強者に好かれ弱者に嫌われるスキルをもって転生した少年   作:三つ眼の荒木

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久々にカインさんとビルキさんの登場です。
ビルキさんは本来もっと脇役でしたが、Fカップで人気がでたため出番を増やしました。なおヒロインではありません。

後書きに14話のネタバレが少しだけ含みます。


#12 衛兵の謝罪

 

「お疲れ様でーす!」

「お、今日も来たのか。聞いたぞ、冒険者ランク昇格したってな」

 

 警備隊の訓練所に入る時、許可証を見せながら受付の衛兵と談笑をする。

 2カ月近く通っているため、彼とは最近よく話すようになった。

 

「そうなんですよ。ダンジョンボスを倒してついに俺もEEE級です」

「EEE級って、1カ月前EE級になったばかりだろ。かなり早くないか?」

「仲間が超強いんで!」

 

 許可証の確認が終わると、軽く会釈をして訓練所の中に入る。

 俺は廊下で通りすがる衛兵の方々に挨拶をしながら、いつもの広場へと向かう。

 

「お疲れ様です」

「おう、お疲れ」

「お疲れ様です」

「坊主、聞いたぞ!ダンジョンボスを倒したってな!やるじゃねぇか」

「ありがとうございます。ダンジョン攻略最年少記録を更新しました!」

 

 訓練所に通い始めて2カ月、徐々に声をかけてもらえるようになった。

 

 広場につき走り込みをする。

 最近は大盾を背負いながらしているが、今までのペースでも疲れないようになってきた。

 2カ月前に比べて明らかに成長している。

 

 その後も槍の素振りをしていると、他に訓練している人から声をかけられる。

 俺は近況報告をした後、模擬戦を申しこみ勿論ボコボコにされた。

 

 冒険者になって分かったことは、訓練している衛兵の強さだ。

 年齢は20~40歳まで幅広くいるが、年齢が高ければ高いほど強い傾向にあった。

 ベテランともなればニューソードのパーティメンバーと同等レベルかそれ以上の人もいる。

 

 特に俺はよくカインさんの知り合いからよく声をかけられる。

 

 当然長い間衛兵をしているベテランが多いため、模擬戦では勝機すら見えなかった。

 

 そんな内に今度はビルキさんが来たため彼女と模擬戦をする。

 

 ベテランの衛兵は強いと言ったが、彼女はそれ以上に強い。

 ニューソードのメンバーと比べても、彼女の方が明らかに強いと分かる。

 

 体捌きの速さや動きを予測する能力、隙の無さ、そして単純な力、全てがパーティメンバーの誰よりも勝っている。しかも、彼女は本気を出していない。

 俺も少しは強くなったはずなのだが、彼女に勝てるビジョンが見えなかった。

 

 ビルキさんはオーガだった?背も高いし。

 

「何か失礼なことを考えましたね」

「え、なんで分かったんですか」

「ブラフです」

「あ」

「なるほど。これは躾が必要ですね」

 

 あとビルキさんは絶対ドSだ。

 

 しかし、その戦闘スタイルはどちらかというと守りよりの慎重な戦い方だ。

 武器毎の攻撃可能な範囲を完全に理解し、射程圏内に入ってきた相手を即座に攻撃する待ちのスタイルだ。

 

 射程の外から攻撃を仕掛けようとしても、彼女の領域に入った瞬間当たる前に体勢を崩され、その隙を狙われる。

 こちらも待ちの姿勢だとじりじりと近寄ってきて、少しでも彼女との距離を見誤ると即座に攻められる。

 

 この相手を感知し反撃が可能な空間領域を、彼女は制空圏と呼んでいた。

 

 新人相手に容赦も隙もない戦い方だった。

 

 ビルキさんは棍を腰の部分で構えると、一切動くことなく静止する。

 

 考えなしに突っ込んだら順当に負ける。

 かといって、彼女のように待ちのスタイルだと反射神経で負ける。

 

 俺に取れる手段はたった一つだ。

 

 俺は考えを放棄して突撃する――かのように彼女の制空圏へと入る。

 

 彼女は即座に動き、自身の持っていた棍を振り下ろしでうち落としてきた――ことは容易に想像できたので、自ら手を放し腰の後ろ部分に隠していた木剣を彼女に向かって投げつける。

 

 しかし、彼女は顔色一つ変えることなく、棍を回転させ木剣をはじき俺の首元に棍の先を持ってくる。

 

「参りました」

「今回は良かったですね。しかし、私は制空圏を目ではなく気で感知しています。

 特別な技術がないと木剣を隠すことはできません」

「子供相手に大人げないとは思わないんですか」

「思いません。大人ですので」

 

 ビルキさん、絶対に大人げないの意味を知らないな。

 

 すると、廊下からカインさんが歩いているのが見えた。

 俺は立ち上がり彼が入ってくるのを待つ。

 

「カインさん、お疲れ様で―――」

 

 そして、彼の後ろにいる人物に気づき絶句した。

 

「衛兵長、お疲れ様です」

「おう、お疲れ。訓練の前にセカイに会いたいって言う奴がいるんだ」

 

 そういうと、彼の後ろに立っていた人物が前に出る。

 

 俺はその人物に見覚えがあった。

 いや、忘れるわけがない。

 

「セカイ君、その覚えているだろうか。君がこの街に来ていた時門で見張りをしていたんだが……」

「……はい。覚えています」

 

 カインさんと出会う前、一日中歩き助けを求めた俺を殴った男。

 思い出したくもない俺のトラウマだ。

 

 俺に何のようがあるのだろうか。

 カインさんの目の前だし、また殴られることはないだろうけど。

 

 すると、彼は膝をつき頭を地面につける。

 土下座の態勢を取り大声で言った。

 

「あの時はすまなかった」

 

 俺は呆気にとられる。

 

「え」

 

「君にしたことは到底許されることじゃない。でも謝らせてくれ。

 君みたいな子供殴るなんてあの時の俺はどうかしていた」

 

 大人が俺に土下座をする。という経験に俺は理由も分からず焦っていた。

 カインさんの方を見ると無表情で彼を見ている。ビルキさんの方を見ると冷ややかな視線を彼にぶつけていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。

 とりあえず立ってください」

 

「いや、このまま謝らせてくれ。君があの時土下座をしてまで俺を頼ったのに、俺が謝罪するとき土下座しないなんて恥ずかしい真似はできない」

 

 あと、大声で話すのはやめてほしい。

 

 周りで訓練をしていた衛兵たちが俺達に注目している。

 中には訓練の手を止め、俺達を指でさしながら話をする人もいた。

 

「とりあえず顔を上げてください。えっと……名前を聞いてもいいですか?」

 

 ようやく男は顔を上げ俺と目が合った。

 顔は土で少し汚れている。

 

「すまない。俺はナールという」

「あ、はい。俺はセカイ・アライといいます」

 

「ああ。カインさんから話は聞いた。

 君の事情やあの時何があったのかを。本当に申し訳なかった」

 

 彼は再び頭を下げる。

 俺はなぜか彼が頭を下げるたびに、苦しく感じていた。

 

「ナールさん、とりあえずもう土下座はいいです。立ってください」

 

 何とか説得してナールを立ち上がらせる。

 俺はカインさんに質問した。

 

「カインさん、どういうことですか?」

「最近セカイも冒険者になって訓練所でも有名になってきただろ。

 そこでナールもセカイを知ってどうしても謝りたいと言い出してきたんだ」

 

「はぁ」

 

 重要な部分が抜けている。

 なんで今更俺に謝りたいと言ってきたんだろう。

 

 聞こうとするが、彼が先に俺に話しかける。

 

「セカイ君。俺を殴ってくれ」

「は?」

 

「あの時、俺はセカイ君を殴った。だから俺を思う存分殴ってほしい」

「何言ってるんですか」

 

 意味が分からない。

 別に俺はナールさんを殴りたいなんて思ったことはない。

 

「いや、別にいいです」

「君は優しいな。でも俺はそんな優しさを受け取るべき奴じゃない。頼む俺を殴ってくれ」

「ええ……」

 

 ドン引きしていると、俺達を見ていた衛兵から「殴れ」と野次がとぶ。

 いつの間にか広場を囲うように多くの衛兵が俺達を見ていた。

 

 俺は助けを求めようとカインさんを見る。

 カインさんは基本的に静観していたが、俺の視線に気づき口を開いた。

 

「こいつは大馬鹿野郎だからな。殴られるまでセカイにつきまとうぞ」

 

 最悪すぎる。

 野次でも「殴れ」という声がどんどん増えていく。

 

 俺はため息をついてナールさんに話しかける

 

「分かりました。一発だけですよ」

「ありがとう、セカイ君」

 

 いや、ありがとうではないだろ。

 

 俺はつっこむ気力もないほど呆れていた。

 何がしたいんだこの人。

 

 俺は右手で拳を握り、思い切り彼の左頬を殴った。

 

 これで満足しただろうか。

 ナールは首を横にふる。

 

「セカイ君。遠慮をせず本気で殴ってくれ。こんな事で気が晴れないのは分かっている。だけど衛兵として市民を苦しませた罰を受けたいんだ」

 

 ダメ出しをされた。

 

「いや、本気で殴ってあれなんです」

「君は優しいな。でも俺は――」

 

 なかなか信じてもらえず、野次でも「本気で殴れ」と声が聞こえる。

 他人事だからってこの人たちは……

 

 ナールさんじゃなく周りの野次馬に殴りかかりたいぐらいだ。

 

 もともと一発だけという約束もあり彼は諦める。

 しかし、今度は隣で見ていたビルキさんに話しかけた。

 

「ビルキ、彼の代わりに俺を殴ってくれ」

「なんで私があなたを殴らなければならないのですか」

 

 良かった。ビルキさんは冷静だった。

 

「俺は君の弟弟子がこの街にきた時、不審者呼ばわりして彼を殴った。その罰を受けたい」

「なるほど。殴る理由は十分ありますね。どこを殴りましたか」

「彼の左頬をーーーうぐっ」

 

 ナールさんがが言い終わる前にビルキさんは彼の鳩尾を殴った。彼はその場に倒れ込む。

 むせており上手く呼吸ができていないようだった。

 野次馬から歓声が上がる。

 

「勿論その話は衛兵長から聞いていました。彼がボロボロな状態なのに信用してもらえず、不意打ちで殴られた事もです。少しはセカイ君の気持ちを理解できたのでは?」

 

 前言撤回。

 彼女はバチバチにキレていた。

 

 話し方が怒っている時の話し方だ。

 

「ああ。ビルキの怒りは当然だ」

「左頬は衛兵長にとってあります」

 

 ナールさんは振り返りカインさんに殴ってもらうよう頼みこむ。

 カインさんは拳を握る。

 

「言っておくが手加減はしねぇぞ」

「覚悟のうえです」

「わかった」

 

 カインさんが構えを取り、そしてナールさんの左頬に目掛けて思いっきりフックを放った。

 ナールさんは横に吹っ飛び訓練この壁に激突する。

 

 今までで一際大きな歓声が上がった。

 

 起き上がってこない。その場にいた衛兵が彼の容態を確認する。

 

「完全にのびてます。命に別状はなさそうです」

「一応医務室運んどけ。先生に事情を説明して痛み止めは出さないよう言っとけよ」

 

 カインさんが俺に話しかける。

 

「セカイ、面倒かもしれないが今度もう一回ナールと話してやってくれ。

 あいつは馬鹿だからな。許すか許さないかはっきり言わないと、一生謝ってくるぞ」

 

 俺はカインさんに確認する。

 

「やっぱり許した方がいいですよね?」

 

「……それはセカイが考えて決めることだ。

 どちらの選択でも俺はセカイの意見を尊重するつもりだ」

 

 その後、ビルキさんや他の衛兵の方と模擬戦をした。

 帰りに医務室を覗いたがナールさんの姿はなかった。

 

 カインさんは緊急の仕事が入り途中で呼び出されたため、俺は一人で帰宅していた。

 

 歩きながら考える。

 

 ナールさんを許すべきか否か。

 あの時は色んなことが起こって、考える暇もなかった。

 

 彼を許した方が良いんだろうという思いもある。

 しかし、彼に殴られたのは確かでそう簡単に割り切れるものではなかった。

 

 俺が子供だからむきになって彼を許せないのだろうか。

 大人ならどうするんだろう。

 

 俺は考えるが心がぐちゃぐちゃで答えは出ない。

 

 そんな時に彼女の言葉を思い出した。

 

 大人に相談すればあっさり解決することもある……か。

 

 カインさんには相談できない。

 なら、この言葉をかけてくれた本人に相談するしかないだろう。

 

 俺は自宅ではなく、冒険者ギルドに向けて走り出した。

 

 

 

 俺はセカイとビルキの模擬戦を眺めながら、ナールについて考えていた。

 

 本来、セカイに会わせる気はなかった。

 しかし、他の部下のセカイに対する評判を聞きどんな様子か見てみたくなった。

 

 

 セカイではなく、ナールの様子をだ。

 

 初めてナールがセカイを見た時殴ったのは、間違いなくセカイの呪いのせいだ。ナールは馬鹿だが悪い奴じゃない。初対面の子供を殴るような奴じゃなかった。

 

 そして今日、彼を殴ったことを後悔し謝罪をした。

 いつもの彼のように見えた。

 

 セカイの呪いは絶対ではない、ということだ。

 

 ナールだけでなく、セカイの評判は訓練所で良くなっている。

 あくまで第一印象が人によって悪くなる呪い、といったところだろうか。

 

 セカイについては分からないことが多い。彼がタンクの訓練をしたいと言った時、事情を聞くと攻撃されそうになると自動で魔法が展開されることを聞いた。

 オーガと戦った時も、自身が吐いた血が集まりオーガの右目へ攻撃したらしい。

 

 もしかしたら、セカイには水の精霊がついているのかもしれない。

 

 精霊だと思う理由は、防御魔法が発動するタイミングである。模擬戦では魔法が一度も展開される事はなかった。これは誰かが意図的に魔法を発動する時としない時を区別して出来ることだ。誰にも気づかれずそんな芸当ができるのは、精霊しかいないだろう。

 

 セカイはいったい何者なのだろう。

 

 ナールに殴られた時、魔法が発動しなかったことを考えると、精霊とはおそらくこの街で出会ったのだろう。ヒューマンは精霊の声が聞こえない。魔力を操れない彼では意思疎通は不可能だ。つまり、一方的に精霊達に好かれていることになる。

 

 ありえない話だが、どこか納得する。

 

 セカイは間違いなく人たらしだからだ。

 

 セカイは人に嫌われる呪いを持っているが、同時に人に愛される才を持っている。

 

 人たらしと言っても侮ってはいけない。

 かつてとある英雄はその才能を英雄の素質と言ったからだ。

 

 セカイはただの普通の子供ではないと俺は確信していた。

 

 彼の正体が、精霊神と結ばれた勇者の子孫と言われても俺は驚かないだろう。

 

 むしろその可能性は大いにある。

 もしそうなら、魔王が彼の才能を脅威に思い呪いをかけ辺境へ転送させた、といった展開だろうか。

 殺さなかった理由は分からないが、彼の呪いの強さを考えると魔王が関わっていてもおかしくない。

 

 しかし、この考察には大きな穴がある。

 

 それはセカイの弱さだ。

 

 俺はセカイとビルキの模擬戦を集中してみる。

 

 戦闘訓練を始めて2ヶ月近くたったが、二人の戦力差はなかなか縮まらない。

 

 勿論、成長の『壁』にあたり戦力差がなかなか縮まらない時期はある。しかし、セカイはその『壁』にすら当たっていない。ただただ成長が遅いように感じられた。

 

 基本的に初心者の方が成長しやすい。それに加えオーガを倒したのなら二人の実力はもっと縮まるはずだ。

 

 それでもセカイの体は一向に成長しない。

 むしろ弱くなっていると感じてしまう時さえあった。

 

 セカイはビルキとの模擬戦を終える。

 

 今回もセカイはビルキに一撃も入れることはできなかった。

 センスは悪くない。ただ体が追い付いていない感じだ。

 

 するとその様子を見ていた、他の衛兵から模擬戦を申し込まれていた。確かあの衛兵は最近入った新人だ。実力が近いから申し込んだのだろう。

 

 模擬戦が始まると予想外の展開になった。思ったよりセカイが彼に食いついている。実力は拮抗どころかセカイがやや有利だった。

 

 どういう事だ?

 

 セカイだけじゃない。訓練相手の新人も俺が思っているより弱いように感じた。

 

 実力を見誤った、俺が。

 なぜ?

 

 

「……まさか俺達が成長しているのか?」

 

 




【ステータス変化】※ステータス値は省略

名前:ナール
種族:ヒューマン
レベル:40→45
印象:悪印象→中立
備考:始まりの街の衛兵。馬鹿だがいい奴。


名前:訓練所にいる衛兵(平均)
レベル:35→38
印象:悪印象→悪印象・中立
備考:訓練所にいる衛兵は向上心が高く普通の衛兵に比べてレベルが高い。


名前:始まりの街冒険者(平均)
レベル:20→22
印象:悪印象
備考:D~DD級になるとほかの街に拠点を移すことが多いため、他のギルドに比べレベル平均が低い。


名前:カイン
種族:ヒューマン
レベル:99→120
印象:好印象→家族愛(子)
備考:始まりの街の衛兵長。15年前に子と妻を亡くし冒険者を引退した。


名前:ビルキ
種族:ヒューマン
レベル:71→90
印象:中立→家族愛(弟)
備考:始まりの街の衛兵。身長180㎝。Fカップ。セカイとは干支が同じ。


名前:始まりの街の住民(平均)
レベル:5→6
印象:嫌悪~憎悪
備考:魔獣の脅威に晒されないため平和ボケしている。


名前:マイ・リアシー
種族:ハーフエルフ
レベル:162→172
印象:恋慕
備考:始まりの街冒険者ギルドの受付嬢。元A級冒険者。40歳。魔法拳士。


名前:ガイル
種族:ヒューマン
レベル:251→256
印象:興味→執着
備考:始まりの街冒険者ギルドのギルドマスター。元A級冒険者。支援術師。既婚者で愛人が2人いるが誰一人として愛していない。
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