転生したら強化人間でした。ロボット乗る感じ?あ、はいそうですか【再起動】   作:黒葉 傘

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1話に比べたら変更点は控えめです。


鬼に金棒、少女にロボット

「駆動騎兵を作って欲しい」

 

 ある日、クライアントにそう依頼された。

 それ自体は珍しい話じゃない。

 僕は過去にいくつもの兵器を設計してきた。

 前線で戦う駆動騎兵には僕の携わった機体が数多くある。

 正直この海上都市の中で1番の技術者だという自信が僕にはあった、天才だからね。

 だからこの僕、崎浩二に駆動騎兵の設計を依頼するのは正しい選択だろう。

 僕は胸を張ってその依頼を快く引き受けた。

 なんでも言ってみるといい、どんな駆動騎兵がお望みで?君の想像を超える芸術品を作って見せよう。

 そんな風に得意げになっていた僕の鼻面にクライアントはその機体の作成プラン、その計画書を突きつけた。

 それは専用機の開発依頼だった。

 

「は?……なんだこれ」

 

 専用機、予算を顧みない一機生産のみの高性能機。

 そんな至高の兵器を設計したことは勿論ある。

 だが僕に提示された設計プランは過去に僕が設計したどの専用機とも違った。

 違いすぎた、その要求スペックは。

 

「桁が一つ間違っていないかい?」

 

 そのくらい馬鹿げた高さのマシンスペックだった。

 失礼を承知で相手のミスを勘繰ってしまうほどの。

 

「おや、作れないのかい?」

 

「作れる、作れないの問題ではなく、こんなものに人間が乗れば挽肉になってしまうよ!」

 

 まったくふざけた話だった。

 駆動騎兵とは人間が搭乗する兵器なのだ。

 単純に機体のスペックを上げれば強いというわけじゃない。

 このスペックじゃ初速の時点でパイロットはGの負荷によって気絶してしまうだろう。

 最大速度なんてもってのほか、肉体はGによって押し潰され、コックピットに無残な肉塊が出来上がることになる。

 とてもじゃないけど、実戦に耐えられる性能なんかじゃない。

 兵器とは人間が扱えて初めてその真価を発揮するのだ。

 これじゃあただの動く棺桶だ。

 いくら高スペックでも動かせれなければ意味がない。

 

「その点は心配しなくてもいい、乗るのは人間じゃないからな」

 

「人を乗せない?ははっ、なんだいロボットでも乗せる気かい?」

 

 駆動騎兵にはAIが搭載されている。

 だがネットワークと繋がっているAIならまだしも、完全オフライン運用のそのサポートAIはお世辞にも高性能とはいえない。

 あれでは駆動騎兵を動かすことは出来ないだろう。

 自律戦闘が可能なAIが新しく開発されたという話は聞いていないが……

 

「いや、もっといいものさ」

 

 そう言ってクライアントの男はニタリと笑った。

 もっといいもの?

 一体駆動騎兵に何を乗せるつもりなんだ?

 僕には見当もつかなかった。

 

「それで、作れないのか?海上都市1の技術者と聞いていたのだが」

 

「作れないとは言っていない!!」

 

 クライアントのバカにしたような言葉に、思わずムキになって返してしまった。

 男の笑みが深くなる。

 しまった。

 短慮な言葉だったかもしれない。

 

「よろしい、出来のいい機体を楽しみにしておくよ」

 

 クライアントはもう話は終わりだと言わんばかりに立ち上がった。

 巫山戯るな!僕にこの無駄に高級で高性能な動く棺桶を作れとでも?

 自分も立ち上がって、怒鳴り散らしてやりたかった。

 

「…………………………」

 

 だが、僕は膝の上に置いた拳を握りしめるだけで、何も言えなかった。

 そもそも最初から、選択肢なんてないのだ。

 クライアントの男は軍の上層部の人間だった。

 相手は軍のお偉いさん、断ればこの先どうなるかなんて分かっている。

 媚を売れば、この先も重宝されるかもしれない。

 企業を守るため、この依頼は受けるしかないのだ。

 

「糞が!」

 

 男の去った部屋で、一人寂しく椅子を蹴飛ばした。

 僕に実用品のかけらもないゴミを作れだと?

 ふざけている。

 こんなものを作るくらいなら、まだ既存の駆動騎兵を改修する方が有意義だろう。

 だが…………これも仕事だ。

 好き嫌いは言っていられない。

 

「いいだろう作ってやるよ。搭乗者の命を奪う、悪魔の機体をな」

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

「ほぉ、素晴らしい」

 

 格納庫に鎮座する機体、それを見てクライアントは感嘆の息を漏らした。

 彼が感心するのも無理もない。

 その機体は天才たる僕の技術力の結晶なのだから。

 駆動騎兵Type.D04。

 Dとは機体開発コードであるDevilの頭文字だ。

 悪魔の名を冠した機体。

 それは見た目からも禍々しさを感じさせるものだった。

 予算も、スペックも、全てが規格外の怪物だ。

 男の注文通り……いや、それすら超えるまさに悪魔だった。

 

「本当に計画通りの機能があるのか?」

 

「無人テストでは期待値を超える数値を叩き出したよ、だが有人テストは…………」

 

 やはり、パイロットへの負担が大きく有人テストは散々なものだった。

 そもそも、人が乗れるような代物じゃない。

 最低出力であったにもかかわらず、機体はコントロールを失い、墜落しそうにすらなった。

 この機体を乗りこなせるやつがいたら見てみたいものだ。

 総じて早すぎるのだ。

 操縦の反応レスポンスもオーバースペック染みていて、この機体はミリ秒の単位でパイロットの思考を感知できるように作られている。

 人間が情報を感知してから体を動かすまで最低でも0.1秒かかるという、つまりこの機体は人体の100倍早く反応する。

 あくまでも理論上は。

 人間は0.001秒の世界で思考していない、無意味すぎる反応速度だ。

 だがこれが注文通りのスペックなのだ。

 クライアントはテストの結果を確認しながら鼻を鳴らした。

 

「まぁ、いい。彼女に乗らせてみればわかるだろう」

 

「彼女?」

 

 聞き返しても、クライアントは何も答えなかった。

 ただ、ニヤニヤと笑うだけだった。

 

「ちょうどいい、君も見たいだろう、この機体が自在に空を駈ける姿を」

 

 いるのか…………?

 この機体のパイロットが?

 とても人間に乗りこなせる代物だとは思えないのだが。

 

 クライアントに同行し、たどり着いた軍の基地で僕は出会った、想像を超える化け物に…………

 

「女の子?」

 

 それは、どう見ても10〜15くらいの少女にしか見えなかった。

 黒髪の。セーラー服を纏った学生。

 その白く華奢な手足は今にも折れそうで、とても僕の作ったType.D04に乗れるようには見えなかった。

 

「14番だ」

 

 男は少女をそう紹介した。

 それは名前ですらない、ただの番号だった。

 それに対して少女はなんの反応もしない。

 人形のような丸い瞳孔が虚空を眺めていた。

 

「これに…………乗るの?」

 

 その瞳が、不意に格納庫へと移送されたType.D04へ向けられる。

 彼女はそれがどんな機体か分かっているのだろうか。

 まるで買い物へ行くみたいな気楽な様子だった。

 

「そうだ、これはお前のためにマシーンだ」

 

「ぁ、はい」

 

 殺人マシーンをプレゼントされたと言うのに少女の表情はやはり動かなかった。

 作り手としては複雑な感情だ。

 といっても、喜んで欲しくもないが。

 この機体に乗った人間が無傷で帰ってこれるとは思えないから。

 

 その時図ったかのようなタイミングで、屍械の襲撃を知らせる警報が鳴り響いた。

 まるで発射のベルのように。

 

「ちょうどいい、お前の実力を見せてやれ、14番」

 

 クライアントがニタリと笑い、少女に命令を下した。

 

「…………わかった」

 

 少女はやはり人形のような無機質な表情で頷いた。

 そうして躊躇いを感じさせない足取りで、コックピットへと乗り込んでいく。

 制服の姿のまま。

 

「おい!パイロットスーツは!?」

 

 僕の疑問に応えることなく、コックピットのハッチが閉じる。

 馬鹿なのか!?

 たとえType.D04が動く棺桶なのだとしても、身体を守るパイロットスーツを着ていれば負傷を抑えられるかもしれないのに。

 彼女は僕の警告を無視した。

 

「ククッ、いらんさあいつには」

 

 何が面白いのか、クライアントの男は笑っていた。

 Type.D04が出撃する、何も知らない少女を乗せて。

 僕はそれを黙って見ていることしかできなかった。

 その少女の自殺とも思える行動を止めることができなかった。

 僕は、Type.D04の中で少女が圧死する幻覚を見た。

 出来たばかりのコックピットが赤く染まる、嫌な幻想を。

 

 だが…………現実は僕の想像を裏切った。

 

 Type.D04は初速から出し惜しみをすることなく飛行し、瞬く間に防電壁まで到達した。

 その時点で機体は人間が搭乗する安全速度をとうに超えていた。

 パイロットのバイタルは…………正常、馬鹿な。

 だが、そのバイタルも防電壁を突破したことで機体がオフラインとなり情報が遮断される。

 少女が無事かどうかこれではわからない。

 僕は司令室の大型モニターに映し出された望遠映像にかじりついた。

 パイロットは、Type.D04は無事なのか。

 モニターの中で…………Type.D04は空を駆けていた。

 ありえない飛行速度、それを維持したまま敵に突貫する。

 そのすれ違い様に、屍械がひしゃげバラバラになっていく。

 Type.D04の武装によって撃ち抜かれたのだ。

 ふざけている、Type.D04もそうだが敵である屍械だってかなりの速度で飛行しているのだ。

 人間の脳があの高速戦闘をこなせるとはとても思えなかった。

 だが現実にモニターの先で機体はまるで重力などないかのように、縦横無尽に空を駆け、屍械を破壊している。

 製作者の僕ですら、想定していなかった挙動の連続。

 震えた…………

 

 

 自分の愚かさに。

 

 

 僕は機体の限界を愚かな偏見で決めてしまっていた。

 機体の可能性を自分自身の手で狭めていた。

 飛べはしないと思っていたType.D04は今こんなにも力強く空を羽ばたいている。

 こんなパイロットが存在すると知っていれば、出し惜しみなんてしなかった。

 もし本当にあのGに耐えられると言うなら試したい技術がいっぱいある。

 現時点でも兵装の変更点はいくつも思いつく。

 彼女が披露して見せた装甲展開による空力制御、あれをするなら装甲はもっと大きいほうがいい。

 限界だと思っていた機体性能が、急に心許なく思えてくる。

 あぁ、僕はなんと考えなしだったんだろう。

 Type.D04は悪魔などではない。

 あの少女こそ、悪魔であり、戦場を支配する神なのだ。

 

 戦いは数分で終わった。

 圧倒的だった。

 戦場に舞う悪魔は、たった一人で敵部隊を全滅させたのだ。

 彼女の操縦に誰もが言葉を失っていた。

 機体が帰投し、オンライン状態になった時に表示された彼女のバイタルは……やはり正常だった。

 機体が発進する前と何も変わらない。

 ただ、脳波だけが異常な数値を記録していた。

 それは0.001秒の世界で思考する化け物の記録だった。

 基地にいるほとんどの人間が絶句する中、僕は誰よりも早く帰投したType.D04の下へ向かった。

 パイロットである彼女の意見を聞きたかった。

 まるで駆動騎兵の全てを知り尽くしたかのようなあの操縦技術、彼女であれば僕が気づきもしない機体の改善点に気付くかもしれない。

 そんな期待を持って僕はType.D04の下へと急いだ。

 Type.D04は傷一つない姿で格納庫へと戻ってきていた。

 Type.D04のハッチが開き、中から少女が出てくる。

 想像通り、こちらも無傷な姿で。

 乗り込んだ時と同じく軽い足取りでタラップを降りてくる。

 

「あ、あの!僕の駆動騎兵は、どうでしたか?乗ってみて何か変なところは…………」

 

 声を掛けると、彼女はその無機質な瞳でこちらを見た。

 その無表情な顔に、少し気圧される。

 

「……色が……ダサい…………黒く塗っておいて…………」

 

「へ?」

 

 彼女はそれだけ言うと、踵を返し去って行った。

 色がダサい?

 それだけ?

 あれだけの操縦をしておいて、かかった身体的負担も相当なものだったはずなのに…………

 出てきた感想が、カラーリングが気に入らない?

 

「ぷっ……くく、あははははっ!」

 

 なんだか笑えてきた。

 つくづく技術者泣かせのパイロットだ。

 いいだろう、機体は黒く塗装してやるさ。

 それと同時に君が驚くくらいの改修も施してやる。

 そうして、今度はまともな感想を吐かせてやるさ!

 画期的な改修プランがいくつもある。

 そうだな……まず、手始めに…………………黒い塗料でも発注するとするか。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ちなみに、大規模改修をした機体に乗った時の彼女の感想は……

 

「黒い……かっこいい」

 

 というものだった。

 僕は泣いた。

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