転生したら強化人間でした。ロボット乗る感じ?あ、はいそうですか【再起動】 作:黒葉 傘
リメイク前が好きだった方、申し訳ありません。
細かい変更点がたくさんあるので間違え探しみたいに探してみると面白い……かも。
頭が痛い。
意識を取り戻してまず初めに感じたのは耐え難いほどの頭痛だった。
その痛みを逃がそうと、身体が勝手に暴れ出そうとするけど、動かせない。
何かの器具で固定されているようだ。
固定……拘束具、なんで?
そもそも自分はなぜここにいるのだろうか。
ここまでに至るまでの前後の記憶がない。
ここはどこだろう?
私は………………誰だっけ?
「1番から7番、ダメです。意識が安定しません」
誰かの声が聞こえる。
耳がおかしいのか、それはひどく不明瞭で、遠く聞こえた。
目もなんだかおかしい。
真っ暗の中で、いくつもの星が舞っている。
その光が瞬くたび、頭痛がひどくなった。
「これ以上の同化は耐えられません!実験の中止を」
「これをクリアできん素体は必要ない。続けろ」
「そんな!?全員死んでしまいます!!」
悲鳴のような怒声が聞こえる。
同化……実験…………一体何のことだろう?
目に映る星の光がどんどん強くなる。
一際明るい、銀の光が私の前を踊るように点滅した。
何かを警告するようなアラートが、どこか遠くで鳴り響いている。
銀の光が、瞳の真前まできた。
眩しいのに、目を閉じれない。
いや、そもそも私の目は開いているのか?閉じているのか?
それすら分からない。
銀の光が、瞳から私の中に入ってくる。
溶けた。
そう感じた。
私の脳が震え、液状にシェイクされる。
人間の形を保ったまま、中身だけぐちゃぐちゃにされた。
そう感じる程の激感。
もはや痛いとかそういう次元の話ではない。
私は絶叫した。
その絶叫ですら、どこか遠く聞こえてしまう。
そんな地獄に耐えられるはずもなく、私は意識を手放した。
……………………………
…………………
……
次に私が意識を取り戻した時には地獄は終わっていた。
頭の割れるような頭痛は鈍痛へと変わり、視界の明滅もない。
とはいえ、ひどい気分なのには変わりはなかった。
全身が汗でぐっしょりと湿り、衣服が肌に張り付く感触が気持ち悪い。
視界が真っ暗なのも気になる。
私は失明してしまったのだろうか。
身体は相変わらず拘束されていて、身動ぎもできない。
話し声と、衣ずれの音が聞こえるので近くに人はいるようなのだが……
おーい、この拘束解いてくれよぉ。
「はぁ……、こいつもダメそうだな」
そんな言葉がし聞こえた後、頭が乱暴に揺すられる。
金属音と共に、頭を締め付けていたものが緩むのが分かった。
頭に被っていたものが取り外され、いきなり視界が明るくなる。
どうやら目が見えなくなっていたわけではないようだ。
ぼやける視界の中、白衣を着た二人の男が見えた。
そのうちの一人が、私に近づき頬を叩く。
軽い感じだったが、その衝撃は私の脳を揺らした。
「痛い」
そう言葉を発すると、息を飲む音と共に男たちが後ずさった。
何を驚いているのだろうか。
「こ、これが何本か分かるかい?」
指を突き出される。
何のつもりなのだろうか。
私は眉を潜める。
見ればわかるだろそんなの。
そんなことより、さっさとこの拘束を外して欲しかった。
「これ、外して…………シャワー浴びたい」
そう男に、訴える。
そうして妙なことに気が付く。
あれ?
私ってこんな声だっけな。
なんだか自分の声に違和感を感じる。
この声、まるで…………
「やったぞ!!成功だっっ!!」
私の思考は、男の出した大声によってかき消された。
なにやら男は飛び上がらんばかりに、喜び、叫んでいる。
男の歓声を聞きつけ、白衣の人間が次々と私の元に集まってくる。
なんだこいつら?
私は白けた目でそれを見つめていた。
状況が分からず周りを見渡して、私はギョッとした。
部屋の中には、たくさんの子供がいた。
その誰もが私と同じように、拘束され、頭に妙な機材を取り付けられている。
白目を剥いて泡を拭く子、眼球をぎょろつかせながらブツブツと独り言を言い続ける子、奇声を発し頭を揺する子、その誰もがまともな状態じゃなかった。
どうやら、この部屋にいる子供全員が私と同じ境遇のようだ。
でも、無事なのは自分だけ。
そこでようやく、私は自分の状況を理解した。
自分は、人体実験の被験者であり、この中で唯一の成功例なのだと。
どうも、強化人間です。
強化人間、改造人間、ブーステットマン、まぁ呼び名はどうでもいい。
肝心なのは、倫理を踏み外し、人という大枠を破壊するために改造されたその存在に、私がなってしまったということだろう。
あの改造により、私は人として歪み、人外の能力を植え付けられてしまった。
強化人間って……ガ○ダムかよ…………
どうしてこんなことになってしまったのか、私には皆目見当もつかん。
気付いたら改造されている真っ最中だったからね。
こうなるまでに至った前後関係は全く思い出せない。
自分が誰かどうかも。
鏡の前に立ち、自分の姿をまじまじと見つめる。
そこに映るのは、十代くらいの少女の姿。
そう、少女である。
あっれ〜?
私は記憶では二十代後半のおっさんだったはずなのに、今では何故か可憐な少女なのだ。
解せぬ。
意識を取り戻した時に自分の声に違和感を感じたけど、それは自身の声の高さだったようだ。
名前は月宮來羽、14歳、職業軍人、元強化実験体14番。
私を改造した人物から貰った、名前と地位。
それに覚えはなかった。
男だったはずなのに、気づけば少女になっていて、しかも強化人間。
どうしてこうなったか、全く分からない。
が、分からないなりに想像することぐらいはできる。
もしかして、私死んだ?
つまりは転生した?
そうとしか思えないくらい、私の今いる世界は前世のものと違っていた。
まぁ、それは強化人間などというふざけた存在があることからも分かるだろう。
人間が改造され、ロボット兵器と未知の外敵が跋扈する世界。
とても私の生きた世界と同じとは思えない。
記憶はないけど私は死に、生まれ変わったのではないだろうか、この少女に。
そしてあの強化実験をきっかけに、前世の記憶が蘇り、今に至ると。
その場合、それまでの少女の人格はどこへ行ったのかという疑問が残るんだけど、今のところこれが現状で一番納得のいく予想だった。
絶望的な予想だな、正直泣きたい。
なのに、鏡に映る少女は表情一つ変えずに、私を見つめ返すばかりだった。
無表情で、死んだように開き切った瞳孔。
度重なる実験の弊害なのか、それとも生まれつきか、この少女はいつも無表情で表情筋を動かすことができない。
私が嬉しくても、悲しくても、表情筋は一ミリも動いてくれない。
おまけに言葉も何故か思ったように喋れず、機械音声のような無機質な声になってしまう。
まるで人形みたいだ。
無機質で無感情。
そのおかげか今の私のコミュニケーション能力は著しく低い。
初対面の人にはよく怖がられてしまう。
私は仲良くしたいのに…………
そうやっていつものように憂いていると、私の頭についたカチューシャ型端末が電子音を奏でた。
『海上沖に屍械出現、各員戦闘配置に着いてください』
室内に設置されたスピーカーからも警報が鳴り、出動のアナウンスが告げられる。
どうやら、お仕事の時間のようだ。
強化人間、なぜそんなものが必要なのか…………それはもちろん戦うためだ。
私は兵器だ。
人類を襲う未知の外敵『屍械』、それから人々を守るため私はロボットに乗って日夜戦っている。
未確認外来生物屍械、それは人類が初めて遭遇した天敵だった。
今から数十年前、突如現れたその生物によって世界は蹂躙された。
奴らは人々の繋がりを辿り、その全てを破壊する。
繋がりとは即ち、電波だ。
有線だろうが無線だろうが関係ない。
電波が繋がっている限り屍械はこれを辿り、内部を犯すことが可能だった。
回線から都市へと侵入し、屍械の卵である種子をばらまく。
電波のある場所は奴らにとっての恰好の狩場だった。
ネットワークという電波の網で繋がった人類社会は、それを利用する外敵によってあっけなく滅んだ。
皮肉にも、大量の電波が飛び交う最も栄えた都市から……
文明は崩壊し、多くの人間が死に絶えた。
そうして生き残った数少ない人間たちは、電波の届かぬ海上へと逃れ、そこで国家を再建した。
二度と屍械に侵入されぬよう、電波を遮断する防電壁に囲まれた国家を。
それが、私の今暮らす海上国家、碧斗だ。
だが、電波を遮断してもなお、屍械は人類を見つけた。
奴らは今もなお人類文明に攻撃を続けている。
だから、私みたいな兵器が戦わなくちゃいけなくなってしまう。
飾り気のないタンスを開け、私の仕事着を取り出す。
黒を基調としたセーラー服。
いや、何でやねん、とツッコミを入れないでもらいたい。
確かに、軍服もパイロットスーツも支給されている。
それらを捨て置いて制服を着ることはコスプレとなんら変わらない。
だが、私はそれらを着る気はない。
なぜか?それは私には相応しくないからだ。
私は、うら若き!14歳の!少女なのだ!
中身は置いておいて。
軍服を着て戦うべき人間ではない。
それがなぜか身体を改造され、戦場で戦う羽目になっている。
……………本当にどうかしていると思う。
こんなの絶対おかしいよ!
私は兵器じゃない!!
と、主張したいのだが、この不自由な少女の身体は無表情だし、うまく喋れない。
だから、服装で主張することにしたのだ。
私は、まだセーラー服を来ているような少女ですよー!
至極真っ当な主張である。
でもこの服装、なぜか軍人さんたちにはドン引きされたんだよなぁ……
なんでや!?
手早く制服へと着替えると、私は格納庫へと向かう。
格納庫では、整備士たちが機体の整備を急ピッチで進めていた。
屍械と戦うために開発されたロボット、駆動騎兵だ。
電波を辿って内部へと侵入されてしまうため、外部と常に通信している既存の兵器では屍械に太刀打ちできなかった。
そこで、作られたのがこの人型決戦兵器だ。
駆動騎兵は、内部に独立型戦闘AIを搭載しており、完全なオフラインでも稼働を可能としている。
通信による補助がなくとも、計算により機体の座標を割り出したりと、戦闘補助ができるのだ。
もっとも、完全独立型のAIの完成度はそれほど高くないため、人が乗り込んで操縦しなければいけないのだが。
戦闘も全部AIがやってくれればいいのに、とは思うが世の中そんなに甘くはない。
機体の並ぶ格納庫、私はある機体の前で足を止めた。
黒く、どこか禍々しい機体。
駆動騎兵 黒鉄、私の専用機だ。
機体を覆う羽のような黒い装甲、その隙間から銀色のフレームが露出していた。
人間の背骨を思わせるその蛇腹状のフレームにはこの機体の核たる独立型戦闘AIが搭載されている。
頭部には赤い単眼カメラアイ、そして伝灯が前後に四つ。
尖った装甲のせいか刺々しい印象で、とてもカッコいい。
カラーリングの黒は私の好みで塗装してもらった。
黒い機体………いいよね、中二心をくすぐるよね。
「ねぇ……私の黒………まだ………?」
機体の整備状況を聞きたかっただけなのに、こんなセリフになってしまった。
つくづくこの体は不便だ。
思ったように喋ってくれない。
これでは急かしているみたいじゃないか。
「は、はい!すぐに終わります」
ほら、整備士が慌てたように作業を進めてしまった。
私の命綱なのだから、適当に整備して欲しくはないんだけどなぁ………
ごめんなさい、悪いのはちゃんと喋ってくれないこの体です。
申し訳なさを感じつつ、作業を見守る。
なんだか整備士さんたちの汗がすごいんだけど?
もしかして私って怖がられている??
「黒鉄、出れます!」
数分後、準備が完了した。
コックピットへと乗り込み、出撃前の最終チェックを行う。
モニターに映し出された自分の顔を見て思う。
確かに、この目は怖いよな………怖がられるのも当然かも。
開ききった瞳孔、感情がない人形みたいな目だ。
そんな目で睨みつけられたら、ビビリもすると思う。
確かに無表情だし、言葉数は少ないけど、別に怒っている訳じゃないんですよ。
出撃前にそうやって1人落ち込んでいると、司令室と回線が繋がる。
この基地のトップである桐島大佐から映像データと共に今回の作戦概要が伝えられる。
と言っても、私のやることはいつもと変わらない。
突っ込んで、パパッと撃墜して終わりだ。
なのでこの時間は作戦を説明する大佐をぼけっと眺めるだけだ。
毎回思うけど、大佐その顔の前で手を組むポーズやめた方がいいよ。
どっかのアニメのダメ親父にしか見えないから。
簡潔な作戦指令が終わり、出撃許可が下りたので、機体を動かしカタパルトに固定する。
ロボット物定番であるカタパルト発射だ。
男ならばロボットの出撃シークエンスで胸を熱くしたことがあるはずだろう。
私もその口である。
少年時代に自分ならどういう台詞を言うとか、あれこれ妄想したものだ。
この体は自由に喋れないので、あの日の妄想は叶わないけど、それでも出撃時はテンションが上がる。
「………月宮來羽…黒鉄………出る…!」
出撃宣言と共にレバーを倒す。
カタパルトによって機体が高スピードで射出される。
Gを感じるはずのこの出撃だが、強化された肉体はなんの苦痛も感じない。
黒い機体が、空を舞った。
先に出撃した機体に続き、隊列を形成する。
私を中心とした、矢印型の隊列だ。
この基地に存在する駆動騎兵の中で専用機は黒鉄だけ。
つまり私が最高戦力なのだ。
ねぇ、それで大丈夫なの?
我が物顔で隊列の真ん中にいるけど、私子供だよ???
隊列が組み終わったのか、私の隣の駆動騎兵が伝灯を明滅させる。
作戦開始の合図だ。
機体を指定の地点へと飛ばす。
屍械という電波を利用する外敵と戦う都合、駆動騎兵同士の通信は推奨されていない。
そこで伝灯を利用する。
これはいわゆるモールス信号のようなもので、光の明滅と、色で、様々な情報を他機体に発信することができる。
しかも機体のAIが変換してくれるので搭乗者はその符号を覚える必要がないという優れものだ。
海上都市に備え付けられた灯台もこのシステムに対応していて、灯台が見える範囲内であれば私たちは基地からの指令を受け取ることができる。
今、その灯台と、防電壁が目の前まで迫っていた。
都市を覆うようにして作られたドーム状の電磁バリア、防電壁。
これによって海上都市の電波は外に漏れず、屍械に侵入されることもない。
その壁が3つ。
私たちの仕事は、屍械からこの壁を守ることだ。
電波を制限されても、人は原始的な生活に戻ることはできなかった。
テクノロジーを捨てられず、屍械に隠れて電波を使い続けている。
そのしわ寄せのために、私は戦わされているのだ。
まったく、嫌になるね。
一つ目の電磁バリアを、私たちは潜り抜けた。
ここからは通信禁止地帯だ。
もう司令室からの通信も届かない。
続けて、もう二つ目の防電壁を突破する。
最近、軍の脱退を考えている。
もちろん、実験兵器の私に人権はないので逃げ出せば射殺かもしれない。
なので正規の方法を模索しているところなのだ。
最後の防電壁が見えてきた。
そのまま、壁を飛び出して外の世界へと出る。
ここから先は、電波のない世界。
完全なオフライン、繋がりのない孤独な世界だ。
AIが大仰な音を立てて起動した。
私も、首を降って息を整える。
海の向こうを飛来する影、敵はもう目の前まで迫っていた。
屍械にはさまざまなタイプが存在する。
二足歩行の巨人型、四足歩行の獣型、空を飛ぶ鳥型など、屍械は目的に合わせその身体を進化させてきた。
そのどれもが電波を経由して移動する性質を備えており、陸海空どこへでも姿を現す。
海底都市が電波を遮断した都市であるため、奴らは電波を使った進入はできない。
そのため私たちが戦うのは必然的に空を飛ぶ鳥型が海を泳ぐ魚型、と考えるのが当然だろう。
鳥型はその通りなのだが、魚型はなぜかいない。
金属生命体という面もあるので、水が苦手なのかもしれない、詳細は分かっていないらしい。
今私たちの前方に見え始めてきたのは、まさに鳥型の屍械の群れだ。
私の後ろにいる機体の伝灯が瞬き、何かメッセージを伝達する。
なになに?
あぁ、前に出過ぎているのを注意してくれているようだ。
いま、私は徐々にスピードを上げ、隊列から外れつつある。
もちろんわざとなんだけど。
正規の方法で軍を脱退する、という話なんだけど……
考えている方法が一つある。
負傷すればよくない?
私は強化人間なので、他の人間よりも遥かに頑丈だ。
痛覚も、実験の影響なのか鈍くなっている。
だから、ちょっと被弾したぐらいじゃ死にはしない……と思う。
だからわざといい感じに被弾して、撃墜されてみる。
そうして大袈裟に痛がれば、退役させてもらえるのでは?
退役とまではいかなくとも、少なくとも休暇はもらえそうだ。
というわけで、私は目的を果たすため、一人敵に突貫しているのだ。
別に突出することで、屍械を引きつけ友軍の被弾率を減らせるのだから文句はないだろう。
息を吐き出し、意識を集中させる。
私の頭に取り付けられた、カチューシャ型端末が異音を奏でた。
この端末は、私の脳と黒鉄を有線で繋げている。
それにより機体と意識を直接リンクし、人型の鉄塊を思い通りに操るのだ。
AIによる機体制御と、人の意識による制御、それにより駆動騎兵は動く。
その、AIによる機体制御を私は全てOFFにした。
制御の舵を、全部私が握る。
私の意識が、溶け出すように機体に広がっていく。
肉体と、機体の境界線が曖昧になる。
そうして、脳が焼けるような情報の渦の中、私は動き出した。
スラスターが火を吹き、私と敵の距離が一気に縮まる。
お互いが高速起動する中でのすれ違い。
そのコンマ1秒にも満たない時間の中で、私は狙いを定め、引き金を引いた。
私の放った弾丸は過たず屍械へと命中し、その身体へ風穴を開ける。
屍械の奇声が響き渡った。
その音よりも早く、私は旋回し敵機に鉛玉を打ち込む。
屍械が私という脅威に気付くまでの間に、私は三体もの屍械を撃墜していた。
その段階になって、ようやく屍械たちの攻撃が私を襲う。
鉄でできた触手が私を貫こうと伸ばされる。
私は機体腰部の装甲を展開した。
装甲が開くことにより生じた空気抵抗、それにより機体がわずかに傾く。
そのわずかな傾きが、敵の攻撃の軌道から機体を逸らさせる。
触手は空を切り、狙いを外した。
最小限の動きで、攻撃を回避する。
それによって、速度を落とすことなく起動し続け、その機動力によって敵を一方的に嬲り続ける。
私の基本戦術だ。
私の機体黒鉄は全身に取り付けられた大きな装甲板により、空流を操り自在に空を駆ける。
普通、空中機動での姿勢制御はAI任せだ。
わずかな空気抵抗による機体への負荷を計算し、機体への負担を極力抑え、機体の向きを水平に保つ。
そんな計算は普通の人間には不可能だ。
普通の人間………には。
私は強化人間、脳を弄られ、身体を強化された正真正銘の人型兵器だ。
私の拡張された脳は機体を制御する操縦パターンを瞬時に導き出す。
姿勢制御など、造作もない。
機体の末端まで神経を伸ばし、その全てを制御する。
私が細かく指示を出すことで、黒鉄は他の駆動騎兵では不可能の三次元的な機動を可能とするのだ。
片側のスラスターだけを吹かし、機体を旋回させる。
回転しながらトリガーを立て続けに三度引き、弾丸を射出した。
弾丸は吸い込まれるように敵機へと命中し、その身体を鉄屑へと変えた。
さらに速度を上げ、残りの敵機を墜としに行く。
味方を連続で撃墜された屍械は私を脅威とみなし、囲むように襲いかかってくる。
迫り来る無数の触手。
その全てを紙一重で回避していく。
前後左右上下、あらゆる推進機構と装甲板を制御し、機体を操る。
回転しながら空を駆ける。
もはやどちらが上か、下かも分からない。
だが、上か下かなど大した問題じゃない。
必要なのは、敵を倒す、その目的に最適化された軌道。
敵の攻撃を掻い潜り、すれ違いざまに鉛玉をぶち込む。
トリガーを引く。
その度に屍械の死骸が一つ生産されていく。
トリガーを引く、引く、引く、引く、…………
……………………………
…………………
気づけば、空を飛んでいるのは私と友軍の機体だけだった。
任務完了。
友軍の犠牲者は………なし。
今日も何事もなく済んでよかった、よかった。
といっても、怖くて被弾できなかったんだけどね。
やっぱり当たる直前になるとどうしても怖くて無意識に回避してしまう。
うう………軍を退役する日は遠いな…………
私がしょんぼりしながら帰投しようとした時、友軍のうちの一機が近づいてくる。
伝灯をなにやら瞬かせているね。
なになに。
『警告したのに、なんで一人で突撃したのか?』だって。
え、知らなーい(すっとぼけ)
なんだか怒られそうな気配がするので、無視して帰投することにする。
誰も傷付かずに屍械を殲滅できたんだから別にいいじゃない。
この基地の司令官である大佐も怒ってないよ、多分。
私の予測通り、基地は何事もなく私を受け入れた。
ほら、私が兵器としての役割を全うしていれば何も文句はないんだよ、お偉いさん方は。
所定の位置まで機体を移動させ、機体を器具へと固定する。
後は、機械が機体を格納庫まで移動させてくれる。
私は息を吐いて黒鉄との接続を切った。
音を立てて、私と駆動騎兵とを接続していた有線がカチューシャから外れる。
全方位モニターとの接続も切れ、コックピットは暗闇に包まれた。
身体が重い。
駆動騎兵と繋がっていたときはあんなに軽かったのに。
駆動騎兵と人間の身体の感覚が違いすぎて目眩がする。
腕を開閉して身体の感覚を取り戻していく。
そうして、だんだんと自分は呼吸をする人間なのだということを思い出す。
数分間、そうやって深呼吸をしてから、ようやく私はコックピットのハッチを開けた。
「……あ」
ハッチを開けた先、整備班によって用意されたタラップには誰かが立っていた。
腕を組んで仁王立ちする短髪の女性。
多分、先ほど私に伝灯でコンタクトを取ってきた駆動騎兵のパイロットだろう。
まさかここまで来るとは。
えっと…………なあに?
「どういうつもり?」
彼女が、ギロリとこちらを睨み付ける。
どういうつもり、と言われましても私は真面目にやったつもりでしてぇ……
内心私はこれから始まるであろう説教に戦々恐々としていたが、少女の身体はピクリとも表情を変えていないだろうな。
「なんであんな無茶をするの?撃墜されたいの。お願いだから私たちと一緒に戦って、私たちにあなたを守らせて!」
いや、あのぉ……
この基地の最高戦力は私ですしそういうわけには……
それに、別に撃墜されてもいい………とゆうか、撃墜されるのが目的なんだよなぁ………
「撃墜………されてもいい…………」
「はぁ!?」
あ、やべ。
思っていたことが口に出てしまった。
この体不便なことに、喋ろうとしてもうまく回らないくせに、喋ろうと思ってもいなかった考えはぽろっと喋るんだよなぁ。
言い訳しようとして口をモゴモゴ動かすけど、今度は喋ってくれない。
もう!なんなのこの体!嫌い!もう死にたい!
「………………死にたい…………」
ああああああああああ!
なんでそこだけ口に出ちゃうかなぁ!!?
それ一番口にしちゃいけないやつじゃん!
「っ!それはどうい………
女性を押し除け、タラップの手すりに足をかける。
そうして私はそこから飛び降りた。
タラップから格納庫の床まで10メートル弱、その高さを落下する。
私の強化された身体はその驚異的な身体能力をもって、何事もなく着地した。
スカートの中身が見えたかも?気にすんなそんなこと。
頭上から焦った声が聞こえたけど、それを無視して逃げる。
もうこれ以上話し続けても状況が悪化する未来しか見えなかったからね。
許せよ、名も知らぬ友軍さん。
「あ〜あ」
ため息が口から漏れた。
あたしは手すりに寄りかかり、駆けていく少女を見下ろすしかなかった。
ここから地上へまで何メートルよ。
あたしにはとてもここから飛び降りる勇気はなかった。
『死にたい』
先ほど少女が発した言葉が頭をよぎる。
「ようやく、感情を表に出したと思ったら、それ!?」
彼女の口から発せられた破滅願望、それを否定して欲しかった。
否定したかった。
あたしたちの仲間である少女、月宮來羽は良い意味でも悪い意味でも有名な人間だった。
上からの命令で、いきなり軍部へと配属された年端もいかぬ少女。
その、端正な容姿も相まって彼女はとても目立っていた。
軍隊は子供のいるような場所じゃない。
それに素性もわからぬその子供のために、専用機まで用意されたのだから目立つなというのが無理というものだ。
専用機、実力のあるパイロットのために製造されたオーダーメイドの高性能機。
そんな専用機が用意されたという事は少なくとも、将官レベルの戦力があるはずだ。
でも、その小さな少女にそれだけの実力があるようにはとても見えなかった。
というより、きちんと駆動騎兵に乗ることができるのだろうか?
あたしたちはそれすら怪しんでいた。
その印象が覆されたのは、彼女初出撃の時だった。
あたしたちが心配する中、彼女は軽い調子で機体に搭乗し、出撃した。
まるで手慣れた熟練の兵士のように。
そしてその戦力は圧巻。
機械のような完全無慈悲な操縦だった。
とんでもないスペックの新型機、彼女はそれを完璧に乗りこなしていた。
しかも、驚くべきことに彼女はAI制御を全てオフにしていたのだ。
駆動騎兵の制御機構の数がどれほど膨大だと思っているの?
その全てをマニュアルで動かすなど、人間業じゃない。
強化人間。
誰かが、彼女をそう呼んだ。
軍の上層部が行なっている非人道的な研究。
その噂を聞いたことがある人間は多かった。
でも、それは所詮都市伝説程度のもので、誰も信じてはいなかった。
月宮來羽という人外が現れるまで。
彼女の戦闘を目の当たりにして、あたしたちは初めて上層部の罪深さを実感した。
感情もなく、淡々と屍械を狩るその姿は、人間ではなく機械そのものだった。
その戦闘から、彼女の扱いは大きく変わった。
何だかわからない不思議な子供から、軍部が生み出した殺戮マシーンへと。
好奇の眼差しが、恐怖の眼差しへと変わった。
でも、あたしのように頭が堅い隊員も何人かはいた。
小さな女の子が戦場に出ることが許せない頭のお堅い人間が。
そんな人間を拒むかのように、彼女は人前に姿を表すことはなかった。
毎日用意された自室へと篭り、出てくるのは出撃時だけ。
出撃すれば、その人外じみた操縦技術で屍械を蹂躙した。
機械的な生活。
人前に姿を現さない事で、より彼女の神秘性は増し、人間扱いする人は減っていった。
あたしは彼女の無機質な目が嫌いだった。
あの開き切った瞳孔が、人形みたいで。
何か、人間らしいところを見せて欲しかった。
そんな彼女が、最近になって妙な行動を見せ始めた。
友軍を振り切っての無茶な突撃。
正確無比な彼女らしくない、合理性を欠いた行動だった。
彼女が初めて見せた、ロボットらしくない行動。
そこにわずかな人間らしさを感じて、あたしは彼女に真意を問い詰めてみることにした。
その答えが『死にたい』だった。
巫山戯ないで。
辛いなら、そうと言って欲しい。
戦いたくないなら、そう声に出して欲しい。
周りに助けを求めて、あなたはまだ子供なんだから。
勝手に死のうとしないで。
頼むから少しは、子供らしいところを見せて。
『死にたい』という彼女が発した小さな救難信号。
その願いを叶える事はできない。
彼女を生きて、この地獄から解放する、あたしはそう決意した…………