起きたら茜ちゃん!   作:丹碧のブルーメ

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多分おそらくきっと、後編も近いうちに上がると思います!


四十四話『波が届ける非日常・前編』

時は、船が壊されてからしばらく。

琴葉姉妹が本来行く予定だった島に飛ばされた一方で、ゆかりとあかりはもうひとつの島──武装島と呼んでいた場所へと流されていた。波に揺られ、感じる冷たさと暗い視界に絶望を覚えながらも……お互いの存在のおかげである程度精神は安定している。しかしその先行きはやはり不安だ。

 

「ぁ、は、はっくしゅん!…困りましたね。」

 

くしゃみをしながらも必死に思考を張り巡らすが、やはり今はただこうして砲撃によってただの漂流物となった元船にしがみつくしかない。そのままこの不自然な海流に流され続けるしかないのだろうとすぐに諦める。

海上で人間がやれる事は少ない。

 

「ですね……というかあかりちゃん、風邪治ったばっかりなのにまたこんな風邪引きそうなことに…」

「仕方ないです。それより気になるのは──」

 

あかりが見る先、それは今まさに流されている先だ。

不自然な海流によって誘導されるように流されている時点で妙な話だが、なにより気になるのはその島の外見。幸い武装で固められていたり、窓らしき場所から光が漏れ出していて光源も多かったので、近づくにつれてこの島のシルエットがこの暗い真夜中でもはっきりと伝わってきた。

武装されていることばかり気にしていたが、こうして近くでじっくり見ているとこれはまるで……2人は顔を見合わせて、思った言葉を口にする。

 

「思ったんですけどこの島、生き物の…」

「「──顔面??」」

「っぽい、形ですよね。」

 

人工的なものなのは確定として、それ以上に顔面を象った形のビルのようになっていることに気づいた。

意識し始めると、なんだかゾッとする。

 

改めてこの武装島を生物の顔に見立てて見てみると……まるで大口を開けて水を吸い込んでいるように映るし、おまけに自分達が流されている先はその“口の中”にあたる部分。

巨大な生き物に海水ごと飲み込まれるような気分だ。

 

そういう形なだけ、と片付けることも出来るがとても偶然とは思えず。今は停止しているものの、船で逃げていた時は間違いなくこの島自体が動いていたし。奥はただの洞窟なのだろうが、深くまでは見えずその一寸先の闇は不気味なまでに真っ暗だ。

武装島と表しただけあって、壁等の他の部分は光ってるところも多いのに。口の中に該当する場所だけはやはり何も見えず。

 

 

これではまるで流されているのではなく、そこに吸い込まれているような。

ありえないと思いたいけれど。

 

もしかしなくてもコレは生きているのではないか??自分達は今からコレ……いや、コイツに“食べられてしまう”のではないか??

そう頭によぎった。

 

「──っ!」

 

嫌な予感がしたあかりは、勢いよく……とは行かないものの、パーカーの内側から新調したフックショットを取り出す。葵の銃とは違って、フックショットは機関でもよく使われていた支給品。ようするに替えがきくので、失っても直ぐに新調出来たのだ。

といってももう機関には属していない身。故にストックは限られるが、便利なものなので勿体ないから持って来ないという選択肢はなかった。

 

「っゆかりさん!!あそこに流される前に壁に移ります、掴まっててください!」

「え、でもそれは…」

「いいから早くしてください!!」

 

取り越し苦労に終わればそれでいい。

あかりはそう思いながら自分にゆかりが掴まったのを確認すると、思いっきりフックショットの引き金を壁に目掛けて引いた。

 

硬そうな壁にも関わらず発射された鎖付きの刃はしっかりとくい込み、壁に刺し使用者達を引き寄せていく。重さが二人分な上に服も海水を吸っているからか、その引っ張りにはやや勢いが足りないものの……なんとか島の壁に移動する。

引っ張りにも次第にスピードが出始めた。無事壁にまでたどり着けそうだ。

 

「っぐ……!」

 

しかし二人分+海水を吸った服というのはやはり思った以上の重さだったようで、引っ張られる勢いのままに壁に足をつけたあかりに結構な痛みが襲いかかった。

その綺麗な顔が痛みに染まる。

 

「だ、大丈夫ですかあかりちゃん?

これは予想できたでしょう…??どうしてここまでして、あの洞窟を避けたんですか…」

「単純に、嫌な予感がしたから…ですよ。」

 

会話をしながらもう一方のフックショットを射出、再び壁に刃を突き刺し鎖で身を引き寄せて。刺して登って刺して登って……そんな工程を繰り返しながら、高さのある島の壁を昇っていく。

壁を登る感触はかつて潜入等でビルを昇っていた時と変わらない。これはやはり、この島が人工的なものであると確信できる要素でもあった。

 

「──それに、やっぱり登ってよかったみたいです。無人ですよ!ほら。」

「これは…」

 

完全に上にまで辿り着くと、2人の目の前には誰もいない屋上が広がっていた。

壁を登っているうちに時間も早朝に入ったのか、しっかり目視できる明るさは確保出来ている。辺りを見回すと海鳥が何羽かとまっているのを確認できるが、人影は見えずやはり無人だ。誰もいないことに2人は安堵する。

 

しかし、そんな空間には何故か屋上に似つかわしくないものが鎮座していた。

武装島には不釣合いな、もしライトアップされたら輝きそうな大きなライブステージ。あまりにもこの場とミスマッチだ。なんでここにこんな物が配置されているのかわからないが……とりあえず、侵入成功と言っても差し支えないだろう。

 

「とにかく、よく頑張ってくれましたねあかりちゃん。後はこの私がなんとかしますから!」

「あはは、頼りにしてます…」

 

登りきったはいいが、この先どうするか何も考えておらず、それはゆかりも同じはずだ。絶対ノープランな事に違いないのに、なぜか常に見栄を張りがちなゆかり。

そんな彼女に対してあかりが苦笑していると……

 

「──あれ??人の声が聞こえると思ったら。

誰??屋上ライブのリハーサルは立ち入り禁止のはずなんだけど。」

 

誰もいないと思い2人が油断していた矢先、突然甘くて可愛い声質で後ろから声を掛けられた。いきなり声を掛けられて驚く──がそれ以上に、その声質と声の発生源に驚いた。

だって、振り返った先に居たのは紛れもなく目的としていた人物。

 

 

青色の髪、その髪は先端で結ばれたツインテール、更にその上には頭より大きな通称“オタマン帽”を被っている。服装はノースリーブのセーラーワンピで、ランドセルを背負っている。このやたら重さを感じてそうな装いは間違いなく…

他の誰でもない、音街ウナその人だったのだから。

 

声を上げずにはいられない。

 

「「お、音街ウナッ!!!?」」

「えっ?!えーと……なんで名前を…もしや、凄い熱心なファンの方々?」

 

なんで、どうして、もしかして幻覚を見ているんじゃないか、そもそも目的地は隣の島で──そんな調子で現実を受け入れきれておらず固まっている2人を前に、ウナから先に話しかけてきた。

 

「あなた達“鬼”じゃない人間だよね??

まさか別の島から来たの?!どうやってここまで無事に!?もしかしてわざわざウナのライブを見に??」

 

怒涛の勢いで質問攻めをしてくる彼女は間違いなく……

 

「いえ……いや、まぁ。たしかに目的は貴女で間違いはありませんけれども…」

「やっぱり!!遥々いらっしゃい!!!」

 

 

どうみても音街ウナなその人は、ゆかりの返答を聞くと嬉しそうに目を見開いて月光でその瞳を輝かせ、ブンブンと両手で勢いよく力強い握手を2人にしてきた。

ギューッと握ってくるウナの手はまるで二人の存在に喜びを噛み締めているようだった。

 

「くぅ〜!ウナにもこうして駆けつけてくれるファンが!頑張っててよかったー!!海を越えて名が轟いてるんだ!!!」

「あの、ウナちゃんが喜んでるところ申し訳ないんですがわたし達は──」

 

握手を終えると少し気まずそうにしながらも、ゆかり達は前回の旅できりたんに話したのと同じようにして説明を始めた。

 

◆❖◇◇❖◆

 

要約すると「あなたはマスターという輩のせいでモチーフと同じ生活を強いられて、かつ幽閉されているのでわたし達が解放しにやって来ました〜」という、いつものアレだ。

 

「うん!うん、うん…あー……」

 

それを聞いたウナの反応は、喜びでも悲しみでもなく──ワンテンポ置いての落胆だった。

 

「あぁそう。ファンじゃ、ないんだね…。

まぁそうか、ウナのファンならライブ当日に来るか。うん、そうだよね……」

 

目に見えて落ち込んでしまった(こころなしかオタマン帽も表情が暗くなった気がする)が、すぐに心を切り替えたのかゆかり一行に加わることにした様子。

 

「鬼の鼓舞係にも飽きてたところだしいいよ!

なによりついて行けば間違いなく沢山の人間に会えそうだし!!」

 

秒で立ち直るウナの切り替えが早さに2人は驚く。

話をすぐに理解できたあたり、柔軟で適応力もあるのだろう。こうして見ると前向き美少女ということで、アイドルをしているのも納得だ。

 

「鬼……鼓舞係?」

「あぁうん。ウナは鬼達を鼓舞する係って名目の、アイドルをしてるの!でも、さっき言った通り飽きてたとこ。悪者を応援するのも癪だし……

言わば2人の提案は、渡りに船ってヤツ!!」

「話が早いですね、助かります!」

 

「となるとまず鬼ヶ島から出なきゃ、だけど…」

「そういえばさっきから言ってる鬼って??」

 

出航前に船の前の持ち主から噂話で耳に挟んではいたが、やはり本当にその鬼がいるのだろうか。

 

「あぁ、そこからだね。

まず、ここ鬼ヶ島は鬼しか住んでいない島なんだ。」

 

そう言うとウナはライブステージに飛び乗って赤ぶちのメガネをスチャッと掛け、身振り手振りで演劇チックに説明を始める。

 

「鬼達は人を脅かす魑魅魍魎の類だよ!

この要塞みたいな移動する島で海を渡って、ゆくゆくは日本統一!をしたいんだって。既になんこかの島はやられてる。」

 

「随分物騒な…鬼が実在したのにも驚きですけど。」

「周辺の島がやられて、って…!もしかして目的地のあっちの島も……」

 

ウナの話では本当に鬼が居て、しかも既に暴れ回っているらしい。それを聞いてもしかすると、目的地としていた最初に目指していた島も既に毒牙にかかってしまったのでは……とゆかりは嫌な想像をしてしまう。

 

「いや、あそこにずーっと苦戦してるみたい!2人の言ってる方の島は大丈夫だよ。」

 

が、そんなゆかりの想像はすぐに否定された。

2人はホッとする。目的の人物が居ないと分かったとしても、あっちは琴葉姉妹が飛ばされた先。もし鬼によって既に占領済みで、うっかり姉妹と出会っていたらどんなに恐ろしかったか。

いや、あの姉妹なら案外勝っちゃったり?

 

「にしても鬼が苦戦って、そんなにあっちの島はすごいんですか??正直、鬼ヶ島の武力を見ていると、この技術があれば何とかなっちゃいそうに思いますけど…」

 

今度はあかりの質問に対して、ウナは英雄を唄うように答える。

 

「たった1人の抵抗で負け続けてるって聞くよ。

どの鬼も彼女には歯が立たないって。とにかく強くて〜、三つ又の矛を華麗に使いこなすらしくて〜、何よりの特徴は…そう!そこのキミみたいな!!」

 

突然唄うのをやめて、ビシッとあかりに指を指す。

 

「わぁ、わたしですか??」

「うん!キミみたいな白髪をした“方相氏”に邪魔されてばかりで、鬼達は中々征服出来ずにいるって!!」

「そんな強い人が…なんだかカッコイイですね!」

 

その一連のやり取りを聞いて、ゆかりはなにか思うところがあったのか顎に手を当て思考を張り巡らす。

 

「……白髪の方相氏が、鬼を相手に戦い続けている??──もしかして。」

 

そうしてゆかりの脳裏には、とあるVOICEROIDキャラが思い浮かんできていた。




・音街ウナ
鬼の鼓舞係を任されている、青髪とオタマン帽がトレードマークの少女。難しい話をする時は赤縁メガネを掛けることも。
モチーフと同じ生活(アイドル)を強いられている事自体は酷ではないらしいが、鬼ばかり相手にしていて飽きてはいたらしい。今はゆかり一行についていって、人間のファンも量産しようと意気込んでいる。

ちなみにこの話の投稿日はこの子の誕生日です。おめでとうなぎ!!

・ゆかりの脳裏に浮かんだVOICEROIDキャラ
誰のことやろなぁ……
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