そう、つまり“ずん子”はあだ名なんですよ!!
あかりの活躍により、きりたんの学校の人間が全員ロボットだと見抜いた矢先。
その衝撃は訪れた。
「余計な事を。
バレてしまっては仕方無い……強攻策だ、全員武器を出せ!包囲網を狭めよ!不審者──いや、侵入者は殺せ!!!」
担任ロボットのその言葉を皮切りに、人じゃ決して出せない機械音を出しながら……手が、肩が、個体によっては顔が。身体の一部を変形させて、生徒ロボット達は次々と武器を展開させていく。
「「ひいいぃぃ!?」」
ただでさえロボットは今日初めて見たというのに、人の形をしたものが次々と異形に変わっていくというありえない光景に、思わず東北姉妹は抱き合って悲鳴を上げた。
「さぁ東北さん。そしてその姉も。
今すぐこちら側に来るんだ。その場に居られると邪魔で侵入者を殺せない。綺麗に記憶改竄して家に返してやるから、早くこっちに。」
指示をする役割だからか、唯一人の形を保っている担任ロボットが、怖がっているきりたんに声を掛けるが……彼女の心は折れていない。むしろ、その言葉を聞いて決意を固めたようで…。
「生憎家はとっくに壊れてるんです。それにわたしの家族になる人は、絶対に殺させない。」
「……出会って数時間の侵入者達に着くと?」
「その数時間の関係に負けるほど、貴方達は信頼できない人達ということです──発射!!」
きりたんの掛け声と共に背負ったきりたんぽ型の大砲から発射される弾。その威力は知っての通り、全力なら建造物を容易く破壊してしまう威力を持つ。
無論、砲弾は複数体のロボットを容赦無く破壊した。いきなりの砲撃にゆかり達五人は唖然としたが、一方で被害を受けたはずのロボット達サイドに動揺は見られない。
「左翼の面子が三体破壊されたか。空いたスペースを埋め包囲網を固めよ。」
「──急に撃ったのに、初めて見せたのに、生徒が死んだのに…一切驚かないなんて。それに血も出てない。ほ、本当に人間じゃなかったんですね…?」
「……」
その問いに返答は無かった。
無言の肯定というやつだ。
「い、一体全体!!なんでわたし達をここに幽閉しようとするんですか!なんなんですか?!」
「答える言われなどない。東北きりたん及び、東北純子を捕らえよ!」
「大丈夫だよー、東北さん。こっちに来て大人しく捕まれば、今日の事も忘れてまたいつもの日常に…」
担任ロボットに指示された元、そう言って沢山の生徒ロボット達が、武器を構えながらジワジワと距離を詰めてくる。
「な、なぁ……!!向こうの数が……多すぎるやろ…ウチらはたった六人やで?」
そんなロボット達の威圧感に思わず後ずさる茜。
しかしその足は、すぐに仲間の足に当たってしまった。「あっ」と振り返り、すぐに気づく。既に囲まれてしまっている為に、いつの間にか六人全員が背中合わせで警戒するしかない状況になってしまっていたのだ。
「こ、これってマズイ状況だよね。」
「ですね…侵入者は“殺せ”って言ってましたもん……」
ようやく命の危機を感じ始めた茜は構えをとり、あかり、葵も武器を出す。
「可哀想。でも攻撃手段も封じさせてもらうよー。」
生徒ロボットはそう言うと、手から鎖を射出して茜の脚を縛り付けてしまった。
「なっ!?」
「映像でバッチリ見させてもらったよー。ピンク髪のお前は蹴りが、そしてっ!」
そしてこれだけでは終わらないようで、続いてまた別の生徒ロボットが磁場のようなものを発生させると……
「くっ!」
「か、完璧に封じられちゃったね…」
不思議なことに、あかりのフックショット二つと葵の銃が引き寄せられ、奪い取られてしまった。
「白髪のお前はその武器二つ、青髪のお前は銃捌きが脅威的。だけどこれでもう三人完封!」
ここまで囲まれては、封じられては。
武装していたって幾ら身体能力が高くたって、銃・大砲・弓の扱いに長けていたって……意味が無い。
数の暴力を嫌という程味わうことになりそうだ。
「お、終わりや……ウチら…」
「──なあに諦めてるんですか、買っておいて正解でしたね。」
隣にいたあかりが、ロボットの集団には聞こえないように小さな声で語りかける。
その声を聞いて茜はコートの中──の、さらに奥の服の袖の中を指差す。何か物をつけているようだ。
「……“これ”のこと言うとる?」
「はい、火と合わせて今こそ使うべきですよ、奴らをまとめて火炙りにしてやりましょう。」
どうやらあかりは希望を失ってはいないようで、茜にとある物の使用を促し始めた。しかし、茜はそれを聞いても尚表情が明るくなる気配は無い。
「む、無理や……できひん……」
「ガソリンならさっき飲んだでしょう?まだ出せるはずですよ??」
表情が優れない理由は、恐れているからだった。
「ちゃう、ちゃうんよ……火は出せるで?
──せやけど、葵みたいにコイツらにも意思があるやろ?可哀想やん…」
茜は今までずっと妹と過ごして──すなわち、ロボットと過ごしてきた影響で、同じような人型のロボットを破壊する事を恐れている。
「い、言ってる場合ですか!
殺らなければやられるのはこっちですよ!!?」
その言葉を聞いても尚、体に力が入らない茜。
あかりはこの期に及んで何を言っているんだと焦り始める。
「っ、ウチは……」
「お姉ちゃん。」
そこに葵が声を掛けた。
今、姉の行動のストッパーになってしまっているのは自分の存在。そう理解しているからだ。
「あ、葵…」
「わたしは気にしないよ?
それにロボット壊すって言うなら、虫型ロボットだって一緒じゃん。
お姉ちゃんもう壊してるよ??」
「それは……」
「人の形してるから壊せないなんていうのは。
単なる“エゴ”だよ。人だってさ、自分が殺されそうになったら正当防衛で人を殺すでしょ??
それと何も変わらない。」
「──せやけど…」
「せやけど、じゃないよ。
お姉ちゃんは今ここで、自分の“エゴ”に殺されていいの?ほんとに??
言っとくけど、お姉ちゃんが死んだら私も死ぬからね。」
「い、嫌や!!死なんといてよ!!!」
「じゃあやっぱり、コイツら倒さないと。」
自分という手札を使って、最大限姉を奮い立たせた葵。
しかし一手、まだ一手決め手が足りない。茜は機関にいた頃からずっとずっと、“殺すこと”を恐れている。しかも今回の相手は、よりによってきりたんの学校の生徒──として動いているロボット達。故に、まだ決心が固まっていない。
「っウチは──」
「茜さん!いや、茜姉さま。」
今度はきりたんが声を掛ける。
「き、きりたん?!」
「わたしは同級生を友達と思ったことはありません、一回も。むしろ嫌いです、ええ嫌いです!何か策があるんでしょう?
思いっきり殺っちゃって構いません!!」
「何をコソコソ話している!お前らに勝ち筋など存在し得ないんだぞ!!」
きりたんの中ではもう、奴らは同じ学校の生徒などではなかった。自分と姉を自由になれないようにここに繋ぎ止める存在の一端。先生だって、恩人を──家族を不審者呼ばわりして、そして今殺そうとしてきている。
もう奴らはもう、明確な敵でしかないのだ。
その言葉を聞いて、茜はようやく決心する。
「……わかった、ええんやな!」
三人からの説得で今度こそ立ち上がる茜。どうやらようやく彼女にも希望の炎が灯ったようだ。頬をパシンと叩いて気合を入れると、コートをバサッと脱いで横の相棒に渡し、声を掛ける。
「あかりちゃん、これ持っといてくれへん??
燃えてもたら大変やから。」
「は、はい!!やる気になってくれたんですね!」
「せやせや──買って貰った“これ”使わせてもらうで?」
「やっちゃってください。
じゃあ皆さん、せーのっ……でしゃがんでくださいね」
背中を預けあっている至近距離の五人、この五人にしか聞こえない声量であかりは指示を飛ばした。
「起動は……オーケーやな。想像以上の風力や。」
「何をするかと思えば、小さな扇風機?そんなもので何を…」
「こっちはロボットだから寒くても意味無いよー??お前バカだよお。」
両手の袖に忍ばせていた物というのは、あかりと一緒に買った小型のミニファン──要するに携帯扇風機だった。ちなみに手に持つタイプではなく、何かを挟み込んで固定してから使用するタイプのものだ。
袖を挟んで腕に固定してあるこれを見て、奴らはパッと来ていないようだが……茜の能力を知っている葵とゆかりは、すぐに何をするか察した。
「ふふ、すっかり油断しちゃって。バカはそっちだよ、さようなら。」
「? なにを……」
茜の代わりに葵が反応を返す。いい笑みで。
これから起こる事を考えると、葵は自分がこちら側のロボットで良かったと……心底そう思った。
「いっせーっ──」
「「「「「のっ!!」」」」」
「っ!はあぁぁー!!!」
五人がしゃがんだ瞬間。
茜から放たれた炎は、それぞれ両手の袖に付いた小型の扇風機の風で放射状に広がり、炎の風となって奴らに襲いかかる。
「ぐ、ぁつ……やめろ!」
そういって茜の脚に巻きついている鎖を引っ張りあげる生徒ロボットだったが──
「しまっ!!ぁ……」
ザンネンながら抑止力にはならなかった。むしろ茜の体がぐるぐる回転し、炎の風はプロペラのような軌道で辺りを燃やしていく。
勢いは増すばかりだ。
「も、もうどうにでもなってまえー!!」
物が焼け焦げる時に嫌でも臭う焦げ臭さが、辺りに充満していく。
確かに燃やしているのがわかる。
自分が、燃やしているのがわかる。
滅茶苦茶な気持ちと吐き出したい衝動を抑え、ゆっくり目を開けると──すぐ近くでしゃがんでいた五人以外はやはり、見るも無惨な姿に変わっていた。
囲ってきていた奴らの服が、肌が。
体の至る所が溶け、機部が丸見えになっている。中途半端に焦げている者、人間の形を残してる者も居た。
その姿が茜の罪悪感をこれでもかと誘う。
これは自分がやってしまったんだ、と。
意識してしまった茜は、思わず腰を抜かしてしまい体が震えて動かなくなった。それに呼応するかのように、炎も消えてなくなる。
「は、はっ……やってもた…」
「よく頑張りましたね茜ちゃん──後はわたし達に任せてください、反撃開始ですっ!!」
ダメージを受け、立つのもやっとなロボット達を倒すように指示するゆかり。
「承りました!……あ、茜ちゃんコート返しますね。」
指示を聞いたあかりは茜にコートを返すと……それを皮切りに、まだ奪われていなかったビリビリガンを片手に敵の方へと向かっていく。そして容赦なく弱ったロボット達に、電気ショックを与え次々とダウンさせる。
それに続いてきりたんは反対方向を砲撃でまとめてズドン、ずん子もまた別の方角のロボット共をヘッドショットで射抜いて破壊。
葵も動けない茜を守る為、近付いてきた壊れかけロボットに近接戦闘を仕掛ける。どうやら彼女は遠距離だけには留まらず、近距離の心得もあるようだ。
マシンスペックはこちらの方が上なようで、向こうが弱ってるのもあるだろうがビシバシと蹴り倒している。
こうして各々が一丸となって、数の不利をあっという間に覆した。
「こんなバカな……こと、が…」
「消えなさい!きりたんから学校生活が楽しいって聞いたこと、一回も無かったんだよ!!」
担任教師を称してたロボットも、ずん子がクレームを入れながら頭を射抜いて仕留めることで機能を停止。
「ありえないよう…ぐぎっ……ぃ…」
「……もしあなたとわたしが友達だったら…
いや、よしましょう。上辺だけの関係だったからこそ、この決断を下せるんですから。」
最後まで残っていた、生徒を称してた一体も……きりたんによって直々に葬られた。
そうして茜がまた立てるようになった頃には、戦いは既に終わっていて……子供達に扮していたもの──今はもう無力になった、あちこちに無造作に散らばっているスクラップ達に囲まれながらも、なんとか生き残った六人は一息ついて話し始めた。
「やったね皆!でもまさか、きりたんの学校の人が全員ロボットだったなんて…ビックリしたぁ……」
「ミニファン買っておいて正解でしたね。
(まぁ、フックショットは敵と一緒に燃えちゃいましたけど。)」
「せやけど──なぁきりたん。ウチはきりたんの担任教師を、生徒の人達を…」
「別に、名前覚えてるかすら怪しい人達ですよ?
悲しくありませんってば。というか……トドメ刺したのわたしですし。」
罪悪感でいっぱいの茜を、元気付けるきりたん。その顔に後悔の色は少しも見えない。
むしろスッキリした様子。
「無理に強がって──る訳じゃないみたいだね。
(まぁ、愛用してた銃が燃えちゃったから私はちょっと強がってるけど。)」
「ほんまなんやな……?」
「はい。“ほんま”ですよ、茜姉さま!」
元気づけられて多少はテンションが戻ってきたようだ。しかしその一方で、表情が晴れない者もいる。
「あの、ちょっといいですか?」
ゆかりだ。
リーダーたる彼女は指示を出した後に余裕があったので、他の者よりも先のことを考えていたのだ。目先の敵を倒しただけで安心してはならないと警鈴を鳴らす。
「少し急いだ方がいいかもしれませんよ。あのロボット共にわたし達が襲撃されたということは、向こうにも…」
「……つまり、イタコさんの方も危ないかも、と?」
「そ、そうかも!!行こう、イタコ姉さまが無事か心配になってきちゃった。」
それに同調したずん子によって、スクラップの囲いを脱っしたゆかり達の移動は、ますます早まるのだった。
目指すは……イタコの住む神社だ。
・学校の担任、生徒(に扮したロボット)達
東北姉妹を、身近な存在に扮することでずっと観察していたロボット達。人に扮するのは、昔の日本のような世界観を壊さない為でもあるらしい。
メンバーは担任先生の役のロボット、他には1〜6年の生徒役のロボットが沢山いた。
生徒ロボット達は各々、侵入者を排除する為に体から武器を展開することができる。その見た目は場合によってはちょっとグロテスク(中には顔から武器が現れる個体も)。
背が低い低学年のロボットほど、大きい武器を展開して変形後の学年ごとのリーチ差を無くすように作られていたが……むしろ大きさを合わせてしまったせいで、本編では茜によってまとめて燃やされ、大損害を受けてしまう事に。
ちなみに28話できりたんに「数ヶ月見てない奴もいるかも」と気にされていた通り、元々別の件で少し生徒ロボットの総数が減っていたようだ。