事は昨日の夜まで遡る。
時系列で言うと、茜達がゆかりの家族になった日のド深夜。つまり、ヘリで逃げ出した日の夜でもある。
「どうして……なんであの人があんなことを…」
「本当に間違いは無いのかよ?信じたくない…」
「とにかく今は、報告に行くしかないでしょう!」
愚痴を零しながら複数人が通路を走って移動している。
そんな慌ただしいこの場所は、逃げ出した彼女達がかつて働いていた場所。複数人が目指すのは同じ“司令”の部屋だ。三回扉を叩くと、許可も無しに駆け足で入って行く。
「「「失礼します!」」」
揃いも揃ってその顔には、焦りの感情が見受けられた。誰も彼もが慌ただしく、中には己の感情に振り回されている者までいる。その様子はあまり統一のとれた組織には相応しくないものだろう。
しかしそれも仕方のない話。なぜなら今まで一度もなかったような、前代未聞の事件の報告なのだから。
「Cエリアのロボット格納庫の壁の件について新たにわかったことが!!」
「壁が爆破された件か。小規模の爆発で被害総額はそこまで多くは無いものの、ロボットを盗まれてしまったという失態──我々機関の信用に関わる、重大な事件。」
「はい。ようやく彼女──あかりが犯人と断定出来ました。信じたくは無い話ですが……確か最後の監視カメラの担当も彼女が務めていたはずです。」
そう言ってその話の話題の中心ながらも、今現在ここにいないかつての仲間の顔写真を出す。
名は、あかり。機関のルールに従って苗字登録こそされていないが、ある程度の個人情報などは分かっている。ここに勤めていた時は“尖兵のあかり”等と呼ばれ、ほとんどの人間から慕われていた。
しかし、蓋を開けてみれば……本当に信じられない話だ。まさか機関で一番信用を得ていて人気もあった人物が、裏切りだなどと。
そして彼女の顔写真を出すのに続いて、別の人物の顔写真も並べられていく。
「他にも彼女を裏から手助けしていた存在も見つかっており…」
「更に彼女はかつて保護した対象もここから奪取していたようで…」
「彼女らの住所だと登録されていた場所には何も見つからず…」
「──あの守銭奴めが。やってくれたな……!」
一気に押し寄せる情報。衝撃の事実達。
それはどれもが明るみになれば機関の信用に関わるような、とってもとってもまずい話だ。
司令のこめかみに、血管が浮き出た。
「あ゛あ゛あ゛あああっ!司令司令!!」
今度は別の隊員が、扉をノックもせずに入ってきた。
その隊員はよほど慌てているのか、上司の前であるにも関わらず敬語が抜けていて。それに先程の隊員達よりもずっと余裕が無いようで、顔を青くさせている。
そんな隊員の姿を見て嫌な予感がしながらも、司令は落ち着きをもって質問をした。
「ど、どうしたというんだ?そんなに慌てて…一体何が…」
「──ほんとに……今日確認したら急にぃ…」
そう言って泣き出してしまった隊員。たしかこいつは保護対象のお世話を担当するメンバーの内の一人だったか。
そんな隊員は己の失態だと泣き叫びながらも、やがて絞り出すように声を粗げながら事を伝えた。
「また、また保護対象がいなくなっているんです!一人と!一匹ィ!!」
「な、あ……」
開いた口が塞がらないとはまさにこのことか。
今までも色々な事態に見舞われてきたが、ここまでのは初めてだ。長年ここに務めている司令がそう感じるほど、イレギュラーな事態がここ短期間で押し寄せてきている。
「とりあえず、やれることからやるしかないな……」
機関に勤める最高司令官。
指揮を執るのが仕事のはずの、ここの機関で最も賢いとされる彼の脳内は。かつてないほど疲弊し、疲れ果てていた。
◆❖◇◇❖◆
黒色の物体の上に乗り、その物体を壊れ物を扱うかのように触る人影がひとつ。誰かに語り掛けているようにも見える。
「一緒に出られてよかったね、クロスケ。あそこ前のとこと同じくらい狭っ苦しかったもん。」
優しく言葉を呟きながら黒色の物体──もとい、クロスケという異型の生き物を撫で続ける。
撫でながら月を見上げる彼女の声や姿はとても幼く、普通の人間であれば幼稚園や保育園に通っているような年齢だ。
そんな彼女の名前は、アイ。以前茜によって助けられ、ついさっきまで機関で保護されていた茶髪の子供。
「クロスケ、ビックリした?
そうだよ、アタシの能力は短い移動限定だけど“てれぽーてーしょん”ってやつ。“はんい”に入ってれば一緒に移動できるのは今初めて知ったけど。」
かつて対峙していた二者は、今や意気投合し共に脱出を測るまでの仲になっていた。
クロスケは濁点のついた猫のような鳴き声で小さい仲間に甘える。お互い、以前のことは水に流したように見受けられるが……
「にしてもクロスケ。アナタに足を折られてさ、とっても痛かったんだよ?」
意外と根に持っているのかもしれない。
それを聞いたクロスケは、当時洗脳されてたとはいえそのことを覚えてた様子。今度はションボリと項垂れてしまった。その様子を見て慌てて言葉を続けるアイ。
「でもその“いのちのきき”ってやつ?
のおかげで“てれぽーてーしょん”も覚えられたし──」
そう、あの時彼女が足を怪我してもなおかなり距離があるはずのあかり達の前まで助けを求めに行けたのは。
それができた理由は。
「おかげで足も全然痛くしないで、お姉さんの仲間に助けを求められたし?なによりあの時のアナタはウニョウニョに“せんのー”されてたんでしょ?」
「……だからもうね、気にしてないの。」
どうやらアイは、自分がなぜこの能力を覚えたのかを説明したかったようだ。最後まで話を聞き全てを理解したクロスケは、調子を取り戻したかのように元気よく鳴いて返事をする。
「ぇへへー。クロスケかわいい〜。──でもこれから、どうしよーね?アタシ達、行く宛てとか無いよ??」
脱出した機関で司令が疲れ果ててるとも知らず、こっちはこっちで…困り果てていた。
「あーあー……お姉さん今どこにいるのかなぁ。会いたいなぁ。」
◆❖◇◇❖◆
「あっ、ふぁっ──へっくちゅっ!!!」
「…あれ、お姉ちゃんくしゃみ?もしかして風邪?」
一方その頃、四人家族で初めてとなるテレビ鑑賞タイムを過ごしていた茜に、突如として風邪かもしれない症状が訪れていた。
「それか噂話されてるとかじゃないですか??ほら、わたし達今日色々と…」
「あー……おそらくそっちやな…」
鼻をすすりながらも、彼女は気になっていたテレビ番組の続きを見つめようとする。画面にはNEWSと表示され、今日起きた出来事等がぞくぞくと表示されている。
『続いてのニュースです。』
「このニュースキャスターの人可愛いよね、お姉ちゃんほどではないけど。」
ナチュラルに妹バカが炸裂しているが、それは放っておいて。
テレビの画面には緑の少し近未来的な服を身にまとった、明るく聞き取りやすい声の女性が映し出されている。如何にも“女子アナ”といった出で立ちで、ニュースキャスターをしている様子。
「ん?この人どこかで見たような……気の所為ですかね。」
それを見て何かを思い出しそうになるゆかり。
『わたし達を日夜マッドサイエンティストから守ってくれる、あの違法研究取締機関に異変が!一体あの正義の機関に何が?……早速リポーターさんにお話を伺ってみましょう。』
しかし、自分自身に関連する話題がニュースで取り上げられていることが分かり、それどころではなくなってしまった。
「こ、これって…」
「あはは、皆揃ってくしゃみすることになりそうですね?」
予想していなかった訳では無いが、これからの生活は楽しいことばかりじゃなさそうだ……と気を引き締める一同であった。
・ニュースキャスターのお姉さん
ゆかり曰く「どこかで見たことある」姿らしい。
いずれ直接会うことになる……かも?実は他にも仕事を兼任している。滑舌がとてもよく、機械のように正確なスピードトークが自慢。
※23、24話の文脈を修正しました!物語の内容に変化は無いのでご安心ください