忘れ去られたもう一柱の神〜IF雷電眞〜   作:酒蒸

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ということでアガレス君、初めての軍隊です。彼に足並みを揃えるということが果たしてできるのかどうか…(?)

今回前半眞視点、後半アガレス視点となります


第6話 配属先

九条陣屋にて普段より早く上官に叩き起こされた私は、兵舎の中から戦闘準備をしてすぐに外へ出た。戦闘準備をした理由は2つあり、一つは私には戦闘技術は全く無いけれど、刀や鎧がないよりかはマシだろうと思ったからだった。そしてもう一つは上官が急いで私のような一兵士を叩き起こすくらいだからきっと抵抗軍の人々が攻めてきたのだろうと考えたからだった。

 

まぁ勿論、私は人に限らず命を奪うこと自体は余り好きじゃない。昔は兎も角、今は特に凡人として生まれて、凡人一人一人の境遇がよく理解できる。いや、凡人という表現も今の私にしてみれば正しくない表現なのだろう。以前は神だったとは言っても今の私はただの人間。唯一神だった名残があるとすれば、アガレスを探したいという強い意思が形を成したのか私には凡人が元素の力を扱うために必要なモノである雷元素の『神の目』が宿っていることくらいだろうか。それもあくまで凡人としてのものであり、『只野 眞』という人間が『雷電眞』という神である証明にはならないのだ。

 

勿論、今の稲妻では『目狩り令』という『神の目』を天領奉行が奪う政策が施行され、かつ稲妻そのものが鎖国によって国交をほとんど絶っている状態なので、稲妻以外にアガレスがいた場合どうしようもできないし、何より私は『神の目』を奪われた人々がどうなってしまうのかをつぶさに見てきた。だから私自身上手く『神の目』を隠し通しているのだけれど、いつまで続くかわからない状況だ。

 

だから早めにアガレスが助けに来てくれると私助かるんだけどな…なんてぼんやり考える。

 

さて、私が出る頃には既に九条陣屋内に駐屯していた幕府軍の武士達全員が集合していたようだったが、すぐに慌ただしく全員が動き始めた。やっぱり攻め込んできた抵抗軍の人々がいるのか、なんて考えていたのだけど私の考えとは真逆で帰ってきたのは負傷者を多く抱えた幕府軍だった。

 

「只野!!ぼさっとしてないでこっち手伝え!!怪我人が随分多いからな!!」

 

「はい、今行きます!」

 

そんな様子を見ていたのだが上官にそう言われてビクッと肩を震わせつつすぐに怪我人を処置室へ運び込んでいく。暫くして抵抗軍の追撃に合って右腕に斬り傷を負っていたらしい指揮官の九条裟羅が帰ってきた。自身もそれなりの怪我をしているのに重傷者の手当を優先させており、それどころか指示を飛ばしている。

 

私はキュッと口元を引き締めると一旦処置室へ入った。その後、

 

「九条様、こちらを」

 

九条裟羅の下まで向かって右腕の上腕についた切り傷にきちんとした止血を施しつつ、包帯を巻いていく。これは昔アガレスにやってあげたことがあるから覚えている知識で、『只野 眞』としては習ったことのない事柄だった。

 

九条裟羅は最初こそ「私はいい」と言っていたのだが、やはり傷が痛むのかやがて大人しくなって、処置が終わると私に礼を告げてきた。そして私を見て一瞬怪訝そうな表情を浮かべてから、

 

「…ああ、君は只野家の次女か。容姿端麗で、後方の任に就かされるものと思っていたのだが最前線に配属されるとは…」

 

私の事を思い出したのか微笑みながらそう言った。私はバカ正直に『あはは、父に嫌われてましてー、死ねって言われてきました』なんて答えるわけにもいかずどうしたものか、と頭を捻っていると、九条裟羅がいや、すまない、と突然謝ってきた。なんのことかしら?と思っていると、

 

「…ある程度の事情は予想できる。踏み込んだことを聞いてしまってすまなかった。さて、私のことはもう良いから処置室の衛生兵の手伝いをしてくれないか?私の傷を止血した手並みは非常に見事だった」

 

九条裟羅は申し訳無さそうにそう言った。言われてから、次女で最前線へ送られるということの意味を理解されているのだと気付いて、私は気にしなくていいですよ、と返す。そして命令通りにするため踵を返したがどうしても言いたいことがあったため、一度振り返って九条裟羅を呼び止めた。

 

九条裟羅は怪訝そうな表情を浮かべながら私を見ており、そんな彼女へ向けて私は、

 

「『永遠』の教えを護りたいのなら…貴方が倒れてはならないわ。けれど、本当の意味で『永遠』と『雷電将軍』を護りたいのなら…もっと広い視野を持つことが重要だと思うわよ」

 

そう告げた。上官へ向けてタメ口、ともなれば懲罰モノだろうけど、どうしても言いたかったのだ。加えて私は今日から最前線、九条裟羅とはもう会えないかも知れない。なら、言えるだけのことは言っておかなければならないだろう。

 

私はそのままニコッと笑うと今度こそ処置室へ向かった。九条裟羅は怒っている様子もなかったが、ただ驚いたように一言「…忠告痛み入る」とだけ呟くのだった。

 

〜〜〜〜

 

珊瑚宮内で暫く旅人と、そしてパイモンを交えて談笑していたのだが、色々と有意義な話を聞くことができた。

 

まず彼が旅をしているのは、唯一の肉親である双子の妹を探しているかららしい。俺も大切な存在を探している身ではあるので、肉親を探したいというその気持ちはよく理解できる。俺はその場で彼の肉親探しに協力する旨を伝えた。まぁ、弱体化しているので昔に比べて余り役には立てないかもしれないが、いないよりかはマシだろうということで俺も探してみることにした。

 

二人は大層喜んだが、すぐに険しい表情を浮かべたので詳しい事情を聞いてみると、どうやら妹はアビス教団の連中とつるんでいるらしい。まじかー、と思わず頭を抱える俺だったが、妹によれば旅人自身のことを嫌っている発言などはなく、寧ろ『兄のいる場所が自らの帰る場所』とも発言していることから別に旅人が嫌いになった、というわけでもなさそうだった。

 

「───お待たせいたしました、旅人さんにアガレスさん」

 

そんな話を聞いていたのだが、時間が大量にあるというわけではなく、心海が俺達のいる部屋に入室してきた段階でその話はお開きになってしまった。心海は俺達が話していたことに多少興味を示していたが、今は公然の場であるためか我慢している様子を見せている。

 

こほんっ、と心海が咳払いをすると、

 

「まずは旅人さん、先の戦でのご活躍、お見事でした。以前確認したように海祇島は現在苦境にあると言っていいでしょう。そんな海祇島と抵抗軍の現状を知っても尚、私達と共に戦っていただけますか?」

 

旅人へそう言って真剣な表情を向けた。旅人はパイモンと顔を見合わせ首肯き合うと、心海に「俺は諦めない」と返した。心海は少しだけ嬉しそうに笑うと、次に俺にも同じ質問を投げかけてきた。だが俺の答えなどとうに決まっている。

 

「お前が俺の協力者である限り…そしてお前が正しい道を踏み外さない限り、俺はお前の味方だ」

 

勿論抵抗軍の味方とは言わない。確かに俺はこれから抵抗軍に所属することになるのだろうが、海祇島の抵抗軍にわざわざ肩入れする第三国───旅人の話を総合すれば『アビス教団』か『ファデュイ』の二択だろう───の存在が気になっているため、抵抗軍の兵士達はあまり信用していないのだ。

 

心海はその事を理解しているからか少し物憂げな眼差しを一瞬浮かべる。だがすぐに旅人に真剣な表情を再び向けると、

 

「では旅人さんを正式に、海祇島特別行動隊『メカジキ二番隊』の隊長に任命します。そしてアガレスさんには私直轄の密偵の職に任命します」

 

そう言った。心海によれば特別行動隊は抵抗軍の中でもかなり狭き門であり、ほんの一握りのエリートのみで構成されているらしい。そして中でも『メカジキ』の名を冠する部隊は更に英雄級の働きをするらしい。その隊長に旅人は就任した、というのだからそれはまぁ凄いことなのだろう。

 

旅人はこれから抵抗軍の大将であるゴローというモフモフの彼や眼前の心海の指揮下で動くことになるのだろうが、俺の貰った役職というのは正直わからない。

 

まず心海直轄ということは心海以外の命令は無視していいということになるだろう。そして密偵とは多分名ばかりで色々自由に行動させてくれそうな感じがする。ただどちらにせよ今は風元素が使えないので、俺の機動力はかなり低いだろう。その辺を上手くカバーしていかねばならないだろうな。

 

 

 

数分後、旅人とパイモンが去っていき、部屋に残った心海と俺は少しだけ話をしていた。まぁ実際、心海直轄の密偵という役職なんて本来はないのだろう。俺に役職を与えることになるとしたら、と考えてたった今作ったものなのかも知れないな。

 

などと考えていたのだが、案の定だったようで心海は俺を見ながら苦笑すると、

 

「すみません、あの時咄嗟に貴方が自由に動けそうな役職を考えたんですが、新しく作らないとなかったんです」

 

そう言った。やっぱりか、なんて思いつつ俺は気にしていないことを告げると頭を下げた。

 

「動きやすい職を配してくれてありがとう。これからは一応とはいえ上下関係ができるわけだし、一応敬語で話すことにしたほうがいいか?」

 

そして心海にそう問いかけると、心海は少し考える素振りを見せたが首を横に振った。真意がわからず首を傾げていると、

 

「勿論、上下関係というものははっきりしておかないと兵士達に示しがつかない、と考えるのはわかります。ですが、貴方には上下関係など気にせず…そのまま自然体でいて欲しいんです。私の勘ですが…その方が良い気がするんです」

 

心海は微笑みながらそう告げてきた。なるほど、現人神の勘ということであれば案外従ったほうが賢明かも知れないな。ということで俺は心海に敬語を使わずそのまま自然体でいることに決めた。

 

密偵の任務だが、基本的に幕府軍には潜入せずに自軍のおかしな所を探ってもらうらしい。扱い的には一兵卒と何ら変わらないものにはなりそうだが、その時その時で指揮官には俺の存在を伝えてくれるらしいので恐らく自由に動くことはできるのだろう。

 

ということで、俺は心海直轄の新役職である密偵になることが決定したのだった。




・只野家三女?次女?

読み直してわかりにくいなーと思ったので補足…

只野家は元々稲妻幕府に長く仕えた家なので、それなりに敷居が高いんですが
長男の只野 誓一君があまりにも素行不良過ぎたので幼い段階で勘当を言い渡されております

故に繰り上がりで次女だった只野 清ちゃんが男として育てられつつ、三女の只野 眞ちゃんが次女、として対外的には伝わっているんですねぇ
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