転生したら強化人間でした。ロボット乗る感じ?あ、はいそうですか【再起動】   作:黒葉 傘

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逃げ道を塞ぐもの

 私は、何で戦っているのだろうか。

 私には記憶がない、どうやって生きてきたのか、どうしてここにいるのか私は知らない。

 視線の先で敵機が散開する。

 鉄の塊が滑空する独特の起動音が空に響き渡る。

 そのうちの一機にぴったりと張り付き、背後から銃弾を浴びせる。

 私の攻撃を受けた屍械は鉄片となり海へと降り注いでいった。

 私はそれをぼんやりと眺める。

 改造されて、死にたくないから命令に従っている。

 だけど、どうして私は改造されたのだろう。

 私には前世の記憶はあっても今世の記憶はない。

 私が自我を取り戻した時には、もう私は強化人間としての生を定められていた。

 だからなのか、私は今に現実味を持てていない。

 毎日ふわふわと夢でも見ているみたいに生きて、戦っている。

 目を覚ましたら、やっぱり私は男で結局全部夢だったのだ。

 そんな目覚めを今でも望んでいる。

 急に動きを止め、空中をホバリングしている私を隙だらけだと思ったのか、屍械が私を包囲するように強襲をかけてくる。

 それらをノールックで撃ち抜く。

 瞬時に三度の射撃、銃声は重なり一つに聞こえたことだろう。

 私は顔を上げた。

 敵だったものが鉄の塊にとなり果て落ちていく。

 空に敵機の姿はもうなかった……

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

 エアコンが冷気を吐き出す音が静かな私室の中に響く。

 私は頬杖をつきながら自室で本を読んでいた。

 出撃時とは打って変わって穏やかな時間。

 いつもの、待機時間だ。

 私は日々屍械と戦っている奴隷のような身分ではあるが、非戦闘時にはこうして自由時間が与えられることが多い。

 私はその隙間時間を使って、読書をしたり、駆動騎兵のシミュレーション訓練を行なったりしている。

 と言ってもシミュレーションは全ての項目で最高記録を叩き出してしまったので、もう自己記録の更新ぐらいしかやることがない。

 大体、人前に出るのは苦手なのだ。

 感情を表に出せない少女の身体のせいか、なんだか基地の人には怖がられている節もあるし。

 というわけで最近はもっぱら部屋に篭って読書ばかりしている。

 近頃のマイブームは観光ガイドの本の熟読だ。

 観光地を訪れる自分を妄想したりしてニマニマしたりしている。

 やっていることは、暇人のそれだが、私も考えもなしに観光ガイドを読み漁っているわけではない。

 私は目的を忘れたわけじゃない。

 私の目的は軍の脱退だ。

 このどうしようもない戦いの日々から抜け出したいのだ、私は。

 それでわざと撃墜されようとしたり、色々試しているのだがどれもうまくいっていない。

 そんな中私が思いついた脱退方法の1つ、それは亡命だ。

 現在私が所属しているのは海上国家 碧斗の軍隊だ。

 海上国家というものはなにも碧斗だけではない。

 海上には人間の暮らす街が他にもある。

 その中で国家と言えるものは碧斗の他にあと3つ、『ルナト同盟国』『帝都カテル』『バナハ島』だ。

 碧斗を含めたこの四大国家こそ、地上を追われた人類に残された最後の楽園なのだ。

 それぞれの国家は独自の防電壁を持っている。

 そのため、ネットワークを介して繋がることはできないが、お互いに貿易は行われている。

 行き来自体は不可能ではないのだ。

 その証拠に私が今手にしているような各国の観光ガイドも存在しているのだ。

 船に潜りこめさえ出来れば亡命は可能なのだ。

 むしろネットワークで繋がっていないからこそ情報交換は貿易船が積んだ手紙というアナログな手段しかない。

 他国へ渡った私を探すのは困難なはずだ。

 亡命先の候補として私が選んだのは2つ、『帝都カテル』と『バナハ島』だ。

 『帝都カテル』は軍事国家であり、碧斗とは過去衝突したこともあり仲はよろしくない。

 ここに亡命すれば碧斗は私に手が出しにくくなるだろう。

 亡命国としては最適の海上国家だ。

 『バナハ島』は………………単純に行きたいだけ。

 『バナハ島』は他の3国家とは異なり、観光地としての側面が強い。

 島を囲うように作られた『バナハ島』は海上国家の中で唯一陸地を保有する国家なのだ。

 島に植えられた多種多様なフルーツを使ったスイーツ、南国らしい青い海に綺麗なサンゴ礁、観光には最適の国である。

 是非行ってみたい。

 というわけで私はその2国(主にバナハ島)の観光ガイドを読み漁っているのだ。

 決して遊んでいるわけではない、そんなわけないだろう!

 食べたいスイーツのページに付箋を貼っているからといって、これは娯楽ではないのだ!!

 亡命国の内情を知るためのお勉強だ。

 

 

 …………………

 

 

 …………というか亡命云々は抜きにして私が観光旅行に出ることって可能なのだろうか?

 今こうして私が自由時間を与えられているように、私は働き詰めというわけじゃない。

 私はいわば兵器なので、書類整理などの事務仕事は任されないからだ。

 でも、休日が与えられているわけでもはない。

 何曜日だろうと何時だろうと、24時間いつでも屍械が襲撃してくれば叩き起こされ、出撃する。

 うん、普通に考えておかしくないか。

 本来だったら学校へ通っているような年齢だぞ私。

 このままだと学校ではなく屍械撃退の皆勤賞もらえてしまう。

 いったいこの少女はどうしてこんな人生を送ってるんだ??

 おまけに、今気づいたのだが…………私……給料も貰っていない。

 軍人と同じように戦場に立たされているのに、無償だ。

 なんと言うことだ……唾棄すべき事態だぞこれは。

 断固たる意志を持って抗議すべきだ!!

 私は奴隷じゃない!

 

 

 ……………

 

 

 と思って久しぶりに自室を出たのはよかったんだけど。

 

「……………」

 

 そう、出るところまでは計画通りだったんだけどなぁ。

 

「…………………………………………」

 

「なんだ、用があるなら何か言え」

 

「……………………………………………………………………………………」

 

 このポンコツボディーがな〜んにも喋ってくれない。

 せっかく基地内を歩き回って上官を探したのはいいんだけど、喋れないんじゃどうしようもないじゃん。

 は〜〜〜これだからこの体は嫌なんだよ、まったく。

 

「………まったく……」

 

 あ、喋れた。

 よし、このままきちんと喋ってくれ、休みが欲しい、休みが欲しいのです。

 

「…………休む……」

 

 うん、断定形だね。

 これで伝わるといいけど。

 

「うん?ああ、今日は襲撃がきていない。今のうちに休むといい」

 

 やっぱり伝わってない。

 いや違うんですよ、そう言う意味じゃなくて、休日が欲しいという意味で言ったんですよ。

 休日を使って外出したいんですよ〜。

 帝都カテルとかバナハ島とか戦地とは関係ない遠くへ行きたいんですよ、遠くへ。

 

「………………遠くへ……行きたい…………遠くへ…………」

 

「お前……」

 

 上官はその言葉を聞くと、少し驚いた表情をして私の肩を掴んだ。

 あれ?なんかまずかったかな、今のセリフ。

 上官が私の目を覗き込む。

 その表情には、憐憫の色が含まれていた。

 あ、これまた勘違いされてるやつだ。

 最近全く笑顔を見せない私を見て何か勘違いする人が少数ではあるが、いる。

 私に自殺願望があるという根も葉もない噂まであるくらいだ。

 絶対その口だこの顔。

 私の想像通り、彼は私の頭を撫でると優しい声音で話しかけてきた。

 

「そうか、嫌にもなるよな…………よし、もう今日は出撃しなくていいぞ」

 

「…………え」

 

 いいの?

 話は通じていなかったぽいが望むものが提示されて驚く。

 本当に休んでもいいの?

 

「ほら」

 

 手の上に何かを乗せられる。

 金属製のカードのようなもの、黒鉄の装甲にあったのと同じロゴが印字されている。

 なんだかわからず、上官を見つめ返す。

 

「お前の身分証明書だ」

 

 上官の男が私の腕を掴みカードの上にかざす。

 すると、私の情報が空中に投影された。

 おお、ホログラム!SFっぽいね。

 証明写真のように無表情な自分のホロ映像と目があう。

 いつのまにこんなの作ったんだろう。

 

「クレジットも入っている。街に降りて、これで美味いもんでも食べるといい」

 

 お・こ・ず・か・い・!

 お小遣いじゃないかこれ。

 いわばクレジットカードの進化版みたいなものかな。

 クレジット入っているって、給料出てたんなら最初から言ってくださいよ。

 おまけに、街に降りる許可まで出た。

 至れり尽くせりではないか。

 よーし、街に出て贅の限りを尽くすのじゃ。

 意気揚々と街へ繰り出そうとしている私の肩を上官が掴んで止める。

 

「外へは軍服を着て行け、平日の真っ昼間に制服で出歩いたら通報されかねん」

 

 あ、はい……

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

「…………うーん」

 

 自分の着ている、真新しい軍服の裾を引っ張って私は唸る。

 何だか慣れないなぁ。

 格式貼った服装というのはどうにも居心地が悪い。

 基地にいるときはいつもの黒セーラーか支給された寝衣しか着ていないからなぁ。

 男である前世の記憶があるというのにスカートの方が居心地がいいというのもどうなのだろうか……とは思うが、こればかりは慣れだろう。

 平日の昼間に学生が学校にも行かず街中ウロウロする方が怪しいので仕方がないのだが。

 上官が指示してくれたのか、基地からはすんなり出ることができた。

 

「…………おー…………」

 

 駆動騎兵に乗って遠目に見ることはあったが、こうやって街を目にすることは初めてだった。

 これが、私が守っている都市か……

 こうして見ると、前世の記憶にある日本とあまり変わらないように見える。

 ただ、ロボットが跋扈する世界なだけあって前世で見た風景より明らかに文明が進んでいる。

 それに、古い建物が全く見当たらない。

 それは当たり前のことで、この海上国家は海へ逃げ延びた人々が海上に1から建設して行った海上都市なのだ。

 歴史は、それほど古くはない。

 前世の記憶にあるような古風な木造建設はもうどこにも残っていないだろう。

 田舎から初めて都会に出た田舎娘のように、キョロキョロしながら歩く。

 結構人がいて安心する。

 ロボットに乗って未知の侵略者と戦う、そんな生活を送っていたから結構世紀末な世界かと思っていたのだけど、そうでもないらしい。

 街の中では、前世と変わらぬ平和な風景が広がっていた。

 

「あ〜軍人さんだ〜」

 

「こら!指さしちゃダメよ!」

 

 うん?

 小さな女の子が、私を指さしてはしゃいでいた。

 母親だろう女性がこちらに頭を下げる。

 こうゆう時って敬礼とかしたほうがいいのだろうか?

 よく分からないのでとりあえず会釈をしておく。

 母親はペコペコ頭を下げつつ女の子の手を引いて人混みの中へと消えていった。

 う〜ん平和だ。

 日々屍械が襲ってきている世界とはとても思えない。

 だからこそ私の境遇が解せない。

 どうして私はこの平和の枠組みから外れてしまったのだろう。

 とぼとぼと歩いていると商店街に差し掛かった。

 商店街では様々な飲食店が店を連ねている。

 少し沈んだ気分になっていたのかもしれない。

 よし!ここはパーっと暴食して気分を晴らそう。

 金ならある!(ヤケクソ)

 ジャンクなものを食べよう。

 ジャンクといえばラーメン、麺類は人類、僕イケ麺(激寒)

 というわけで私は目に入ったラーメン店に突撃した。

 ラーメン!こんなSF世界で君と再開できるとは思わなかったぞ。

 

「へい、いら……しゃい」

 

 ラーメン店の店主は軍服を着た少女の来店に少し面食らったみたいだけど、私は気にせず席につく。

 頼むのはもちろん豚骨ラーメン。

 今日は休日なんだし匂いを気にせずガッツリ食べるぞ。

 トッピングのガーリックフライもどばどば入れてやる。

 これこそが男のスーパージャンク麺なのだ。

 そうしてできた特製ラーメンを周りの目を気にせずすする。

 店はそれなりに賑わっていて、サラリーマン風の男性や子連れの主婦がチラホラ見える。

 店内は壁に設置されたテレビの音声と、麺をすする音、談笑する声で満たされている。

 前世と変わらぬ雰囲気で、なんだか落ち着く。

 やっぱり食事とはこうでなくては。

 モノを食べる時はね誰にも邪魔されず自由でなんというか…………(以下自主規制)

 ふと、ラーメンをすすっていると、私の耳が異音を捕らえた。

 警報アラームのような音が店中に響く。

 なんだなんだ?

 見ると店にいる人々が長方形の端末を取り出している。

 携帯のようなものだろうか。

 テレビの画面が切り替わり、ニュース速報が流れる。

 

『ただ今、屍械警報が発令されました。海岸沿いにいる方は直ちに避難してください』

 

 テレビを見ていた客から不満の声が上がる。

 屍械警報、そんな物もあるのか。

 確かに、屍械の侵略は私たち軍が食い止めてはいるが、もし突破された時に備えて避難も必要か。

 今回の侵略はここから遠い海岸方面なのでここら一帯の避難の必要はなさそうだが。

 

「なぁ、おいあんた」

 

 そう考えていると、隣の席の客に肩を叩かれた。

 うん?なんだろう。

 

「あんた軍人だろ、こんなところでラーメンすすっていて大丈夫か?」

 

「…………休日……」

 

 私の返答に隣の客はなんとも言えない表情をした。

 なんだよ。

 軍人が休日に外食して何が悪い。

 まぁ…………私服で来いと言われればそれまでだけど。

 上官命令なんだから仕方がないじゃない。

 私だっていつもの格好で来たかったよ。

 私は気にせずラーメンをすする。

 屍械が襲撃してきているのに出撃しなくていいなんて、休日って最高だね。

 この後はどうしようか…………

 お金があるのだから、本屋へ行ってみるのはどうだろうか。

 基地の人に頼めば本を持ってきてくれはするのだが、今世は本屋に行ったことはない。

 自分で本を吟味して買うのもなかなか面白そうだ。

 私がラーメンをすすりながこの後のスケジュールを吟味していると……

 

 再度警報アラームが店内に鳴り響いた。

 

『侵入レベルが上昇しました』

 

 テレビに赤い警告文字が表示される。

 

『侵入レベルが3に引き上げられました。屍械が都市内に進入する恐れがあります。海岸沿い全域の人々は避難準備を開始してください。またレベル5からネットワークのご利用が不可能となります緊急のご連絡はお急ぎください』

 

 屍械が都市内に進入する恐れがある?

 どういうことだ?

 それに侵入レベルって何だろう。

 レベル5からネットが使用不可になるって、結構危ないよね。

 私がおろおろしていると、テレビの画面が切り替わる。

 映し出される海と空、そこに見たことないものが浮かんでいた。

 まるで鯨のような、流線型の体。

 私が戦ってきた鳥型、ましてや巨人型でも獣型でもない。

 新型…………?

 見たことのない屍械が空に浮かんでいた。

 周りに飛んでいる小さな点が駆動騎兵だとするならかなり大きい。

 なんで私が休んでいる時に限って、こんなのが出てくるんだよ。

 おまけに映像を見る限りだとその屍械は防電壁へとかなり迫っていた。

 このままでは防電壁と接触するのも時間の問題だろう。

 休日気分だった気分が一気に冷める。

 戻らないとだめかな……………

 

「軍は何をしてんだよ!」

 

 …………え?

 

 私の座っている席からは見えない位置、そこに座る男が立ち上がって怒鳴り声を上げた。

 昼間から酒を飲んでいるのだろうか、顔が赤い。

 

「いつもの黒いのはどうした!?なんで今日は出ていないんだ!」

 

 いつもの黒いの…………私のことだ。

 男の言葉に私は固まる。

 

「なんために高い税金払ってやってると思ってんだ!特攻でもなんでもいいから止めろよ!毎日毎日ウルセェ警報鳴らしやがって」

 

 ……………

 

 うるさい警報?

 それはお前たちを守るために鳴っているんだぞ。

 特攻?

 お前は駆動騎兵に人が乗っているってわかっているのか?

 

「おい!」

 

 店主が男を止める。

 店主からは私も見えているんだから当たり前だろう。

 私は今軍服を着ているのだ、つまり軍の人間だと一目で分かってしまう。

 でも、そんな気遣いいらない。

 私は勢いよく立ち上がった。

 椅子が床に倒れ、大きな音を立てた。

 男は立ち上がった私を見て驚いたように目を見開く。

 自分の貶した軍人その人が店内にいるとは思わなかったのだろう。

 

「……私が…………黒いの……パイロットだけど…………」

 

 何か文句ある?

 そういう主張を込めて男を睨む。

 といっても私の顔はいつものように無表情だろうけど。

 賑やかだった店内が静まり返る。

 緊急事態を知らせるテレビの速報だけが虚しく店内に響き渡っていた。

 男は私を凝視したまま動かない。

 周りの客も、店の主人も何も言わない。

 

「ねぇ…………いつも死と隣り合わせで戦ってるの…………」

 

 私も、同僚の軍人たちも。

 勝手に改造されて、人々を、海上国家を守るために戦っている。

 自分が何者かも分からずに。

 最近いつも、逃げたいって思っている。

 逃げれる方法を探してる。

 

「……守る価値ある…………?…………あなたは私の何?…………」

 

 たのむから、失望させないで欲しい。

 私の守っているものは価値のあるものだと思わせて欲しい。

 そうじゃないと、私は…………本当に逃げちゃうよ?

 戦わなくていい場所に、戦わなくていい地位に。

 海上国家(ここ)の安全なんてどうでもいいと思ってしまうよ?

 男をじっと見つめる。

 男は何も言えないのか、口をパクパクさせている。

 

 スパンッッ!

 

 その時男の顔が店主によってはたかれた。

 

「すまんね、コイツ酔っぱらっちゃって」

 

「…………??」

 

 今度が私が目を見開いた。

 

「みんな感謝してるよ、俺たちは戦えないからな……ただ守られていることしかできない」

 

 だから、気にしないでくれと店主は言った。

 

「守られていることは当たり前のことじゃない。時々みんなそのことを忘れちまうんだ」

 

 そうかもしれない。

 私も、前世では平和な世界が当たり前だと思っていた。

 その平和を維持している人々の苦しみなんて、考えもしなかった。

 私が戦っていることは、当たり前のことなんかじゃない。

 こんなこと、当たり前であってたまるか。

 

「戦うあんたらに返せるものなんてそんなにない。俺にできる恩返しにしたって…………せいぜい煮卵のトッピングをサービスするぐらいか」

 

 なんだそれ?

 命がけの戦闘の報酬が煮卵のサービス?

 ふざけているな。

 ああ、ふざけている。

 

「だけど、見捨てないでやってくれるか」

 

 …………止めて欲しい。

 

 そんな風に言われると、逃げ出したくなくなるから。

 …………せっかくの休日だったのになぁ。

 

「……………行かなくちゃ…………」

 

「お代はいらねぇよ」

 

 忘れるなよ、煮卵。

 食べにくるからな、絶対に。

 絶対に。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 鳴り響く警報、あたしたちは襲撃してきた屍械に立ち向かうべく出撃準備を進めていた。

 整備士たちが忙しなく動き回り駆動騎兵の整備を進める。

 あたしも手早くパイロットスーツに着替えて機体の下へと急ぐ。

 

「おいどうした、なぜ黒鉄の整備をしない!!」

 

 そんな中、怒鳴り声が聞こえてきた。

 見ると短い髪を白く染めた男が怒鳴り散らしている。

 綺麗に着こなした軍服に幾多の勲章、その厳つい顔立ちには見覚えがあった。

 桐島大佐だ。

 最近その顔をよく見る。

 この基地に、月宮來羽を連れてきたのは男。

 彼女が戦場に参加するようになってから、作戦指揮はこの男が取り仕切っていた。

 少女をまるで兵器のように扱ういけ好かない奴。

 嫌なものを見たと目をそらして、あたしは通り過ぎようとした。

 

「月宮は本日休暇を取らせておりますので、ここにはいません」

 

 でも、その言葉を聞いてあたしは足を止めた。

 あの子が休暇?

 それはにわかには信じられない話だった。

 月宮はこの基地に来て以降、襲撃の際にはいつだって出撃していた。

 軍の作った殺戮兵器、その名をほしいままにし誰よりも多くの屍械を倒していた。

 そんな彼女が休む。

 それは良い兆しなのか悪い前兆なのか判断が難しい話だ。

 問題の言葉を発したのは桐島大佐が来る以前、あたしたちに指令を出していた成田大尉だった。

 

「休暇?誰がそんなことを許可した」

 

 普段から厳つい桐島大佐の表情が鬼のように歪んでいる。

 対する成田大尉はいつものように淡々と答えた。

 

「近頃彼女の精神面に不調が見られるため、休息が必要と判断し、自分が許可しました」

 

 精神面に不調、確かにそれはその通りだ。

 あたしにも、思い当たる節はある。

 屍械への無謀な突撃、昨日は戦場で停止し屍械に囲まれていた。

 もちろん、彼女はそのどの状況にも対応し敵を撃墜する。

 でも今の彼女の戦い方はあまりにも合理性を欠いていた。

 以前聞いた彼女の言葉…………彼女は死にたがっていた。

 どう考えてもまともな精神状態じゃない。

 そもそも、あんな小さな子が戦場に出ること自体間違っているのに。

 

「情でも沸いたか?」

 

「は?」

 

 桐島大佐の言葉に、あたしも成田大尉も固まる。

 

「そう言えば、お前には娘がいるのだったか。あれと娘を重ねたか?そのような扱いは、あれには正しくない」

 

「そのようなことは…………」

 

 あまりにもあんまりな物言いだった。

 少女を物のように扱う発言、それはあたしには到底許せる物ではない。

 

「別にあれを休ませたいと言うなら構わんが、代わりが必要ではないかね?どうだ、お前の娘など、あれと背格好も近いなら適性もあるかもしれないぞ?」

 

「そ……れは…………」

 

 適性があるかもしれない。

 何に?

 思い浮かぶのは月宮をあんな風にした人体実験。

 上層部が行っている人体実験を肯定する発言だった。

 そして成田大尉の娘を人質に取るような発言。

 もう、黙って見ていることはできなかった。

 

「代わりなら、あたしたちがいるでしょう。あたしたちが戦えばいい、これまでだってそうしてきたわ」

 

 あたしは桐島大佐と成田大尉の間に割り込んだ。

 

「誰だ貴様」

 

「自分は阿佐部亮、軍人です」

 

 桐島大佐に睨まれたが、胸を張って答えた。

 そうだあたしたちは軍人だ。

 民を守るため、今ここにいる。

 戦いたくない子供を無理矢理戦わせなくていい、あたしたちが戦う、それがあたしたちの仕事だ。

 

「上官の会話に勝手に入ってくるなと言いたいのだがね」

 

 そんなことは百も承知だ。

 それでも、引けない時はある。

 彼女を戦場から解放するとあの時決意した。

 あたしも負けじと睨み返す。

 警報が鳴り響く中、あたしたちは睨み合った。

 先に根負けしたのは桐島大佐の方だった。

 大佐はため息を吐くと、踵を返した。

 

「くれぐれも、あれの扱いを間違えぬことだな」

 

「月宮は、人間よ」

 

 あたしは鼻息荒く言い返した。

 でも、桐島大佐は聞いてもいなかっただろう。

 上層部の人間は、やはりいけ好かない。

 屍械を撃退できれば何をしてもいいと思っている。

 自分たちは戦場に出ないくせに。

 

「阿佐部、庇ってくれるのは有り難いが、こんなことを続ければお前の首が飛ぶぞ」

 

「その時はあのむかつく顔面をぶん殴ってから出て行ってやります!」

 

「はぁ…………さっさと出撃しろ」

 

 言われなくても!

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

 意気揚々と出撃するまではよかった。

 黒い機体のいない久しぶりの戦場。

 それでもあたしたちはうまく動けていた。

 屍械を各個撃破し、その進行を食い止められていた。

 

「なにあれ!?あんな形の個体、記録にない」

 

 雲行きが怪しくなったのは記録にない新型の屍械が現れてからだった。

 鳥形の屍械より遥かに大きな体躯、速度は鳥形より愚鈍だが、その装甲は今まで戦ってきたどんな屍械より頑丈だった。

 銃弾を打ち込むが、全く効いている気配がない。

 おまけに鳥型とは違い、攻撃型の個体なのか触手の数が桁外れに多い。

 何十という触手があたしたちを喰らわんと蠢く。

 幸い本体の速度が遅いので、触手の射程外まで離脱するのは簡単だ。

 でも逆に言うとあたしたちは新型に近づくことはできない。

 射程内に入れば即時にその凶器で蜂の巣にされてしまうだろう。

 射程外から、ちまちまと狙撃するしかない。

 でもその攻撃は…………効いてる様子がなかった。

 硬直した戦局、有利なのは屍械の方だ。

 なぜなら、向こうの目的は防電壁を突破することだからだ。

 あたしたちの撃墜が目的じゃない。

 だからこうやってじわじわと進むだけでよいのだ。

 屍械はじりじりと防電壁に近づいていく。

 このままでは、いずれ上陸されてしまうだろう。

 遠距離攻撃ではだめだ、もっと威力の高い弾丸を至近距離で喰らわせないとヤツの装甲を貫けない。

 でも、誰も動かない。

 伝灯を瞬かせて、様子を伺うばかり。

 誰も、あの量の捕食触手の攻撃を掻い潜れる自信などなかった。

 あたしも、自信なんてない。

 でもあたしは、あたしが月宮の代わりになると言った。

 彼女がいなくてもあたしたちは戦えるってことを証明しなければならない。

 

 あたしが行く!

 あたしは新型に突撃しようとした。

 

 でもその前に、黒い閃光が戦場に飛来した。

 

「月宮!!?」

 

 なんで?

 あなたは、休んでいたはずなのに…………

 なんで、戦場(ここ)にきたの?

 少女の操る黒鉄が、襲いくる触手を掻い潜り新型に接近する。

 うまい、自分を攻撃する触手を利用して死角を作り出している。

 あたしじゃ…………あんな曲芸はできない。

 

「なんで……っ!!」

 

 あたしは思わず悪態をついた。

 自分に腹が立った。

 何が、戦場から解放するだ。

 結局彼女はこの地獄に戻って来てしまった。

 あたしたちが頼りないから。

 悔しかった。

 ただただ無力な自分が情けなくて仕方がなかった。

 このままじゃ負けると思ってしまった。

 黒い機影を見た時…………………安堵してしまっていた。

 それが、許せなかった。

 

「あたしだって!!」

 

 あたしも、新型に突貫する。

 大きなその巨体に向かって銃を乱射する。

 

 …………?

 

 捕食触手の攻勢が薄い、それに狙いも正確じゃない。

 新型はあたしたち二機に対して精細に欠いた攻撃を繰り出すだけだった。

 もしかして……こいつは同時に複数の対象を攻撃するのは苦手なのかも!?。

 こんな簡単な弱点にも気付けなかったなんて……あたしたちに勇気さえあればすぐ気づけたはずなのに。

 これなら、行ける。

 あたしは友軍に伝灯を灯す。

 

「何ボサッと見てるの!?今がチャンスよ!!子供なんかに手柄を取られていいの、見せてやりましょうあたしたち軍人の底力を!!!」

 

 あたしのメッセージが、友軍に届く。

 メッセージを受け取った友軍が、伝灯を灯しまた隣の友軍へとメッセージを伝達していく。

 戦場にいくつもの光が瞬いた。

 駆動騎兵たちが空を駆け、新型の屍械に殺到する。

 火器が火を吹き戦場にいくつもの閃光が瞬いた…………

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……ふー…………」

 

 私は、基地に帰投すると息を吐き機体から降りた。

 私が出撃しなくても…………別に大丈夫だったな。

 結局あの新型は私以外の友軍の総攻撃によって撃破された。

 私のしたことといえばドヤ顔で登場してちょっと敵を引きつけただけ。

 なんか恥ずかしくなってきた。

 馬鹿にされる前にさっさと自室に戻ろう。

 

「月宮!」

 

 自室に戻ろうとする私を誰かが呼び止める。

 振り返ると、そこには今朝私に休日をくれた上官が立っていた。

 

「戦いたくないのに、なぜ戻った?」

 

 なぜ?

 こっちにも、色々とあったんですよ。

 ラーメン屋であんたたちが馬鹿にされているのも腹が立ったし、新型の屍械を見て心配にもなった。

 ラーメン屋の店主にもお願いされた。

 そしてなにより…………

 

「…………煮卵……」

 

「は?」

 

 戦う、理由が何か欲しかった。

 どんな小さなことでもいいから。

 

 なんのために戦っているか、いつも疑問に思っていた。

 私には記憶がない。

 私には戦う大義も守りたいものもなかった。

 だから、逃げ出したかった。

 戦いたくなかった。

 今日、小さな、馬鹿みたいな戦う理由ができた。

 だから私は戻ってきた。

 

 この先、どんどん戦わなくちゃいけない理由が増えていくのだろうか?

 逃げちゃいけない理由、守りたいもの、そんなものが積み重なって私を縛るのだろうか?

 それを、悪くないと思っている私が、どこかにいた。

 

「これ以上……………優しくしないで…………」

 

 これ以上絆されたくはなかった。

 少なくとも、今は………………




1話みたいに魔改造しようかと思ったけど完成度が高すぎて変更するとこが無かった(唐突な自画自賛)
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