそり家から出ようとした“あの日”を思い出す。
そういえばあかりちゃんと会ったのも同じ日だったか。
思わず先導してくれている彼女の服の裾を掴んでしまった。
「……その、はぐれとうないから……」
「──あはは、情報を頼りにゆっくり歩くから大丈夫ですよ。怖いって言うなら手でも繋ぎます?」
「うぅ、申し訳ないで。せやけど何か出そうで怖ない?」
残念ながら誤魔化しは通じなかったようで、手を繋いで移動してくれることになった。自分の不甲斐なさが嫌になる……というか、手を繋いでスニーキングするのなんて自分達くらいだろう。
「仮に幽霊が出てきたとして、あなたの力があればワンパンでしょうに。」
「幽霊には物理攻撃が効かないのがセオリーやからな?特殊な力でも持ってたら話は別やけど……」
そうして時々雑談を混じえながら、ゆっくりと深部に潜入し続けていく。ある程度進むと、暗闇に目が慣れてきたくらいのタイミングで明かりが見え始めてきた。
これでは慣れてきた意味が無いが、まぁそんなことはどうでも良い。
どうやらこの明かりはこの狭い廊下の先、広い空間から漏れてきているようだ。声を抑えながらあかりちゃんに質問する。
「……この先は?」
「情報によるとこの先は……小さいけれど、闘技場のようなスペースになっているようですね。」
「闘技場?」
闘技場って、色んな競技が行われる、あの?室内に闘技場なんて──と、疑問を口にしようとした矢先、向こうから甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「悲鳴……?誰かおるみたいや。」
「ですね。静かに、こっそり様子を伺いますよ……」
そうして二人で壁からこっそりと顔を覗かせると、見えてきたのは──
「(あれは……化け物と、子供が戦わされている?)」
《前の知識》にも該当する生き物がいない、初めて目にする全身黒い毛で覆われた四足歩行の生き物。唯一黒くないところは背中から生えた変なウニョウニョしているもので、まるで背中にイソギンチャクを乗せているみたいだ。
「あかりちゃんあの生き物知っとる?」
「わ、わかりません……」
まさしく化け物としか形容できないようなおぞましい外見をしていて、闘技場のようなスペースの中で人に襲いかかっている。
「昔は見世物でこういうことやってたって聞きますけど。まさか今もやってるとこがあるなんて。」
「よく見たらあそこの周りだけカメラが多いで。監視用やなくて、観戦用かもしれへん。」
憶測の域を出ないが、とにかく酷いことがここで行われているということだけは理解できた。
そしてその襲われてる人というのは、身長からしてまだ子供だと推測できる、自分達よりもずっと小さな子供。
少し長めの髪を見るに女の子だろうか?
今は間一髪避けているが、攻撃が当たってしまうのも時間の問題だろう。
仮にこの両者が戦わされているとしたら、結果は火を見るより明らかだ。
……救わなくては。おそらく自分のパートナーも同じことを思っているだろう。二人で目を合わせて頷く。
「あかりちゃん、あの子!」
「ええ、助けますよ。幸いビリビリガンも持っていますし、あの黒い生き物を…」
だが話の邪魔をするように、またしても大きな声が聞こえてきた。瞬間、爆発音や銃声が鳴り響き始める。
どうやら今度は外からのようだ。
「っ!タイミング最悪ですよ!!どうやら戦闘部隊が仕掛け始めたらしいです。」
「ウ、ウチらはどっちに行けば……!?」
振り返るが、今回の作戦。
尖兵の自分達が裏を取り、正面から突入する戦闘部隊と敵を挟み撃ち。そんな作戦だった。
なので戦闘部隊が攻撃を始めたら、あかりちゃんもウチも裏からあちらに行く必要がある。
「──茜ちゃんは、殺ったり気絶させるのは……まだ抵抗あるんでしたよね?」
「そうやな、せやからサポートに回って…」
いつもあかりちゃんの後ろについて、あかりちゃんの後ろを守っていたつもりだ。人と対峙することは、まだ抵抗があり、恐怖もあった。だからこうして自分に出来ることをしている。
例えるならばあかりちゃんが矛、ウチが盾。
コンビになってからはそんな風に役割分担をしている。
「そう!あなたは“殺ること”ができなくても、“守ること”はできる。」
「……!!」
「なので、茜ちゃんにあの子の救助を任せます。」
「せ、せやけど!」
「大丈夫、自分の身体能力を信じて?……わたしは本隊の援護をしてきます。」
「待って、待ってや…」
「時間が無いんです!頼みましたよ!お互い、自分にしかできないことをしましょう!!」
そう言って最後に「ご武運を!」とだけ言い残し、あかりちゃんは戦闘部隊に合流すべく、急ぎ足で駆けて行ってしまった。
残されたウチに任されたのは、少女の救助。
やれるのか、自分に……?わからない。
今までずっと葵に支えられて生きてきて。
葵が捕まってからは、入れ替わるようにあかりちゃんに支えられて生きてきた。
常に、支えられて生きてきた。
ようするに、ウチは自分一人で何かをしたことが無い。……一度たりとも。
常に誰かと一緒に行動していた。
だから、自信が湧かない。勇気も湧かない。
そんなものが湧くとしたら、それはいつも誰かと一緒の時とか、誰かの力になる時だけで──
「やだぁぁ!!誰か助けてえええぇ!!」
「っ……」
声に釣られて闘技場の方に目を向けると、化け物に押し倒されて、もう食べられてしまう一歩手前になっている子供が目に入ってきた。
自然と足が動く。間に合え、間に合って。
そう願いながら全速力で走って、目の前の化け物に狙いを定める。
「っったあああぁぁ!!」
大きく助走をつけて、横から割って入るようにキックを浴びせて、化け物を吹っ飛ばしてやった。短時間とはいえ初めて本気で動いたので、少し息が上がる。
「はぁっ……はぁっ……大丈夫?怪我はしとらんよな??」
「お、お姉さんありがとう!ちょっと足挫いただけ!」
「あああ……遅れてほんまごめん……」
「うぅん、助けてくれてありがとう!!」
怪我をさせてしまったようだが、どうやら一応間に合ったようで。涙目ながらも花が咲くような笑顔でこっちを見つめて、二度も感謝を告げてきた。
近くで見たら茶髪の女の子だった彼女。
怪我をしたというのに泣かないで、こちらに感謝までするところを見るに、強い精神力を持っているように思える。
ウチがこのくらいの年齢の時は、そんな精神力はあっただろうか?……いや、このくらいの年齢の時の記憶は無いんだった。わかんないや。
「あいつを遠くまでぶっ飛ばしちゃうなんてすごいよ!」
……ただ、そんな眩しい笑顔で見つめないで欲しい。
ウチはさっきまで一人で動くことを恐れて、救助に来るのに遅れて。あと少しで助からないというところまで来て、やっと体が動いた酷い人間だから。
っとそうだ、この子を安全な場所まで移動させないと。
自己嫌悪している場合では無い。
「立てる?急いでここから離れるで!」
「足が痛くて……」
「あ、そうやったな。ほな抱っこするで?」
そう言って抱っこしようとしたところで、ふと死角から何か伸びてきているのに気づいて──
紲星あかり②
過去にミッション中に何人も仲間を失っているので、そうならないように早めに味方の元へ駆けつけに行った。今回茜より仲間を選んだのは、茜の凄さを誰よりも目にしているからこその選択。
この子なら自分がついていなくても必ず生き残ってくれる!と確信めいた物を持っている。
パートナーとして共に行動してる内に、茜を強く信頼するようになった。
※表記揺れを修正しました。物語の展開に影響は無いのでご安心ください。