とは言ったものの理由はちょっと弱体化してるから、ってだけですねハイ
さて、どうしたものだろうか、と心海は思案に耽る。
眼前に存在する人物───アガレスはまず間違いなく人間ではないことは明らかだ。それなりに手練れも多いこの場所で鼻の良いゴローにすら気が付かれずに心海に接触を果たして見せたのだ。そして何より威圧感が人間のそれでないことは確かだった。
この男の機嫌を損ねてはいけない、ということも無論わかっている。心海に従わないという選択肢はなかった。
「…なんでしょう、私に答えられる範囲の質問であればお答えします」
心海はなるべく余裕を見せるために微笑みながらそう言った。勿論、若干引き攣ってはいるがそれでも精一杯の去勢を張らねば自分を保っていられなかった。
対するアガレスは一瞬目を細めると、
「今の稲妻について詳しく聞かせてくれないだろうか?何分、暫く稲妻から離れていた旅の者なのでね」
そう言った。心海もこれが嘘であることくらいわかっていたがこの際相手が何者であるかなど気にしないことにした。
心海は稲妻幕府の本拠地である稲妻城のある鳴神島の正反対の位置にある島である海祇島に生まれた現人神の巫女である。そして、現在稲妻幕府に対抗する抵抗軍の軍師でもある。その抵抗軍の利益を考えた際、眼前の存在を引き入れる事ができれば戦いを圧倒的に有利に進めることができると考えていた。
何より、この存在を利用して和平交渉にも持ち込めるかも知れない、という希望的観測も存在していたため、心海はあまり主観を入れず事実だけをありのまま伝えることにした。
稲妻で尤も高い位にいる存在であり、そして雷霆の化身たる雷電将軍は『永遠』を求める為『目狩り令』を施行。人々から願いと変化を奪ったこの幕府の行動は稲妻の民の反発を大きく買っており、それに対抗するために海祇島を始めとしたレジスタンス、抵抗軍が各地に存在しており、現在まで至っているというのが現状だった。
それを聞いたアガレスはふむ…と感情の読めない表情のまま唸る。
「…なるほど、状況は大体把握した。君の話から察するに君の主観はそこになく、ただただ事実だけを伝えた…と言ったところだな。それを総合すると…」
アガレスは少しだけ物憂げな表情を浮かべる。
「…なるべくしてなった、と言ったところか」
心海はアガレスの言っている意味がわからなかったが、少し賭けに出てみることにして口を開く。
「今度はこちらから質問してもよろしいでしょうか?」
アガレスは心海をジッと見ると不意に首肯く。心海もホッと安堵しつつ、
「貴方の目的は…一体何なのでしょうか?」
そう問い掛けた。無論心海とて、十中八九この男が旅人などではないことはわかっている。とはいえ、稲妻の現状を知らなかったのは恐らく本当だろう。そうでなければ抵抗軍の真っ只中へと一人でノコノコやって来ていないはずだからだ。
だが男の目的が霧の中を彷徨っているくらいモヤがかかっていてわからない。だからこの際教えてくれないだろうか、と心海は問い掛けたわけである。
対するアガレスはそんなことか、とばかりに普通に答えた。
「…そうだな、俺の最終的な目的は俺の想い人を探すことだ。稲妻に縁のある人物だからもしかしたら、と思って来たんだが…」
無論、この最終目標は嘘ではない。事実アガレスは自らの想い人を探すために復活後の世界のことを知ろうとしているのだから。
だが、そんなことは心海には知る由もない。一つわかったことはこの目的の真偽の判定ができない、ということだ。ただ、もし真であれば男の想い人も存在する、という一つの情報ではある。
心海が思案に耽っていると、アガレスが不意に咳払いをした。どうやら心海の思案を一時的に中断させるのが目的のようだった。
と言ってもアガレスにとってしてみれば話をしても「聞いてなかった」で済まされそうな予感がしたから咳払いをしただけであるが。
「申し訳ありません、思わず思案に耽ってしまって…」
心海はもしかしたら機嫌を損ねてしまったかも知れないという若干の焦燥感はありつつもなんとか冷静に謝った。だがアガレスは気にした様子もなく、
「いや、気にすることはない。思案に耽るのは上に立つ者としては正しいことだ。今も俺を最大限に警戒しつつ自分達の陣営にとっての利益になるようにと考えを重ねていることくらい理解している」
そう言った。心海は自分の考えが見通されていると錯覚したが、少し考えれば自ずとわかることだろうと思い直し男へ向け告げる。
「では私が考えていることもわかるでしょう。それに関しての答えを聞かせていただきたいのです」
勿論、この考えとは、稲妻の内戦において『どちらの陣営』に属するかというものだ。アガレスもそれを理解しているからか、ふむと少し唸って少しの間考える様子を見せた。
そうして心海が少し待っていると、アガレスが不意に口を開いた。
「…本来ならば友人に肩入れする、と言いたい所だが…民の想いやその営みを無視してまで『永遠』を求めるそのやり方には…少し賛同できかねるな」
心海は今度こそ安堵の息を吐いた。口ぶりから察するに少なくとも稲妻幕府の手助けをすることはないということだ。そして友人、というのが誰かはわからないが少なくとも稲妻幕府に男のことを知る存在がいるのだろう、と思案していた。
「表立って、とはいかないが抵抗軍に協力することも吝かではない…だが、二つ程条件がある」
対するアガレスはピッと人差し指を立てると更に続けた。心海は『表立って』という言葉に疑問を感じたものの、条件の提示は予想の範囲内だったため首肯いた。それを見てからアガレスは条件を提示し始めた。
「第一に、人探しに協力して欲しいこと。第二に、可能な限り俺にも協力して欲しいこと。この二つを守ってくれるのであれば抵抗軍に力を貸そう。どうだ?」
武器防具に関しては心配いらないし寝床もいらないし食料さえ確保してくれればいいから優良物件だぞ?どうだ?ん?と更にアガレスは続けたが、心海は突然俗物的になったアガレスを見てなんだか面白くなって少し笑った。緊張が解けてきたのもあり、余計に可笑しく思えてならなかったようである。
心海は少し心を落ち着かせるために深呼吸をすると手を差し出しつつ口を開いた。
「わかりました、よろしければお力をお貸し下さい」
アガレスも少し笑うと、心海の手を握り自身も口を開いた。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
そこまで言って、アガレスも心海もお互い自分について詳しく話していないことを思い出した。そしてお互いそれに気が付いたからか若干気不味そうな雰囲気が漂っている。
少しの静寂の後、お互いに苦笑を浮かべると、
「私は珊瑚宮心海、海祇島の現人神の巫女と呼ばれている者です」
「俺の名はアガレス、『八神』の内の一柱で『元神』の二つ名を持つ存在だ」
そう自己紹介をするのだった。
〜〜〜〜
稲妻城城下町にあるとある武士の家系に、
そんな只野家には元々二人兄妹が存在しており、数年前三女が誕生した。
普通に育てば跡取りになれたであろう長男
そんな只野家の三女の名は
しかし、父親である只野家現当主は眞を愛してなどいなかったのだ。寧ろ男子ではなかったために疎んでおり、最前線に配置して処理しようとしているのである。
───貴様のような役立たずでも九条様の部隊への配属を許されたのだ。精々将軍様のために反乱分子を皆殺しにしてくるが良い。
稲妻城から西側に位置する九条陣屋という砦に移動する際父親に言われた言葉がそれだった。この言葉からもわかる通り只野 眞という人間は両親に愛されることはなかった。だがその理由はただ三女であるから、女性であったからという理由だけではない。
───儚い景色であるからこそ…そうであると知っているからこそ俺達は一層この景色を楽しむべきだ、そうだろう?
かつて眞が友人に言われた言葉だった。眞がその友人に『永遠』について問い掛けた時に言われた言葉であり、その思いを受け継ぐことができなかったことを後悔し続けていた。
───眞、お前はきっとこの世界の誰よりも優しくて自分を顧みないんだろう。だから…その分俺がお前のことをずっと見守ってるよ。
その言葉は友人が友人ではなくなった際に言われた言葉だった。暫くの間幸せな時間が続くと信じて疑っていなかった。
───バカ野郎、お前は大バカ野郎だよ、眞。俺だって…この世界を、何よりお前を絶対に死なせたくなかったんだがな…。
友人が涙を流しながらそう言っていたのを眞は今でも覚えている。だが決して友人は眞を憎んでなどいなかった。
「さて…もう15年…いや、15年と500年だったわね」
九条陣屋内にある兵士の宿舎のベッドから起き上がった眞はそう呟くと自身の手を見てぎゅっと握って瞳に決意を込める。
「…アガレス、絶対に私が見つけてみせるから…」
───只野 眞、彼女には前世の記憶があった。
只野家に関しては全然オリ設定ですぞ