起きたら茜ちゃん!   作:丹碧のブルーメ

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朝ご飯で毎日好きな物食べれたら、きっと一日のモチベが爆上がりでしょうね!


二話『あくまで私達は……』

水を漂うクラゲみたいに、ユラユラとした若干不安定な足取りで寝間着を着たままリビングに入ってくる人影が一つ。

 

「おはよ、お姉ちゃん。」

「葵ぃおはよー……」

 

琴葉家の食卓は姉妹二人でテーブルを挟む形で向かい合うところから始まる。

寝起きなのにも関わらずパッチリとした瞳を始めとした、整っている瓜二つな顔。違いがあるとすれば髪の色くらいだろうか。

 

姉の方は桜の花びらを移したかのような、鮮やかで綺麗な桃色。

それに対し妹はこれまた綺麗な水色をしていて、薄い青空のような目に優しい水色だ。

 

そんな両者は向かい合って互いに椅子に腰掛けると、何やらおもむろに考え始め……そして、机についているボタンを押すと“テーブルに”喋りかけた。

 

「私、朝はスッキリしたいからミント味。」

葵毎回それやん……ほなウチは〜…エビフライ味!」

 

食べたい味を声に出すと、時間差でテーブルから携帯食料のようなものがスっとでてくる。

 

「(いつ見ても不思議なもんやな、どうなっとるんやこれ)」

「……お姉ちゃん?いただきます、するよ??」

 

この世界では朝食は単略化され、きちんとした料理を味わう機会はあまりないようだ。効率化を測るにあたって、娯楽としての側面より少しづつ機能性と早さが重視されるようになっていったからだ。

だが、それでも食に関する感謝は変わらない。

 

「あっ!いただきます!!」

「はい、いただきます。」

 

姉の方は若干ぎこちなかったが……自然に受け入れているのを見るとこれがこの姉妹にとっての日常で、当たり前の一日の始まりのルーティンの1つなのだろうということがわかる。

 

「はむ……んー!起きて1番のエビフライ味は最高やなぁ!!」

 

足をばたつかせながら携帯食料の味に酔いしれる茜。

“サクサク”と軽快な音を鳴らしながら携帯食料を食べているところとそのリアクションを見るに……それは食感まで再現されていて、そしてとても美味であることがわかる。

 

「お姉ちゃん、起きてすぐフライはその──太らない?

「?」

 

「いやなんでもない。」

 

ダメな姉をジト目で見つめながらも食べるミント味が美味なようで、呆れ果てた表情にも若干の笑みが見える。

 

「聞こえとるで?気合い入れるためにええもん食べへんとあかん!って思てな???」

「いや、ただ好物食べたかっただけでしょ?」

 

ギクッ!!!それもあってんけど!」

 

取り繕っていたのがバレて若干恥をかきながらも、茜は続ける。

 

「今日は“アレ”がある日やし、マスターの期待に応えるべく最高のコンディションで居なあかんやろ?ね??」

「たしかにマスターには喜んでもらいたいもんね、それが何よりの幸せだもん。」

 

彼女らの言う“マスター”とは、名前の通り二人の主的立ち位置にいる人物である。

 

だが実のところ茜はそのマスターとやらと実際に会ったことはなく顔も知らないため、本当に忠誠心を持っている訳では無い。あくまで葵に合わせるためと、“琴葉茜”として違和感の無い言動をするために忠誠心を持っているふりをし続けているだけであった。

ようするに茜にとってのマスターとは『(葵にマスターの名前を出すとチョロくなるんよな)』程度の、割引券みたいな存在でしか無かった。

 

 

さて、そんなことは置いといて美味しいご飯に、マスターの名を出すとチョロくなる関係上、結構やりたい放題できる妹との生活。

こんな生活を自動化された快適なシステムが多いこの世界で、働きもせずに続けられる。ここまで楽しい生き方は無い。そう、これだけなら天国と言っても過言では無かったのだが──

 

「そいえば飲み物って」

「うん!勿論今日もあれ2つ、ね。」

 

「……」

 

ただ一つだけこの暮らしには問題があった。茜の《前の自分》の記憶と比べても、ここまでは便利になったこと以外そう変わらない日常なのだが……

 

「いつもの、2つ。」

 

ボタンを押してそう言った妹の声に反応して出てくる“それ”は、携帯食料が出てきた穴とおなじところから出てきた物。

そう、飲み物に問題があったのだ。

 

そして蓋を開けると見えてくるのは、水でも茶でもなく。いや、色的には茶の1種に見えなくもないが……しかしこの放たれる匂いを嗅いでもなお、茶だと認識する人間はいないだろう。だが親愛なる妹のはずの葵から言い渡されたのは、“それ”を飲めということ。でもこんなのは──

 

「また“ガソリン”やぁ……」

「当たり前でしょ?私達はこれでも一応ロボットなんだから、毎日これ飲まないと。」

 

とても飲み物とは言えないだろう。

琴葉茜に憑依してからある程度の時間……少なくとも季節が入れ変わるくらいの時間が経ったが、それでも茜はどうしてもこの液体にだけは慣れることは無かった。どうやって慣れたらいいのかと問い詰めたいくらいにはこの液体が嫌いであった。初めて飲んだ時吐いたのは言うまでもない。

体がokしていたとしても、心が受け付けないのだ。

 

せめて他の電化製品同様、ガソリンで動くタイプではなく電気で動くタイプだったら良かったのに……と思わずにはいられない。

 

そもそも茜の中の常識からすると、こんなものは間違っても飲んではいけなかったのだが。

とにかくこれを日常のひとつとして毎日こなさないといけないのが、茜にとってここが天国ではない、むしろこの瞬間だけは地獄と感じるレベルの場所にしている理由になっていた。

 

「はぁ……いい?お姉ちゃん、食はあくまで娯楽の一つであって、私達に本当に必要なのはガソリン!私達はガソリンが無いと、動くことも喋ることもできません!!ってもうこの説明、既に何十回もしてるんだけど…」

「それでも嫌なものは嫌やぁ!!!」

 

「──大丈夫大丈夫、いつもみたいに最初の一口が嫌なだけでしょ?」

 

そう言って葵は椅子から立つと、姉のコップを掴んでズイッと近づけてきて『お姉ちゃんに1番合うガソリンだよ?大好物みたいに、美味しく感じるはずだよ?』などと言って茜に飲むことを促してくる。どうやら体にあったガソリンをチョイスしてくれているようだが。

そんなの関係ないとばかりに茜は拒み続けてた。

 

そんなやり取りをしばらく繰り返していると、やがて痺れを切らしたのか──椅子を立ちニコニコと明るい顔をしながら葵がコップを持って距離を詰め始めた。

それと同時に妹に反して茜の顔色は暗く、悪くなっていき……

 

「いや待って、飲むから!飲むから!!そもそもウチにもタイミングってものがあんね…」

 

「ふんっっ」

「んぐごぷっ!?」

 

思いっきりコップを茜の口に押し当て、そのままゆっくりコップを傾けていく。やがてガソリンは涙目になっている茜の口の中に徐々にだが、しかし着実に入っていく。

 

「はい、全部飲めてえらいよお姉ちゃん♪」

「うぅ……あ、ありがとうございました……」

 

今の出来事で、妹に対して敬語で返事を返すレベルにまで心の距離が離れた茜であった。……まぁ数分後には元に戻るのだが。

 

余談だがこの後『お姉ちゃんが気合いを入れたように、わたしも気合いを入れたい』と言う理由でなんと葵はガソリン2杯目まで飲み干していた。

勿論茜がドン引きしたのは言うまでもないし、なんならもっと心の距離が離れた気がする。やはり憑依した者と元からそうであった者では、勝手が違うのだろうか?

 

 

とにかく、こんな普通の人間から見たら異常な非日常含めて日常になっている琴葉家。今日も平常運転である。




・琴葉葵
この世界だと所謂アンドロイドに分類されるであろう、VOICEROIDのロボット少女。

姉とマスターと髪飾りを大事にしている。というかこの三つさえ満たしていれば、どんな環境でも不満は言わないと思われる。
姉の表情の変化を見るのが好きで、その為なら少し無理強いしたり、いじわるしたりすることも……。

好きな物はミント系全般。


※この回の表記揺れを修正しました。
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