起きたら茜ちゃん!   作:丹碧のブルーメ

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タイトルはダブルミーニングのつもりです。サブタイトル考えるの難しいですよね……


六話『今まで見えなかった部分』

扉を開けたその先。

それは予想と大きく食い違っていた。

現実は残酷である。

 

「う、嘘やろ……」

 

待っていたのは、なんと土の壁。

つまりこの家は入口を埋められており……最初から外に出る事などできなかったのだ。まさか葵はこれを隠していたくて、今まで外に出そうとしなかったのだろうか?思考を巡らせるがわからない。

そして、後ろから足音も近づいてくる。どうやら自分の脱出劇はここまでらしい。

開いていた扉を急いで閉めた。

 

「──お姉ちゃん、何してるの?」

「あ、葵……これは……」

 

後ろから淡々とした声で疑問を投げ掛けられる。

真夜中に外に出ようとし、なんならその影響で睡眠中の妹も起こしてしまった。罪悪感が頭を埋め尽くす。

 

「こんな真夜中に、外に……出たかったんだ?」

「せ、せやな。」

 

葵は鍵を閉めて警告音を止めると、質問を続けてきた。距離が近い。

……言っていることは全くもってその通りである。もう言い訳も思いつかないし、これは素直に謝罪した方が良いだろう。

 

「……ご、ごめんなさ…」

「扉、開けたの?」

 

葵は知っているのだろうか?扉の外が土で覆われていて、外に出ることが叶わないことを。

今なら納得できる、室内だけで日常生活が完結するような仕組みになっていたのは、外に出る必要を無くすためだ。

 

「いや、開けようとしただけやで……」

「はぁぁ……いい?お姉ちゃん、外はとっても危険なんだよ?それにこんな夜更け。尚更危険だと思うの。」

 

とりあえず、土の壁の件は見なかったことにする。

葵はこの事を隠したかったのかもしれないし、そもそも知らなかったのかもしれないが。どちらにしても、言わない方が丸く収まる気がするからだ。

 

今のウチはきっと──真夜中に突如として脱出しようとした何を考えているか分からない姉……と言った感じに写っているだろうか?どんな風に思われても仕方ないし、事実これは奇行そのものであった。

 

「そもそも、外に出る理由がないはず。なんで出たかったの?ここには全部揃ってるのに。」

「さ、散歩のゲームしたやん?あれから現実でも散歩行きたくなってもうて……」

 

ならせめて奇行は奇行でも、ちょっと外に興味が出てきちゃったお茶目な姉を演じよう。達成が無理になったなら、せめて一番マシな失敗にしなくてはならない。

 

「あのね、私達はマスターの所有物なの。そこのところをちゃんと理解してる?」

「わかっとるで?せやからウチらはマスターのために毎日配信を──あ。」

 

「そう、所有物だから勝手に外に出ちゃ行けないの。」

 

考えてみれば、当たり前のことだった。

つまりこの、外に出ようとする行為は『勝手に所有物が逃げ出そうとしてた』という事実そのものであり──マスターがこれをどう受け止めるかなど……容易に想像できてしまう。

今考えれば扉の外が土で埋まっていたのも、きっと逃げ出し防止の為だったのだろう。

 

「ど、どうしよう葵!!ウチのせいで……ああああほんまにごめん!!……あかんどうしよう……」

「警告音が鳴った時点でこの情報はマスターに送られてると思う。」

 

 

 

 

 

「──最悪私達、廃棄されるかもしれないよ。」

「ぁ……ぁぁ……」

 

こっちを見つめながら、恐ろしい予想を口にしてきた。だがこれも全て自分が招いてしまったことなので、何も言えない。ただ今は絶望して、仮に何か言おうとしても口をパクパクすることしかできない。思わず後ずさる。

 

そんなウチを葵は瞬きもせずにひたすらジーッと見つめてきていて、その様子はさながら責任を追求してきているようで。

ごめんなさい。ごめんなさい。

 

 

あの時天井が開いただけで満足してれば。

あの時散歩のゲームだけで満足してれば。

あの時好奇心に踊らされていなければ。

 

後悔の念が押し寄せてくるが、もう既に過ぎた話。後の祭り。選択を見誤った後なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、なーんてね。」

「……え?」

 

今なんて──

 

「大丈夫、落ち着いて??マスターから何か言われた時の言い訳は、私が考えておくから。」

「葵……でも……」

 

葵には何か考えがあるらしいが、全く読めない。

というか、これは自分が招いた出来事であり……何とかしなきゃ行けないのは自分なのではないだろうか。

 

「ウチのせいやし、ウチがなんとかせえへんと…」

「じゃあ聞くけどお姉ちゃん、何時から起きてるの?なんなら今日寝てないんじゃないの?」

 

ジト目で問いかけてきた。どうやら起き続けていたこともバレたらしい。

 

「そ、そうやな……ウチ、今日は起きっぱで外に出るチャンス窺っとったから…」

「ならもう眠いでしょ?後は私に任せて。」

 

そう言いながら後ろに回ったと思うと、いきなり脚の裏に片手を寄せてきて…

 

「っいしょっと。」

「!?」

 

もう片方の腕で背中を支えられ、そのまま脚を浮かされ……なんと、お姫様抱っこされてしまった。妹にお姫様抱っこされる姉なんて前代未聞かもしれない。

というか、いきなり何するんだろうか?寝室までなら別に自分の足で行けるのに。

 

「え、ちょ、自分で歩けるからええって!!」

「まあまあ、いいからいいから……」

 

「……葵って力持ちやったんやね。」

 

さっきやらかしてしまったのもあって、素直に従わざるを得ない。特に誰かに見られている訳では無いが、恥ずかしさがすごい。

というか妹の力が想像以上すごい、その細腕のどこにそんな力が……これも機械だから、なのだろうか?

 

「というか重くないんか??」

「全然。むしろ軽いよ?ちゃんと食べてる〜?」

 

「いつも一緒に食べてるんやからわかるやろ……」

「ふふ、たしかに。」

 

「……」

 

──葵は、茶化してくれている。

そしてあれだけの事をやらかしても……おまけに寝ているところを起こされても、その事を一切怒ったりはしてこない。いつもこんな調子だから『甘すぎなんじゃないの』と時折思ってしまう。最も、自分はその甘さに助けられている身だが。

 

「ねえ、お姉ちゃん。今の生活に不満があるとか──」

「そういうわけちゃうよ、ただの好奇心。」

 

「……そっか、そうだよね。」

 

勿論、今の生活に不満があるわけではない。衣食住が安定していて、毎日が楽しくて──多少の違和感さえ気にしなければ、すごく快適な日々を送れているからだ。

そしてそんな違和感も、今となっては別に気にする程のことでもないように思う。気になることには、気になるが。葵はどう思っているのだろうか。

 

「なぁ葵、葵はこの家で暮らしてて、違和感とか変なこととか……何も感じないんか?」

「ん、私にも不思議に思うこともあるよ?」

 

どうやらそう思っていたのは自分だけではなかったらしい。その事実だけですごく心が軽くなった。

 

「だったら葵も一緒に…」

「お姉ちゃん、携帯食料がどう作られてるか知らなくても食べられるよね?それと一緒だよ。」

 

「え?」

「仕組みとかがわからなくても、当たり前に生活に組み込まれてるから、気にしてないってこと。」

 

……なるほど。イマイチ脈に落ちないが、納得しておくことにする。

ただ少しの好奇心に押されたからといって、変に動くことはこれからはもうやめよう。反省。

 

「……今日はほんまにごめん。これからはもう、こういう事せえへんから……」

「するにしても事前に相談ね?私達は二人だけの姉妹なんだよ??」

 

「せやな……」

 

葵にはいつも助けられてばかりだ。憑依してすぐは《体の記憶》と葵の様子を見ながら見様見真似で動いて慣れたし、初配信の時なんかは気落ちしてた所を励ましてもらって、その後も配信中何度も助けられた。そして今回も──

 

「さ、お待ちかねのベットだよ。どーん。」

 

束の間、浮遊感に襲われた。

 

「ひぃっ!?……急に落とさんといてや!!」

 

感傷に浸っていたらいつの間にかベッドについていたようで、軽くベッドに向かって投げられてしまった。フカフカだから良かったものの、いつも温厚な葵がウチをベッドに投げるなんて、やっぱり少し怒ってるのかもしれない。

 

「……葵、今日はほんまごめんね?」

「ううん。それより投げた時のビックリした顔可愛かったよ?」

 

やっぱり怒ってないかもしれない。

兎にも角にも……いつも夜更かししてなかったせいで、珍しく夜更かしした今日は眠い。明日の配信は少し遅れるか休みを取らせてもらうとして、今からドーンと睡眠をとることにしよう。しかしその前にひとつだけ、気がかりなことが残っていた。

 

「えへへ──そいえばなんて言い訳するつもりなん?」

「え?そんなの、そのまま伝えればいいんだよ。お姉ちゃんが好奇心で扉を開けようとしてしまいましたーって。」

 

「え、そんなんでええんか……?」

「別に、お姉ちゃんは外に出ちゃダメなんて教えられてなかったし。いいんじゃない?」

 

果たしていいのだろうか、これ。

仮にも所有物が勝手に脱出を企てていたわけで──いや、一応お散歩したかったって事にはしているけれども。

 

「要は私達に反逆の意思がないって伝われば大丈夫なの。さ、もう寝る時間はとっくに過ぎてるんだから明日に響かないうちに……」

 

なんだか脈に落ちないが、まぁ葵が言うならその通りなのだろう。それに言われてみればもう瞼も重いし、眠気が押し寄せてくる。

 

 

「せやな、ウチ寝させてもらおかな?……おやすみ、葵。」

「いい夢を。おやすみ、お姉ちゃん。」

 

 

目を閉じると待ちかねていたように無力感が訪れた。どうやら自分は好奇心のあまり相当無理をしていたらしい。

そうして眠気に身体を任せ、微睡みの中に落ちてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆❖◇◇❖◆

 

「マスター、お姉ちゃんがまたひとつ成長しましたよ?」

 

その声色は珍しく弾んでいて──もし姉が起きていたら『葵にしてはテンション高ない?』と驚いていたかもしれない。

 

「マスターも見てましたよね??」

 

耳に携帯機を当てて会話しているところを見るに、どうやら誰かと電話をしているようだ。相手は話から推測するに、マスターなる人物だろうか。

 

「我慢できなくなったというより、どうやら散歩のシミュレーションゲームに影響を受けたみたいで──ね、可愛いですね。」

 

会話の内容は自身の姉に関することのようで……テストの点数を自慢をする子供のように、楽しげに事の顛末を報告していた。

 

「はい……はい……ですです、『私達廃棄されるかも』と私が嘘を告げた時にした、お姉ちゃんの絶望してる顔はとっても可愛くて──しばらく見入ってしまいました。」

 

夜が深まる中、二人は楽しそうに会話を繰り広げていく。その様子は主人と所有物と言うよりは、どこか同じ趣味を持った仲間(同類)といった様子であった。

「え?あぁ、大丈夫です。勿論撮ってありますよ、内蔵カメラの中でも最高の画質で。」

 

会話は続き、さらに夜は更けていく。

 

 

 




・琴葉茜②
普段から沢山考えて脳をフル回転させてるからかよく脳が休憩を求めており、結果として物凄く寝付きがいい。本人は「ロボットの体は直ぐに寝れていい!」と思っているが、ロボットである葵からしてもその寝付く速度はすごく早く感じるようだ。尚、本人に自覚はない模様。

特に今回の場合は珍しく夜更かししたのも相まって、ベットに入ってからあっという間に寝てしまった。
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