そこを出歩けるきりたんは、銃火器を持っていける安心感があるとはいえかなりの勇気の持ち主かと!
……まあ逆に言えば、そんな夜道を好んで出歩くくらい暇してるわけなんですけどね…。
出会いというのは、いつも突然だ。
ずん姉さまと喧嘩してから家を飛び出したわたしは、あれから少し不貞腐れながらも今日も今日とて夜中の探検──という名の暇つぶしを始めていた。
そして今日は気分転換にと、いつもは行かない人道外れた道を探検してみることにしたところ…
「ですから、やる時はもっとわかりやすくですね??」
「えーほな何がええかな、技名とかつけてまう?」
す、すごい発見をしてしまった!
お酒に酔っ払ってフラフラしてる人とか、変わった野生動物でも見つけられたら御の字だと思っていたのに。
すごい発見──もとい、とんでもない人達を見つけてしまうなんて。それからは遠目からこっそり向こうの様子を疑っていたのだが……なにやら動きを見るにこちら側に移動してくるようなので、わたしは急いで背の高い草の茂みに身を隠す。
「嫌ですか?なら“イグニッション”とかどうでしょう。」
「……いぐにっしょん?」
「点火ってことじゃないかな??」
(こ、この時間にどうしてここに…!?)
……なんでこんな夜中に。現実味のない雰囲気の人達が四人で山道を歩いているんですかね???
そりゃ、何か面白いものを探しに来たけどさ。
何これ、化かされてる??
初めて見る派手な髪の色、初めて見る変わった服装、そして当たり前だけど初めて見る顔ぶれ達。まあ暗くてあまりよく見えないのだが。
正直今まで会ってきた人たちは、家族を除くと誰も彼も印象に残らないパッとしない人間ばかりだった。けれどこの人達は……声だけですら、そういう今までの人間達とは一線を画すような──っと危ない!
「……待ってや皆、今あそこの茂みが揺れへんかった…?」
「ガサゴソって音、聞こえました。
野生動物かもしれないですね。クマとかイノシシの可能性もありますから、皆さん一応警戒を!!」
……見つかってしまっただろうか?
どうやら会話を聞くに向こうは、こちらを野生動物だと勘違いしている様子──等と様子を伺っていると向こうが懐中電灯でこっちを照らしてきた。
ま、まぶしっ!!
なんだあの懐中電灯、わたしのより何倍も性能がいい。ここまで眩しいのは初めて見る。
「な、なんやろあれ?茂みから白い柱みたいのがふたつ生えとる……」
「ギクッッ!!」
「もしかしてお姉ちゃん、新種の動物発見ってやつ?」
あーあ、なんということでしょう。
万が一に備えて持ってきたきりたん砲が、まさか見つかるきっかけになってしまうとは。
「待ってください、アレよく見たらおいしそうじゃないですか??というか最近食べたような……?」
「あかりちゃん、それってもしや…」
つまりわたしは……頭隠して尻隠さずならぬ、頭隠してきりたん砲隠さずになっていたわけで。
──というか、そんなうまいこと言ってる場合では無さそうだ。
「でもここにあるのは妙ですよ……やっぱり怪しいですね、臨戦態勢に入ります!ビリビリはいつでも放てますよ!!」
そう言ってスッとパーカーの内側から何かを取り出し、こちらに向けて構えてくる白髪の人。まあ白髪と言っても、タコ姉さまとはかなり雰囲気は異なるが。
構えてくる物を頼りにしている様子を見るに、おそらくアレは武器か何かだろうか??あまり鋭そうには見えないけど、なにかカラクリがあるのか。
武器(?)を構えながら、ゆっくりとだが着実と距離を詰めてくるその様子は……な、なんか動きが妙に手慣れてる!?様子を見るにどうやら本気で仕掛けに来てるみたいだし、ちょっとまずいかも。
「ま、待ってください!!人です人です!!」
危ない危ない!この人達見かけによらず、なにやら危険そうな物を持っている上にこちらに向けてくるではないか。というわけでわたしは武器を向けられないよう急いで普通の人アピールをする。
「な、なしてこんな時間に子供が?……というかゆかりさん!あの子って、もしかしなくてもアレやろ?」
「……ですね、間違いなく!!」
…が、何やら向こうの反応がおかしい。
というかこんな時間に子供がって言っているけど、それは向こうだって同じことだ。とてもじゃないが成人しているようには見えない、よくてずん姉さまくらいの歳だと思う。
「あかりちゃん、ちょっとあの子に名前聞いてきてくれますか?」
「えっ、なんでわたしが…」
「ほら今貴女丁度武器持ってますし?もしものことがあっても安心ですし?べ、別にあの子と初対面だから話すのが怖い──とかそういうわけじゃないです。」
「いやゆかりさん、自分が行きたくないだけじゃ……?」
なんかあの人達、今度はこっちを見ながらギリ聞こえないレベルの 声量でヒソヒソ言ってるし。
わたしがヒソヒソ言われるようなこと……もしかして、背中のきりたん砲が変わって見えるとか?もう外につけてくのやめようかな……
「あー、ほら早く行かないと!あの子困ってますって…」
「リーダーならビシッとゆかりさんが…」
「いやいやここは誰とでも話せるあかりちゃんが…」
「お姉ちゃんどうしよう。これじゃ埒が明かないね。」
「……ほ、ほなウチが行こか??」
「「どうぞどうぞ!!」」
「……もしやこれ、ハメられとった?」
仮にきりたん砲のせいじゃないとするならまさか、わたしの頭に生えてる包丁が怖いとか?昔ナマハゲみたいって揶揄われたことはあるけど──等と、ヒソヒソ話されてる原因を考えてると桃色の髪の人が近づいてきた。
そして彼女はわたしに目線を合わせるように腰を落とすと、明るく元気な声で語り掛けてくる。
「えーと、ちょっと質問ええかな?」
なんだかちょっと変わった喋り方をする人だが、一番上の姉みたいな例もあるし気にはならない。
……というか、知らない人と話してるとは思えないくらい心が安らぐんですがこれは一体??初めての感覚だ。
「──は、はい!」
あれ、安らいだはずの心がまた落ち着かなくなってきた。
なぜなら、さっきまで暗闇で髪色以外はよく見えてなかったからわからなかったけど……この人、近くで見たら偉い美人さんだからだ。おかげで返事をするのが少し遅れてしまった。
いや、どちらかと言うと可愛い系?とにかく美人の周りには美人が居ると言うし、他の三人ももしかするとこのレベルなんだろうか。
……人を綺麗だと思ったのは、姉さま方以外だと初めてかもしれない。
「その、キミって“東北きりたん”って名前で合っとる?」
「────は???」
そして、そんな彼女から放たれた一言で頭が真っ白になった。どうしてこの人、わたしの苗字も名前も知って……!?
◆❖◇◇❖◆
向こうの名前を教えてもらった。彼女の名は琴葉茜──茜さんと言うらしい。
そしてそんな茜さん達の話を聞いたところ、わたし含む東北家はどうやらこの山に“マスター”というやつの思惑でずっと閉じ込められていたことが判明して。んでもって何故マスターがそんなことをするかと言うと……
「合っとる??」
「ビ、ビックリです!
たしかに間違ってる情報は殆どありません、つまり茜さん達は、わたし──いや、わたしの家族のことを全部わかってる……ってことですか??」
「正確にはきりたんさんの家族やなくて、その“モチーフ”の設定を知ってるだけなんやけどね──どうや、この話信じられへんかな??」
「まあ……というか、呼び捨てで平気ですよ?」
その“モチーフ”とやらの設定に近付ける為に、この山にずっとわたし達三姉妹を閉じ込めて、決められた世界で理想の人格を作り出そうとしていた……ということだそうだ。
確かに話を聞いてから普段の生活を思い返してみると、この田舎から出たことは人生で一度も無かったように思う。
住む場所、学校、お店。
恐ろしいことに、わたしの──わたし達の日常のすべては、たしかに言われてみればこの山の中だけで事が済んでいた。
「うーん、この子も一発で話を理解できるんですね??さすがというかなんというか。」
「ウチの説明が良かったんやないの〜?」
「だとしても、わたしだったらこんな小さい時に理解するなんて無理ですよ……やっぱりこの子もデザイナーべイビーなのでしょうか。」
(ベイビーとか聞こえたんですが?し、失礼な!!!わたしもう小五ですよ!?)
……話を戻すと、先程言っていた“モチーフ通りの作り”を止めようとしてるからこそ、茜さん達四人はわたし達東北家のモチーフの情報──もとい、わたし達の個人情報がわかるということらしい。
苗字や名前が知られていた理由はこれだった。
正直、理解が追いついて部分もある。
でも今までこの田舎の山の中でずっと退屈な日常を送っていたわたしにとって、この四人との出会いと教えてもらった真実は……強い。刺激が強すぎた。
これだけ材料が揃っているとなるとこの話が本当ってことだけは嫌でもわかる。
「や、ここまで言われたら信じるしかないじゃないですか。
わたしの姉二人の存在、好きな食べ物、それに──誰にも話してないはずの、家族以外知らない“隠してた趣味”まで話されてしまったら……はぁ。」
「あー。ご、ごめんな?あれまで話さへんくても良かったかもしれへん…」
まさか、出会ったばかりの人にこっそり楽しんでたわたしの趣味を堂々と口にされるとは思わなんだ。新手の公開処刑かなんかでしょうか?
でもあの趣味は仕方ない部分もある。
なんせあの人の太ももは枕に最適すぎる弾力性を誇っている。ので、そんな物をちっちゃい頃から枕にしてたらそりゃ日頃のお楽しみになっても仕方ないのだ。悪いのはずん姉さまじゃないかな。
……なんて言い訳しても羞恥心は消えない。恥ずか死にそうだ。
「大丈夫、姉の太ももに魅力を感じるその気持ち……わかるよ。すっごく。」
青──いや、暗いから分からないだけで多分もう少し明るい色の髪をしている人が、わたしの肩に手をポンと置いて恥ずかしい趣味に共感してくれた。
ホッ……話の分かりそうな人がいてよかった。しかも彼女は茜さんと髪の色以外と瓜二つの外見を見るに、おそらく妹さんだ。
まさかの同志の登場に心を少し開かれる。
「で、ですよね!」
「私、琴葉 葵って言うの。よろしくね。」
「よろしくお願いします!東北 きりたんです!!」
「ふふ。知ってる知ってる。」
ガシッと。葵さんと、固い握手を交わした。
なんだか特に仲良くなれそうな予感がする。遠く離れた地から来たであろう人と意気投合して、少し感動すら込み上げてきた。
「それで──きりたんちゃん的にはこの山から出たい感じですか?どうですか??」
感動していたら強引に白髪の人に話を戻されたんですが。
くだらない話とか思われてるんじゃなかろうか、これ。……ちなみに、質問への答えはもう決まっている。
「はい。わたし、東北きりたんは──ここから出たいです!毎日毎日、今までずっと退屈してましたもん!!」
なんなら、話を聞き始めて割とすぐに思ってた。
この退屈な日常から開放されるなら、この人達のことを信じて行動するべきだなって。
「じゃあ、ここから出るためにきりたん…ちゃんのお姉さん二人も説得しないとですね。」
「ふふ、やったねゆかりさん家族が増えるよ。」
「??葵さんが言ってるその、家族が増えるって?」
「あ、うん。解放されたあとはここから離れる訳だから、身寄りの場所がないでしょ??そこでゆかりさんが匿ってくれるの。つまり同じ家に住むことになって、きりたんちゃんも私達の家族になるんだよ。」
それって、つまり……
「え、ええええええええ!?」
衝撃の事実。わたしは夜なのにも関わらず、結構な声量の声を上げてしまった。
というか、つまりこれって、わたしのお姉様がずん姉さま、タコ姉さま以外にも増えて……お姉様が沢山になってしまうってことですよね、これ!?いいんですか!?!?
「ま、マジですか……よっしゃ……!!」
「夜なのに元気ですねこの子。」
これには思わずガッツポーズ。
ここから解き放たれる上にまさか美少女家族に仲間入りできるなんて。
いいことずくめってやつだ。
「お、ゆかりさん良かったやん!きりたんなんだか嬉しそうやで!!」
「なんか僅かに邪な雰囲気もしますけど、家族が増えるのはこちらとしても嬉しい事ですね。」
あー、今日は夜の探検に出て本当に良かった。
帰って早くこのことをずん姉さまにも知らせないと。
……でも、さっき強い口調で怒鳴って家から出てきた関係上、今すぐ帰って会えというのは結構気まずい。とは言っても、ずん姉さまは優しいから絶対許してくれるだろうけど。
許してもらったら膝枕でもしてもらうとしよう。
……あ、待てよ。
ひょっとして茜さん達も今後は家族──もとい、お姉様になるってことは、つまりそれって──膝枕してくれる人が増えるってことでは!?
「っっっしゃ!!」
「あはは、ほんとに元気ですねこの子……」
・琴葉葵③
機関から救出されてからは、姉に対する感情をあまり隠さなくなった。妹キャラ同士気が合うのか、きりたんと意気投合した様子。