第1話 500年後の復活
「───『終焉』を止めるには俺が適任だ」
長身で黒衣の男が自身の周囲にいる人々へ向けてそう告げた。その面々は誰もが悲しみにその表情をうち歪ませており、黒衣の男が如何に慕われているかが見て取れた。
「わかるだろ?お前らは護るべき民と国そのものがある。だが俺が護りたいモノは…お前らだぜ?」
「でもそれをすればキミは…」
少年が黒衣の男へそう言うが男はフッと笑うだけでその言葉に返答はしなかった。だが、結果が見えているその場の全員が苦々しげな表情を浮かべた。だが、そんな中で後から紫色の頭髪を持つ着物を来た女性が慌てた様子で走ってきた。表情からも、行動からも焦燥感がありありと見て取れ、黒衣の男は女性を落ち着かせると何があったのかを聞いた。
「ッ…彼女が───眞がいないんです!」
現在、ここテイワット大陸は…否、この世界は未曾有の危機に瀕していた。
この世界には『八神』のうちの七柱の神が治める7つの国が存在しているのだが、その神が治めていない国であるカーンルイアという国がその7つの国へ向けて宣戦を布告、全世界へ向けてその圧倒的な軍事力を以て侵攻を開始した。
同時に、カーンルイアの力の増大によって世界間の力の均衡が崩れ、力の強い世界に力の弱い世界が引っ張られる状況になってしまったのだ。
『終焉』と呼ばれるこの現象を止めるため、『八神』の中で唯一国を持たぬ神である『元神アガレス』が動き、その『終焉』を自らを犠牲にして食い止め、永き眠りについた。
───わかっているわ…私じゃ、どうにもできないってことくらい。けれど…それでも、あなたを死なせたくはないの…アガレス、あなただけは絶対に…。
『終焉』の爆心地付近で、黒衣の男がボロボロになっている紫色の頭髪を持つ女性を横抱きに抱えている。黒衣の男は女性を見ながら目を伏せて涙を流していた。
───バカ野郎、お前は大バカ野郎だよ、眞。俺だって…この世界を、何よりお前を絶対に死なせたくなかったんだがな…。
黒衣の男は諦めたように笑みながらそう呟くと、そのまま息も絶え絶えになった女性を抱えたまま、爆心地に飛び込むのだった。
〜〜〜〜
昔はよかったな、なんて思うことが最近は絶えない。俺自身、今は肉体を持っていないのだから当然と言えば当然だがそんな思いが日に日に強くなっているのを感じていた。
───皆のことを…この世界を、お願いします、アガレス。
いつだったか…世界がこの世界として定まる以前の話だったな。俺は一度全てを失った。今度こそは、と思っていたのだがな。
───盤石もいつかは…土に還る。お前に後は託す…友よ。
俺は今もまだ眠っている。いや、正確には500年間眠り続けているのだ。
───僕らでは止められなかったこの『終焉』を…君なら止めてくれるよね、アガレス。
俺は500年前、カーンルイアの神に頼らない国造りと、俗世の七国への侵攻が現実味を帯びてきたタイミングでとある危機をとある方法で止めた。
その危機の名を『終焉』という。世界…正確にはカーンルイアが力をつけすぎたことによって隣接する世界とのパワーバランスに差が生じ、結果として力の弱い世界がこちらへ引き寄せられて来たのだ。
世界と世界の衝突…まずもって衝突すれば世界は滅び去るだろう。衝突してきた世界と同様に。
『終焉』とは、カーンルイアの科学力が他のどの国どの世界よりも進んでいたために起きた事象であり、例え数百数千の人間を虐殺しようと、地形を変えるほどの力を持つ人間をどれほど殺そうとも通常このようなことは起こり得ない。
───はずだったのだ。
俺はそう考え脳内で拳を握りしめた…のだが、どうにもおかしい。今や無いはずの手足の感覚があり、事実俺は拳を握りしめている感覚があった。
感覚がどんどん正常へと近づいていき、やがて周囲の音を拾えるようになる。感覚があることから考えられることは唯一つ…復活だろう。
一分もする頃には以前に感じていた感覚とほとんど遜色ないほどになっていた。俺はそこに来てようやく目を開けて起き上がった。
穏やかに吹き抜ける風と木々の葉擦れの音、そして煌々と光り輝く太陽の光が大地を照らしている。
「ここは…?」
久し振りに自分の口から出た言葉がそれだった。500年前とは似ても似つかぬ穏やかな雰囲気に呑まれ、思わずといった形でそう呟いてしまったのだ。
そう、500年前の光景…天は闇に覆われ、大地は罅割れ、魔神や人々の怨念から生まれた魔物が跳梁跋扈する絶望的な光景とは明らかに異なっており、一瞬別の世界ではないか、と疑ってしまったのだ。
だが植物や地形、加えて元素力が感じられるため、ちゃんとテイワット大陸のようだ。
「テイワット大陸…ってことは俺はちゃんと世界を護ることができたみたいだな…」
思わず、といった形で俺はそう呟くと、心の底からの安堵の溜息を吐いた。命を削ってまで『終焉』を止めたのに護れていなかったらそれはもうびっくりだ。正直言って骨折り損のくたびれ儲けも良いところだろう。
それにしてもどうしたものだろうか。
「…大幅に弱体化する可能性を考えていなかったわけではないが…」
昔に比べると半分ほどの力しかないだろう。ただ、そう思った理由が、体が少し重く感じるというものなので、純粋に体が鈍っているだけの可能性も高い。まぁその辺りは追々確かめていけばいいだろう。
さて、見た感じだと俺は稲妻にいるようだ。俺の今いる場所は少し小高くなっているので特にわかりやすいのだが、少し遠くに桜が見える。だからこそ稲妻にいるとわかったわけではあるが、本当に変わっていないようで安心した。
しかしこれからどうしたものだろうか。500年間誰とも話していなかったので正直誰かとまともに話すことができるかどうかはわからない。滅茶苦茶挙動不審になった上に挨拶程度しかまともに交わせない自信しかない。まぁそもそも、旧友達に会えるかどうかもわからないしな。
一先ずは前と同じように全元素が扱えるかどうかの確認を行い、全て問題ないことを確認した後、一旦散策してみることにした。勝手知ったる、というわけではないが、数千年間ここテイワット大陸で俺は過ごしたのだ。その数千年間で沢山の変わったものを見てきた。それは人だったり、文化だったり…或いは地形や植物の遷移だったりもした。
500年間は、長い時を生きる神にとっては短いと思われるかも知れないが俺にとっては十分過ぎるほどに長い時間だ。だからまずは元素を使わず普通に歩いて散策してみることにしたのだ。
そのまま少し歩いて周囲を見渡して稲妻のどの位置にいるのかを把握した俺だったが、眼前にある巨大な骨を見て少しだけ苦々しげに表情を歪めた。
ここはヤシオリ島という島で、かつて海祇大神と呼ばれていたオロバシという大蛇の神の遺骸がある場所でもある。オロバシはその恨みを稲妻の統治者であった『八神』の内の一柱である雷電将軍へと向けていたが、その怨恨は俺が背負い込んでいる。
ただ、オロバシを殺したのは雷電将軍ではなく俺だ。正確に言えば、雷電将軍は、表に出て政務を取り仕切る雷電眞と、裏でその武力を以て矛にも盾にもなる雷電影の二人おり、今回に関しては雷電影に向けられた怨恨ということになる。その怨恨を俺が背負い込んでいるのは、彼女達の摩耗が進むことを危惧したからだ。
オロバシは決して俺を恨むことはしなかった。寧ろ感謝すらしていた。だから本当は…怨恨など背負い込んでいないのかも知れないな。
暫くそのまま歩いて海岸までやって来た。道中魔物を数匹見かけたが、ヒルチャールという人型の魔物や浪人などが多々見受けられた。人が住んでいないところがこの調子だと、かなり生き辛い世の中になってしまったのかも知れないな。
そう言えば、『終焉』を止めた際に表の雷電将軍こと、眞も一緒だったはずだが、俺と同じ場所で復活したわけではないのだろうか?或いは…既に死んでしまっている可能性も考えられるな。
一先ず俺は眞を探し出すことを目標に、稲妻を探し回ることにして再び歩き始めるのだった。
こちらもぼちぼち始めていきます。
時間がかかったのは…まぁ〜色々構想を練っていたからですね。
ということでよろしくお願いします…ッ!