海に近い町特有の磯の香り、アレ結構好き嫌い分かれますよね。
四十一話『次に向かうは海の先』
「運転お疲れ様やでーゆかりさん!」
ここは、とある港町の一角。
市場では魚のたたき売りが行われていることからも、海に近いことが分かる。駐車場には観光客の物と思しき車や、現地の人間が買い出しするために来たであろう車でギッシリ。なのだが、その中に……1台、やたらボロっちいキャンピングカーが止まっていた。
しかしそのボロっちい外観とは裏腹に、中に乗ってるのは若い女性4人──しかも揃いも揃って髪色の癖が強い。
そう、ゆかり一行である。
家族を救い出すために、遥々やって来ていた。
「どうもです!!では、早速やりますよ。
降りる前に“ディシーブ・ペンダント”起動!!」
「髪の色変える便利な首飾りの事やな??」
「これそんな名前なんだ?ぽちっと──」
すっかり改造も終え人工肌で覆われて、一見すると人間の物と遜色無くなったその手で、葵はペンダントトップを押した。すると、その動作に呼応するように髪色が変化していく。
続いて3人も同じ動作を行う。
「起動完了かな??にしてもこれほんと便利だね。」
「せやな〜ウィッグの手間がないんは楽やわ。」
「……わぁ、ほんとに髪の色が!!」
「そういえばあかりちゃんは初めてでしたね。」
こうして僅か数秒にして、あっという間に全員の髪が無彩色の控え目なものへと。勿論無彩色と言っても白とそれに近しい色だけは含まれず、それぞれ日本で外を出歩いても不自然ではない髪色へと変化を遂げた。
「便利なものでしょう??
こんな物がなんと低コストで量産できちゃうんですよ。更に使用可能時間は24時間とバッテリーも長持ち。電池交換タイプではなく充電式ですから、家計にも優しいですし。まずこの技術を世間に発表すれば歴史にわたしの名前が──」
「さ、さっすがゆかりさん!天才ですよ!」
「っそうでしょうそうでしょう!」
ゆかりのドヤ顔解説をあかりがベタ褒めで制すと、車から降りた4人は早速目的地──港町から海を挟んだ先にある孤島を目指して歩いていく。
「島の近くの港町に来たのはいいけど…
ここからどうやって海を渡るつもりなの?そもそも島に行くのが禁止されてるなら、定期船とかはないわけじゃん??」
島へ行く手段。
ヘリという手段も考えられたがその線は直ぐに消えた。元々あれは機関の物であるのに加えて、製造番号までしっかりとついている。なので失踪した時、そのヘリもしっかりと無くなったことが機関側にも知れ渡っている訳で…。
もしそんなもので飛び回ったとして──バレて通報でもされれば、面倒臭いことになって家族の救出どころではなくなるのは確かだ。
「定期船は無くとも、わたしには算段があります。」
なので、ゆかりは別の手段を考えてきていた。
4人の中でもゆかりの足取りは普段の様子とは打って変わって、頼り甲斐のあるリーダーたるものに。まるで今から決戦!!とでも言いたげな、勇気を感じる足取りだ。キャリーケースを握る片手も、どこか力が入ってるように思える。
それに対してまだ目的地への明確な行き方すら把握してない他3人は、やや困惑気味な足取り。
その様子は傍から見れば、例えるなら親鴨の後を訳も分からずついて行く小鴨三匹──そんな4人を見る周囲の一般人達の目は、どこか暖かい。
旅行に来た学生とでも思われているのだろう。
「きっとゆかり号を使って行くんやないか??
ほら葵も前見たやろ、ショッピングカートが低く浮いとったやつ!きっとあんな機能がゆかり号にも…」
「あーあれね。でもないんでしょ?ゆかりさん。」
「そんな機能はないですね。そもそもアレ──
茜ちゃんの言ってるタイプのものは床を全面特殊な磁石にする事で、ショッピングカートの素材と反発させて……それで初めて浮かせることが可能になって成立する仕組みなんですよ。」
否定の言葉を聞いて項垂れる茜。
どうやら想像していたような技術の一端とは少し違うものだったようで、ショックを受けている様子。表情がショボンとなってしまった。その悲しみを妹に
「……無念や…ほな、何で行くつもりなん?」
「覚悟が要ります、とびっきり強い覚悟が。」
「なんやゆかりさん、顔が怖いで??」
「ナニで行くかはもう時期わかりますよ。」
話の中で出てきた“覚悟”というワードを聞き段々嫌な予感がしてきたのか、ちょっと露骨に嫌そうな顔をし始めた。
何故なら彼女は、過去にあかりにも『覚悟が必要です』やら『命を懸けるような覚悟、その覚悟がありますか?』等とやたら覚悟を問われており、またあの時のように思い切った決断をしなくてはならないのかと精神が削れ始めているからだ。
茜はそんな過去を思い出していると、改めてひとつの共通点に気付く。2人の喋り方がそっくりなのは知っていたが──
「っていうかほんま、ゆかりさんとあかりちゃんって話し方だけやなくて言葉選びまで似とるんやなぁ。」
「たしかに。文章だけでやり取りしたらどっちがどっちだかわからないかもね。」
言動だけに限定すれば、下手したら姉妹の自分達よりこの2人は似ている部分が多いんじゃないかとまで思っている。
「……まあ、ゆかりさんはわたしの育て親みたいなものですし。」
「移って自然と、ですね──さぁ着きましたよ!!」
そんな会話をしているうちに港町の端っこ──つまり、船着場まで。結局どうやって行くかは明かされず、この場へと辿り着いてしまった。
謎の覚悟を決めて船へと近づくゆかりを除いた3人は、同じ予感を抱えてるのかコソコソ話す。
「ねえ、もしかしてだけどあの様子……船盗むつもり?」
「まさか…ゆかりさんに限ってそんなこと…」
「あるわけ……ないはず…やと思うで??」
「ターゲットは覇気がなく、死んだ魚の目をしていて見るからに仕事に情熱がなさそうな人。」
ボヤきながらも、時間帯のせいか人影がそこまで見つからない船着場を見渡すゆかり。
何をする気かと皆が見守っている中、彼女は船を整備している現地の人間の肩をポンポンして声を掛けると……衝撃の発言をした。
「あの。すいません、この船ください。」
「「「???」」」
◆❖◇◇❖◆
結論から言うと、ゆかりの財布が軽くなった。
正確には軽くなったのはキャリーケースだが……兎にも角にも、無事島への切符は確保できたと言っていいだろう。
「何度見ても、やっぱり偽札じゃねぇな…?お嬢ちゃんは一体こんな大量の札束どこから…」
「おっと、無駄な詮索は無しですよ??
言い値で買ってあげたんですから。それだけあれば一生困らないんじゃないですか??」
「……こっちも貰うもん貰ったし、文句はねぇが…
一つだけ言わせてくれ。もしもあの島に行くつもりならやめときな。」
しかし、そこへ待ったが掛かった。
とはいえなにがなんでも4人は島に行くつもりだが。どうせ向かうことに変わりはないので、その話を適当に受け流そうとするが…
「それはどうしてですか??」
「…鬼が出るって噂だ……だから禁止区域になる以前から誰も立ち寄らねぇんだよ、あそこは。」
鬼が出るというその噂、これはスルーできない。
誰かが息を飲む音が聞こえた。もしかしたら今回の旅は──いや、今回の旅も大変なものになるかもしれない。
「お、鬼……??」
「怖気付いたか??ならそれで正解だ。
あの海域は魚も多いがそもそも恐れて誰も近寄らねぇ。そういう場所だ──じゃあな、金持ちのお嬢ちゃん達。」
そういって、ついさっきまで船の持ち主であり漁師だった──今はなんでもない、ただの男は札束をギシギシに荷物に詰めると、大事そうに抱えて去っていった。
「…い、いやー見ました?大人買いした姿を!
どうですか??余裕が見えましたか??
わたしカッコよかったんじゃないですか??」
さて、無事確保出来た島へ行く手段。
しかしそれは金にものを言わせたとんだゴリ押しであった。その結果にゆかりを除いた全員がなんとも言えない顔をしている。なんせ、頭脳派の彼女ならもっと別のやり方をすると思っていたからだ。
「うん、盗みじゃなくて一安心ってとこ。」
「そこまで人の心捨ててませんよ?!」
人の心とお金を天秤にかけたゆかりであったが、さすがに人の心が勝ったらしい。
最も、覚悟の元払ったお金はとんでもない額だが。
「なんやー、覚悟ってゆかりさんのお財布事情のことやったんやな。でもこんな使って平気なん?」
「……あの、機関で働いてた頃のお給料…
結構使うペース早くないですか?これから先大丈夫でしょうか??わたしこれから先心配で…」
手段を確保したのはいいものの、やはり出費も馬鹿にならない。すごい金使いの荒らさにとびっきりの覚悟を感じた茜、そしてこれから先を危惧するあかり。
今後が心配なのは皆一緒だった。
「あ、あかりちゃん!
それは禁句というものです!!」
「お金……お金かー…そいえばお姉ちゃん。
私達のチャンネルって、確かあのままだったよね?振込み先をゆかりさんにすれば…」
「あ、せやな。収益化もまだ続いとるやろし…!」
だが割と何とかなりそうだ。
幸いにも琴葉姉妹のチャンネルはあの時から変わらず存在し続けており、オマケに収益化までバッチリ。パスワードは葵が知っているので、ログインなら別端末からいつでもできる。
すっかり忘れていたチャンネルの存在であったが、これから役に立ちそうだ。
「ほ、ホントですか……でもいいんです??
2人の稼ぎをわたしに振り込むなんて、ちょっと…申し訳ないと言いますか……」
琴葉姉妹を保護した当時は、まさか稼ぎを讓渡してもらってこちらが介される側に回るとは夢にも思わなかっただろう。
自分は介する側であるという認識と、稼ぎを貰うという事実から思わず遠慮するゆかりであったが…。
「家族の稼ぎは家族に行くもんやろ??」
「そういうこと。あとリーダーだからって変に見栄張らなくていいからね?ゆかりさん。」
しかし、家族は本来支え合って生きるもの。
彼女はそれを少し忘れていたのかもしれない。
「あ、茜ちゃん……葵ちゃん…!!」
「よかったですね、ゆかりさん!」
今後への不安も無くなり、島へ行く手段もあって。
唯一恐れることがあるとすれば……
「はい!!船の動作テストは終えてますし、これでいつでも…」
「──ねぇ、鬼が出る噂って本当なのかな??」
鬼の噂だけが恐れる要素と言っていいだろう。
でもきっと……今まで黒い化け物やロボット軍団、はたまた触手の寄生体まで様々な強敵達と出会ってきたこの4人の敵では無いはずだ。
「でも仮に居るとして、行くのやめますか??」
「やめるわけないやろ?」
「ダヨネー。それじゃあ出港しちゃおっか。」
船に乗りかかった瞬間、僅かに船体が揺らぐ。
そのことに若干の不安を感じながらも、船ってそんなものかと思い直す一同。やはり心のどこかでまだ鬼の噂に恐れを感じているのだろうか??少しのことで不安を感じてしまった様子。
そんな気持ちを和らげるため、茜は別の話題を出す。
「そ、そいえば船の名前はどうするん??」
「…あかり号とかどうですか?」
「おーええなー、ほな、あかり号出港してまう?」
「はい!!あかり号出港〜!!!」
「船買ったのわたしですけど!?
というか、ゆかり号と丸かぶりなんですが!?!」
というわけで船改め、あかり号(?)は島へと進み始めるのだった。立ち入り禁止禁止区域でありながら、鬼の噂まであるその島へと…。
・ディシーブペンダント
髪色を自在に変化させられる魔法のような装置。
かなり小型の装置なので持ち歩きやすく、その外観もペンダントそのもので違和感もほとんど見受けられない。4人は揃いも揃って髪色が目立つ容姿なので、もはやこれは必須級のアイテムだ。
ゆかり一行の中でのウィッグのシェアを奪った。
ちなみに試作品はペンダントトップ以外は安っぽい首掛け紐だったものの、完成品は浮いたコストのお陰で無事チェーンに変更となり元の予定より見た目が華やかになったらしい。
※前話〜今話の文脈を修正しました。物語の展開自体に変更点はありません。