強者に好かれ弱者に嫌われるスキルをもって転生した少年 作:三つ眼の荒木
お久しぶりです。
この回を書くのが難しく2カ月近くたってしまいました。
ようやくかけたので投稿を再開したいと思います。
ウルフ視点→セカイ視点→マイ・カンナヅキ視点です
長めです。
また久しぶりの投稿のため文法がおかしかったり誤字脱字等があるかもしれません。
報告していただけると幸いです。
また、感想も楽しく読ませていただいております。
冒険者ギルドに向かう途中、セカイと合流し俺達は雑談をしながら目的地へと向かっていた。
しかし、冒険者ギルド前に着いた時、俺達は思わぬ光景に黙ってしまった。
ギルド前にて凛とたたずむ一人の女性。
耳が長くとがっており誰が見てもエルフだった。
セカイ以外の全員が気づき緊張が走る。
彼女は俺達の方を見る。するとセカイを凝視し近づいてきた。
エルフがセカイに話しかける。
「あなたがセカイね」
「……はい」
セカイはなぜか全く緊張していなかった。
しかし、話しかけられるとは思っていなかったようで怪訝そうに答えた。
「安心しなさい。私が保護してあげる。付いてきなさい」
と言うと、エルフは振り返り離れていった。
しかし、セカイは呆然としていてついていこうとしない。
セカイはなんでついていかないんだ?
何でそんなことをして平気でいられるんだ?
エルフが怖くないのか?
指摘しようとするがエルフもその様子に気づいたようで、立ち止まり再び振り返った。
「あんた何でついてこないのよ。保護されたくないわけ?」
「まぁ、はい。もう十分心優しい人に助けてもらったので……」
「じゃあ今度は心優しい私が助けてあげるって言ってるの。感謝しなさいよ」
「……ありがとうございます。でも大丈夫です」
セカイの会話がただただ恐ろしい。
エルフに対する敬意が一切感じられない話し方だ。
どんな人でもエルフに逆らってはいけないと知っている。
話す時はどうしようもなく何かしら敬意や畏怖がこもるはずだ。
しかし、セカイからはそれが一切感じられなかった。
「私の保護を断るわけ?」
「まぁ、はい。すみません、わざわざ来てもらったのに――「セカイ」
俺はセカイの言葉を遮った。
我慢の限界だった。
これ以上エルフの機嫌を損ねれば殺される可能性だってある。
セカイは状況を全く分かっておらず、俺に聞き返す。
「なに?」
「エルフ様の誘いを断るなんて正気か?」
「もしかして凄く偉い人だった?」
案の定、セカイは何もわかっていなかったようだ。
「偉い人って……エルフ様だぞ!偉いなんてものじゃない。俺達なんかより生物として上位の方だ」
「そこのヒューマンには常識があるみたいね」
小声で話していたが聞こえていたようだった。
でもこれで分かってくれただろうか。
「でも、俺は貴方と初対面だし。それにそんなにすごい方がなんで俺なんかを保護するんですか?」
全然何もわかっていなかった。
「私があんたを保護する理由は、あんたが精霊の愛し子だからよ」
「精霊の愛し子?」
「ええ。見たことも聞いたこともないけど精霊に好かれやすい体質みたいだわ。
特別な力に守られていると感じたことがあるはずよ」
「確かに……」
もう俺には何が何だか分からなかった。
セカイが精霊の愛し子?
しかし、腑に落ちる部分はある。
彼がタンクとなるきっかけになった、
オーガ戦の時に血が球体となって目に攻撃したという話。
俺達には見ることができない精霊が助けていたとなれば全て納得がいく話だ。
「風の精霊があんたの保護を私に求めたのがきっかけよ。
精霊を見ることも、声を聞くこともできないのに惹きつける何かが貴方にはある。
私が保護するには十分な理由だわ」
「精霊さんと話すことはできないんですか?」
「ヒューマンである限り絶対に不可能よ。精霊たちが高位になれば別だけど、あんたの精霊は雑魚だし無理ね」
「そうですか……」
「mala,arunihaarukeredoanohouhouha......」
エルフが何かをつぶやく。
俺には彼女が何を言っているのか分からない。
「arundesuka!osietekudasai」
するとセカイもまた何かを彼女に話しかけた。
俺たちが知らない言語で。
「tyottomatte!antawatashinokotobagawakaruno?!」
「e?hai.nandesuka,kyuuni」
俺は思わずセカイに話しかける。
「セカイ、エルフ様の言葉が分かるのか?」
「どういうこと?みんなも聞けていたじゃん」
彼はまるでいつも通り普通に聞こえて話しているかのようだった。
「共通語は分かるけど、エルフ語は分からないよ」
「エルフ語?」
「さっきセカイが話した言葉だよ」
「どういうこと?意味が分からない。俺は普通に話しただけだけど」
フレデリカも分からないみたいだ。
俺がおかしいんじゃない。
セカイがおかしくなっている。
「konokotobawodokodeshittano?」
「dokodeshittatte.hutsuunikokyounokotobadesukedo...」
「dokosyusshinn?」
「nihonntoiukunidesu」
「nihon...kiitakotonaiwane.demo,elfnochigamajitteirunonara,seireiniaisarerunomounazukeru」
その後も流暢にエルフ語で会話しているようだった。
俺には何を話しているかも分からない。
セカイ、お前は一体何者なんだ……
「私、あんたの正体が気になってきたわ。絶対に私に付いてきてもらうわよ」
「連れて行って何する気ですか」
「何もしないわ。もともと私はあんたを保護しに来たのよ」
エルフがセカイの腕を掴む。
セカイは抜け出そうと抵抗している様子だった。
「や、やめてください」
「だから、私はあんたを保護しに来たのよ。なんで抵抗するのよ」
親友が嫌がっているのに俺は何もできずにいた。
親友は失いたくない。しかし、エルフと敵対したら殺されるかもしれない。
無理だ。エルフ様に逆らうなんて、本能が拒否している。
なんでセカイは平気なんだ?
その時、後ろから声がかけられる。
「申し訳ございません。セカイ君が困っています。その手をおはなしください」
マイさんだ。
ハーフエルフの彼女ならエルフ様と対等に話せるはずだ。
予想外のことが起こり続けてどうにかなってしまいそうだった。
☆
「黙れ」
言うつもりはなかった。
中学では他人と争うことを避けていたし、嫌がらせにあっても怒ることはない。
イラっと思うことはあっても、明日には忘れているだろうとどこか他人事のように考えていた。
だから自分はあまり怒りを覚えない人だと思い込んでいた。
しかし、違う。
俺は悪意を知らなかっただけだ。
今まで運が良いことに、邪悪な存在が俺の周りにいなかっただけだったんだ。
理不尽で純粋な悪意がこんなに不愉快だなんて知らなかった。
初めての経験で感情の制御ができなかった。
「貴方、今、誰になんて言ったの?」
エルフが聞き返す。
訂正しなければいけない。
皆が我慢しているんだ。
当事者の俺が余計なことを言ったら話はさらにややこしくなる。ここは冷静に返事をしないと。
「俺がお前に黙れと言ったんだ」
駄目だ。
感情を制御できない。
「あんた、何を言ってるのか分かってるの。私はエルフよ」
「お前こそ何様のつもりだ」
落ち着け。冷静になれ、俺。
「エルフだかハーフエルフだか知らないが、マイさんを侮辱していい奴なんて一人もいない」
冷静に。
「マイさんだけじゃない。俺の大切な友達を馬鹿にしたことを撤回しろ」
冷静に……
「よくそんな言葉を人にかけられるよ。俺は思いもつかなかった。そんな言葉を言うくらいなら俺は獣の方がいいね」
冷静に――なれるわけがない。
「マイさんに謝れ」
俺は意を決して彼女を睨みつける。
エルフははっと笑い睨み返す。
「あんたには難しかったかしら、エルフとハーフエルフの関係性は。ガキは黙ってなさい」
もういい。言いたいことを全部言ってやる。
「いいや、黙らないね。エルフだとかハーフエルフだとか関係ない。俺はマイさんが好きだ。ウルフもシルドアウトもフレデリカも好きだ。自分の好きな人を馬鹿にされて黙っていられるわけがない」
彼女の顔がより険しくなる。
「そうやって感情で行動するところがガキなのよ。弱いあんた達が私にたてついてどうなるかも想像つかないの」
「さっきまでハーフエルフだからって嫌ってた人がよく言うよ」
彼女が舌打ちをする。
「私は精霊から事情を聞いていたのよ。さっきも言ったけど、あの女はあんたを苦しませていたの」
「嘘だね。精霊さんがそんなことを言うはずがない」
これだけは明らかだ。
彼女が俺を嫌っているはずがないし、ニューソードの皆に苦しさなんて感じたことはない。
「はぁ?」
「彼女が俺を苦しめようとするはずがない。いつも俺を助けてくれた。ニューソードのパーティだって、苦しいなんて思ったことはない。彼らは新人でまだ弱い俺の話を聞いてくれた。俺をタンクとして信頼してくれた最高の仲間だ。マイさんはそんなパーティと出会わせてくれたんだ」
「まだ分からないの?悪意が無くともあんたを害する気はあるかもしれないでしょ」
言っている意味が分からなかった。
悪意がないのに害するなんて矛盾している。
「悪意はないのに俺を害するなんてあるわけないだろ。傲慢なエルフには分からないかもしれないけどな」
彼女の顔がより険しくなった。
「あんた、いい加減にしなさいよ」
「いい加減にするのはお前だろ」
「精霊を8人連れているからって、雑魚は何人集まっても雑魚よ。私はあなたの精霊より強い精霊を5人もつれているの。あなたも精霊もすぐに制圧することができるわ」
「気に食わないと思ったら暴力をちらつかせるのか。エルフは野蛮だね」
エルフは俺の服の襟を引っ張り上げる。
「その生意気な口をふさぎなさい」
もう知るか。
言いたいことをそのまま言ったら怒りは収まると思っていた。
でも言えば言うほど怒りが湧き出て、状況は悪化していく。
「いやだね。だいたい精霊さんをまるで自分のステータスみたいに言うなんて――……」
エルフも俺も引っ込みがつかなくなっていた時、予想外のことが起き俺は黙る。
目の前の光景に驚いて何も言えなかった。
彼女も俺が驚いた顔をしたことに気づき、怪訝な顔をする。
「……なによ、いきなり黙って。」
「……見えていないのか?」
「……なにが?」
彼女は見えていないようだった。
俺の目の前に突如出現した
――――――――――
名前:ヤヨイ・キサラギ
種族:エルフ
レベル:99
備考:十二英傑キサラギ家とヤヨイ家が結ばれてできた子。5人の精霊を使役している天才。
――――――――――
なんだ、これは。
もしかして……
「名前はなんていう」
「は?いきなりなによ」
「いや、その……なんとなく気になって」
「……ヤヨイ・キサラギよ」
彼女の名前……
「さっきからあんたどこを見てるの?」
彼女は目の焦点が合っていないことに気づき、俺が見つめている空中に手をかざす
しかし、彼女の手は透明な板を貫通した。
彼女は触れられず、見えない。
俺だけが見える。
俺も手をかざし触ろうとした。
しかし、同じく手は板を貫通し触れることはできない。
反応的に彼女の仕業ではなさそうだ。
何が起こっているんだ?
誰かが俺にこれを見せているのか?
なぜこのタイミングで?
「まぁ、いいわ。付いてこないなら強制的に連れていくまでよ。
エルフである私に盾突く腐った性根を私が教育してあげる」
キサラギは掴んだ俺の襟をさらに引っ張り、体が持っていかれる。
思わず転びそうになった時、誰かが間に入り体を支えてくれた。
顔を上げると見知った顔だった。
「カインさん!」
「大丈夫か?どこも怪我はしていないか?」
「うん」
カインさんは上から下まで体をくまなく見ると、服を引っ張るキサラギの手を掴む。
「ヤヨイ・キサラギだな」
「誰よあんた」
「ナール殺害の容疑がかかっている。署までご同行願おう」
俺は衝撃を受けた。
ナールさんが殺された?
このエルフによって?
「は?誰よそれ」
「お前が魔法の矢で殺した相手だ。知らないとは言わせないぞ。
あんな芸当ができるのは、今この街でお前だけなんだからな」
キサラギは黙る。
そして少し笑い答える。
「それって任意でしょ。もしそうじゃなくても、この街のヒューマンが私を連れていく強制力があるとでも?」
「……」
今度はカインさんが押し黙る。
キサラギは横目で空中を見た。
正確にはそこにいる精霊を見たのだろう。
「いいわ、行ってあげる。その代わりあんたが私を尋問しなさい」
「もちろんだ」
カインさんは俺の方を見る。そして厳しい声で言った。
「セカイは今日は家に帰っていろ。後で話がある」
キサラギは俺の服の襟から手を放す。
彼女とカインさんが歩いていく光景を黙ってみる。
正確には彼女たちの
ずっと考えていた。
なぜあのタイミングで半透明の板が出現したのかを。
あの時俺はこう言おうとしていたはずだ。『だいたい精霊をまるで自分のステータスみたいに言うなんて』
『ステータス』
まさしく。今俺が見ている半透明の板に書かれているものだ。
名前、種族、レベル、備考にはその人のあまり知られていない情報が書かれている。
まるでゲームのステータスみたいに。
試しに心でステータスと唱える。
すると目に入るすべての人の近くに半透明の板が出現した。
精霊の真実、エルフの悪意、ナールさんの死そしてステータスという新たな力。
思考停止するには十分な情報量だった。
⭐︎
窓から夕焼けの光が差し込む。
本来家族の団欒を楽しむためのリビングは、物が散らかり血で汚れていた。
「くそったれ……」
「はぁ……はぁ……」
クソ親父が悪態をつく。
その目の前で私は血を吐いて倒れていた。
両腕、両足、肋骨も何本か骨折しており、全く動くことができない。
私は半殺しにあっていた。
しかし、これには理由がある。
単純に私がクソ親父を殺そうと襲い掛かり反撃にあっただけだ。
クソ親父も足に怪我を負っているが、私と比べれば軽傷だ。
やっぱり私と彼では圧倒的な実力差がある。
「そこで野垂れ死んでおけ」
クソ親父は私から目を離し背を向ける。
この瞬間を私を待っていた。
私は魔力と気を融合させ、特別なオーラをつくりだす。
そしてそのオーラを体に纏わせ操ることで、強制的に体を動かした。
右腕をクソ親父の腹部に添える。
「なっ!」
彼も気づいたようだがもう遅い。
私は気と魔力を竜巻のように練り上げ彼に向って放出した。
クソ親父は血を吐きながら後方へと吹っ飛び壁にぶつかった。
私は最後の力を振り絞る。オーラを操ることで腰から霊薬を取り出し飲んだ。
体が回復していく。
「ぷはぁ、あー痛かった」
「お前……何をした……」
クソ親父は立ち上がろうと足や手に力を込めるが動かなかった。力が入らないようだ。
「魔力と気を融合したオーラ、魔闘気よ。
そしてさっきの発頸は魔力と気を乱す効果がある」
魔闘気で体を操る技術『マリオネット』に、魔力と気を波状放出することで相手の魔力や気を乱す『波導拳』
どちらもガイルの家にあった禁書で読んだものだ。
『波導拳』を受けると魔力や気を練りづらくなる。ガイルも初めて受けた時10分間何もできなかった。私はこの技でクソ親父を殺せると考えていた。
しかし、私とあいつでは圧倒的に実力差がある。
そのため、まず攻撃を当てること自体が難しい。
しかし、あいつが必ず油断する時があった。
私を半殺しにした後だ。
いつもあいつは私にとどめをささずそのまま放置する。
その時、動けなくなった私から必ず背を向け油断していた。
その瞬間に『マリオネット』で強制的に体を動かし、『波導拳』を叩きこむ作戦だった。
クソ親父も流石に禁書の内容は知らなかったようで、魔力も気も練れず倒れたままだ。
つまり10分間殴り放題。
「てことで今からお前が死ぬまで殴り続けるから。
実力差があるから時間がかかるかもしれないけど……安心して」
「や……やめ……」
私は倒れているクソ親父のマウントポジションに座る。
「楽しむから」
殴る。
ただひたすら顔面を殴りつける。
今までの憂さ晴らしに、満足するまで殴り続ける。
顔が腫れても、歯が抜けても、骨が砕けても、あいつが死んでも終わらない。
何度も何度も殴り続ける。
楽しい。
これは楽しいことなんだ。
楽しいなら笑わなきゃ。
「ははは」
私はクソ親父を10分も殴らなかった。
あいつはあっさりと死んだ。
たった5分ほどで呻き声が聞こえなくなった。
気や魔力をうまく練れず防御も満足にできなかったのだろう。
死体を殴っていると、興奮も治っていく。
因縁の相手を殺したという達成感が心地良かった。
私は死体の腰にかかっていた短刀を引き取る。
魔力を纏わせて死体の首をはねた。
私はクソ親父だったものの髪を掴み持ち上げる。
エルフの美麗な顔は腫れ歪み醜くなっていた。
「あは」
やった!ついにやった!
これで私と母さんは自由だ!
私はスキップで母さんのもとへと向かう。
これからのことを考えながら。
母さんと森を抜けて街で暮らそう。
冒険者になってたくさん魔物を殺して、母さんに褒められて。母さんと一緒に抱き合いながら眠ろう。
そして...そして...
母さんの部屋の前に到着する。私は魔法で身だしなみを整え、ノックをしようとしたが、ある考えを思いついた。
そうだ!どうせなら母さんを驚かせよう!
サプライズだ。
私は母さんの部屋に入る前に、あいつの頭を後ろ手に持ち背中で隠す。
そしてノックをし扉を開けた。
母さんは椅子に座っていたが、私を見ると立ち上がる。
「……さっきからすごい音がしてたけど、またブヨウさんと喧嘩したの?
怪我はなさそうだけど……」
母さんの部屋まで聞こえていたようだ。
防音の魔法を張っていたが途中で解除されていたみたいだ。
おそらく、クソ親父から半殺しにあったときだろう。
彼女は私の方へと歩いてくる。
いけない。このままじゃばれてしまう。
「ちょっとそこで待って。母さんに見せたいものがあるの!」
「え……なに?」
彼女が立ち止まる。
「見てみて!じゃーん!」
私は後ろ手で持っていた、クソ親父の頭を前に持ってきて母さんに見せる。彼女は目を大きく見開き驚いている。
「あ…ああ……」
彼女は咄嗟に口をおさえるが声が少し漏れている。
「ね、褒めて!私、母さんのためにクソ親父を殺したよ!だから褒めて!」
母さんは震えていた。そしてゆっくりと私に近づいてくる。
「もう誰も母さんを縛る奴はいない!自由になったんだよ!」
彼女は私の目の前で立ち止まり震えている手をゆっくり上げる。きっと感動しているのだろう。そして私の頭を撫でてくれるんだ。
私は目を閉じて撫でられるのを待つ。
しかし一向に触られることはなかった。
目を開けると、母さんは両手でクソ親父の頬を触っていた。彼女の声は大きくなり悲鳴のようになる。
「ああああああああああ!」
「母さん!?何してるの」
「嫌ぁああああああああ!!!!!」
クソ親父だったものの頭が奪い取られる。彼女は大事そうに抱きかかえ涙を流していた。
なんで?
「嘘、嘘よ。死ぬわけがないわ!」
「母さん、落ち着いて。クソ親父は死んだの。もう演技をする必要はないんだよ」
母さんが私をはねのけ部屋を出て家の中を歩き回る。
「ブヨウさん!どこ!どこにいるの!」
「母さん。どうしちゃったの。だからクソ親父は死んだんだって!」
私は母さんを追いかける。
そして彼女はリビングの扉を開いた。
「きゃぁぁあああああああああああああ!!!!!」
母さんは叫び声をあげ死体に抱き着く。
やめて、母さん。汚いよ。
クソ親父はもういないのに。
なんでそんな反応するの?
どうして私を褒めてくれないの?
あ、そっか!あれがあるからか。
「母さん。こっちを向いて」
私は膝をつき死体に倒れこみ泣き続ける母さんを抱き上げる。
そして、母さんの首に着いていた奴隷の首輪を引きちぎった。
勿論彼女が怪我をしないよう繊細にだ。
「これで操られてたんだよね!もう安心していいよ」
母さんが私の顔を見る。
笑っていない。睨みつけるように私を見ていた。
「返せ!ブヨウさんを返せ!」
「母さん!?」
「あなたはいつもそう!どうして私の邪魔をするの!」
母さんから怒られるなんて初めての出来事だった。
私は動揺して必死に否定する。
「違う、違うの」
「あなたはブヨウさんを嫉妬させるためだけの存在でしょ?あなた自身に価値なんてないのよ!」
母さんは捲し立てるように話す。まるで心の内に思っていることをそのままぶつけるように。
「な、なんで」
「そうやっていつも私とブヨウさんの邪魔をして本当にうざかったわ!
それでも、お前に構うと彼は嫉妬してその夜私を激しく愛してくれた。あなたはそのためだけに存在していたはずでしょ。お前の役目はただ彼を嫉妬させることだけでしょ。
なのに、どうしてブヨウさんを殺したの!なんで笑っていられるの!」
「違う。私は母さんのためを思って」
「こんなの私は望んでいない!
私はブヨウさんさえいれば良かった!」
嘘だよね。
「嘘じゃない。いっつも思っていたわ。
それまでいつも私を愛してくれた彼は、お前が生まれてから変わってしまった。
お前ばっかり構って私への愛が減ってしまった」
嘘よ。
「すべてお前のせいだ。
お前のせいで私は不幸になった!
お前なんて――――」
やめて、それ以上は言わないで。
「生まなければ良かった」
私はその言葉を聞かなかった。
怖くて家から出ていき全速力で森の中を走っていった。
息が苦しい。
吐き気がする。
どこでもいい。
ここではないどこかに行きたい。
いつの間にか、私は森のふもとにあるガイルの家にまでやってきていた。
何も考えていない。何も考えられない。
ただ、誰かに助けを求めたかったんだと思う。
それで一番最初に思いついたのが彼だった。
しかし、どう声をかければいいか分からずその場で立ち尽くす。
すると、すぐに彼が出てきた。
「感知に誰か引っかかったと思ったらお前かよ。何の用だ?」
いつもの彼だった。
私はその場で泣き出す。
嗚咽を漏らしながらなんとか彼に事情を話す。
「あ、あのね。母さんが……私が価値がないって……私はうざかったんだって……」
「な、なんだよ。いきなり泣き出して。母親と喧嘩したのか」
「ち、違うの。喧嘩じゃなくて……父さんを殺しちゃったの……
けど、それは母さんのためで……でも母さんはそれを望んでいなくて……」
「ちょっと待て。父親を殺したのか?」
「う……うん。どうしよう。母さんが……それで悲しんでて……」
「本当に殺せたのか?」
「首を切り離したから……たぶん」
「詳しく教えてくれ。とりあえず中に入って落ち着こう。ゆっくり深呼吸しろ」
私はガイルに連れられて家の中に入る。
向かい合わせに座り深呼吸をして多少落ち着いた後、何が起こったか事情を話した。
ガイルは冷静に私の言葉から何が起こったか分析する。
「なるほど、分かってきた。
マイは父親をうちの禁書の技で殺した。母親のためにしたことだったけど、母親はそれを望んでおらず口論になった。ってことだな」
「うん。ねぇ、父さんを蘇生できない?
ガイルなら蘇生術を使えるでしょ」
「本で読んだけど使ったことはないな。
ただでさえ蘇生術はまだ分からないことが多い。見てみないと何とも……
それよりも、このことを誰かに話したか?」
「誰にも話してない。急いでここに来たから……」
「なら、絶対に誰にも言うなよ。特に師匠には」
「うん……」
ガイルは椅子から立つ。
「とりあえず家にまで案内してくれ。
蘇生できるにせよできないにせよ、死体をそのままにするのはよくない。
魔獣が死体の匂いを嗅ぎつけて寄ってきたら、マイのお母さんが危なくなる」
「……でも、父さんが家の場所は他人に教えるなって……」
「何言ってんだ。もうその父親はいないんだろ」
「でも……」
もしかしたら蘇生術で生き返るかもしれない。
私の薄い希望をガイルは感じ取ったのか忠告する。
「マイ、初めに言っておく。蘇生術には期待するな。
蘇生術は原理が分かっていない。優秀な神官でも成功率は7割くらいだ。
それを、経験のない俺がしても失敗する可能性の方が高いだろう」
「でも……どうしよう。母さんになんて言おう」
「謝るしかないだろ。聞く感じ旦那さんに洗脳されてたんだろ?
時間はかかるかもしれないけどそれを自覚させて説得するしかない」
ガイルが手を伸ばす。
私はその手を取り立ち上がった。
「分かった。案内するね」
ガイルを連れて自宅へと帰っていく。
そして父さんの死体と彼女がいるリビングへと連れて行った。
「え……」
しかし、そこには何もなかった。
死体も彼女も。
ただ、私が暴れた跡があるため、私が父さんを襲った事実は間違いない。
「でも、どこに?」
「血の跡がある。何かを引きずっているような跡だし、マイのお母さんが死体を移動させたのかも」
ガイルが血の跡を追う。
私は彼についていく。
血の跡はとある部屋にまで続いていた。
あの部屋は父さんと母さんの寝室だ。
「マイは離れてろ」
私は言われた通りガイルから離れる。
ガイルは恐る恐る扉をを開いた。
「うっ」
ガイルは目を細め険しい顔をした。
そして、顔を背け廊下に嘔吐する。
私はガイルが心配になり近づいた。
「ガイル、大丈夫?」
ガイルを見る時、部屋の様子が目に入る。
まず目に入ったのは父さんの死体だ。
なぜか父さんの死体は裸にされていた。
そして、死体から上を見上げ私は
「マイ、見るなっ!」
ガイルが叫んでいる。
しかしまるで水の中にいるようで聞こえずらい。
なんで?
かあさん?
なんでくびわをつけてるの
わたしがちゃんとこわしたはずなのに。
ねぇどうして?
かあさん、どうしてぶらさがってるの?
あぶないよ。そんなところにいちゃ。
あやまるからおりてきてよ。
ごめんなさい。
とうさんをころしてごめんなさい。
かあさんをかなしませてごめんなさい。
うまれてきてごめんなさい。
この日、私は一人になった。否、生まれてきてからずっと一人だった。15歳、夏の出来事だった。
【ステータス】
名前:ブヨウ・カンナヅキ
種族:エルフ
レベル:49
娘への感情:不快
備考:十二英傑カンナヅキ家の落ちこぼれ。約150年前に家出をして旅に出た。その5年後運命の出会いを果たす。マイの名付け親。
名前:リアシー
種族:ヒューマン
レベル:10
娘への感情:なし
備考:ごく普通の村娘。100年以上前にブヨウに拉致され監禁される。