話は少し前に遡る。
茜に子供の救出を任せ、他の部隊の助けに行ったあかりは……スパイと合流し、更に戦闘部隊と挟み撃ちにする作戦にも成功し、仲間と協力しながら敵勢力を完璧に無力化することに成功していた。
「ふぅ……こんなもんですかね。」
「助かったぜ。感謝するぞ、さすがは『尖兵のあかり』だ。」
あかりがやったことは、前方に向かって撃ち合いをしている敵勢力の後ろからこっそり忍び寄り、ビリビリガンで一人一人気絶させる(あかりからしたら)簡単なお仕事だ。
しかし仲間に自分の通り名を添えて褒められて、あかりは満更でもない様子で「へへ、ありがとうございます。」と嬉しそうに笑う。
そしてあかりがこんなにも上機嫌なのは、仲間の犠牲がゼロだったことも関係していた。
「無事でなによりですよ皆さん、ここの警備は結構な手練も多そうでしたから。」
「そういえば、無事と言えば……
あかりさんと一緒にいつもいる新人ちゃん──あなたのパートナーは?姿が見えませんが。」
また別の仲間があかりに質問する。その内容はお前のパートナーはどうしたのか?というもの。
「わたしのパートナーですか?
ここで見世物にされて黒い生き物と戦わせられてた子供を助けるために、わたしの独断で今は別行動をとってもらっているんです。」
それに対しあかりはドヤ顔で自慢げに答える。
わたしのパートナーは優秀なんだぞと、別行動を任せられるくらい頼りになるんだぞとアピールした。
実はあかりはしばらく前から、こうして定期的に仲間に茜の優秀さを伝えている。
その理由は、茜を中級の隊員にする為である。昇格には周りの評判も必要だからだ。……単に、自分のパートナーの自慢も含んでいたりもするが。
「なるほど。新人ちゃんやりますね。」
「いい判断だ、その子供も研究対象にされてる子かもしれんしな。機関としても助けたいだろう。」
「さすがは尖兵コンビ!」
「よっ!あかあかコンビ!」
「ちょっと!あかあかコンビってなんですか!!」
楽しそうに仲間と談笑しながら、無力化した警備員やマッドサイエンティスト達を縄で縛っていく。あかりはこの時間が好きだ。
何故なら仲間の生を実感出来て、ミッションが無事終わったことも実感出来るから。
その会話の中には「助けに戻った方がいいんじゃないか」という声もあったが、あかりは「あの子なら一人でだって──」と軽く流していた。
茜の身体能力は普段からあかりが誰よりも目にしている。それもあって強く信頼していた。
茜は確実に自分より“上”だ、と。
自分でもずっと生き残ってきているのだから、その自分より上のあの子なら尚更大丈夫だろうと。
そうこうしていると、建物の内部から小さな子供が足を引き摺って出てきた。
「ぜぇっ……はぁっ……!
お姉さんと同じ服、着てるってことは……お姉さんの仲間の人だよね?」
「あ、あなたさっきの!大変、足を怪我してます!!」
自分のパートナーに救出を頼んだ子供が入口部分まで出てこれた──ということは、救出には成功したのだろう。内心で茜を褒め称える。
やっぱりもうわたしがいなくてもなんとかできるじゃないですか、等と思っていた。
しかし、肝心の茜の姿が見えない。
それにこの子が足を引き摺っているところを見るに、完璧に守れたという訳では無さそうだが……
「この足のことはいいから!
それよりお姉さんがまだ戦ってるの!助けて!!」
「……え?」
その言葉を聞いて、あかりの心拍数が上がっていく。
てっきり茜ちゃんなら、もうとっくにあの黒い生き物をどうにかしていると思っていたのに。わたしより動ける強い人なのに──なんて思いながら。
「っ皆さん!その子のことは任せましたよ!!」
子供のことを任せ仲間に任せ、返答も聞かずに急いでフックショットで屋上まで上がる。
そうして急いで建物の中に入ると、潜入した時の道を思い出しながら一歩一歩駆けて行く。
「頼むから間に合って……!生きててくださいよ、茜ちゃん……!!」
◆❖◇◇❖◆
「はっ……はっ……!」
こんなに全力で走るのはいつぶりだろう?
バイキングで食べすぎて、キレたお店の人に追いかけ回された時か。
それとも、ゆかりさんと鬼ごっこした時か。
否、仲間を失った時以来だ……。
あの時もこんな風に焦燥感に駆られて、心配になった仲間の元に向かって。でも間に合わなかった。
また、また繰り返してしまうのか。
まだ、仲間を失うのか。
あの時を思い出しながら、涙目で駆ける。
しばらくすると、やがてカーブが見え始めた。
そうだ、確かここから曲がったところに闘技場が──
床に、なにか落ちている。
認識したくはなかったが、わたしの頭は完全に“これ”を認識してしまう。
……最初に目に入ってきたものは、ヘルメットだった。
この建物の上層に来た隊員は、わたしと茜ちゃんだけ。
よって、このヘルメットはおそらく──
ああ、嫌な予感が本物になっていくのを感じる。
嫌だ。どうして、いつも間に合わない?
いや、まだ決まった訳では…!
諦める、訳には……!
絶望を感じながら、それでも一筋の可能性に賭けて目線をずらす。
その先に、いるのは。
闘技場に残っていたのは。
黒い生き物だけだった。
わたしには気づいていない。
こちらに背を向けて、石のようになっている部分を見せつけながら“なにか”に夢中になっている。
「あ、あぁ、ぁ……あああああ!!!!」
私は泣き叫んだ。己の失態を呪いながら。
そんな、また同じ過ちを繰り返すなんて。
茜ちゃんに仲間の援護を任せて、この生き物の相手をわたしが担当していれば……茜ちゃんは今も生きていたのだろうか?
今となっては、もうわからないが──
「っその声は……あかりちゃんっ?!」
「え──」
いや、どうやら化け物に押し倒される形で彼女が隠れていたみたいで、それでわたしには見えていなかったようだ。
「……今っ…!
食べられちゃいそうなんやっ!こいつの背中に!ビリビリ!!してくれへんかっ!!」
「は、はいっ!わかりました!!」
安心からか体が少し硬直してしまったが、生きていたわたしのパートナー──茜ちゃんの声で急いで体を動かす。
彼女の生存を噛み締めながら、ビリビリガンを片手に黒い生き物の背中に突撃。
そして。
黒い生き物はビリビリにやられ、大きな声を上げると見事に大の字に倒れてくれた。当然だ。このビリビリに耐えた生き物なんて今まで……あ、過去に一人だけいたっけ。
黒い生き物を退かすと見えてきたのは、無事な茜ちゃんの姿。
そうそう。
わたしの知ってる中で唯一ビリビリに耐えた生き物というのは、今となっては見知ったこのピンク髪の美少女だ。
「ひぃー、食べられかけるし、潰されかけるし。
今日は散々やわ。でも諦めなくて正解やった……助かったであかりちゃん!ナイスタイミングや、ほんまにありがと!!」
そう言ってこちらに笑顔とサムズアップを向けてくる。
あぁ、無事でよかった。かわいい。
けれど、何故だか彼女の顔がボヤけて見えてきた。
「いえ!パートナーとして、当然のこ、と……っ」
「な、なんで泣くんや!?」
なるほど。このボヤけは涙のせいか。
まだ、わたしの目には涙が浮かんでいるらしい。
けれどこれはもう嬉し涙だ。さっきの悲し涙の続きじゃない。生きててくれて本当に良かった。
「生きててくれて……ありがとうございますっ……!」
「?……こちらこそ、助けてくれて感謝しとるで?」
わたしが泣いてる理由がわからないようだが、困惑しながらも茜ちゃんはわたしを慰めてくれた。
しばらくすると、察したように声を掛けてくる。
「ごめんね、きっとウチが弱いから…」
まさか、とんでもない。
「いや、茜ちゃんは強いですよ……?ただ、これからもわたしに守らせてください。」
「う、うん?」
仮にわたしより茜ちゃんが凄くても、強くても。
それでも無理なことは無理だということがわかったし、そしてわたしが彼女に必要なことも理解した。
正直、わたしがいなくてももうこの子なら──なんて思っていたけれど。それはとんだ思い違いだったのだと今ならわかる。
そりゃそうだ、二人でコンビを組んでいるのだから。
それに茜ちゃんは、わたしの中だともう既にゆかりさんと同じような、とっても大事な立ち位置にいる人。尚更失うわけには行かない。
今回失いそうになったことで、そのことがよーくわかった。
人のことを線引きして分けるなんて、 良くないってわかってるけれど。それでもゆかりさんと茜ちゃんはわたしにとって“特別”だ。
さぁ、もう泣くのはやめよう。
「落ち着きました……慰めてくれてありがとうございますね!もう大丈夫です。」
「ならええけど……」
これ以上弱いところは見せられない。わたしは今まで通り、彼女にとって頼りになる存在でなければいけない。
そう思い、わたしはいつもの調子で語り掛ける。
「あと、そこに落ちてるヘルメット。
また被っといてくださいね?今仲間が来たらとんでもないことになりますから!!」
「あ、そやったな……」
きっと今頃仲間達はわたし達二人の安否を心配しながら、あの子供の怪我を手当してくれているはずだ。
早く協力に向かわねば。
「さて!どうやらこの黒い生き物気絶しているようですし、縄で縛っときますね。」
「頼むでー。あぁ……帰ったらいよいよ葵を助けられるんや!!」
妹思いで可愛くて、元気で優しくて、そして強い。
かけがえのない人。それが茜ちゃん。
ゆかりさんが気にかけたのは、こんな人だって知っていたからかな?
最も、ちょっと妹が関わると周りが見えなくなるようだけれど。
「いや、帰って直ぐにとは行きませんからね。せめて数日後にしてください、疲れましたよ今日は……」
「あー……せやな?」
でも、そんなところも彼女の魅力の一つなんだろうと思う。
・あかあかコンビって何?
「あかあかコンビ」とは“あかり”と“あかね”、このコンビの両方の名前に“あか”がついていることから起因した名称である。
※それに→それに対し、に修正しました。