別に今まで更新停止してたのは、この回を二人の誕生日に合わせたいから……とかそういうわけじゃないですよ?ほんとですよ??
夜の航海というのは割と危険なもの。
出港を明日の早朝に回しても良かったのだが、それでも決行したのは立ち入り禁止区域の島に入る為に、目立たないようにする必要があるからだ。
他に誰も適任者が居ないので自然と船の操縦士を任されたわたしは、船から放たれる明かり以外ほぼ真っ暗な海に少し心細くなりながらも、着実に船を進ませていく。
そんな時、やや取り付けの悪い操舵室の扉がギィッと開かれた。
船の操縦に集中しながらも、その少々不気味にも思える音の方角へと意識を向けてみると。
「どうでした?外は⋯⋯」
「はい、綺麗な月と星空でしたよ!」
その不気味な音とは裏腹に入ってきたのは、可愛い家族のうちの一人でありわたしの相棒の──
「よかったですねあかりちゃん。
操舵室からだと真上まで見渡せませんし、わたしの分まで外で星空を楽しんできてくださいな?」
入ってきた彼女の話を聞けば、周りに街頭一つ存在しえない海での船上なのもあって、とても綺麗な星空だったそうで。嬉しそうな相棒の声にこちらまで少しテンションが上がりながらも、操縦に意識を向け直す。
「まーまーそう言わずに……ほら、スマホで撮ってきましたからゆかりさんも見てくださいよ!!」
「おぉ、これはどうも。」
嬉しそうに「見てください見てください!」と子犬のように駆け寄って来たあかりちゃんによってわたしの視界に入れられた、スマートフォンの画面に映し出されている絶景を見てみると……その写真に対して、なぜだか感動よりも先にセンチメンタルな気分になってしまった。
これは──綺麗な月を見て、あの人のことを思い出したからか。
「どうですか?いつもの山からでも、ここまで綺麗には見えなかったと思うんですけど!!」
家族の一員ではなく、友達として関わることになったあの人……今は何をしているんだろうか。もっとも、わたしはあの事件のこともあってもう合わせる顔がないから、知る由もないが。
もう二度と「ゆかりん」って笑顔でこちらを呼んでくるあの人は──見られないんでしょうね。
思えば事件の日もこんな綺麗な月と星空だった。
今でもたまに夢に出る。仲良くなって、信頼してもらって、あの人に家族を任されるまで至ったのに……1人、家族を失ってしまった事。
おまけに自分の能力まで失ったのも。
もう二度とあんな事がないように、危険があるかもしれない場所へ子供を連れていくのは極力控えているが。
それでも、また誰かを失わない保証はどこにもない。
そもそも子供でなくとも、いつ誰が、どんな危険に晒されるかなんて…
「……あれ?ゆかりさん??」
「──え、えぇ。」
いけない、返事が遅れてしまった。
不思議そうな顔をしてこちらの表情を伺ってきたあかりちゃんに、急いで相槌を打つ。
「そうですね。ほんとに綺麗な月で…」
「嫌なこと、思い出させちゃいましたか?」
「…わかるんですか……。」
せっかくあかりちゃんが写真を見せてくれたというのに、それを見て暗い感情を抱えてしまったのがバレていたようで。
「時々見せますよね、その顔。一体何を思い出してるんですか??」
「……あかりちゃんと会う前の…」
「会う前の?」
「わたしの、ちょっとした後悔です。」
あかりちゃんの前ではこれでも頼りになる存在で居たいから、なるべく暗い部分は隠し通すつもりではあったが。やはり少しでも思い出すと、顔に出るものらしい。
心配をかけてしまったかもしれない。
急いで誤魔化す。
「なので、気にしないでくだ…」
「っゆかりさん!!」
「あ、あかりちゃん?」
──途端に、後ろからハグされた。
何故こんなことをされたか分からないと同時に、押し寄せてくる安心感。あかりちゃんの暖かさが、わたしの身を包み込む。
「何があったか言いたくないなら聞きません!
でも、でもゆかりさんの過去に何があったとしても、いつだって力になりますから、隣に居ますから!!」
「あかりちゃん……」
「だからその悲しそうな顔、やめてくださいよ…」
「っそうですね、わたしらしくなかったです。」
どうやら、逆に向こうに気遣われてしまったようで。
相当思い詰めた顔をしていたようだ。申し訳なくなると同時に、元気を分けて貰った気がする。
そういえば、あかりちゃんが隣に居てくれる時は決まってこうだった。
例の事件から落ち込む一方だったわたしは、あかりちゃんと出会ってからどんどん変わっていったように思う。
元気づけられてからは家族探しを再開して、辛い時も寂しい時も彼女の底抜けの明るさにずっと支えてもらいながら、機関で家族の情報を探る日々。
そして機関を脱してからは琴葉姉妹に東北三姉妹と、徐々にVOICEROIDの家族が増えて、結果が実ってきた。
それはいつも隣に居てくれた、あかりちゃんのおかげに他ならない。
今回だってそう、また元気を貰っている。
「ただ、ずっと知らないままというのは嫌です!
いつか好きなタイミングで、ゆかりさんの口からお話してくださいね??」
「……はい!その時は、必ず。」
そこからは、いつもの調子に戻った。
「で、いつまでハグしてるんですか?」と状況を茶化して、あかりちゃんを照れさせて遊んだり。
外に居る
家に待機させてるきりたん達は今どうしてるかとか、目的地の島はどんな場所かとか予想しあって話したり。
「あはは、どんな事が待ち受けてるにしろ、きっと大丈夫ですよ!!」
「あかりちゃんが言うならそうかもしれませんね。」
そうだ、今はあかりちゃんが隣で支えてくれる。
だから……もう少し頑張ってみようと思う。頑張って今よりもっともっと家族を集めて、そうしていつか顔向けできるようになったら。
家族としてではなく友達として関わるようになったあの人とも、いずれまた話せるようになるかもしれません。
「なんか、ありがとうございますね。」
「???」
「これからもその、よろしくお願いします!」
「な、なんですか改まって……変なゆかりさん。」
この子がわたしをリーダーたるものにしてくれている。そのことを今日、改めて実感した。
「じゃあえっと、こっちからも……これからもよろしくお願いしますね!!ゆかりさん!」
「うへへ〜可愛いんですから。」
「ふ、船の操縦に集中してください!!」
◆❖◇◇❖◆
一方その頃、船外の胴の間では……
「ねぇお姉ちゃん、船内の会話丸聞こえだね。」
「シーッ!…にしても、ゆかりさんの過去に何があったんやろ……」
「なんならあかりちゃんの過去もよくわかってないよね、私達。」
「いつか、ウチらにも話してくれるとええなぁ。」
「ダヨネー。」
そうして姉妹は、背中合わせで綺麗な月と星空を眺め続ける。
船内の2人の会話を、小耳に挟みながら。
・結月ゆかり③
どうやら過去に大きな事件があったようで、その際に家族を1人失ったことに加え、おまけに能力も失ってしまったらしい。
その事件が理由で、“あの人”こと大切な友達に会えずにいる。しかしあかりの支えもあり、順調に家族を見つけて増やしている今。
また友達と再会する時も、刻一刻と近づいてきているのかもしれない。
彼女が己の過去としっかり向き合うのは、もう少し先のお話。
・紲星あかり③
ゆかりを支えることに定評のある彼女だが、本人からすると、それが自分の存在意義だと考えているような節がある(26話)ので当たり前のことをしただけ。
可愛いと言われて、満更でも無い様子。
・あの人
ゆかりのことを「ゆかりん」と呼んだり、「ギュンギュンといえば〜」で記憶の片隅から出てきた(37話)りする他、月で連想するような黄色のイメージカラーをしている。
一体何者なんだ……?
簡単に会える環境に居ないことに加え、現在家族ではなく友達とのことなので登場はもうしばらく先。
ちなみにゆかり家の扉の上にある「ゆかりん♡ハウス」の看板(21話)を設置したのもこの人。