起きたら茜ちゃん!   作:丹碧のブルーメ

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ようやくガールズラブが重い腰を上げるようです。
……と言っても、軽いものかもしれません。あくまであのタグは保険なので。


二十三話『家族のカタチ』

まるで退屈な授業を受けている時みたいに、一切表情の起伏が無く聞いていた様子を見るに。おそらく、葵さんは全てを知っているはず。

 

「──そうだね、知ってたよ。」

 

そしてその予想は、驚くほど簡単に肯定された。

 

「なぜなら私は、マスターに“お姉ちゃんのお世話”という役割を与えられてるから……いついかなる時もサポートする、そんな役割。」

 

なるほど、要するにマスターは。

茜さんがわたしみたいに離反者にならないか、不安だったのだろう。だから葵さんをお世話係(という名目の、監視や抑止力の役割)のロボットとして作り、隣に置いていていたわけだ。

 

実際、効果はあったように思える。

 

あかりちゃんに聞いた話では、初めて会った時に茜ちゃんが自分をロボットと思い込んでたと言うし……

もしもあかりちゃんがあのミッションであそこに行かなかったら、きっと今頃も姉妹はひたすらあの家で配信を続けていたはず。

 

「せやったん!?」

 

「そうそう。事前に()()知っておかなくちゃならなかったんだよね。だから私達のモチーフ等についても全てお話してもらってたよ。」

 

「ま、待ってください!!茜ちゃんが人なのにロボット扱い同然の生活をさせられてたのについては!」

 

ここで待ったが入り、思うところがあるのかあかりちゃんが少し強気に質問する。

しかし葵さんはそれに淡々と答えた。

 

「たしか『VOICEROIDをモチーフにして作ったから、そのモチーフと同じ生活をして』って言われてたよ。だから私はお姉ちゃんに自分達姉妹はVOICEROIDっていうロボットだからねーってずっと…」

 

「あ、あんな軟禁というか、幽閉同然の生活をさせるなんて!あなた何も思わなかったんですか!?」

 

「……いや、でも、その方が配信にリアリティが出るって…」

 

「だとしてもっ!可哀想と思わなかったんですか!!」

 

その言葉を受けて、葵さんの表情が少し揺らいだように見えた。しかしすぐに彼女の顔は俯いてしまう。髪の毛で横顔が隠れ、その表情は伺えない。

 

「──私は…」

 

「待ってやあかりちゃん、葵のせいやないよ……まぁ知らされてなかったのは、そりゃ少し悲しいんやけどな。」

 

「…あ、茜ちゃん…ですが……」

 

茜さんに咎められ、納得はいってなさそうだが一旦はあかりちゃんの質問が終わった。

 

わたしも理解している。

──本当に悪いのは、禁忌を犯してデザイナーベイビーを作り続け、モチーフ元の生活まで強制するマスターに他ならない。それも、騙すような形で。

一体なぜこんなことを続けるのか。おそらく、わたしや茜ちゃん以外にもこういう境遇の人は居るはずだ。これ以上被害が増える前に、早く止めないと。

 

心を落ち着かせ、話題を少し変える。気になるのはこっちだ。

 

「ふむふむ……なるほどです。では葵さん、そのマスターの居場所を知っていますか??」

 

まあ、あの人がそう簡単に足跡を残すような真似をするとは思えないが──

 

「…や……わからないよ。私、マスターとの会話はずっと通信だし、会ったことないし。」

「あー、ですよねぇ。」

 

「葵も会った事ないんや??とことん謎な人やなぁ。」

 

やっぱりそうだった。となると、結局は手探りで行くしかないか。わたしは仕切り直し、改めて目的を話す。

 

「というわけで、わたしマスターを探しているんです。その為に足跡を辿っていて……足跡となるのは、マスターがVOICEROIDをモチーフにして作るアンドロイドやデザイナーベイビー。」

 

「つまり、ゆかりさんの大事なお話って言うんは…」

 

「はい。わたし達の家族になって、一緒にVOICEROIDモチーフの仲間を。マスターという存在が作った、わたし達の家族になる存在……の候補を探し出しませんか??ってことですね。」

 

「どうですか?ゆかりさんの話、茜ちゃん達にとっても悪い話じゃないと思うんですけど…」

 

元々、機関で十分に情報を集めてお金も稼いだら、わたしとあかりちゃんで探しに行く予定だった。

その前にこの姉妹に会えたのは幸運だ。

 

更に増えた四人でなら、きっと“家族”もサクサク見つかり保護できることだろう。

そしてその大事な話への返答は、すごく早かった。

 

「お姉ちゃん、今の私達には目的も住所も、はっきりとしたものは何も無い。だから、私はこの話──乗りたい。」

「……せやな、今のウチらには打って付けの話や。恩返しにも丁度ええな!!」

 

どうやら大事なお話もとい、お前も家族にならないか?という提案をこの姉妹は呑んでくれるらしい。向こうもこちらに一切の悪感情を抱いていないみたいだし、よかったよかった。

これで、姉妹は今日からわたし達の家族になったわけだ。この調子ならいずれはわたしの大切な目的も──マスターと直接会うことだって、いつかは果たせるはず。

会ったら、どうしてやろうか。

 

「や、やりましたねゆかりさん!!

これで行き場のない茜ちゃん達の保護もできますし……よろしくお願いしますね、茜ちゃん、葵さん!!!」

 

あかりちゃんはまるで自分の事のように喜んでくれて、家族になる姉妹にわたしよりも先に改まって挨拶までしてくれた。

できてる子で可愛い、やっぱりあかりちゃんしか勝たんのよ。

 

「うん!これからお世話になるで!!」

「これからよろしくね、あと私も“ちゃん”でいいよ?……ゆかりさんもね。」

 

そう言って葵さ──葵ちゃんが控えめだけどもとっても柔らかいスマイルをわたしに向けてくれた。

笑った所を見るのは初めてかもしれない。その姿にわたしが最初に向けていたちょっとの警戒心はもうとっくのとうに溶けていて。

 

「ゆかりさんのことも“ちゃん”で呼んだ方がいいかな。」

「破壊力やばそうなので“さん”で大丈夫です!」

 

あぁ、可愛い。葵ちゃんいい…。

クール系の人がたまに見せるはにかんだ笑みっていいよね。

 

ちなみにこの「さんを付けるか付けないか」問題の話については過去にあかりちゃんともしている。わたしの心の平穏の為だ。

……あと単純に、一人だけ“さん”だと偉そうというかリーダー感が出るので個人的に気に入っている。

 

「い、いいんですね??それじゃ、えっと…あ、葵ちゃん!」

 

試しに呼んでみると、「はいはーい。」と言いながら隣まで来て真隣に座ってくれた。心臓がバクバクする。天使ですか?可愛い。

葵ちゃんしか勝たんのよ。

 

「あ、ウチも“ちゃん”付けで構わへんでー??」

 

おっと、葵ちゃんに癒されてたらその姉の茜さ──茜ちゃんからも許可が降りた。

 

「おけです、い、言いますよ…?あ、茜ちゃん!!」

「はいはーい、茜ちゃんやでー!」

 

そう言いながら彼女も同じように隣に来てくれた。そうしてわたしは琴葉姉妹にサンドされてるような形になる。尚且つ、茜ちゃんは更に体が当たるくらいの至近距離に座ってきた。

なんかいい匂いもする。幸せすぎませんか?

茜ちゃんしか勝たんのよ。

 

「う、うわぁ…ゆかりさんがかつてないほど幸せそうにしてる……」

 

うへ。うへへへ。

姉妹に挟まれてたらあかりちゃんに若干引かれた気がした気もしたが、家族で団欒することの何が悪いのか。

 

「あかりちゃんもこっち来ます?」

「行きます。」

 

即答してきた。

こうして互いに寄り添ってみて、ようやく家族になったんだなぁと実感できた。今日からわたし、あかりちゃん、茜ちゃん、葵ちゃん。四人家族の生活が新たに始まるわけだ。

 

これが、これからの家族のカタチ…!!!

記念すべき最初の四人家族での時間は、寄り添っての談笑。ただ話しているだけなのに、凄い幸せだと感じる。

 

そうしてわたしは家族に囲まれながらこれからの生活を思い描いて、とってもとっても今後が楽しみになった。

 

◆❖◇◇❖◆

 

ゆかりの家での最初の夜。

姉妹でひとつの部屋を貰った茜は、慣れない天井を見ながら布団で寝っ転がっていた。

 

そう。寝たくても、寝れないのだ。

今日一日に色んな事がありすぎて、気持ちの整理がまだついていない様子で。

 

「──ねえ、お姉ちゃん。起きてるんでしょ?」

 

「……なんやー?」

 

それを知ってか知らずか、隣に寝転んでいる葵がそんな姉に声を掛ける。

 

「こうやって二人で寝っ転がるの、久しぶりだね。」

 

「ふふ、せやなぁ。

前の環境とは色々変わってもうたけど……またこうやって二人でのんびりできて、ウチは嬉しいで。新しい環境も中々ええ感じやしな??」

 

「そうだね、私も。……その、さ。

ここからが本題なんだけど、謝りたいと思って。」

 

「えっと、誰に…??」

 

「そりゃもう、お姉ちゃんに。」

 

その言葉を聞いて、茜は葵との出来事を思い返す。

 

「葵がウチに謝ることなんて……あっ、もしかして…?」

 

 

どうやら一つだけ思い当たった様子。

 

 

「そう、前の家で騙すような形で接してたこと。

本当に、ごめんなさい。こんなの、嫌われて当然だよね……?今日あかりさんに怒られてさ、凄い悪いことしてたんだなーってようやく理解して。」

 

「…………ええんやで、しゃーないよ。

だって、マスターに『モチーフと同じ生活に〜』ってお願いされてそうしてたんやろ??」

 

そう言いながら、妹の様子を伺う茜。

いつの間にか天井を見ていた視線は、自然と隣の妹へと写り変わっていた。声色と雰囲気でいつもと違うと気づいたのだ。

 

「それは、そうだけど……」

 

「もうええんやで??だから──そんな泣きそうな顔せんといて?」

 

今までずっと接してきて、葵がこんなに思い詰めてる様子なのは初めてだった。こんな表情も初…いや、そういえば過去に一度だけ見たかもしれない。

前の家で髪飾りの話をした時以来だった。

 

「でも私のせいで、今までお姉ちゃんは酷い生活……」

 

「ほんまにもう気にしてへんって。それに今は幸せなんやし、な???」

 

そう言うと茜は、軽くハグをした。

そしてそのまま優しく声を掛け続ける。

妹を助ける為に命を賭けたりする時点で、こんなことで嫌いにはなるはずが無いのだ。茜にとって葵は、ずっとかけがえの無い存在だから。

 

「大丈夫、ウチらは二人だけの姉妹やもん。絶対嫌いになんかならへんよ。」

 

「っ、お姉ちゃん……ふふ、ありがと。大好き。」

 

ハグと慰めの甲斐あってか、妹の声色は先程と違って安定している。もう大丈夫そうだと思った茜は、今度は向かい合ったまま夢の世界へ旅立つことにした。今度はハグを受ける側になりながら。

ちなみに葵からのハグは──

 

「ウチもやで。……ち、ちょっと力みすぎやない??」

 

少し、強めだった。

 

「いいでしょ、私だって甘えたい時あるよ。……あとその、寝れそう?」

 

きっと滅多に泣かない葵のことだから、自分の泣き顔を忘れて欲しくて睡眠を促してるのだろう。

 

「うん、二人で寝るとやっぱり安心感が段違いやな……おやすみ、葵」

「おやすみなさい、お姉ちゃん。」

 

そう思いながら、姉妹で向かい合ってる状況に安心してようやく目を瞑り睡眠に入った茜。

 

 

 

 

と──それを目ん玉ガン開きで見つめる葵。

ここだけの話、琴葉葵は機関の格納庫でたっぷりスリープモードを取っていたため、しばらく寝る時間を確保する必要がなかった。

 

よって最も有意義な行動──前からのルーティンである、大好きな姉の寝顔をひたすら見続けるというはたから見たら奇行そのものである行為を、今日は長めに行うことにした。

 

「……ああ、久しぶりにじっくり見れる。

今まで辛かった。あそこに居た間、ブレインフォルダの写真で我慢してたのを褒めて欲しいよまったく。」

 

姉が完全に眠りに落ちたのを確認して、独り言を呟き始める葵。

そう。そもそも会話の発端の葵は、茜が寝付けていなかったから声を掛けた訳ではなく……寝顔を見たいのに中々寝付かないから声を掛けただけだった。

 

「寝ててもほんとに可愛いなぁ。」

 

そう言いながら前の家以来の姉の寝顔を、自分自身の目に備わってるカメラで撮りまくる。シャッター音は勿論消しながら。

無論、暗視にも対応済みだ。

 

「あぁ、好き。ほんとに好き。」

 

最高画質で、最高の姉の寝顔を撮る。葵はこの時間が大好きだ。

 

「大好きだよお姉ちゃん。」

 

そうして、写真を撮り続ける中さらに夜も更けていき……

 

まだ全然寝ない。撮影するだけで終わる葵ではない。

いつも通りマスターにも連絡することにした。慣れた手つきで体の内側から携帯機を取り出し、髪をかき分けそれを耳に当てる。

 

「マスター、お姉ちゃん可愛いんです。ベストショットが今日何枚も……」

 

 

「ヘリに飛び乗る時に、わたしに手を差し出してくれたんですよ。怖がってる“フリ”をしたから勇気づけてくれたんです。外の光が後光になって女神様みたいで…」

 

「はい、あと山で怪力も見せてくれました。やっと自分の強さに気づいてくれて…」

 

「でもやっぱり、格納庫で再会した時の顔が1番でした。求められてる感じもして、嬉しかったなぁ。」

 

 

「──そいえばゆかりさんがマスターに会いたがってましたよ?今は見つかるわけないのに…」

 

その調子でトークはしばらく続き、

結局、朝になって茜が起きるまで続けたのだった。

 

「……ふあ〜…葵おはよ…先起きとったんや?」

 

「うん、二分前に起きたばっかり★」

 

お姉ちゃん、私がいくら嘘をついたり騙したりしても全く気づかない。それにバレてもどうせ許してくれる、ほんとにチョロいけどそんなところも好き。

そんな言いたくても言えない言葉を心の中で綴りながら、葵は今日も姉を愛でる一日を始めるのだった。




・結月ゆかり②
仲が深まったら結構喋るタイプ。
リーダー気質で頭も良いが、やや抜けてるところがある。とはいえ、そこはあかりがカバーしているのでさほど問題は無い様子。

実は百合が好きらしいが、今は軽いイチャイチャに留めているようだ。この小説のガールズラブタグの原因の八割を彼女が占めているとか……いないとか。


実はここ最近物事にあまり進展がなかったので、一気にマスターへの足跡が見つかったり、琴葉姉妹が家族になったりで内心狂喜乱舞している。
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