転生したら強化人間でした。ロボット乗る感じ?あ、はいそうですか【再起動】   作:黒葉 傘

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とあるゲームのおかげで強化人間が話題になっていましたね。
つまり今こそ更新の時!


カスタム性は豊富なほどいい

 意識が機械と同化する奇妙な感覚。

 その感覚に身をまかせながら私は空を駆ける。

 いつもの独断先行、私は単機で屍械へと接近する。

 駆動騎兵のメインカメラが遥か遠くにいる敵の姿を捉えた。

 球根のような、ラグビーボールのような奇妙な浮遊体。

 見たことのない形、新型だ。

 突如現れたその新型を撃墜するため、私は出撃した。

 何をしてくるか分からない敵、緊張している精神とは裏腹に私の顔はやはり人形のように無表情なのだろう。

 敵のシルエットがどんどん大きくなっていく。

 射程距離までもう少し。

 改造された私の脳が正確に敵との距離を測る。

 もう少し……もう少し…………もう……………………

 

「……?」

 

 シルエットの大きさが変わらなくなった。

 相手に接近し続けているのに距離が縮まらない。

 私が接近するのと同じ速度で遠ざかっているのか?

 このままではいつまで経っても攻撃が届かない。

 逃げるつもりか?

 なら最高速で。

 全てのバーニアを点火し、速度を上げる。

 速度が何倍にも跳ね上がり、機体がギシギシと軋みを上げた。

 一瞬距離が縮まったが、敵も負けじと速度を上げ、私から逃走する。

 いいだろう、速度比べだ。

 機体を制御し、飛行に一番適した姿勢を取る。

 最も空気抵抗が少なく、効率的なポーズ。

 私の加速にシルエットがまた大きくなる。

 速度は私の方が上、このまま距離をつめて鉛玉を撃ち込んでやる。

 そう思った途端、機体の速度が突如として落ちてしまった。

 

「な!?」

 

 モニターに表示された警告の数々。

 

「……燃料切れ?」

 

 警告に示された燃料の残量、これ以上敵の追跡を続ければ、海上都市に帰投するのに必要な燃料まで使うことになってしまう。

 確かに、敵を追うのに必死で気づかなかったが海上都市までかなり離れた地点まで来てしまっていた。

 これ以上追うのは……無理か。

 球根型の屍械はまるで嘲笑うかのように私から一定の距離を保って浮遊していた。

 こいつ……馬鹿にしやがってぇ……

 私は歯噛みしながらその屍械を諦めるしかなかった。

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

「新型はお前が対処する必要はない」

 

 桐島大佐の出した命令は、自室待機だった。

 あれから数度新型は海上都市に接近し、その度に私は出撃したが奴は絶対に私たちを射程距離に入れることなく逃走を図った。

 黒鉄のスペックではあれに追いつくことはできなかった。

 人類の技術の敗北だ。

 私たちは倒せない屍械に一時は頭を抱えた。

 しかし、別に追いつく必要はなかったのだ。

 黒鉄だろうと他の駆動騎兵だろうとそれは近づけば逃げる。

 撃墜しなくても適当な駆動騎兵一機で追い回していれば海上都市から引き離しておけるのだ。

 最終的に軍は新型に目立った脅威なしという結論を出した。

 それで私はお役御免になってしまった訳だ。

 うーん、なんなんだろうねあの屍械、私たちを監視しているつもりなのかな。

 喉の奥に骨が刺さったみたいに気に掛かるんだけど……黒鉄でも追いつけないんじゃしょうがない。

 私にできることはない。

 現状私は役立たずだ。

 じゃ、ラーメンでも食べに行こうかな!

 軍服に着替え、私はスキップしながら基地を出る。

 最近、いちいち許可を取らなくても外出できるようになった。

 屍械が出た時にすぐに基地に戻れる範囲だけ、という制限はあるけどこうやって外食しに行くくらいで止められることはもうない。

 これも私の地道な努力のおかげだね。

 毎日外食を要求しただけだけど。

 麺類は私の主食だからね。

 街の人々も軍服を着た少女の姿に見慣れたのか最初のように不審な目で見られることも少なくなった。

 ラーメン店ではもはや常連という地位を確立してさえいるのだ!

 煮卵タダでトッピングされんだぜ、そりゃ行くでしょ!

 とはいえ毎日同じラーメンでは飽きてしまう。

 なので今日は足を伸ばして別のラーメン店に来ていた。

 あのラーメン店とはジャンルの違うやつだ。

 席について店主に食券を渡す。

 トッピングを聞かれたので、前世でおなじみのトッピングを答える。

 こういうどうでもいい受け答えは問題なくできるんだけどな。

 なんで肝心な場面だけうまく喋れないんだろう、この身体は。

 まぁいい、この手のラーメンは久しぶりなのだ、楽しみだなぁ。

 そうやってホクホクとラーメンを待っている私の隣の席に誰かが腰掛けた。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 うん?

 見上げると、私の隣に座ったのは見覚えのある女性だった。

 あ、同僚のお姉さんじゃん。

 基地抜け出してラーメン屋まで来るなんてどったの?(ブーメラン)

 確か、阿佐部……亮さんだっけ。

 この人の私を見る目って他の軍人と違って優しげなのよね。

 以前私の単独での突貫を責められてちょっと険悪な雰囲気になったこともあるけど、あれってよく考えれば私を思っての発言みたいだったし……

 もしかしたら私を取り巻く大人の中では珍しくまともな感性を持っている人なのかもしれない。

 

「あなたのことをもっと知りたいの」

 

「…………………………」

 

 とはいえ、この人ちょっとやり方が間違っている。

 きっと私の現状を変えたいと思ってくれているのだろう。

 彼女の気遣うような眼差しからそれは分かる。

 だけど兵器として作られた私をどうこうできる権限は彼女にはない。

 軍の上層部がそれを許さないだろう。

 だから、彼女はこの強化人間プロジェクトの核である私と接触し現状を変えようとしているのだろう。

 でも、私ではどうしようもないんだ。

 阿佐部さんと同じ、いやそれ以下の地位の私は現状を変える術を持たない。

 彼女がアプローチをかけるべきなのは私ではなく軍上層部の方なのだ。

 とはいえ、それを伝える口を私は持たない。

 

「ねぇ……」

 

「トッピングは何にします?」

 

「は?」

 

 阿佐部さんが話を進めようとしたとこで間が悪く店主からトッピングを聞かれてしまう。

 

「トッピング?」

 

 阿佐部さんはキョロキョロと店内を見渡している。

 こういう店は初めてなのだろうか?

 トッピングはメニューに書いているようなものじゃないぞ。

 

「えっと……じゃあこの子と同じで」

 

「あいよ!」

 

 結局阿佐部さんは私を指差して同じものを頼んだ。

 え、それでいいんだ……まぁいいか。

 

「コホンッ……ねぇ月宮ちゃんはどうしてパイロットになったの?」

 

 咳払いを一つし、阿佐部さんは話を軌道修正した。

 ん…………その話かぁ。

 

「…………知らない」

 

「知らないって……真面目に答えてよ」

 

 これが本当に知らないんだよなぁ。

 私が聞きたいくらいだよ。

 私は前世を思い出す前の記憶がさっぱり思い出せないのだ。

 阿佐部さん視点だと兵器として改造され酷使されても、なぜか逆らわず従順な少女って感じなんだろうけど。

 私としては記憶がない訳で選択肢がないのよね。

 

「両親は?あなたの保護者はどうして何も言わないの?」

 

 親か……いるのかな?今の私に。

 今世の私である少女の家族構成なんて全く知らない。

 いるのかも、いたのかも。

 娘がこんなふうに兵器として使われるのを許容する親がいるとは考えたくない。

 ということは、もう死んでいるのかもしれない。

 それとも娘を捨てるような人でなしか……

 

「…………人でなし……」

 

 あ!

 まーたこの口が余計なこと口走った。

 私の小さな呟きに阿佐部さんの目が見開かれる。

 これはまた勘違いを加速されてしまったかもしれない。

 

「それって…………」

 

「へいお待ち!」

 

 阿佐部さんの言葉はまたもや店主によって遮られてしまった。

 ムッとする彼女の顔が机に置かれたラーメンを見て固まる。

 

「なに……これ?」

 

 なにって豚骨ラーメンヤサイマシマシカラメマシアブラマシニンニクだぞ。

 私は動揺することなく割り箸を手に取る。

 まぁ確かに何も知らなければ驚くかもしれない。

 それはまさに山だった。

 こんもりと盛られた野菜、もやしとキャベツにより麺は見えず、絶望感が煽られる。

 目が点になっている阿佐部さんの横で私は粛々と食事を始める。

 これはもはや登山と同じ、スポーツの一種なのだ。

 いまから私はこの山を攻略する。

 おしゃべりなどしている暇はないぞ!

 

 結局阿佐部さんは目の前の山に苦戦し、話どころではなくなってしまったのであった。

 大丈夫?天地返し教えよか?

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

 ふー食った食った。

 私は確かな満足感を得ながら基地へ戻った。

 どうせ新型は私が対処する必要がないんだし、今日は自室で読書でもしていようかな。

 そう、思っていたんだけど。

 

「あぁ月宮君ちょうどいい、付き合ってくれたまえ。見て欲しいものがあるんだ」

 

 これまた見覚えのある男に肩を掴まれる。

 黒鉄を作ったという技術者、崎浩二が目を爛々と輝かせて私を見ていた。

 うわぁ……この人苦手なんだよね。

 彼は阿佐部さんとは別の方向で私に対して勘違いをしている男なのだ。

 こいつは私が駆動騎兵の有識者とでも思っているのか黒鉄の改修について度々意見を求めてくる。

 出力がーとか新型兵装がーとか……

 知るか!私はただのパイロット以下だよ!と言えれば良いのだが、この不自由なお口のせいで私はいまだにこいつを拒絶できずにいた。

 そうして今日も断りきれず、引きずられるように私は格納庫まで連れてこられてしまった。

 

「…………?」

 

 格納庫には見慣れない武装が沢山並べられていた。

 私に見て欲しいものとはこれのことだろう。

 黒く塗装された数々の凶器、また黒鉄のオプションパーツの話だろうか?

 

「現状の技術では黒鉄のスピードを上げるのはこれ以上無理だ。近づくのが無理?ならば射程距離を伸ばせばいい。黒鉄の遠距離武装、新造したんだ!」

 

 はぁ?

 いきなりなんの話だ。

 多分新型屍械のことだろうけど。

 あの……新型は無理して撃墜する必要ないって話じゃなかったっけ。

 なんでこの男は倒す必要のない敵を倒すための武装を作っているんですかね。

 馬鹿だ、この短い期間で武装を作ることも含めてド級の馬鹿だ。

 

「……新型は私が対処しなくても……」

 

「君は悔しくないのかい!!」

 

「はぁ……?」

 

「あの黒鉄が出撃したのに、敵を撃墜せずに無様に帰投するなんて!!」

 

 いや……全然悔しくないです、全く、これっぽっちも。

 

「僕は悔しい!!!」

 

 さいですか……

 要するにこの男は自慢の作品である黒鉄が無様を晒したのが許せなかったらしい。

 悔しがるのは勝手だが、私を巻き込まないでいただきたい。

 私は技術者でもなんでもないのだ。

 

「という訳で搭乗者である君の意見を聞きたい」

 

 そう言われてタブレットを渡される。

 そこには追加武装の数々が明記されていた。

 しかしこれは…………

 

「……ヤサイマシマシカラメマシアブラマシニンニク」

 

「は?」

 

 数があまりに多すぎる。

 武装の種類の数もさることながらそのオプションパーツも山のようにある。

 何度も言うが(言えてない)私は技術者じゃない。

 ラーメンのトッピングと一緒なのだ、こんなん知らない人からすれば呪文でしかない。

 カスタム性は豊富なほどいい。

 それはラーメンもロボットも同じだ。

 だがそれはある程度知識があってこそ成り立つ話なのだ。

 無知な人間に適当に選ばせると地獄を見ることになるぞ、今日の阿佐部さんのようにな!

 だが、私もラーメン通の端くれ、こういった事態の対処法は心得ている。

 初めて訪れた店舗でも安心できる注文方法、それは……

 

「…………お任せで」

 

 そう言って私はタブレットを崎さんに突き返した。

 プロに任せるに限るね。

 プロが一番美味いと思う配分にお任せする。

 そうすれば滅多なことにはならないだろう。

 店主のお任せ、それすなわちその店の味といっても過言ではないのだから。

 

「お、おい……武装を試し撃ちしなくていいのか?」

 

 専門家にお任せしまーす。

 戸惑う崎さんを置いて私はさっさと自室へ戻った。

 大佐が私が対処する必要はないって言ってんだから、その武装だって使い道ないでしょ。

 使い道なしの武装をなんで苦労して選ばなければならんのよ。

 私は帰って読書しますので、さらばだ!

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

 新型は脅威じゃない。

 そんな軍の判断が覆されたのはそれからしばらく経ってからだった。

 

「うん?」

 

 その時、私はいつものように自室で本を読んでいた。

 新型以外の屍械の侵略もなく、最近は毎日がこんな感じだったのだ。

 もう日も暮れて、そろそろ寝ようかと思っていたのだが、急に部屋が暗くなった。

 なんの前触れもなく突然電気が消えた。

 停電か、と思ったがここは軍の基地だ、予備電源があるだろうし停電如きで電気が消えるはずがない。

 なんだか様子がおかしい。

 頭に装着したカチューシャ型端末が電子音を発し、私の頭に直接メッセージを受信する。

 司令室に集合?

 おそらくこの謎の停電についてだろう。

 いつもの黒セーラを身に纏い、急いで自室を出る。

 

「…………暗い」

 

 廊下の窓から見える街並みには明かりが灯っていなかった。

 この基地だけでなく私の視界に映る都市が停電している。

 一体どういうことだろう?

 暗くなった通路をかすかな明かりを頼りに司令室を目指す。

 流石に軍人というべきか基地内はそれほど混乱した様子がないように見える。

 もしかして状況を分かっていないの、私だけ?

 司令室の扉を開けると、基地の上層部の人間が勢揃いしていた。

 

「来たか」

 

 いつものように司令室の一際高い位置に座した桐島大佐が私を見下ろす。

 司令室のモニターでは望遠で捕捉された新型が夜空に浮かんでいた。

 

「はじめよう、状況は?」

 

「先ほど新型屍械により第三防電壁が突破されました。これにより暫定的に侵入レベルが6に引き上げられました」

 

 は?なんだって?

 防電壁が突破された?それに侵入レベル6って聞いたことのない数値だ。

 確か侵入レベル5からネットワークが止まるんだよね……ということはこの停電は屍械の攻撃じゃなく、都市の防衛機構?

 展開に付いていけない私を置いて大人たちの話が続いていく。

 

「新型は防電壁より遥かに離れた地点にいるはずだ、どうやって防電壁を破った」

 

「詳細は不明です。ですが新型は未知の波形の電波を都市に向けて放っていることが判明しました。おそらくこの電波により防電壁のシステムがダウンしたと考えられます」

 

「戦闘ではなく電波侵入に特化したタイプか……このままでは第二、第一防電壁も危ういな」

 

「侵入レベルが6では足りないのでは?」

 

「名称はどうします、侵食型屍械なんていいんじゃないですかね」

 

「馬鹿が、名前やレベルの話をしている場合ではない!一刻も早く新型を破壊しなければこの都市は終わりだぞ」

 

 なるほど、新型は都市に接近した訳ではないのか。

 新型が逃げに徹していたのは物理的な攻撃能力がないから、でもそれは脅威なしという話ではなかった。

 新型は密かに毒を放ち続けていたのだ。

 怪電波によるシステムダウン、今までの屍械では考えられない未知の攻撃方法だ。

 都市を守るためには新型の撃墜が急務なのは分かるけど…………

 できるの?

 あの新型は逃走という面で見れば完璧だ。

 この基地の戦力で新型に追いつける駆動騎兵はいない。

 それができるならとっくに撃墜している。

 

 いや……待てよ。

 確か馬鹿げた撃墜方法を提案していた間抜けがいたな。

 

「崎浩二」

 

 桐島大佐がその間抜けの名前を呼んだ。

 

「貴様のプランでは、あれを撃墜できるらしいな、本当か?」

 

 間抜けの顔に笑顔が広がる。

 防電壁が突破され、失敗は許されない崖っ淵の状況。

 それなのにその男は自信に満ちた顔で言い切った。

 

「ええ、可能です。月宮と黒鉄ならね」

 

 あぁ……やっぱそうなるの。

 私がロボット乗る感じ?…………あ、はいそうですか。

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

「さぁ、月宮君見るがいい。これが君の望んだ遠距離狙撃特化改修の黒鉄だ!!」

 

 海上に浮かんだ空母の上、その滑走路に鎮座した機体を指差し男は自慢げに言った。

 得意げな顔、褒めて欲しいのかチラチラとこちらを見る視線を感じる。

 えー……違います、こんなものは望んでいないです。

 プロにお任せすれば間違いないと言ったな…………あれは嘘だ。

 うわぁぁあああああ!(絶望の断末魔)

 今お任せするのが常識人ではなくとんでもない変態だった場合、とんでもないものが出てくるということがよく分かった。

 私の目の前に鎮座した黒い駆動騎兵、見慣れたはずのそれは全く違うシルエットに変化していた。

 目につくのは背部バックパックに装着された大型の遠距離武装なのだが、でかい。

 でかい……うん、でかい。

 黒鉄の身長ほどある大砲のような大型兵装が両肩の上から空を向いている。

 両肩から、つまり黒鉄にはそんなデカブツが2門取り付けられていた。

 なぜガ○キャノン方式を採用したし。

 そんなロマン武装を取り付けずれた重心のバランスを取るためか、脚部が増えている。

 駆動騎兵はいつから多脚ロボットになったんだ?

 

「見たまえこのツインキャノンを、この迫力!威力!これで相手の意識外から侵食型を撃ち抜けるぞ」

 

 一門でよくねぇ!?

 遠距離狙撃だって言ってんじゃん。

 どこにスナイパーライフル二丁で狙い撃ちをする変態がいるんだよ。

 普通に腕で持たせてよ。

 あとこれ人形ロボットの意味ある?兵装といい多脚といい重量が増えすぎて飛べないよ!固定砲台だよ!

 心の中で盛大にツッコミを入れるが、悲しいことに私のお口は黙ったままだった。

 

「チャンスは一度っきり、一度外してしまえば新型屍械は二度と射程内に入ってくることはないでしょう」

 

 オペレータが私に念を押してくる。

 外しちゃダメなの……いや無理でしょこれ。

 信じられるか、これ試し撃ちもしたことないんだぜ。

 まぁ、試し撃ちを断ったのは私なんだけど。

 失敗できない一発勝負、かかっているのは都市の存亡……全く笑えない話だ。

 空の向こうを睨みつけるけど、遠すぎて私には件の屍械は見えなかった。

 

「…………よし」

 

 文句を言っても仕方がない。

 私は覚悟を決めて黒鉄に乗り込む。

 黒鉄と私を繋ぐプラグがカチューシャに接続された。

 途端に奇妙な感覚が私を襲う。

 意識が機械と同化する感覚、それがいつもと違う。

 想像してみて欲しい自分の足が割れ、いくつもの足に分岐する感覚を。

 とんでもない違和感に気分が悪い。

 だが背負った兵装の反動に耐えるためにはこの多脚は有用だ。

 メインカメラも調整されているのか普段よりも長距離の様子が目視できる。

 肉眼では目視できなかったはずの屍械の姿がまるで目の前にあるかのように見える。

 私は増えた足を操り、位置を調整する。

 それと同時に今回の主兵装であるツインキャノンの情報を機体から引き出す。

 有効射程は5km、弾速は1500m/sオーバというとんでも兵器だ。

 確かに弾速はある程度ないと侵食型は躱してしまうだろうけど。

 戦艦の主砲じゃあるまいしこれだけの出力必要なのか?

 目標への狙撃位置は機械が割り出してくれる。

 だが機械の指示通りに撃っても命中は難しいだろう。

 ここは海上だ。

 いくら遠距離狙撃特化改修したとはいえ都市からの狙撃は不可能だった。

 だから空母を出して敵から3km離れた地点まで接近しているのだが……

 極限まで抑えられているとはいえ空母は海の上に浮かんでいるのだ。

 つまり揺れる。

 揺れ、気圧、気流の影響、弾道の軌道。

 必中させるために考慮しなければいけないものは山ほどある。

 それらを改修による同期の違和感と闘いながら計算する。

 いくら強化された脳だとはいえ負荷がかかりすぎて頭痛がしてきた。

 今の私はあの山盛りのラーメンを目の前にした阿佐部さんと同じような顔色をしていることだろう。

 せめて試し打ちしとけばよかった……今更になって後悔する。

 そうすればこの兵器の“クセ”を把握できて少しは楽ができたというのに。

 

「…………………っ………」

 

 どうしようもない苦痛の果てに、私は狙撃コースを割り出した。

 でも、私は引き金を引かない。

 外せない、その責任と重圧が私を躊躇わせる。

 本当に、これで当たるのだろうか?

 引き金を引くのは簡単だ、だがそれで全てが決まる。

 鼓動が早まるのを感じる。

 当てれる自信なんてない、だから何か引き金が引ける根拠が欲しかった。

 当たる、私なら当てれると信じられる何かが。

 ふと、私の視界の隅に何かが写った。

 見覚えのある顔。

 崎浩二がまっすぐこちらを見ていた。

 いつものように、自信に満ちた顔で。

 

『可能です。月宮と黒鉄ならね』

 

 彼の放った言葉が脳裏に蘇る。

 あの技術者はいつも私を崇拝するかのような目で見ていた。

 自分の作品は最高傑作だ、だがその意義はその性能を引き出せる君がいてこそだ。

 彼の態度がそう言っていた。

 だから彼は技術者でもなんでもない私にいつも意見を求めてきた。

 彼の語る黒鉄の性能自慢話を思い出す。

 そこにある確かな自信を。

 そうだ…………信じる根拠なんて必要ないじゃないか。

 息を吐いて力を抜く。

 そうして私は目標に狙いを定め引き金を引いた。

 右側のキャノンから爆音が鳴り響き、弾丸が射出される。

 弾丸は目標に向かって突き進み。

 

 

 

 

 見事に外れた。

 

 

 

 

「…………………………」

 

 おい。

 これで外すのかよ。

 いや、やっぱダメだよぶっつけ本番は。

 思ったより弾道が落ちなかった、それが敗因かな。

 は〜〜〜〜…………

 私は脳内で盛大にため息をついた。

 いくら計算が正確だろうとそれが全てじゃない。

 様々な要因で弾はブレるのだ。

 さて…………

 

 じゃあ()()()で当てようか。

 

 一発で当てないといけない。

 それは確かにそうだ。

 あの屍械は私から狙撃されたと気がついたらすぐに距離をとってしまうだろう。

 狙撃できない遥か遠くへ。

 じゃあ、それっていつの話なのだろう。

 目標は狙撃されたと、どうやって気づくのだろう?

 当たっていないのに。

 気づくとしたら、それは狙撃から生じる風圧か音だ。

 このツインキャノンレベルの弾速だと弾道の目視は難しい。

 マズルフラッシュもこの距離ならば小さな瞬きにしか見えないだろう。

 奴が独自の感覚器官を持っていないのであればその2つしかあり得ない。

 そして、今回風圧で気づくことはあり得ない。

 だってかなり離れた位置に打ち込んだから。

 私は屍械じゃなく、そこから離れた位置にある一番星を目標にして撃ったから。

 つまりこれは試し撃ちだから。

 なぜ一発限りの狙撃で試し撃ちなどという馬鹿げたことをやっているかというと、それにはちゃんとした理由がある。

 敵が狙撃に気付くのは音か風圧。

 で、風圧はかなり離れた位置を狙ったからあり得ない。

 つまり屍械は音でしかこちらの狙撃に気が付く手段がないのだ。

 さてここからは数学のお時間です。

 私の狙撃の音は何秒後に敵まで届くでしょうか?

 気圧の問題もあるけど音はだいたい340m/sの速度で進行する。

 3kmほど離れた位置にいる敵まで狙撃音が届くのには10秒前後もの時間がかかってしまうのだ。

 1500m/sオーバの弾速がその地点にたどり着く時間とこうやって悠長に考え事している時間を指し位引いたとしても、敵がこちらの狙撃に気づくまで少なくとも5秒は猶予があるのだ。

 思ったより、時間がある。

 それが私が本番なのに試し撃ちなんかした理由だ。

 5秒、そのたったの5秒で十分だった。

 左側のキャノンから爆音が鳴り響き、弾丸が射出される。

 もうすでに私の脳は第一射での弾道のクセを計算に組み込み、完璧な狙撃コースを割り出していた。

 これが、一門のみの狙撃銃のタイプの兵装だったなら、次弾の装填などの関係で5秒では間に合わなかっただろう。

 だがこれは()()()キャノンだ。

 まさかあの技術者はこれを想定してツインに?

 いや、そりゃないか。

 ため息を吐く私の視界の先で、屍械は爆散した。

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

……

 

 

 

 コックピットのハッチが開く。

 私は頼りない足取りで、格納庫の地面に降り立った。

 身体が重い。

 黒鉄に乗るたびに生じる身体の違和感。

 機械の身体と肉の身体のギャップから生じる肉体の不調、乗るたびにそれが酷くなっているように感じる。

 特に今回は酷い。

 自分の足が2本しかないことに違和感を感じる。

 短時間の同期であったにも関わらず、私の脳はあの多脚が本来の足の形だと勘違いしてしまっていた。

 歩き方が分からず、壁に手をつく。

 

「素晴らしい!流石だ月宮君、僕の遠距離狙撃特化改修はどうだったかね?」

 

 そんな私の様子を気にかけることなく、崎さんが小躍りしそうな様子で近づいてくる。

 本当にこの男は……

 

「…………ダサい……戻しておいて」

 

「酷い!」

 

 技術者は私の言葉に涙を流した。

 知るか!

 無視して自室に帰ろうとするけど、どうにも歩きにくい。

 

「大丈夫?」

 

 頼りない足取りで歩く私を誰かが支える。

 顔を上げると阿佐部さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

 

「すごい汗じゃない、歩ける?」

 

 身体の感覚を思い出すまでにまだ少し時間がかかりそうだった。

 私は首を横にふる。

 阿佐部さんは自室まで、肩を貸してくれた。

 さっきまで理不尽を強要されていたせいか、人の優しさが身に染みる。

 支えてもらいながら両足を交互に動かし、自分の足はもともと2本なのだと脳に言い聞かせる。

 そうやって自室に着く頃には、私はどうにか一人で歩けるようになるまで回復していた。

 心配する阿佐部さんに頭を下げ、自室の扉を閉める。

 そうして私はベットに突っ伏した。

 …………疲れた。

 私はいつまでこうやって戦い続けるのだろうか?

 汗で湿った制服を乱暴に脱ぎ捨てる。

 素肌に直に触れる布団の感触が心地よい。

 このままずっとこうしていたいけど、そうはいかない。

 首を傾けて、脱ぎ捨てたセーラー服を視界に収める。

 シワがついてしまう、私の仕事着はこれ1着しかないのだ。

 

「ん?」

 

 裏返しにして床に放られたセーラー服、そこに見覚えのないものが見えた気がした。

 なんだ……あれは…………文字?

 セーラー服を拾い上げる。

 服の裏地に刺繍がしてある。

 今までこんなものがあるなんて全然気づかなかった。

 

『宮東陽向』

 

 名前だ、この制服名前が書いてある。

 誰の?

 

「……………………私の?」




計算の件は突っ込まないでください、かなり適当です(作者は算数ができない)
要約すると音速君おっそーいw弾速にも追いつけないの?ざ〜〜こ❤︎ざ〜〜こ❤︎って話です。
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