店員さんに怒られてしまったり、二人サボりが見つかったり……アクシデントこそあったものの、無事買い物を終えたウチら四人組。
あれから暫く
「運転お疲れ様、ゆかりさん。」
「どうもです。
──この注意書き、ここから立ち入りを禁ずる……って書いてありますね。ふむ。どうやらここで間違いないみたいです。」
柵とは勿論封鎖エリアの柵のことで、マークだって禁止マークだった。いずれも少し汚れていて、不気味な雰囲気を醸し出している。もう注意書きなんてなくても、普通の人なら怖がって近寄らなそうだ。
「暗い、怖い、町から遠い。この三拍子が揃ってるからかな?全く人が寄り付いてないね。」
葵が言葉に合わせて指を一本づつ、計三本立てながら言った。
たしかにその言葉の通り、辺りの雰囲気は不気味な町外れそのもの。窓から外を覗いても、いくら探したって人影一つ居やしない。ウチら以外周囲に人は居ないと思っていいだろう。
「あ、禁止で思い出しましたけど……
茜ちゃんはもう触っちゃダメな物に触れるの禁止ですからね!」
「──あー、ごめんな??気をつけるで?」
勿論反省はしているが、正直しゃーないやん……と思ってしまう。
あの件に関しては正直もう許して欲しい。なんせウチの“前の知識”からすると、あそこのモールは近未来的な物だらけだったのだ。SFの世界に来たみたいやでぇテンション上がるなー!……となってしまったとしても、許して欲しい。
「お姉ちゃん、私は許すよ。」
「味方は葵だけやでぇ……」
「さあお姉ちゃん、私の胸に飛び込んでおいで。」
いつも優しいあかりちゃんに怒られてしまっては、癒しは葵だけだ。唯一の味方に縋り付く。
「葵ー!!」
「ふふ。イイコイイコー」
姉としてどうかとは思うが、何回も責められて傷付いたウチの心を癒せるのは葵だけなので迷わず飛び込む。
「あ、葵ちゃん……まあ甘やかしたくなる気持ちはわかりますけどね…」
「あの三人とも、そろそろ……」
雑談が続きそうだったところで、仕切り直しが入った。たしかに目前まで来たのに、ずっと話している訳には行かない。
「──よし、降りますよ。皆さん準備をお願いしますね。」
「あれ?ねえねえゆかりさん、キャンピングカーはどうするの?」
「ゆ・か・り・号!……はそのままここに置いておきます。」
「わーお。」「え、それ大丈夫なん??」
降りるのは別によいのだが、ここに置いたままにしていいのだろうか?そりゃ周りの静けさを見るに、あまり人は来なそうではあるけど……。無断駐車と言うやつなのではないだろうか、これ。
「いいんですよ、その為にあえて見た目ボロくしてますからね!勿論バリバリ現役の車ですけど、一見使い古されてもう走れない車のように見せてるのです。これなら泥棒したり、張り紙つけるような人もいないことでしょう。」
「見た目オンボロ、中身骨太ってことですね?」
「なんか聞いたことあるフレーズですが、まあそんな感じです。それじゃあ行きますよ。」
今度こそ話も終わり、ぞろぞろと皆で外に出てみる。
──ゆかりさん、またでかい荷物を持っているけど大丈夫なんだろうか??
ちなみに外は気温の関係上空気が澄んでるからか、空がとっても綺麗だ。
そしてこの沈みかけている夕日を見るに、朝に出発したのにも関わらず今の時刻はすっかり夕方のようだ。それに季節が季節だからか、もうかなり暗い。やっぱりちょっと怖い雰囲気すら醸し出しているし、カラスもカーカー鳴いてその怖さを助長している。
「不気味だね。本当に行かなきゃダメかなぁ。」
「ここまで来たんです、行きますよ。皆ここに来るために車に乗ったんでしょう?」
「ダヨネー。」
そうだ、ゆかりさんの言う通りこんな事で歩みを止めるウチらでは無い。機関にいた時期は真夜中に建物に侵入することもあったし、今更この程度どうって事ない。
だが、それとは別にどうしても歩みを止めなくてはならない理由があった。
「も、もうダメや!我慢できひん…!!」
トイレが近い訳では無い。
そう……寒い、寒すぎるのだ。ウチだけさっきから凍えてる。
「ぅうう……さ、さすが秋田!寒めやな!!!」
「やっぱり寒いよねお姉ちゃん、ハグして暖めあおっか?」
「葵ちゃん……あなたさっきまで普通に……」
「わたしとあかりちゃんはパーカーだからまだマシですけど、二人はほんと寒そうな服してますよね。」
そう。
ウチと葵は、なんといつもの服でここまで来てしまったのだ。その割には葵はあまり寒くなさそうだったが……ウチの様子を見て、急に寒がり始めた。
感情を隠すのが上手いのかもしれないし、ハグしたかっただけなのかもしれない。
「…ほんまやで、むっちゃ寒い。」
「服装にこだわりすぎたのは反省点かもね…」
……ここ、凍え死にそうだ。
東北に向かうって聞いてたのに、この服はちょっとやめた方がよかったかもしれない。いくらウチらのトレードマークとはいえ。
「安心してください。
──どうせ二人共いつもの服着てくんだろうなと思って、実は上着を用意してました。」
「服にこだわりがあるであろうことは、普段のお二人をみてればわかりますからね!」
どや顔でそう伝えてくるゆかりさんとあかりちゃん。
残念行動が予測されてたのが悲しいが、今は逆にそれがありがたいー!
「用意周到すぎ。ナイスゆかりさん。」
「さすがや!助かるで!!」
「ちなみにこの上着、二着ともモフモフなのでわたしの荷物の半分近くを締めていました。はいこれ。」
藁にもすがる思いで、さっそく渡された上着を羽織る。
というか荷物が大きかったのは、半分くらいウチらのせいだったみたいだ。申し訳なくなってきた。
「あ、ありがたさが身に染みるぅ…めっちゃ暖かいで!」
ちなみにこの上着、黒色ながらもピンクのボタンが着いていることで差し色になっていて、すごく可愛いデザインだ。内側がモコモコで暖かい!
葵も色違いの白バージョンの物を着ているが、とっても似合っていた。向こうのボタンは水色。きっとゆかりさんがウチらのイメージに合わせて選んでくれていたのだろう。凄くしっくりくる。
「ふふ、お姉ちゃん……すっごい似合ってる。こっち向いて、もっとじっくり見せてよ。」
「葵こそええ感じやん!」
「二人とも可愛いですよ!!」
「気に入ってくれたみたいで何よりです。」
見た目を褒めてもらって嬉し──あ、見た目といえば。
「そいえばウィッグはどうするん?」
「別にこの先の道で沢山の人間の前に出る予定は無いですし、どうせここから先は封鎖エリア。見つかったら誰でもアウトです。つけてく必要は無いかと思いますよ?」
「賛成でーす。やっぱりつけてない方が自然体でいられますし!!」
「ほなそうしよか。」
「私も賛成かな、やっぱりお姉ちゃんは綺麗なピンク髪あってこそだし。」
満場一致となったので、付けないでいくことになった。正直窮屈に感じていたので、あれを外出の時ずっとつける羽目にならなくて良かった。
「にしてもこの柵──どうします?」
「これだけ高さがあるとなると、登るとかも嫌ですね……」
結構な高さがあり、人の進行を拒むには十分な柵。
「ふーむ……フックショットで行きます??」
あかりちゃんが素晴らしい提案をしてガサゴソとパーカーの内側を探り始めたが、それも残念ながら無理そうだ。
「すいません、わたしの分しか持ってきてませんでした……」
「手詰まりでしょうか?──かくなる上はゆかり号で突進でも…」
「お姉ちゃんにお姫様抱っこしてもらって、向こう側に運んでもらうとか?ジャンプ力あるんでしょ?」
──皆困ってる、ウチも案を出さなきゃ。
一応、葵の案もできなくは無いが……ウチは高い所に飛べはするものの、高い所から落ちるのに関しては専門外だ。ようするに行く専門。問題は飛び越えた後の落ちる時で、どうなるか分からない。何故ならやったことがないから。
“前の知識”の認識のせいか、なんだか足をくじきそうで怖い。
でも、幸いにもこの柵は木製だった。
なら手はまだある。
「皆、ここからちょっと離れてもらえへん?」
「えっ」「茜ちゃん、何を?」
「もしかして抱っこする気になった?」
ウチが人差し指に念じると火が現れるので、それを使って…と思ったのだけれど、中々出ない。一体何故──そっか、“あれ”が今不足している。
「ゆかりさん、ガソリンってある?飲みたいんやけど。」
「えっ」「茜ちゃん、もしやあの手を……」
「もしかしてお姉ちゃんお腹空いたの?」
◆❖◇◇❖◆
調達してもらったガソリンを飲んだ甲斐もあって、無事に点火。ウチの炎はあまり強いとはいえないので、満遍なく燃えるように複数箇所点火しておく。
ちなみにガソリンは普通にまずかった。
抵抗感があったとはいえ、前の家で飲んでたガソリンが葵曰く『一番合うガソリンだよ?美味しく感じるはずだよ?』と言っていたのはマジらしい。さっき飲んだガソリンに比べればめっちゃ美味しかった。
さて、微妙な思い出を振り返っていても関係なく燃え始める柵だったもの。ゆかりさんにもらった上着に炎が燃え移らないように、急いで後ろに下がる。
……しばらく経つと人が入れる隙間ができたので、急いで火を消す。我ながら見事な手際だった。
「よーし、ほな行こか!!」
葵やゆかりさんの前で特異な身体能力や火を出すのを見せる事に抵抗は無い。何故なら二人共ウチのことを普通じゃない生まれだとわかっているし、恐れたりしないだろうから。
「や、やるならちゃんと説明してくださいよ?ビックリしました……」
でも、今度は調子に乗りすぎたみたいだ。もっと相談してからやればよかった。反省反省。
「過去に茜ちゃんの特性について説明はしてましたけど、二人共見るのは初めてですからね?」
「あー……ごめんなさい??」
だって活躍できそうなチャンスだったから……なんて内心言い訳しながら、素直に謝っておいた。
「いいじゃんいいじゃん。お姉ちゃんのお陰で先に進めるんだからさ。さ、レッツゴー。」
葵の言葉のおかげで皆の興味はこの先の山道へと移り変わった。あまり整備されているように見えない、人工的なものが見えない──正直夜に入りたくない、この先の道へと。
「──この先に……家族候補がいるかもなんだよね?」
「ですね。衛星写真を見る限りこの山はかなり広いみたいです、頑張りましょう。」
「懐中電灯頼りになりそうやな……ゆかりさん、つく?」
「勿論です。この強力な光で照らしてさしあげま──あ、逆にこの先野生動物とかが出てきたら皆さん……頼みますよ??」
そう言いながらライトを持ったゆかりさんが先陣を切って、この少々ホラーチックな封鎖エリアの探索が始まったのだった。
・茜に対する認識
葵「成長する子供を見てるみたいで楽しいよ?まるで親になったような気持ち。……といってもその気持ちの相手は姉なんだけどね。」
あかり「たまーに子供みたいにはしゃぎますよね。でも今まで色々見る機会が無かった反動だと思うので、微笑ましいです。」
ゆかり「昔のあかりちゃんを見ているみたいです!特に思いついたら直ぐに行動に移す所とかそっくりで。懐かしい気持ちと甘やかしたい気持ちが同居しています。」
【悲報】茜さん、実は家族全員から一番子供扱いされていた……