起きたら茜ちゃん!   作:丹碧のブルーメ

3 / 44
物事に挑戦する時。急に不安になったり、悪い想像をし始めたり……そんなことありません?


三話『姉妹のカタチ』

「よしよし、配信機材に異常無しと……さて、お姉ちゃん準備はOK??」

「バッチリやで!!寝癖も服装の乱れも無し、髪飾りのリボンもしっかり結べとる!」

 

「結んだのも私だもんね……はい、それじゃあ配信前に配信でやることの確認ね。」

 

妹が配信機材の調子をチェックしたり姉を気遣ったりと周りに気を配る中、姉は自分のことにしか目を向けられていないが……それを攻めるものは誰もいない。

なぜなら、妹は優しいけど茜よりしっかり者、姉はおっとりしていて少し天然で──という“これ”が、これこそがいつもの琴葉姉妹のカタチだからだ。

 

一般的な姉妹とは逆のような関係性だが妹はこれに慣れているし、姉も負荷をかけてるだとか、罪悪感や無力感などは一切思ってないし感じていない。これが自然なのだ。“あるべき姿”なのだとお互い認識していた。

 

「まずはオープニングを流した後にやる、挨拶の手順を振り返るよ?」

「うん!まずはウチが挨拶して次に葵が〜やろ?」

 

「そう──最初の滑り出しがお姉ちゃんから始まるから、私達の第一印象全てがお姉ちゃんに掛かってるの。がんばって。」

「も、勿論……」

 

全てが自分に掛かっていると言われ、不安げに頷く茜。何気にこういう大事な場面を試練のような形で姉にやらせる葵は……実は過保護とは程遠い考えの元に動いていて、自分の姉を理想の姉たる存在に確立しようとしているのかもしれない。

決して『プレッシャーに緊張して動揺しまくるお姉ちゃん可愛いから見たい』等の“そういう理由”ではないのだ。多分。おそらく。きっと。

 

「そしたら流れるようにゲーム実況に移行するよ。配信と言ってもスタイルはほぼ“実況プレイ動画”に近いかもね、勿論カット無しの。」

「誤魔化しが効かないのアレやし、やっぱり撮ったものを編集して動画に……とかの方がええんやないか?」

 

ようするに茜が今提案しているのは《前の知識》で『ボイロ実況』と言われた実況スタイルほぼそのままのやり方である。違う点はVOICEROIDが現実にいて、思考能力や意思等を持ってるから“持ち主”が直接関与、入力しなくてもいいことか。

 

ミスというのは恐ろしいし、ましてや自分の初公開がこれとなるのだ。

尚更ミスなど晒したくはない。

 

だからこそ記憶に沿って彼女なりに考えた慎重な提案だったが、やはり葵は元から決めていた方針を変えない様子。

そもそもこれはマスター直々に頼まれている配信なので、それをあくまで所有物でしかない自分達の意思で、ましてや独断で『配信をせずにやっぱり動画に〜』等するわけにはいかない。

 

「いや、マスター曰く『VOICEROIDの生のリアクションを見る事に視聴者も自分も、価値を意味を見出してる』らしいから……」

 

そもそもこの世界は《前の知識》の世界より考え方が先(?)をいっているのか、楽しみ方そのものが変化しているようだ。

 

 

“実況そのものを見て楽しむ”

 

というよりは

 

“ロボットの些細なミスや人間味を見て楽しむ”

 

 

というような考え方なのであろう。勿論前者の楽しみ方が消えている訳では無いはずだが、この世界では後者がメジャーになりつつある……のかもしれない。

 

ではどうしてそんな楽しみ方がメジャーになったのか?ということに関しては、茜には正直全く検討もつかなかった。

 

何故なら《この体》になってから一度も外に出れていないし、人間を一回も目にしていないからだ。だからどんな思考をするかも知らない、なんならどんな見た目になってるかすらも一ミリ足りともわからない。

前にこの世界の人間について考えた時は「もしかしたら未来予想図みたいに宇宙人みたいなでっかい頭、でっかい目になっとるかもしれへん」と考え始め、そこで考えるのをやめた。グレイ型の宇宙人の見た目が苦手だからそれ以上考えたくなかったのかもしれない。

 

 

話は戻って、今の人間の“ロボットの些細なミスや人間味を見る”というこの楽しみ方。

 

ロボットのリアクションが気になる?

普段完璧なロボットのミスが滑稽だから?

それとも普段とのギャップで楽しむ?

 

どんな理由があるにせよ、その楽しみ方の相手が自分に務まるのか……正直不安しかないのだ。それもそのはずで、茜は自分を《ボイロに憑依した人間》と考えている。つまり本来の意図のVOICEROIDという名のロボットが実況をしてリアクションする!ということはこの時点で叶わなくなるし、むしろ中身で言えば……それは普通の人間のプレイと何ら変わらないからだ。

 

そこから容易に想像できる最悪の未来──そう、一番恐れているのは、ずばり“正体バレ”である。

あまりにも人間臭いところを見せてしまったり、ロボットらしからぬ動きを見せてしまっては……結果は火を見るよりも明らかだろう。

 

端的にまとめると、琴葉茜は『自分がこの配信に出ると良くないし、なんなら最悪この日常が終わってしまう』とまで考えているのである。

 

「そう、なんやな……」

「──お姉ちゃん、配信が嫌なの?」

 

そんな不安が押し寄せてきたのか、茜の声は少し震えていた。そんな声を聞いた葵が何かを察したようで、心配そうに姉の顔を覗き込む。

しかしその目線を遮るようにもっと顔が俯いていく。そうすると髪で妨げられ、顔が見えなくなっていき…その表情は見えない。

 

こんな瀬戸際になって、今更怖気付いていた。

 

「葵、嫌って言うか、ウチは…」

「大丈夫、私はお姉ちゃんが好き。」

 

「────え?」

 

突然の姉妹愛にお姉ちゃんビックリである。

すっかり顔の影はなりを潜め、むしろ赤くなり始めた。突然何を言い出すんだ、この妹は……と。困惑しながら顔を上げた。

そんなリアクションをした姉に笑いながら言葉を続ける。

 

「あ、性格とかノリとかね?好きっていうのは家族的な意味だよ??……とにかく、視聴者の人達にも魅力的に写るって言うことであって…」

「葵、ありがと。もう大丈夫やで!」

 

茜は妹の言葉で、何を恐れていたのかと。

何を怖がっていたんだろうと気を持ち直せた。

──そうだった、自分の隣にはこの妹がいるじゃないかと。葵は過去に自分がどんなにヘマをしても責めてこなかったし、憑依してあまり日が経っていない時期の、ここの当たり前をあまり知らない自分に一から優しく教えてくれていた。自分で思い返してもエセすぎる関西弁を聞いても、すこし興味深そうにはしていたものの、一切不信感を持ったりはしなかった。

それ等はひとえに姉を信用しているから……なのだろうか?

「ふふ、よかった。お姉ちゃんはいつも通りでいいんだよ。それに自信満々なのが似合ってる。」

「…うん、ウチ初配信で緊張してたみたいやわ……」

 

こんないい妹を持っている《琴葉茜(体の持ち主)》に申し訳なくなりつつも、琴葉茜(憑依者)は元気を取り戻していた。

もう一点、『性格とかノリが好き』と言ってくれたことも元気を取り戻せた理由の一つだ。性格もノリも《自分》が入ってから少なくとも絶対少しは変化しているはずなのに、それを肯定してくれている。

つまりは今の自分を認めてくれているということ。

 

その事実は活力になった。現に今の茜の声はやる気に満ち溢れている。VOICEROID2に例えたら、喜びパラメーターを上に設定されている時くらいに明るくなる。

 

そして2回ほど“パシ”と音が響く。姉の突然の奇行に葵は珍しく目を見開く。

 

「お姉ちゃん?」

「……葵、初配信絶対成功させるで!」

 

茜が自分の頬を両側から挟むように、2回ほど叩いたのだ。 きちんと“パシパシッ”という音が聞こえるくらい、少し強めに叩くのがポイントらしい。

そうすると、自信に満ち溢れた顔つきに変わった。言わばこの行為は自分達を鼓舞する応援太鼓を叩くようなもの。二回叩くだけで気合いが入る便利な代物のようだ。

 

「うん、その意気だよお姉ちゃん。じゃあ配信始めていい?」

「よーしいつでもええで!!」

 

やる気になって見違えた姉をみて葵も頬が緩む。

二人の息がピタリと揃い、全力で他に何も考えずに配信だけに打ち込める最高の環境。それがたった今、揃ったのだ。

 

「それじゃあオープニング流すよ、3、2、1──」

 

 

その後配信はとても上手くいくことになる。

琴葉姉妹の

 

“まさかの関西弁の姉の方がボケ”

“姉がいくらドジ踏んでも即フォローする過保護な妹”

 

というダブルパンチから展開される実況は、大いに盛り上がった。

 

 

常に完璧なロボットばかり見てきた人間にとって、それはとても新鮮な物として写り──その界隈に精通している者も、ロボットとしては脅威的なまでの姉妹の《人間味》に驚かされ、そして魅了されたと言う。

そしてマスターとやらはこの配信の出来栄えを見て満足そうにしていたそうな。

 

 

 

 

 




・マスター
顔を見た事がない、声も聞いたことがない……ということで何も分からない相手。

葵がいつもマスターからのメッセージを受信している。
そのメッセージは体調を心配するものから、なにかのリクエストまで幅広い。
そのメッセージを「今日は○○だって!」と葵が茜に伝えるまでが一連の流れ。

茜にはメッセージが来たことないし、そもそも『受信する』という如何にもロボット!と言ったことは正直できる気がしないので、受信係が妹で良かったと思ってる。

葵曰く『従うべき主』であるらしい。
といってもイマイチピンと来ないので、茜は妹に合わせてなんとなーく言うことを聞いているだけ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。