心海と話した翌日、藤兜砦にある程度戦力と長旅に耐えられないであろう負傷兵を残し抵抗軍は本拠地のある珊瑚宮へと帰還することになった。その間、まだ俺は正式に抵抗軍に加えられているわけではないため、行軍に参加することはできなかった。
なのでちょっと遠くから見守る感じで離れてついて行っている。これは心海からの提案でもあるので、いざという時はしっかり護らせてもらおうじゃないか。
と意気込んでみたは良いものの、500年前とは多少変わった地形や景色が見えるだけで特にイレギュラーはない。道中のヒルチャール達や浪人なんかも割と大所帯な俺達を襲撃するようなことはしてこないので本当に暇だった。
強いて言うなら稲妻幕府の密偵や斥候の類の兵士達がちらほら見られたくらいだろう。まぁそれは俺が軽く追い払っておいたので本当に快適な旅だったわけだが。本来なら多少ここでアピールしておいても良かったかも知れないが、心海にとってはあまり関係ないのだろうな。
そんなこんなで海祇島へ辿り着いた俺は諸々の挨拶やらを終えた心海と合流するため珊瑚宮の屋根上までやって来た。因みに風元素で飛ぶことはできないが、雷元素を使って少し高いところに飛ぶことくらいはできるので上手く使ってきたのだが、どうやら大正解だったようだ。
「───なにはともあれ兵糧は最重要事項です。少しの過ちも妥協も許されません。幕府軍との衝突が日に日に激化していく中、後方作業の安定化をいち早く図らねばなりません」
珊瑚宮で何らかの職を配しているであろう男性と心海がそんな話をしていた。心海は男性を安心させるような口調と言い回しで、
「ご安心を。以前手に入れた物資で軍備の拡張もできています。人手不足だった頃は苦労をかけましたが、これからは形勢も良くなっていくでしょう」
そう言った。その言葉に男性は胸に手を当てて安心したように呟く。
「軍備の拡張ですか…本当に良かった、一体どなたが背後で支援してくれたのかは知りませんが助かりました」
言っている途中で男性は珊瑚宮の入り口の方に視線を向けると、
「哲平じゃないか。海祇島に戻っていたのか?それにその方は…」
そう言った。入り口からは抵抗軍の兵士の格好をした哲平という名の男性と、そして動きの良かった金髪の異邦人、そして隣には…謎の小さい生物がいるな。宙に浮いているがどういう原理なのだろうか?
哲平は男性の言葉に対して少し笑いながら首肯くと、異邦人を見ながら、
「へへっ、こちらは珊瑚宮様のお客さん、僕は彼を連れてくるために戻ってきたんだ」
そう言った。どうやら俺と同じくあの異邦人も心海の客らしい。金髪と言えば500年前に似たような風貌の少女を見かけたが、まぁ500年も経っているのだから関係ないだろう。
それはそうと哲平の言葉を聞いた男性が大袈裟なほど驚いた様子を見せている。一体何があったのだろうか、と思って聞き耳を立ててみると、
「ま、まさか…軍隊の中で噂になっている、最前線では高速で敵軍の真っ只中を駆け抜けながら幕府軍の兵士達をちぎっては投げちぎっては投げ活路を開き、後方から放つ矢は百発百中どんな獲物も逃さない、そしてどんな攻撃を受けても無傷で生還するというあの旅人ですか!?」
そんなことを言っていた。人間であるならそんなことできるわけないだろうが!!と思うが、軍隊というものに置いてやはり指揮向上を狙うなら英雄というものは必要だろう。そうなれば意図的に流された噂なのだろうな。
噂された当の本人は額に手を当てて項垂れており、彼と行動を共にしていると思われる小さい生物は憤慨というより呆れている様子だった。やはりというべきか、尾ひれが付きすぎているようだ。そして二人は哲平に視線を向け、哲平は視線を逸らす。
犯人お前かい。
なんてやり取りの後だったのだが、元々心海と話していた男性は胸に手を当てると、
「そのような方々が来られたということは急用があるのでしょう。これ以上私が邪魔するわけには行きませんので失礼させていただきます。また今度いらした時にでもゆっくりお話を聞かせていただければ…では珊瑚宮様、私はこれで」
そう言って敬礼をして去って行く。心海は彼に労いの言葉をかけると、残った哲平達に視線を向けた。哲平は心海に近づきつつ、
「珊瑚宮様、先程大久保の兄貴が『支援』とか言ってましたが…なんのことです?」
そう聞いた。その表情には海祇島を支援してくれたことへの感謝と純粋な疑問が綯い交ぜになったような複雑な感情が込められていた。心海は一瞬だけ迷う素振りを見せたものの、
「少し前にある方から手紙が届いたのです。その方は海祇島の抗争を支援するため、大量の物資を届けてくださいました。お陰で兵力を確保した私達は幕府軍とようやく真正面から立ち会えるようになったのです」
そう説明した。俺がいるからか、はたまた一兵士に現状を伝えて良いものかを迷ったのだろうが説明責任というモノもあるからしっかり説明したのだろう。その言葉に哲平は少し安堵したような表情を浮かべたが、異邦人だけは違った。
「…本当に信用できるの?」
信用できるのかどうかを指揮官へタメ口、か…どうやら彼は立場に縛られない立ち回りを是とされているのだろう。というか多分心海とは友人同士の関係だったりするのだろうな。心海の瞳からも彼への信頼を感じるし、良い協力関係のようだ。
心海は異邦人の言葉に少しだけ険しい表情をすると、
「…海祇島の物資はお世辞にも多いとは言えません。例え信用できずともその物資は我々にとっては渡りに船なのです。相手方の要求も、ただ私達に幕府へ全力で抗ってほしいだけのようですし…」
そう言った。その話を聞いた俺は妙だな、と少し考える。
まずそもそも資源の出処も不明だし内容物も不明…心海の口ぶりから察するにチェック済ではあるのだろうが、相手の背景によって何らかの…物理的な意味ではなくもっと別の意味での爆弾が入っているのではないかと疑ってしまう。
ついでに言うと幕府へ全力で抗ってほしいということは抵抗軍が抗っていると得をする勢力がいるということだ。復活したてて現在の世界情勢に関してはまだまだわからないことが多いがこういう場合、稲妻の何かを狙う第三国が黒幕である可能性は高いだろうな。そもそも純粋に抵抗軍を応援しているのならば心海の信用がないのはおかしいし、要求などもしないはずだ。
相手方について探りを入れる必要があるな、と俺は心の片隅にメモをしつつ、考え込む様子の心海の続く言葉を聞く。
「少なくとも我々と目的が同じなのであれば…表舞台に出るのを避けたがっている盟友、とでもしておきましょう。ただし、警戒は解かずに異常があれば私にすぐに報告をして下さい」
心海はそれで一応言葉を締め括った。
なるほど、妥当な判断ではあるが正体不明の盟友など作るものではない。そこは少しだけネックなところだろう。
そんな中、先程の話を聞いた哲平が藁にもすがる思いなのか切ない表情を浮かべながら、前線の待遇の話をしていた。食料不足の改善ができるのかどうか、そして焼肉を食べたいと言っていた自らの仲間のことを話している。
話を聞きつつ俺は少しだけ表情を歪めた。別に哲平の話が不快だったわけじゃない。ただ、戦争と言われると嫌な思い出が余りにも多すぎるだけだ。
戦争によって得られる利益というものは本当に僅かなものだ。いや、個人や国によって全く違うだろうが、俺にとってしてみれば戦争で得られる利益と不利益というのは全く釣り合わないし釣り合うことはない。
領土や賠償金、敗戦国から得られる物は全て搾り取るその略奪にも等しい行為は確かに多少国そのものを豊かにできるだろう。だが、戦争で死んだ人の家族の悲しみが豊かさで薄れるか?敗戦国の罪なき民の悲しみは常に増えていくだろう?
結局のところ戦争なんてものは子供同士の喧嘩くらい不毛な争いだ。第三者の介入がなければどちらかが折れるまで絶対に終わらない。そして子供同士の喧嘩よりも圧倒的に不条理で残酷だ。
「…本当に、嫌なモノだ」
思わずそう呟いてしまった。その呟きで下で話していた心海以外が驚いたようにこちらを見つめている。
こーれーはー…不味いやつ?
特に異邦人と小さい生物がかなり俺を見て驚いている様子で見つめてきている。どうしたものか、と思案していると心海が俺を見てクスクス笑っている。その様子に気が付いたらしい小さい生物が心海を見て首を傾げながら、
「心海、なんで笑ってるんだよ?アイツどう見てもヤバい奴じゃないのか?珊瑚宮の屋根上でオイラ達の話に聞き耳を立ててたみたいだし…」
そう言ったのだが心海はちょいちょいと俺を手招きした。どうやらここからは俺も話に参加していいらしい。
俺は自分の失態と緩くなった口元に嘆息しつつ下へと降りるのだった。
あんまし話進んでねぇや!!ガハハ!!!(?)
思ったより長くなっちまいましたんでもう1話増やします。いやー、こんなはずではなかったのにな!!