起きたら茜ちゃん!   作:丹碧のブルーメ

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戦闘パート書くと長くなりがちですね、また今回少し長めです。


十五話『逆転の一手』

後ろから伸びてきていた何かに、気づけたことまでは良かったのだが……。

 

「──っ!!」

 

子供に向かって伸びてきていた触手のようなものから庇うように遮った手を、触手(?)に掴まれてしまった。

 

そしてその触手の元を辿ると、さっき蹴り飛ばした化け物が見えた。

どうやらあのキックでは倒しきれていなかったようで、背を向けたウチらに向かって不意打ちを噛ましてきたようだ。

……いや、そういえば先に不意打ちをしたのはウチだった。

どっちが先かなどどうでも良いが。

 

「あかんな、これじゃ逃げられへん……」

 

この状況はまずい。

 

さっき蹴られたのが相当頭に来たのだろう。

化け物は唸り声を上げながら威嚇するようにして、こちらを警戒している。

そして背中のイソギンチャクのようなものからはウネウネと触手のようなものが出ていて──今、伸びたこれに手首を掴まれている。

 

ふと、後ろを見る。この子は足を挫いているからあまり動けないと思われる。仮に動けたとしても、足を引きずって動くことになるだろうか。

 

自分も触手に片方の手首を掴まれているので、ここからあまり動けやしないだろう。

 

そして、目線を正面に向けると見えるこの化け物。こちらを逃してくれたりなんてことは……絶対ないだろう。殺意がよく伝わってくる。獲物を狙う目だ。

 

 

──つまり、この子を助ける為にはあの化け物を何とかしなきゃならない。

 

「ええか?ウチがあの化け物の相手してる間に、頑張ってここから距離をとるんや!ええな!!」

「う、うん……痛いけど、がんばる……!」

 

今対峙しているこの化け物。

ウチらを襲う目的は、果たしてなんだろうか?

 

仮に捕食ならば……その対象はウチか子供か、どちらでも良いはず。そう推察したので、今はできるだけ化け物からのヘイトを稼ぐつもりでいる。

言葉が通じるはずもないけど、この生物は《前の知識》には存在しない生き物だ。なら言葉も通じるかもしれない……一か八か、策をひとつやってみるか。

 

「さっきは蹴ってもうてごめんなー。

あの子を狙ってたのが気に食わなかったんやー、代わりにウチが身を捧げるから、許してくれへん〜?」

 

──演技力に関しては、勘弁して欲しい。

まぁ化け物に言葉がわかる知能があっても、演技を見抜ける知能が無い可能性だってある。この策は本当に一か八か。

ちなみに勿論食べられるつもりは一切無い。

ウチの反射神経と運動神経を持ってすれば、食べられる寸前まで引き付けて反撃!なんてことも可能だと思っているからだ。

 

つまり、この策は名付けるなら

『ウチの魅力で惹き付けて♡ギリギリ焦らしからのフってやるで作戦』と言ったところだろうか。

 

自分で考えといてアレだが、ネーミングセンスがちょっと……いや、気にしない気にしない。

 

そんなことより肝心の化け物の反応はと言うと。

なんと言葉がわかるようで、こちらの言葉を聞くと全神経を持ってウチに対峙してくれているようだ。

意外意外。急に思いつく妙な策も、やってみると時には……案外実を結ぶものなのかもしれない。

 

こちらを見くびっているのか、化け物は楽しそうに顔をニヤつかせながら、触手で綱引きみたいにウチをあちらに引き寄せていく。

その様子は、さながらこちらの反応を楽しんでいるようで少々不気味だ。とりあえず怯えるフリをしておく。

 

「ひぃぃ。(よーし、ええでええで、その調子や化け物ちゃん……)」

「お姉さん大丈夫!?」

 

あー、あかん。

あの子供はウチの演技を“マジ”だと思って心配して少し引き返して来てしまった。急いで追い返す。

 

「ウチのことはええからはよ逃げてや!」

「で、でもぉ……」

 

触手で体を引っ張られ、ズリズリとあちらに体が持っていかれる。ちなみにこの瞬間も抵抗してると悟られないレベルにだが、足に力を入れて持ち堪えている。

ギリギリまで時間を稼ぐ必要があるからだ。

 

「………ふーっ……」

 

段々と近づいて行く化け物との距離。

三メートル、二メートル、一メートル。

…………目と鼻の先。

 

そこまで来ると化け物は、その真っ黒な毛で覆われた前足でウチのヘルメットをガスッと、邪魔だと言わんばかりにどかしてきた。

おまけに少し遠くから声が聞こえてくる。

 

「お、お姉さんやばい髪色……」

「だからー!はよ逃げろって言うとるやろー!!」

 

あの子供の声だ。

今のところ作戦はほぼ順調に行っているのだが、順調じゃない点が一つ。

この子が時々振り返って足を止めてしまうこと。

ウチのことはどうでもいいので、早く逃げてほしい。

 

にしても、ここまで化け物に近づくと……より鮮明に化け物の息遣いを感じるし、すごく距離が近いので出ている歯の本数まで数えられてしまう。

 

ああ、自分の心臓の鼓動が早まってきている。

勿論恋のなんたらではなく、恐怖からだ。

 

──ん?この化け物、思ってたより口の臭いが臭くない。それどころか何処と無くフルーティ、もしやこいつ肉食性ではない??

 

そんな口はゆっくりと大きく開かれて、その中の全貌が垣間見え……やっぱりすごい牙!喰われたら死ぬ!!

 

!!! 今しかない !!!

 

「てぃやあっ!」

「!?」

「や、やば……お姉さんかっこいい。あれって、“さまーそるときっく”ってやつじゃ……?」

 

体の中心部からかぶりつこうとして来たので、化け物の顎の辺りを本気のキックで思いっきり蹴り上げてやった。

またまたふっ飛んだ化け物は何度かバウンドし、()()()()()()()()()()()()()()()()で床に激突すると、今度こそ這いつくばってくれた。

 

「す、すごいよお姉さん!!」

「だから言ったやろ、ウチのことはええって。」

 

結果としては大成功だろう。

子供は無事でウチも無事、時間も稼げて化け物がもう一回ダウン。こんな最良の結果が待ち受けていたなんて、本当にやってよかった。

 

勿論油断はしない。蹴飛ばした相手の様子をじっくりと眺める。起き上がってきたらすぐに追撃を叩き込んでやるつもりだ。

もしも今ので倒せてなかった時の為に。今度こそ不意打ちされない為に。

 

……今のところ化け物は動く様子を見せない。

さすがに本気のキックを2発も浴びせれば、気絶くらいはしてくれるのだろうか。

 

 

──待って、あの触手よく見たら何本か床にめり込んで…

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

気づいた時にはもう遅かった。

バキャバキャと床から再度貫通してこちらに狙いを定めた触手は……ウチの両手首両足首、つまり四肢を狙い、見事すべて結束し、動きを封じてきたのだ。

 

ま、まさかあの化け物!!

ここまで全部計算してやっていたのだろうか?

……なるほど。考えてみれば言葉がわかるということは、あの子供がここから距離をとる為にウチが時間を稼いでることもあの駆け引きでわかっていた可能性がある。

騙されていたのはウチの方だった。 見くびっていたのもウチ。

 

蹴飛ばされてからあの化け物がダウンした瞬間、床に激突する瞬間に触手を床に貫通させていたみたいだ。

だから触手を床に貫通させる音が激突音に誤魔化され、こちらがそのことに気付けなかったのだろう。

 

「く、くうぅ…!!」

 

こちらが悔しさから歯を食いしばると、化け物は先程よりくっきりと、顔を強く歪ませニヤつく。

こいつ、わかっててやっている……今確信した。

 

「お、お姉さん!」

「ぅ……こっちに来ちゃダメや!早く逃げて!!」

 

何か、手立ては。

このままでは化け物による琴葉茜解体ショーが、あの子供の前で行われてしまう。

そんなのは教育上よろしくないし、なによりウチは葵やあかりちゃんのために、絶対に死ねない。

 

考えなきゃ。頭を回せ。

なにか、なにか助かる方法は。

 

 

 

そう考え必死に思考を巡らせ、周りを見渡して見つけたのは──この闘技場らしき場所を彩る目的で付けられたものだろうか?壁に立て掛けられた、古風な松明。

 

いや、正確にはその松明の光の光源。

そう……見つけたのは“火”に他ならない。

 

だが今、火を見つけたところでなんだと言うのか。

なぜこの土壇場でそこに目がいったのか。

よく分からない。

けれど、この体が強く反応したのは確か。

 

 

「──あの火、ウチにも──」

 

 

感覚的に、なにか感じるものがある。

そしてその感覚を感じた瞬間、脳裏にあの時の言葉が蘇る。

 

『なにか、他にも茜ちゃんにガソリンを飲ませた理由があるんじゃ…』

 

……そうか、そうだったんだ。

ガソリンといえば、真っ先に思い浮かぶのは燃料として使うこと。

そして次に思い浮かぶのは、その引火のしやすさ。

 

葵がウチにガソリンを毎日嫌になるほど飲ませてきたのは。ずっと飲ませ続けていた理由は。

ウチに自分をロボットだと思い込ませる為だけじゃない。

 

そう──

 

「はあぁぁぁっ!!!」

「?!?」

 

ウチに、ウチの体に。

こんな能力が備わっているから!

 

指先から炎を出すイメージで、意識を集中させる。

そうするとやがて指先から液体が滲み出し始める感覚がして。そしてその液体は空気に触れた瞬間、ライターで出すような小さな火となった。

 

その火を手首に鬱陶しく巻きついている、結束してくる触手に当ててやる。

 

「どうやっ!」

 

火は触手に当たるとジュッ!と黒焦げの跡を残していき、それに合わせて化け物は素っ頓狂な声を上げる。

更に痛みからか、触手をすべて引っ込めてくれた。形勢逆転だ。

 

そして肝心の火を出しているウチの指先はというと、全く何ともない。熱さもほとんど感じていないし、むしろ暖かいくらいだ。

勿論虚勢を張っているわけではない。

 

 

なるほど、これが。これこそが。

ウチの──デザイナーベイビーとして作られたこの体の、真の特性だったというわけだ。

この体は反射神経や運動神経だけではなく、己の体だけで火を扱える特性を兼ね備えていた。

 

今ならわかる、ガソリンはこの火を出す能力のために飲まされていたと。

フグが身を守る毒のために毒を含む物を食べるように、ウチには身を守る火を出すためにガソリンが必要だったんだ。

 

「お、お姉さん本当に強い……まさか魔法まで使えちゃうなんて。」

 

「せやろ?お姉ちゃんすごいんやで!

(まあ、魔法なんて夢のある代物ちゃうけど……)」

 

 

兎にも角にも、これで形勢逆転だ。

 

こうなったらこっちの物。

近距離はウチの運動神経を持ってすればなんとかできるし、仮に距離をとって触手を放ってきたとしても、火で反撃できる。

ようするに、あの化け物は事実上の“詰み”状況にある。

こちらの懸念点は、向こうの体力が未知数なことくらいとなった。

 

──さて、どうしてやろうか。




・茶髪の子供
「お姉さんすごい!」「お姉さんやばい!」
「お姉さんかっこいい!」「お姉さん!」

……助けに来てくれたお姉さんがあまりにも凄すぎて、BOTみたいになってしまった女児。ちなみにいくらBOTみたいになっているとはいえ、ロボットではない。

きっと葵もこの場に居たら、この子と一緒に「お姉ちゃんすごい!」と盛り上がっていたことだろう。

※またまた誤字修正……投稿してからいつも気付くんですよね、ほんとに申し訳ないです。マジで。
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