そんな経験、ありませんか?
駆け足で進む。
姉──タコ姉さまの安否が心配だから。
わたし達に襲いかかって来たロボット共のような魔の手が、タコねえ様の方にも迫っているかもしれないから。
……正直、あのロボット共を破壊した事に後悔がないと言えば嘘になる。でも、殺らなきゃわたしの家族が殺られる所だったから仕方ない。
そう割り切れるくらいには、小さい後悔。
精神は安定しているはず。今心臓がバクバクしているのも、きっと走ってるのが原因だ。
「……姉さまはきっと無事だよね??」
「あ、当たり前じゃないですか!!
近所の人のお化け関係の悩み事を一日中聞く、なんて無茶なことした日も元気そうにしてた、あのタコ姉さまですよ?」
タコ姉さま──東北イタコは立派な人だ。
今は家から少し離れた神社で巫女として働いている。それも、ただの巫女ではなくお化け…というか、死んだ人の幽霊を呼び寄せて、死者との会話を可能にするお仕事をしているらしい。東北家の長女なのもあって、まだ家に居た頃はわたしもずん姉さまもすごく頼りにしていた。
おまけに学校だって首席で卒業したって聞いてるし。
そんな尊敬できる強い姉だから、きっと大丈夫。
「…そうだよね、むしろ霊の力を借りてロボット共を追い返してるかも!!」
「えぇ、そうに違いありません!」
「ちょっと待ってください、さっき……近所の人って言いました??」
駆け足についてこられず、またしてもお姫様抱っこされていてイマイチ格好つかないゆかりさん。
わたしの言葉に、何か引っかかることがある様子。
「言いましたけど、それが何か…?」
「…これはあくまで推測ですよ?なのでどうか、落ち着いて聞いてくださいね。」
「っ……」
心臓がさっきよりうるさい。
横を見ればずん姉さまも、何か察した様子。
「近所の人達も、ロボットの可能性があります。」
「そ、そんな……!!」
「…やっぱりそうなりますか…。」
ずん姉さまが口を抑えてショックを受けている。
当然だ。家族以外に興味が殆ど無いわたしでもあれだけショックを受けたのに、ご近所付き合いとかも普通にしていたずん姉さまのショックは……一体どれほどのものだろうか。
「あくまで可能性ですからね??
でも、仮にそうなら。きりたんの学校の人達以上の数のロボットが、こちらに来ることだってありえます。」
「ひぇぇ……わたし達、向かい撃てますかね?」
ロボットを殺ることに抵抗がある様子だった茜姉さまには、あまり無理はさせられない。相手が相手なので、ずん姉さまも同様だ。
かといって他のメンバーに頼れるかと言えば……それも難しい。ゆかり姉さまは頭脳担当のようだし、武器を奪われてしまった葵姉さまやあかり姉さまも次の戦いは厳しいものになってしまいそうだ。
ここはわたしが。
わたしがやらなきゃ。
「──もしそうなら、わたしが頑張りますから。」
「……最年少の妹に無理をさせる姉はいないでしょう?ここは頼りになる“援軍”を呼びます!!」
援軍??
助けてくれる人達がいるのだろうか。
「ゆかりさん、そんな人いるの??私達以外にここに来てるメンバーはいないはずだよね?」
葵姉さまも同様の疑問を持ったようで、不思議そうな顔をして早速質問していた。一方質問されたゆかり姉さまはというと、得意げな表情で石版のようなものを光らせ…ってこれは!!!
「ゲーム機ですか?!まさかゲームの中から援軍を…」
「いえ、違います。スマホっていうものです。」
「ぷふっ……けほっけほっ!」
ザンネンながら違ったらしい。
しょぼん。っていうか今、気の所為じゃなければ誰かに笑われたんですが!!途中で咳みたいにして誤魔化してきたって、こういうのは分かっちゃいますからね。
「それでですね、一人だけ……とは言えませんね。
一台だけ!援軍を呼べます、一台なので“軍”とは呼べないかもしれませんが。」
「もしかしてキャンピン──待って、なにあれ。」
そういって話を中断してまで葵姉さまが指差した先を見ると、機部が露出したロボットが倒れていた。
最も、バチバチと音を立てて倒れている様子を見てる感じ、どうやらもう壊されているようで動く心配は無さそうだけれど。
「……近所の田中さんだ。やっぱりロボットだったんだ。」
「ゆかりさんの推測は当たってたんやな……」
にしても、なんで壊されているんだろうか。
ずん姉さまがさっき言ってたみたいに、もしや本当にタコ姉さまが返り討ちにしたんじゃ…
「ずんちゃん、それにきりちゃん。
来ると思ってましたわ。」
考察している最中、丁度脳裏に浮かび上がっていた人物の声が頭上から確かに聞こえてきた。
東北家の長女の声だ!わたしの姉の声だ!!
聞くと不思議と安心して頼りたくなる、大人っぽいあの声だ!!!
「タ、タコ姉さま!?無事だったんですね!」
「姉さま??何処にいるの?」
「ここですわ。」
声がする方を向いてみれば……器用なことに、背の高い木の上に綺麗に立っているシルエットが見えた。
そのシルエットは月光がバックになっているお陰ではっきりとわかる、狐耳を生やした女性の姿をしていて。
おまけに後ろには尻尾を沢山生やしていた。
これはもう、タコ姉さま確定演出だ。
無事だったのを確認してホッとする。
「何でそんなとこにいるんですかー?降りてきてくださいよー!!」
「別にここからでも話はできますわ。
今このタイミングでここに来たということは、近所の皆様は誰も彼もロボットだった……
ということは理解していますわね?」
コチラに降りてこないで、話を続けるタコ姉さま。
「はい!それでタコ姉さまが心配になって、急いでここまで来たんです。」
「なるほど。ビックリしちゃうかもしれないけれど…
アタシは以前からそれに気付いていましたわ。
一人暮らししていたのは仕事よりも…誰にもバレないようにロボットの数を減らしていたから、ですわ。」
衝撃の事実だ。
わたし達よりも前に人間のフリをしたロボット達のことを分かっていたらしい。……あ、だから最近やたらキッズ共の数が減っていたのか。
きっとタコ姉さまがロボットの数を減らしてくれていたという中に、キッズ共も含まれていたのだろう。
「できれば何も知らずに日常を過ごしてほしかったのだけど、もう知ってるなら仕方ありませんわね。」
「あ、そいえば姉さま!!
私達を助けてくれた、家族になろうって四人組がいるの。
姉さまも降りてきて、一緒に…」
ずん姉さまが新しい家族になる四人を紹介しようとした矢先…
「その前に!!まだロボットが残っていますわ。」
衝撃的な台詞で言葉を止められてしまった。
どうやらまだロボット共が近くにいるらしい。しかし警戒して辺りを見回してみるも、そのような影は一つたりとも見当たらない。
「ロボットってどこに…」
「妹達は欺けても、アタシの目は誤魔化せないですわよ??
青色の髪の貴女。」
「え。葵姉さまのこと、ですか??…え?」
──そんな、葵姉さまもロボットだなんて。
そんなはずはない。
「普段人間の魂を呼び寄せる仕事をしてるからわかりますの……
その青色の髪の人からは、“生気”を感じられない。」
今日出会った新しい家族のメンバーの中でも、一番仲良くなれた。同志だと思った。
だから何かの間違いに決まってる…だというのに。
「あーあ、ややこしい事になっちゃった……こうなるの嫌だから言わないでおいたのに。」
どうして、どうして否定しないんですか…?
わからない。
あの優しくて、凄く気の合う葵姉さまが。
ロボット…??
わたし達を襲ってきた、でかい虫達と同じモノ?人間のフリをしてわたし達を欺き、終いには家族を殺ろうとしてきた奴等と同じモノ?
──嘘、ですよね???
「葵姉さま、否定してください!
違うって、今すぐ。お願いですから!!」
あの葵姉さまだから。
気が合って、妹キャラ同士で、僅かな時間でもあっという間に仲良くなった。普段信用なんてしないわたしが、信用できた人間だから。これから家族になる存在なんだから。
きっと違う。信じてる。お願いだから…
でも、そんなわたしの思いは届かず。
「イタコさんの言ってることは本当だよ、きりたん。」
困ったような笑みを浮かべながら葵姉さまは、あっさりと肯定してしまった。
「ち、違う!!そんなはずは…」
「私と握手した時さ、覚えてる??」
握手した時──話の分かりそうな人と思って、同志だと確信して、固い握手を交わした初対面の時だ。
……そういえば、すごく手が冷たかった。
あの時はあまり考えず冷え性なのかなって思ったけど、今思い返すとそれは。
「──きりたん、どうだったの?」
「…熱が通ってなかった…ほんとに人間じゃ、ないんですか……??」
学校の先生が、キッズ共がロボットだと知ったあの瞬間。あれよりもずっとずっと辛く、重く、苦しく感じるこの事実。
言葉が、出ない……。
「ま、待って!!葵は悪いロボットやないんや!
人にだって、良い人間と悪い人間がおるやろ??
せやからそれと同じで、葵は良い側で…」
「いいえ、ロボットはロボットですわ!
きりちゃん!騙されてはいけませんわ!!」
どっちを信じればいいのか、分からなくなってきた。
頭がおかしくなりそう。目頭もなんだかジワジワ熱くなってきた。
わたしは…わたしは……
・東北イタコ
狐耳、沢山のしっぽ、大人っぽい声が特徴の東北家の長女。
死者の霊を呼び寄せる能力を持つ。
仕事の為といい家を出て、神社に引っ越したが……実はそれは能力の副産物で“生気”を強く感じるようになった影響で、家族以外の周りの人間がロボットだと気づいてしまったから。
引っ越してからは誰にもバレれないように、家族の自由の妨げとなるロボットへの破壊活動を、一人孤独に繰り返していた。
能力で呼び寄せた霊は……会話をするだけに留まらず、なんと死者なのに物理的な干渉が可能。
心霊現象とかと同じ類の干渉らしい。