下へ降りた俺は早速哲平に目の敵にされている。まぁそれはそうだろう、抵抗軍の兵士からすれば珊瑚宮の上で心海達の話に聞き耳を立てていた怪しいヤツだと思われているだろうから。まぁ普通に幕府軍の間者だ、とかも思われていそうだな。
哲平は心海と『旅人』を護るように俺の前に立って俺を睨みつけている。
「珊瑚宮様!早く逃げて下さい!ここは僕が命に代えても護り通します!!その隙にッ!!」
さて、どうしたものかと俺は頭を捻る。なんと言ってもこれに関しては俺が全面的に悪いため、説得するのも論外だ。自分でなんとかできることの範疇を超えてしまっている。頼れるとすれば心海くらいのものだろうが、その彼女は俺がどうするつもりなのかを興味深そうな眼差しで見ているようだ。
心海さーん、俺これどうしようもないんですけど。
とばかりの視線を向けても心海は無反応だ。どうやら全く伝わっていないらしく、俺が自分でどうにかせねばならないらしい。まぁ向こうにしてみれば俺が本物の『元神アガレス』かどうかってのはわからないだろうし、お手並み拝見という気持ちなのかも知れないな。
俺ははぁ、と溜息を吐くと、
「…新兵か?」
哲平へ向けてそう告げる。ごめん哲平君、全然馬鹿にするとかそういう意思はないから許してくれ、と内心では思いつつ俺は何を言っているのかよくわからないという風に首を傾げる哲平へ向け再び同じことを問い掛けた。
「なッ…!!ぼ、僕は誇り高き抵抗軍の兵士だ!」
そういうことを聞いてるんじゃないよーと内心で思うが口には出さず、あくまで厳格で取り付く島もないような感じで振る舞おうと思う。本来であれば『アタシ元神アガレスっていうの!知ってるかしら〜』とか言えば良いのだが、心海の手前その名───と言っても過去の俺自身だが───に頼りすぎれば不信感が募ることだろう。
それは流石に避けたいところであるためNGだ。抵抗軍に入るには心海の信頼を得ていることが第一条件なのだからな。
仕方ない、ここは『ヤツ』の口調を借りるとしよう。ということで俺は口を開いて声を発した。
「そうか、であれば何故そのように取り乱す?護るべき指揮官の前に立ったところまでは褒められたがな。貴様はもう少し冷静になった方が良いだろうな」
まぁ実際のところ本当に俺の実力を哲平が本能で感じているのならば正しい反応だろう。本来なら恐怖で動けなくなるところを指揮官を護るべく犠牲になろうとしているのだからな。
良い部下じゃないか、と場違いな感想を持ちつつ俺はふぅ、と溜息を吐く。
「まぁいい。さて、貴様に教えてやろう」
俺は人差し指をピッと立てると、雷元素を人差し指に纏わせると哲平の足元へ向けて雷元素を放った。本当は法器があった方が精度も威力も上がるのだが今回は無くても問題ないだろう、と高を括っていたのだが哲平の足元を掠めてしまった。
ごめん、500年ぶりの元素の操作だったから全然駄目だったみたい。
俺は誤魔化すように、
「わかるか?抵抗軍を潰そうと思えば私一人でいつでも潰せるのだ。抵抗軍を潰すのに私一人で良いということはつまりコソコソと隠れる必要はない。真正面から堂々と皆殺しにすれば良いだけだ。だから私は幕府軍の間者ではない」
そう言った。まぁ我ながらとんでも理論だとは思うのだがこれ以外に無理矢理納得させることができそうな方法が思い浮かばなかったのだ。そのためにわざわざ雷元素で『いつでもやれんだからな???』というのを示したのだがまさか掠めてしまうとは思わなかったので完全に誤算である。
現に哲平はやはり俺が危険だと思ったようで大声を出そうとした。やっぱりこの納得のさせ方は本末転倒だったなー、なんて他人事な考えを浮かべてしまったものの哲平に大声を出されると一番困るのは俺である。
ただ、心海が俺を警戒していたのは一目瞭然だったため、恐らくだが大声を出す寸前で止めることだろう。現に哲平の肩を掴んで叫ぶのをやめさせ───たのは俺の思惑とは異なり心海ではなく、旅人と呼ばれていた存在だった。思わず俺は驚いて彼を見つめた。
「た、旅人…?」
誰がそう呟いたのかわからないが、心海と哲平、そして小さい生物が驚いたように旅人を見ている。旅人はジッと俺を見ながら前へと出てきて俺の目と鼻の先で立ち止まると、
「…違ってたら申し訳ないんだけど、君って『アガレス』って名前だったりする?」
そう言った。俺は驚きの余り動揺して目を逸らしてしまったのだが、まさか500年経った今でも容姿が伝わっているとは思わなかった。しかし俺の容姿まで細かく言い伝えてきた人々がいたというのは本当に驚きだ。それにしても俺の知る限り旅人の服装に合致する国というのはぱっと思い当たらないな。果たして何処の国の人間なのだろうか。
さて、それはそれとして旅人の問に答える必要があるだろう。俺は首肯くと、
「その通りだ。俺は『八神』の内の一柱…『元神』アガレスという」
そう言った。俺のその言葉に過剰に反応したのは小さい生物と旅人だけだったが、この感じを見るにもしかしてやっぱり俺忘れ去られてる感じなのだろうか?言われてみれば心海の反応も薄かったし、やっぱりそうなのかも知れない。
まぁ眞と一緒に過ごすようになってから500年前まではずっと隠居みたいな感じで稲妻国内だけで過ごしていたから忘れ去られているであろうことは予想が付いたし、眞が『それでも大丈夫、私は忘れないし』とか言っていたからある程度達観しているところはある。まぁ悲しいものは悲しいが別に数百年くらい人助けを余りしなかったから当然だと思う。
ってことは今はもしかして『七神』になっていたりするのだろうか。だとしたら『八神』と言ってしまったのは失敗だったかも知れないな、なんて思っていたのだが旅人には対して関係ないようで「…やっぱりそうなんだ…」と呟くだけだった。
「お二人共、積もる話もあると思いますので、宜しければ中でお話されては?」
そこに来てようやく心海が微笑みを浮かべながらそう言った。直ぐ側には相変わらず哲平が控えているが、旅人が俺の近くにいるお陰か先程よりは多少警戒心…というより敵対心がマシに思える。
とはいえ警戒心に関しては依然としてマックスであるため、俺は哲平に睨まれながらも心海と旅人の説得によってなんとか珊瑚宮の中へ入って落ち着くことになった。
あー、マジで疲れた。なんだこれ、復活して早々にこんなの酷くない?というか眞を早めに見つけ出さないと俺マジで精神安定剤が現状ないからヤバいんだよな。
なんてことをお茶を飲みながら考えつつ久し振りの湯呑に感動していた俺は、すっかり本題を忘れていたことを思い出した。
「それで…旅人、でいいのか?」
俺は面倒臭くなったのと気に食わないのとで先程哲平にしていた話し方を辞めて普段通り喋っている。俺に呼ばれた旅人は首肯くと自分の名前が『空』ということを明かし、小さい生物『パイモン』と共にモンドから璃月を通って稲妻まで旅をしてきたと明かした。
なるほど、と思う反面異世界から来た存在だと言うことを知って少し親近感が湧いた。俺も似たようなものなので少しだけ嬉しかったのだ。久し振りに話が合いそうな存在に出会えたため舞い上がりそうになるもののなんとか抑え込み、
「では旅人、俺のことを誰から聞いたんだ?俺が予想するに俺の存在はこの世界ではほとんど忘れ去られた存在であるはず…であれば情報を入手するのは一般人では難しいと思うのだが…」
そう問い掛けた。勿論、この旅人がパイモンという謎の生物を連れている時点で一般人なわけがないのだが、そこは一旦置いておくとしよう。実際俺の情報などほとんど手に入らないだろうしな。
だが、旅人は俺の予想に反して物凄いことを言った。
「うーんとね…ここだけの話、教えてくれたの神様なんだ」
神様…ふむ、ってことは『八神』───恐らく現在は『七神』と名称を変えているその中のバルバトスかモラクスのどちらか、ということになるのだろう。影か眞の線も考えたが幕府軍と敵対していたら話を聞くなんて不可能だろうしな。
ってことは旅人は形はどうであれ少なからず神に縁を持つ存在というわけだ。彼の話によればその謎の神は『天理の調停者』と名乗ったらしいが…俺は詳しくは知らない。そもそも俺自身この世界の存在ではないし、厳密な意味での他の『八神』とは元々が異なる存在だ。
まぁバルバトスとモラクス…というより他の『八神』達もある程度『天理の調停者』に関して知っているようだったが俺にすら教えてくれなかった。ということは知られたくない理由があり、知られては問題があるということだろう。
そのため俺も眼前の旅人にそれ関連の情報ははぐらかすことにした。
そのまま話題を逸らすため旅人から最近の情勢やバルバトスやモラクスの最近の話を聞いていたのだが、
「しかしそうか…バルバトスもモラクスも元気にやっているようで何よりだ。とはいえ…随分とここ最近で変容しているんだな」
昔とは『神と人』の付き合い方や関係性がかなり速いペースで変容を遂げている。そしてその中心にいるのは眼前にいる旅人と『ファデュイ』、そして『アビス教団』のようだ。ファデュイは兎も角として『アビス教団』とやらは現世への明確な悪意が感じられるのでできればお近付きになりたくない。
俺はそのまま異郷の存在…いや、俺にとっては少し親近感が覚えられる旅人と話し込むのだった。
緊張が解け始めているアガレス君の油断が感じられる…。
そもそも口元が緩んでる時点で察してたけどね私は、ウン。
しれっと時間経ってしまって申し訳ねーです。リアルが真面目に忙しくなってきやがったので…ということを匂わせておくことによって読者様の理解を得ようとしていますこの人は(?)
因みに、アガレス君に関しては色々設定詰め込んであります故、お楽しみに〜