半護→なかもり
防守→さきもり
と、なってますね
基本眞視点ですが、最後だけちょこっとアガレス視点です
名椎の浜にて。
九条裟羅に命じられて名椎の浜へとやって来た私は早速潜入任務をすべく護衛の二人と話し合っていた。本来ならもう少し早くついていたはずなのだが、何故かここへ来て少ししてから動悸が収まらず、しかし謎の安心感を感じている。私にはこれが何かよくわかっていないけれど、どことなく懐かしい気がした。
さて、長身で体格の良い男性───半護がまず口を開く。彼は頑固な性格をしているが、軍規には決して反したりはせず、厳格な兵士だ。そのためか常に無表情であり、感情を読み取ることはできない。
私としては、表情がわからないと少しのやり辛さはある。なんと言っても、私の想い人…アガレスは表情豊かな人だったから。
「眞様、先程高所からある程度の地理を把握した所、名椎の浜内に駐留している抵抗軍の隊は北と南側に船を警戒してか石の防壁を築きつつあります。加えて抵抗軍のモノと思われる戦艦が一隻、名椎の浜の西側に停泊しています。遠いため、詳細はわかりかねますが…」
半護は名椎の浜の地図の北と南の海岸線、そして西側を指でなぞりながらそう言った。そしてその言葉に、もう一人細身で長身の女性───防守が口を開く。防守も半護と同様表情が硬いが彼ほどではないため、まだ話しやすい。
「…我々の任務としては、この防壁の作業妨害及び敵部隊の情報を持ち帰る点にあります。眞様は初陣ということですし、無理はなさらないようにお願い致しますね」
現にふわりと微笑みながら私にそう言ってくる防守は、わかりやすく私を心配してくれているのがわかる。私はええ、わかっているわ、と返すと、
「…となると、長期任務なため食料などの物資しかない私達にできることは少ないわね…爆薬なんかは現地調達しなければならないようね」
そう告げる。潜入任務であるため爆薬などを持ってこれるはずもなく、最低限の生活物資のみを今回は持ってきている。というのも今回の潜入任務は稲妻城からの亡命を装う長期任務であるためか人数も多くない。本来であれば私が行くべき任務ではないのだが、九条裟羅によれば武芸に秀でていない私はどうやら適任みたいだけど。
実際誤魔化しは結構効きそうではあるけれど、実際何処かでボロが出そう。私ってばアガレスと影に引かれるくらいの大根役者みたいだから。
なんて少し昔のことを思い出していると、
「一先ず当初の計画通り潜入すると致しましょう。偽名を使う必要はないそうですし、眞様は既に相応の身分を持たれています。立場と環境から考えれば難なく潜入自体は可能かと」
防守が口を開きつつ短刀を手に持つ。それと同時に大量の荷物を抱えて半護も立ち上がった。そして私はその場で現時点でわかっている情報を地図に書き込み、小さく丸めると口笛を吹いた。
九条裟羅から預かっていた、連絡用の烏である。よく訓練されており、その足には筒状の容れ物があり、その中に丸めた地図を入れると九条陣屋まで届けてくれるらしい。まぁ実際届いているかどうかは返信がないとわからないんだけれどね。
一先ずの任務を終えた私達は名椎の浜へ続く道を歩いていく。勿論、私達の服装は見窄らしいというより所々傷がついていたりする。勿論これも演出だ。そのまま歩いていくと、抵抗軍の兵士が巡回しているエリアに辿り着いた。先程の地図は既に頭に入れてあるので問題なく地図がなくてもここまで来ることができた。
巡回の兵士は私達に気付くと「止まれ!」と言いながら槍を向けてくる。無論想定内なので私は少し怯えたような表情を作ってみる。正直ちゃんと怖いのでそれに関しては問題なかったようで、演技で疑われることはないと見ていいだろう。
話に関しては半護と防守の二人に一任しているため、私は余計なことを言わないことに徹することにした。
「何者だ?」
相手の兵士の問に、防守が怯えた様子で答えた。
「て、抵抗軍の兵士様ですよね!?よ、よかったぁ…もう、駄目かと…」
目尻に涙を浮かべ、崩れ落ち泣き始める防守に、私は役者ね…なんて場違いな感想を漏らしつつ、一歩前へ出てきた半護に視線を向けた。
「…我々は稲妻城から亡命し、海祇島へ向かっている途中だったのだ。ここで海祇島の兵士に会えるとは、運が我らに味方してくれたようですね、眞様」
一瞬私に話が振られて動揺したものの、今まで通りの表情で首肯くだけだった。空かさず、防守が口を開いて私のフォローをしてくれる。
「すみません、紹介がまだでしたね…こちらは稲妻幕府に長年仕えてきた只野家の三女、眞様でございます。私と隣の筋肉バカは眞様の護衛として、共に亡命して参りました。付きましては、我等を助けていただけないでしょうか…?」
私への不信感を消すためか、はたまた別の思惑があるのか、防守はそう早口で捲し立てた。途中、とある文言で半護の額に青筋が浮かんでいたが、精神的余裕がないことを見せるためか、抑え込んでいた。
防守の言葉を聞いた兵士のうちの一人は上に指示を仰ぐ、と言って名椎の浜の奥へと走って行った。その間身辺調査を受け、二人の護身用の短刀のみ押収されたのだが、その他の物資が奪われたりすることはなかった。
そして上の指示を仰ぎに行った兵士が戻ってきたかと思うと、
「…お前達を保護観察下に置くことが決定した。とある方の指示により衣食住を名椎の浜限定で提供することを許可する、と。案内するから彼について行け」
そう言って後ろを若干忌々しげに見やる。私達もそれに合わせて兵士の背後に目を向けると、海賊のような風貌をしているガタイの良い男性が現れたかと思うと、
「───よぉ!アンタが幕府から亡命した…えーと、なんか偉いヤツなんだって?船ち…姉御から話は聞いたぜ!俺について来な!!」
私を見ながら快活な笑みを浮かべてそう言ってきた。彼は抵抗軍の兵士の視線に気がついているようだが、無視しているようだ。私達は若干困惑しつつ彼について行き、しばらく歩く。ついでに名椎の浜の細かい部分を見回して頭に叩き込んだ。
しばらくして、名椎の浜を通り過ぎた。そのことに驚きを隠せなかった私達だったが、先程半護が言っていたことを思い出した。
───抵抗軍のモノと思われる戦艦が一隻、名椎の浜の西側に停泊しています。
どうやら、目の前の男性はその船の水夫であり、私達はそこで保護されるのだろうということがわかった。
「ついたぞ!俺達の船…そしてお前達が今日から住む場所だ!!これから俺達の船長に挨拶だけしてもらうぜ」
間近で見てわかったのだが、この船は稲妻の由来の船でもなければ抵抗軍由来の船でもないように見える。いつぞやアガレスと一緒に行った璃月で見た造船技術で作られた船のように見える。
まず艦橋へと通された私達は、船首まで通された。そこには長身の、片目を布で隠した海賊のような風貌をした女性がいた。そして私達を先導してくれた男性が一歩前に出てその女性へ話しかける。
「北斗姉さん、副船長重佐只今帰還しやした!」
「ああ、アタシ達の話が終わるまで休んで良いぞ!」
そして女性───北斗というらしい───の言葉を聞いた男性───重佐が下がっていく。北斗はそれを見送った後咳払いをすると、
「さて!自己紹介が遅れてすまない!アタシが『死兆星号』の船長、北斗だ!抵抗軍のお偉方に頼まれて、アンタらをこの船に泊めることになった。ま、わかんないことがあったらいつでも聞きな!!」
そう言った。
〜〜〜〜
時は少し遡り。
旅人と『邪眼』に関する話し合いをした次の日、俺は最前線…即ち名椎の浜の視察へやって来ていた。『邪眼工場』に関しては旅人が対応することになるだろうとは言っていたが、念の為俺も同行することにしたのだ。そして弱体化している俺にとって苦しい戦いになることは明白だろう。故にやるべきことは済ませてしまいたかったのだ。
まぁそもそもそこまで俺がすべきことがあるわけではないのだが、心海に旅人伝手に言われていたことではあるため仕方がない。責任者との面会と諸々の手続きを済ませた俺は、今日一日のみここの最高司令官だ。とはいえ、ほとんどの指揮系統は何ら変わらず、軽い助言程度のことしかしない。そして俺の正体を知っているのは名椎の浜の責任者のみであるため、まぁ実は結構動きづらい。
それはそれとして、名椎の浜は前回の戦で占領した地域であるため、それ相応の戦力が傾けられている。かつ、名椎の浜は南北両方からの戦艦の援護があるため、それを防ぐための防壁が建設されつつある。
そんな中、最前線の状況を責任者から聞いていたのだが、
「───『南十字船団』?」
どうやら璃月から来た南十字船団という武装船団がやって来ているらしい。前に心海から聞いていた『支援者』とは別だろうが、心海の策でここに停泊してもらっているようだが、今しばらくは役に立たないだろうな。そもそも彼等は璃月の船なのだから下手すりゃ国際問題だ。
いや、違うな…亡命者も出てくるかもと踏んでの南十字船団か。そんな時、伝令の兵士から九条陣屋方面から亡命者と思われる三名を確認したとの報告を受けた。視線で責任者がどうするか俺に問いかけてきている。
自分でなんとかしてほしいが、ここで断ったら野垂れ死にだろう。俺は溜息を吐くと、
「『南十字船団』と連絡を取れ。亡命者三名はそこで衣食住を保証し、保護観察下に置け」
そう責任者に耳打ちした。責任者はそのまま伝令の兵士に伝え、伝令の兵士はそのまま『南十字船団』と連絡を取って、受け入れ体制を整えたようだ。
「にしても…亡命者か」
スパイである可能性もあるから、一度会ってみたかったが…残念ながらそんな暇はない。『南十字船団』の船長にも無論興味はあるのだが、何より稲妻の現状が気になる身としては住民の真摯な意見を聞いておきたかった。
そう考えて『南十字船団』の旗艦、『死兆星号』へ意識を向けた時だった。
「アガレス様、如何なされましたか?」
思わず足が止まっていたようで、俺は責任者の言葉で意識を引き戻し「なんでもない、行こう」と告げた。
なんだか、胸に稲妻が走ったような、そんなよくわからない懐かしい気配を感じた気がしたのだが…まぁ、気のせいだろう。
その後、すぐにその気配のことを忘れた俺は名椎の浜の視察を行うのだった。
ニアミス…ッッッ!!!