強者に好かれ弱者に嫌われるスキルをもって転生した少年 作:三つ眼の荒木
#プロローグ 少年の追憶
夜中に目を覚ました理由は音だった。
乱れる息遣い。ピチャピチャと水が絡み合う音。
その音が近くそして大きく聞こえた。
異世界の特徴の一つに夜の静けさがある。昼は多くの人でにぎわっている街も、夜になると静かになる。当然、車の音が聞こえるはずもなく、虫の鳴き声も聞こえない。
この世界に来て始めの頃は静かすぎて耳鳴りが聞こえ始め寝るのに苦労した。
しかし、2カ月もたてば慣れ始めこの静けさが心地よく感じていた。
だから、誰かの激しい呼吸音と謎の水の音は不快に聞こえ、意識は半覚醒状態になっていた。
なにかが聞こえる気がする。
だけど眠い。
目を開けるのが面倒くさい。
しかし半覚醒状態になった意識は再びまどろみへとおちて―――
———柔らかく水にぬれたなにかが頬を触れた
気持ちが悪い。
意識が急激に引き起こされる。
瞼を開けると誰かが自分の体を跨っていた。
その顔は窓から入ってくる逆光で見ることができない。
しかし体の輪郭から女性と分かる。
彼女の口から何かが垂れ、自分の衣服の上に落ちた。
涎だ。
今さっき頬に感じた不快な感触は彼女の舌だ。
根拠はない。ただ直感的にそう思った。
「だ、誰———んむっ」
声を出そうとすると口をふさがれる。
彼女の口で。
唇が合わさるソフトなものではない。
彼女の口はまるで俺を捕食するように開かれ口内を蹂躙した。
口と口が合わさるとき、勢いよく彼女が顔を近づけたせいで前歯同士が軽くぶつかる。ジンとした痛みのあとに、彼女の舌が自分の口の中に入り入念に舐めていく。
舌と舌、互いの涎が絡み合うことで淫靡な音が響いていた。
俺はファーストキスの衝撃で何もすることができないでいた。
それをいいことに彼女は長い間、俺の口を堪能している。
気持ちが悪い。
ようやく彼女の顔が遠ざかっていく。
口と口が透明な橋でつながっていたが、すぐに俺の衣服の上に崩れていく。
「はぁ、はぁ」
彼女の息遣いはさらに激しいものになっていた。
長い接吻で呼吸ができなかったからじゃない。
興奮しているからだ。
「いいよね。君が好きっていったんだから。いいよね」
彼女はそう言うと、指で俺の上半身を衣服の上から縦になぞった。
次の瞬間、服が音もなく切れる。
彼女は切れた服を横に引っ張りはがすと、裸になった上半身を食い入るように見ている。
「はぁはぁはぁ」
息遣いがさらに激しいものになる。
そして、顔を近づけ舌を這わせるように舐めた。
冷たくも熱くもない生ぬるい水にぬれる感覚が伝わってくる。
「おいしい。おいしいよ。すごくおいしい」
俺は今までに感じたことがない危機を感じていた。
異世界に来てたくさんの危機があった。
急にこの世界に来てどこかも知らない土地を10時間以上歩いた時。
ようやくついた街で衛兵に殴られたとき。
ダンジョンで思わぬ強敵と出会ったとき。
今まで遭遇したどんな危機とも違う。
犯される。
今まで考えもしなかった。
自分の尊厳が破壊されるかもしれないという危機だ。
彼女に舐められる中、逃れようと体を動かそうとする。
しかしびくともしない。
俺の肩を掴んでいる左手と跨っている腰の部分で、体は完全に固定化されている。
と、その時彼女の右手の位置に気が付く。
彼女の右手は俺を掴んでいない。
ならどこに、と視線を右腕に合わせると右手は彼女自身の股下へと延びている。
そして、右手が動くたびにぴちゃぴちゃと水音が響いている。
ぞっとした。
どこか夢のように思っていたが急に現実に引き戻される。
元居た世界で中学校の友達はいわゆる
だから、今の光景も現実感がなかった。
しかし、自分も何度か自慰行為はしたことはある。
女性が自慰行為をしているなんて考えたこともなかった。
ただ、自分の知っている性的な行為を、目の前の女が行っている。
その事実が生々しい現実感を漂わせていた。
このままじゃ本当に犯される。
怖い。
この異世界に来た時以来の恐怖を感じる。
性行為は気持ちの良いことだとか、初めては好きな人と結ばれたいとか。そんなことを思う心の余地は一切なかった。
ただ純粋に怖い。
目の前の女が怖かった。
「や、やめてください!」
俺はさっきより大きな声をあげて抵抗する。
ベッドがギシギシと揺れ、音を立てる。
すると彼女は俺の口を押さえた。
「シー。静かにしようか」
口を押さえた彼女の右手は濡れていた。
気持ちが悪い。
俺は泣きそうになりながらもさらに体を捩って暴れる。
さらにギシギシと音が鳴る。
「ちょ、落ち着いて。私は君のために―――」
できるだけ力を入れるため、彼女も左手だけじゃ押さえきれず、口を押さえていた右手を動かして俺の左肩を掴んだ。
俺はこれを好機に大声をあげる。
「誰か――」
ゴンッと音が響いた。俺の頬から。
視界が揺れジンジンと痛みがやってくる。
「落ち着こっか」
彼女の拳を見て俺は黙る。
殺される。
「殺すなんて思ってないよ」
まるで心を読んだかのように彼女は弁明する。
「でもさ、何か勘違いしてるみたいだったから。
ほら、私たち最近会っていなかったでしょう。あの時守ってもらったお礼もまだ言えてなかったし。あの時はありがとう。私なんかを好きっって言ってくれて。お礼を言いに行こうと思ったらギルドマスターに止められてしまって。臭いからやめとけって。酷くない?臭くないよね。一応でかける前にちゃんと洗ってきたし。さっきちょっと運動したから少し汗かいてるけど。あ、でも私は君の汗の匂い好きだよ。それで、臭くないことを証明するために、君に嗅いでもらおうと思って家にきたらぐっすり寝ていたから見ていたの。可愛かったよ君の寝顔。それでさ。好きっていうことは。
私を抱いて、という彼女の声は聞き覚えがあった。
彼女の顔を見る。いまだに逆光でよく見えないが、あることに気づいた。耳が横に長い。エルフだ。
そして聞き覚えのある声。
もしかして彼女の正体は―――
でもなぜ?
変な人だとは思っていたけど、こんなことをするような人じゃなかった。
「じゃ、始めようか。私に任せて。最高の夜にしよう」
彼女が俺のズボンに手をかける。俺は目を瞑った。
せめてもの抵抗でもあり、ただ純粋に彼女が怖かったからでもある。
異世界。この世界はあまりにも理不尽だ。
強者の力は絶対で、弱者には厳しい。
都合の良いことなんて起こらない。
理不尽な現実に直面するか、残酷な真実を知る。
今の俺のように。
天井のシミを数えることもできない俺は、目を瞑り異世界での出来事を思いだす。最初に思い出すのはあの日。
まだ何も知らない俺がこの世界で目覚めた日。