忘れ去られたもう一柱の神〜IF雷電眞〜   作:酒蒸

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第10話 救い

アガレスが去った後の珊瑚宮内、心海に残された旅人とパイモンは結局心海に何を頼まれるのかがわからず首を傾げていたのだが、少ししてゴローが入室してきた。ゴローの入室に驚く旅人達だったが、ゴローは旅人達がいることには特段驚いている様子を見せていないため、心海には事前に旅人達の存在は聞かされていたようだ。

 

「珊瑚宮様、頼まれていた『奇妙な老化現象』に関しての調査が一段落しました」

 

そうして普通に話を始めようとしていた二人に少し驚いた旅人だったが、当の心海からは退出するように言われてはいないのでそのまま話を聞くことにした。

 

「彼等を問い詰めたら、裏でこっそり支援者からとある『秘密兵器』を入手していたことが判明した。そいつらは皆負けん気が強くて、目狩り令に対して極度の不満を抱いていた奴らで、『秘密兵器』を手に入れた後こっそり使っていたらしい」

 

秘密兵器?と旅人とパイモンは首を傾げたが、秘密兵器を使った代償に老化現象が起きたのだと解釈した。そして何かに思い至った旅人はハッとして机の上に置いてある『邪眼』に目を向けた。

 

───僕の父は昔、何か不吉な力を使って魔物を撃退したことがあったんだ。けれど、その後すぐに外傷は少なかったのに死んでしまった…後から調査したら、とある『モノ』が原因だったとわかったんだ。その『モノ』とは───

 

風の国モンドにいる友人から聞かされた話を思い出した旅人は海祇島抵抗軍を裏から支援している協力者の存在に心当たりができてしまった。そんな旅人の様子に誰も気付かず話は進んでいく。

 

「…近頃の戦況がやけに順調だったのはそういう理屈でしたか…しかし決して正しい方法ではありませんし、一刻も早く禁止しなければ…」

 

心海は言いつつ、ゴローにその秘密兵器が手に入ったかを視線で問い掛けた。ゴローはなんとか苦心して一つ手に入れたと言って懐からソレを取り出した。それを見た瞬間、心海と旅人は目を細め、パイモンは驚き仰け反った。

 

「…やっぱり『邪眼』なのか!抵抗軍の支援をしてる奴らってもしかしてファデュイなのか!?」

 

その言葉にゴローは少し驚き、心海は何処か納得したような雰囲気を見せた。心海は旅人に教えられたファデュイの目的とアガレスに言われたファデュイの考えを総合して、正しかったのだという結論を下し、

 

「…今すぐ全軍に邪眼の使用を禁ずるよう通達を。異常の起きている兵士にはすぐに治療を…まだ間に合えば良いのですが」

 

ゴローにそう告げた。ゴローは承知しました!珊瑚宮様!!と元気に返事をした。そこまで来て旅人はハッとした表情を浮かべて立ち上がった。突如立ち上がった旅人の様子を見た他の面子は驚いたような表情を浮かべたのだが、旅人はすぐに落ち着いた様子を見せると心海に一言断りを入れてからちょっと外の空気を吸ってくると言い残して部屋を去った。

 

残されたパイモンは人質のような気分だったが、大人しく旅人が帰ってくるまで待つことにするのだった。

 

 

 

一方外に出た旅人は人気のない所に移動すると右手の中指に嵌めていた指輪を一回弾き、指輪に向かって独り言を喋る。一見するとただのやばい人だが、指輪からはしっかりと声が返ってきた。

 

『どうやら繋がったようだな…すまない、今大丈夫か?』

 

その言葉に旅人は大丈夫だ、と告げると声の主は望瀧村まで来てくれ、とそう言った。旅人は何がなんだかわからなかったが了承して望瀧村への道を小走りで移動し始める。そして入り口に辿り着いた時声をかけられ、その人物が姿を現した。

 

高い身長に透き通るほどに美しい銀髪と白い肌、そして恐ろしく整った顔立ち。一見すると女性のようにも見えなくはないが、しっかりと男性である。旅人は彼を見て、

 

「何かあったの?アガレスさん」

 

そう聞いた。聞かれた男性───アガレスは少し微笑みながら首肯くと、こっちへ、と旅人を先導した。そして人目につかない家の物陰へ連れて来られた旅人だったが、そこで信じられないものを目にすることになった。

 

「…哲平?」

 

そう、抵抗軍兵士の哲平が座り込んでいたのだが旅人の言葉に特に反応を見せなかった。彼は旅人を珊瑚宮まで案内した人物であり、それなりに縁があった。しかし、前に見た時より髪の毛の色素が落ちているように見え、かつ若々しかった顔にいくつか皺ができている。

 

何がなんだかわからないと言った様子の旅人がアガレスに視線を向けた。

 

「気絶しているだけだ。正確に言えば気絶させたのは俺だがな」

 

なんで、と言いかけて旅人は先程の話を思い出した。『邪眼』が原因で起きている奇妙な老化現象、哲平も僅かな期間で酷く老けているように見える。

 

「気付いたな、あの後望瀧村で聞き耳を立てていたら『秘密兵器』の話題で持ちきりだったよ。その中で丁度哲平を見つけたから話を引き出しつつ、気絶させたってわけだ」

 

アガレスのその言葉で大体の事情を察したらしい旅人はなるほど、と呟いて哲平へ悲しげな視線を向けた。そして旅人はどうして、と言いたげな視線を哲平とアガレスに向ける。アガレスはその視線の真意を測りかねていたが、やがて少しだけ理解したような表情を浮かべた。

 

「…『神の目』の降臨条件はある程度聞いたことがあるだろう?」

 

───『神の目』は人の強い願いに呼応して降臨することが多い。そしてソレを手に入れた者は常人に比べ強い力を発揮することができる。旅人はそのことをよく知っていた。

 

「そして『神の目』を得た人間は…ソレが神から与えられたモノとして認識し、その願いに縛られる。つまり『神の目』を失うということは、自らの心の拠り所やアイデンティティのようモノのを失うことと同義だ」

 

その言葉を聞く旅人の脳裏に、『神の目』を奪われ抜け殻のようになっていた人々の姿が浮かび、苦々しげに表情を歪めた。無論アガレスは旅人が鳴神島で見てきたモノを教えてもらっているのでどんな表情をしているかを確認せずに話を進めている。

 

「願いを奪われた人間は無気力になるか、抵抗軍に入る人々のように願いを奪った存在を酷く敵視するようになる。最早憎悪と言っても良いかもしれない…彼等にとっては願いを取り戻すまで、決して救いなど無い」

 

だから、取り戻すためには手段を選ばなくなるんだ、とアガレスは邪眼を思い浮かべながら苦々しげに表情を歪めつつ続けた。

 

「…だから彼等にとっての救いは…例え紛い物であっても、或いはそれで自らが命を落とすとしても…あの『邪眼』が彼等にとっての救いなんだ」

 

真の意味の救いがそこには決してないとしても、追い詰められた人間はそれに取り付くということを示されている気がして、旅人は更に表情を歪めた。

 

アガレスはここで初めて旅人に視線を向け、フッと笑う。旅人はそれを見て少し驚いたが、

 

「…人が人の手で救いを作ることを俺は否定しない。現に旅人…お前は人が人に救われるところを沢山見てきただろう?」

 

その言葉を聞いて真剣な表情を浮かべて首肯く。人の歴史は戦いの歴史とは言うが、裏を返せばより多くの小さな救いが歴史には積み重なっている。アガレスはそれを心の底から信頼し、だからこそ人類に絶望していないし絶望することもない。

 

アガレスは遠くを見つめながら目を細め、

 

「…だからこそ、このような身を滅ぼす救いなどあってはならないし…何より救われるのを待つ人間を作るようなことをしている意図がわからない。昔の影からは考えられないからな…哲平に関しては気にすることはない。その内治療してくれるはずだ」

 

そう呟く。アガレスは少し諦観の混じった溜息を吐くと、まぁとにかく、と言ってから旅人を見ると、

 

「『邪眼』を全部ではないがある程度回収しておいた。水際対策としては上出来だが、これでは根本的な解決にはならないだろうが…さて、珊瑚宮に戻って心海から指示を仰げ。恐らく邪眼工場の場所の見当くらいついてるだろうからな」

 

そう言った。その言葉に旅人は少し驚いたようにアガレスを見ると、「話聞いてたの?」と問い掛けた。するとアガレスはとぼけるように肩を竦めて「さぁ、秘密だ…そのうち話すよ」とそれだけ言って姿を消すのだった。

 

残された旅人は苦笑しつつ、哲平がちゃんと治療してもらえるように近くの兵士に頼んでから、珊瑚宮へと引き返すのだった。




おまたせ…忙しすぎー!!
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