起きたら茜ちゃん!   作:丹碧のブルーメ

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夜中に動くのって少し勇気が要りますよね。
私なんかは、夜トイレに行くだけでもちょっとした冒険です。


五話『響き渡った音』

琴葉家には細かく分けて計五つのスペースが存在する。

自室、リビング、トイレ、洗面所、風呂場の五つだ。

 

まず自室。

姉妹二人で一部屋の自室を使っていて、寝室と配信部屋の両方の役割を兼ねている。

ベットは大きなキングサイズベットになっていて、いつも二人で寝ていたりするのだが……果たして本当にこの体は睡眠が必要なのだろうか?

一応ウチの方は《前の知識》の影響で寝ないと気が済まないが、妹は定かでは無い。しかし用意されている以上使うことが想定されているので、まぁ意味はあるのだろう。実際二人で寝てるし。

 

ちなみにクローゼットもこの部屋にあり、いつもの肩を出す例の服が、黒バージョンと白バージョンでそれぞれ何着も入っている。

自分用と、妹用。

決して同じ服を着回してる訳では無い。同じデザインが何枚もあるだけだ。

 

配信に関しては最近始めたばかりだが、マスターの意向で前から配信機材等は一通りここに揃っていたようだ。少なくとも憑依した時点でこの部屋に置かれていたので、そこそこ前からあるはず。

 

 

続いてリビング。

ここは実の所食事の時くらいしか使われていない。TVすら無く、ただただテーブルとゴミ箱がポツンと設置されてるだけ──いや、そもそもこれはテーブルと呼んでいいのだろうか?形としては向きを逆さにした台形のような形で、一応足を入れるスペースは確保できるが……。

 

そしてなによりこのテーブル(?)、ボタンを押しながら食べたい物の名を叫べば、ご注文の品があっという間に!!……まあ滅多に食べない味を注文すると数分かかることもあるが、とりあえず携帯食料が出てくる。あと毎日頼むガソリンなんかは、もう秒で出てくる。最早魔法の領域である。どうなってんだこの逆さ台形は。

 

なんならゴミ箱の方もおかしい。ゴミがある程度溜まると勝手に底が開き、ゴミが吸い込まれていきまた空になる。更に葵によるとゴミの種類の分別すら必要ないというのだから、この世界の技術力には驚かされる。

 

そしてこれらのせいで買い出しに行く必要もゴミ出しの必要も無いので……家から出る理由がない。

 

 

話は戻ってお次はトイレ。

ロボットである自分達にはまたしても必要なさそうに思えるが、それは大きな間違い。過去に意を決して葵に質問したことがあるが、『ガソリンはまだしも携帯食料食べてるんだから──』と諭されてしまった。全部燃料に出来たら良かったのに。ちなみにトイレットペーパーは前述した逆台形で注文して補充している。

 

 

廊下を挟んで洗面所。

ここだけは《前の知識》と比較してもごくごく普通の家庭と変わらないように思える。

こんなでも一応ロボットなので肌に気を使う必要はあまりないらしく、化粧水や乳液等は置かれていない。洗濯機やドライヤー、歯磨き(と歯磨き粉)等、生活必需品はあるが。

洗面台には少しだけ普通とは違う点もあって、なんと鏡に今日の天気や温度、湿度が表示されたりする。

朝起きて、顔洗うついでにすぐ確認できるので便利だ。

……最も、外に出れないので天気なんてあまり関係ないのだが。

 

 

洗面所を紹介したら紹介しない訳にはいかないお風呂。

大きめであろう、二人で入ってもまだまだスペースがあるゆとりのある広さの浴場だ。

無論シャンプー、リンス、ボディソープすべて完備されていて、仮に無くなっても逆台形で(ry

 

 

さて──ここまで紹介していると気づいた人も多いかもしれない。そう、ベランダがないのだ。

その為いつも着替えは部屋干し、スペースを取られてしまう。というか……窓すら寝室に小窓があるくらいで殆ど無いようなもの。外の景色から辛うじてこの家が自然豊かな場所にある、ということがわかるくらいだ。ビル一つ見当たらなかった。

この極限までの閉鎖感、元人間の自分には不気味に映るし、辛いものがある。

 

更にすべての部屋にある共通点が見受けられる。この部屋に、生活に、必要なすべてが。この家内での行動のみで済んでしまうように作られているのだ。

なので必然的に外に出る必要性が全く無い。出たいと言っても『出る理由がなくない?』と丸め込まれてしまっていた。

 

 

しかしながら自分には元人間という意識があるので、それ故に──はたまた好奇心だろうか??いや、ゲームで外の世界を沢山見て興味が湧いたのかもしれない……どんな理由にしろ、とにかく何としても外に出たくなっていた。

 

ある時は

「陽の光に当たりたいんやけど──」

と言って遠回しに外出に誘ったが、リモコンで天井を天窓にされ失敗に終わり……

 

またある時は

「配信のネタ探しにお散歩にでも──」

と誘ったが、これも『散歩のシミュレーションゲーム』のパッケージを渡され失敗に終わった。

 

というか……リモコンで天井が開いて天窓になるこの家は何なのだろうか。いくら自分の知識より文明が進んでるとはいえ、予想外すぎた。

ちなみに葵から「普段からこの機能を使うのは絶対ダメだからね?」と釘を刺された。肌が焼けるのが嫌だからこの機能は教えたくなかったらしい。

ロボットの体でも肌は焼けるらしい。

 

 

さて、ここまで来れば嫌でも察してしまう。

この家の仕組みも、葵ですらも、自分を一切外に出したがらない。ここから出れたことが無い──つまりこれが示すことは。

 

そう、琴葉 茜(自分)はこの部屋から出してもらえない軟禁状態にあるということ。(葵は過保護なだけかもしれないが。)

憑依してからしばらく日数が経ち、ようやくこの恐ろしい事実に気づいたが……気づいたからといって状況が変わる訳では無い。

 

 

そう思ってからの行動は早かった。

いつも通りの日常。朝食を終えダラダラして、昼食も終え配信も終え、夕食もしっかり食べてお風呂にも入り、普段通りの一日を過ごす。

そして就寝時間も過ぎた──深夜、寝ない。

 

葵が寝てる間にこっそりベッドを抜ける。足音が鳴らないように細心の注意を払いながら、猫のように静かに歩く。リビングを通り過ぎ、廊下を渡り……そして、無事バレずに数える程しか来たことの無い玄関にまで辿り着いた。気分はまるでスパイ映画の主人公。

そのままドアの覗き穴から外を覗き見る。

 

「やっぱり真っ暗やな……」

 

外は思っていた通り真っ暗闇であり、何も見えなかった。

だがこれは深夜だからでは無い。

以前玄関に来た時も同様に覗き穴を見たことがあったが、昼だったのにも関わらず墨で塗りつぶされたように真っ黒で──何も見えなかったのだ。

あの時はそのまま見て見ぬふりをして通り過ぎた。なにか気づいてはいけないことに気づいてしまった気がして、それを葵に質問することすら怖くて叶わなかった。

 

「妙……やな……」

 

あの時からだろうか、この生活に何か強い違和感を感じ始めたのは。

今までは《前の知識》との相違点があっても『自分の知ってる世界と違うから』だとか『葵が当たり前のようにしているから』と片付けていたが、やはり何かおかしかったのだ。

 

そしてその違和感は次第に大きなものになっていった。

よく考えてみればマスターと自分が一回も会ったことがないというのもおかしな話で、いくら持ち主と所有物と言えど一回くらいは相見えてるはずであり……

琴葉茜を購入したのか?自作したのか?どちらかは知らないが。どちらにしろ《体の記憶》を思い出してもマスターの顔すら分からないというのは妙だった。

 

なんならそもそもこの《体の記憶》、妹と生活してる記憶しかないのだ。なのでウチはこの記憶を、おそらく()()までしか見れていないものだと思っている。遡れる一番昔の記憶が数年前なのも根拠だ。

尚、その時まで遡ってもマスターの姿は無かった。数年会ってないのは確定である。今度それとなくマスターと会えないか、葵に聞いてみることにしようか。

 

 

 

──さて、考えていても仕方がない。

折角ここまでバレずに来れたのだから、今は目の前の扉を開くのみだ。葵には悪いが、好奇心は止められない。それに、一度外に出るくらいならまぁ許してくれるだろう。なんなら、今度は外に出たことがある自分がエスコートしてあげよう。

 

「さぁ……深夜の冒険の始まりや!」

 

そう言ってワクワクに胸躍らせながら鍵を開き、ドアノブに手を掛け…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブーッ!ブーッ!警告!中からロックが解除されました!繰り返します──』

 

「!?!?」

 

刹那、さっきまでの静寂が嘘のように爆音で警告音が鳴り響き始める。

 

驚きのあまりドアノブから手を離し、辺りを見回す。そして次第に心が冷静になってくると……急いでもう一度ドアノブに手をかける!!

もうこの警告音が鳴った時点で葵を起こしてしまっていて、自分が外に出ようとした事実に気づいているはず。

ならば、ここはいっそ葵が来る前に一瞬だけでも外を見よう。

 

そう思い一思いにドアを開けた。

 

 

 

 

 

そうしてドアを開いた先に待っていたのは──

 




・琴葉葵②
姉が日々疑問を投げかけてくるのを、成長する子供を相手にしているようで楽しいと感じている。

ちなみに今回の話で出てきた天窓の件の「肌が焼けるのが嫌」は、自分のことではなく姉の肌を心配して言っていた。
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