強者に好かれ弱者に嫌われるスキルをもって転生した少年   作:三つ眼の荒木

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お久しぶりです。今年中に第一章を書ききることを目標としています。
先日、プロローグを追加しました。時系列的に少し先になるためネタバレになるかもしれません。また今後は過激な描写が多くなるかと思われます。


#17 父親の過去

 

 虚構。

 

 家族との思い出。同級生との友情。

 自分が生きてきた記憶。

 

 どこまで嘘なのだろう。

 

 一部が嘘なのだろうか。俺ではなく他人の記憶なのだろうか。

 それともそんな人物は元からいないのか。

 

 もしいないのなら、俺は一生彼等と会うことはできないことになる。

 

 ずっと心のどこかで考えていた。俺は本当に元の世界に帰れるのだろうか。そもそも俺は元の世界に帰りたいのか?

 考えても仕方がないことだと思い、考えないようにしていた。

 

 けど、向き合うときがついに来たのかもしれない。

 

☆

 

「セカイ言ったよな!エルフには気をつけろって!」

 

 カインさんは帰ってくると一番に俺をしかりつけた。

 

「ごめんなさい」

「殺されていたかもしれないんだぞ。

 特にあのエルフは危険だ。人を殺しても何も思っていない」

 

 その言葉に俺はびくっとする。

 

「ナールさん、死んでしまったんですか?」

 

 カインさんは一瞬悲しそうな顔をし顔をそむけた。

 

「ああ」

「あのエルフが殺したんですか?」

「証拠はないが俺はそうだと思っている。あんな殺し方を出来る奴はこの街でも限られてくる」

「もしかして俺のせいですか?俺があのエルフを怒らせたから」

「それは違う!」

 

 カインさんは振り返り大きな声で否定した。

 

「死亡したのは昨日だ。セカイとは何も関係がない」

 

 ショックだった。

 ナールさんと向き合う。マイさんに相談して決めた決意は無駄になった。

 

 それどころか今の俺は……

 

「ナールの死を悲しむのは分かる。だけど今は自分の心配だけするんだ。

 あのエルフに喧嘩をうったんだ。殺されてもおかしくない。それどころか――」

 

 カインさんはばつが悪そうにそれ以上の言葉を述べなかった。

 

「とにかくエルフが見かけなくなるまで外に出るのは禁止だ」

「はい」

「ニューソードのメンバーには俺から事情を話しておく。

 ここ数日は俺とビルキが交代で家にいて警護をするから――「カインさん」

 

 俺は彼の言葉を遮る。

 カインさんが俺を心配しているのは十分に伝わった。

 そして俺以上に苦しんでいることも。

 

「カインさんは何でそんなにエルフを危険視しているんですか?」

 

 カインさんの顔が歪む。彼は俺から顔をそむけた。

 

「セカイも見ただろ。エルフの傲慢さを。ただ俺はセカイのことが心配で――「15年前に亡くした奥さんとお子さんのことが原因ですか?」

 

 カインさんが振り返り俺の顔を見る。

 その表情は形容しがたいものだった。

 

 驚き、悲しみ、怒り様々な思いが混ざっているものだ。

 

「ど……どこでそれを知った。ビルキにさえ話していないのに」

 

 どこでその情報を知ったか。

 俺も知ったのは今さっきの出来事だ

 

――――――――――

 

名前:カイン

種族:ヒューマン

レベル:121

備考:始まりの街の衛兵長。15年前に子と妻を亡くし冒険者を引退した。

 

――――――――――

 

 カインさんのステータスを見て知った。

 

「カインさん、実は俺昨日から変なものが見えるようになったんです。それは―――「待て!」

 

 カインさんは俺の言葉を制止する。

 

「何か特別な力なんだな」

「え、はい」

「だったらその詳細は誰にも話すな」

 

 誰にも?なんで?

 

「なぜですか。俺はカインさんにだったら――」

「いいか、セカイ。セカイには特別な何かがある。そうでもない限りエルフがお前を保護しようとするはずがないからだ。しかし、その特別な何かを決して人に話そうとするな。当然俺にもだ。

 これは自分の身を守る術だ。他人を信用するなと言ってるわけじゃない。

 知らせない方が相手のためになることもあるんだ」

 

 カインさんはそういうと黙って椅子に座った。

 

「セカイの発言や行動は正しいよ」

「いや、全然正しくないです。今もカインさんの発言の意図が分かりませんし」

「違うんだ、セカイ。セカイは優しくて誠実だ。

 しかし、正しく生きたからって決して幸せになるわけじゃない。

 俺はセカイに幸せになってほしいんだ」

 

 カインさんの声は震えていた。

 

「セカイ、座れ。お前に俺の過去を話す」

「でも……」

「初めに言っておく。俺のようにはなるな」

 

 俺はカインさんの指示に従い椅子に座る。

 そして彼は過去を話し始めた。

 

 15年前の悲劇を。

 

☆

 

 王都の街道を嬉しそうに歩く青年がいた。

 彼は嬉しそうに自身の左手の薬指を見つめる。

 

 決して高価なものではない。

 

 しかし彼女と同じものを身に着けているという実感が何より嬉しかった。

 

「アベリア喜ぶかな」

 

 青年の妻であるアベリアは、幼いころから彼の冒険譚を聞くのが好きだった。

 彼はその日、冒険者ランクがC級に昇格した。C級といえば冒険者の中でもベテランだ。

 その事実を伝えたらどれだけ驚くだろうと彼は、妻の驚く顔を想像しながら帰宅する。

 

 5分ほど歩き自宅に近づいていく。

 自宅と言っても借りている宿屋の一室だ。

 

 彼は自宅の前に人が集まっていることに気が付く。

 嫌な予感がした。

 

 急いで駆け寄り人混みをかき分ける。

 そこには荒れた自宅が広がっていた。

 

 衛兵が部屋を封鎖している。

 

「俺はここの家主です。な、何があったんですか?

 アベリアは?!アベリアは無事ですか?!」

「君が――……こちらでお話しします」

 

 青年は衛兵から事情を聞く。

 昼頃にこの部屋で女性の悲鳴と誰かが暴れ物が割れる音が聞こえてきたらしい。

 宿屋の主人が不審に思い衛兵に連絡し、突入したらこのありさまだったそうだ。

 

「それで!アベリアはどこにいるんですか?!」

「おそらく、侵入した男に連れ去られました」

「そいつは誰ですか?!目撃情報とかは?」

「……成人したエルフの男性です」

 

 青年は絶望した。

 エルフ。それは人よりも優れた上位の種族。

 そのせいか、彼らは人を下に見ており、傍若無人な態度を取っていると聞いたことがあったからだ。

 C級冒険者なりたての彼がかなうはずがない。というのは火を見るよりも明らかだった

 

「それで……それでエルフはどこにいるんですか!」

 

 しかし、それでもあきらめる理由が彼には一切なかった。

 

「おちついてください。今回の事件は、エルフといえども見過ごせるものではありません。

 王都の警備隊や冒険者組合に声をかけ指名手配にするつもりです」

「でも、この間もアベリアは――……」

「今は情報がありません。しかし、指名手配にかければ必ず目撃情報が集まるはずです。

 将来的に討伐部隊を組み確実に捕まえます」

「ぐ……」

 

 青年はその日からそのエルフの情報を少しでも集めようと聞き込みを行った。

 時には盗賊ギルドを使い、情報を集めることもあった。

 青年はパーティを離脱した。冒険者ギルドの依頼も生活をおくるため最低限にとどめ、エルフの情報収集と己の鍛錬に時間を注いだ。

 

 そして、半年の月日がたった。

 

 エルフの情報が一通り集まった。

 名前、強さ、住んでいる場所などだ。

 

 青年は今にも飛び込んでいきたかった。

 しかし、確実に殺すため討伐部隊が集まるまで待った。

 

 討伐部隊はB級冒険者パーティが二つ、そしてC級冒険者の青年の計10名で結成された。

 

「エルフの行いは許されることじゃない。俺達で絶対に殺すぞ」

「奥さんが連れ去られたって聞いたよ。戦いは基本的に私達が行う。だから君は絶対死ぬなよ」

 

 B級冒険者達は強く正義感のある若者たちだった。

 青年との実力差はかなりあった。しかし、青年の怒りと恨みは本来の実力を超えた力を彼にもたらしていた。

 彼らの邪魔になることはなく、エルフとの戦闘に参加をした。

 

 

 しかし、それでも5名の死者を出した。

 

 

 エルフは四肢を切断されて尚生きていた。

 起き上がることのできないエルフを青年は見下ろす。

 

「アベリアはどこだ?」

 

 エルフは最初、何も答えず考え込んでいた。しかし、何かに気づいた顔をすると青年を睨みつけ怒鳴る。

 

「お前が!お前があの女の前の男か!くそったれ!

 お前のせいで、お前のせいで女は俺を愛さなかった!

 お前みたいな弱い種族がなんであの女と結婚した。あの女はおれの運命の相手なのに!」

 

 青年はハルバードでルフの首を切断した。

 エルフは怒り狂った顔で死んだ。

 

 青年は急いでエルフの住処に駆け込む。

 そして2階で彼女と再会した。

 

 半年ぶりに会ったアベリアはやせ細っていた。

 服装は下着のままで足がベッドに手錠で繋がれていた。

 

「アベリア!」

 

 青年は妻に抱き着く。

 すると彼女の顔から一粒の涙が流れる。

 

「遅くなってごめん、アベリア。ようやく助けることができた」

 

 青年は彼女の顔を見る。そして、ようやく異変に気が付いた。

 彼女の目には生気がなかった。彼女は涙を流す以外ピクリとも動かなかった。何も話さなかった

 

「アベリア!?大丈夫?アベリア?」

 

 青年が手錠を破壊しても、優しくマントを羽織らせても、抱きかかえて家に帰っても彼女は何一つ話さなかった。

 彼は心配に思い王都につき病院へと連れていく。

 そして医者の診断に再び絶望することになる。

 

「失語症です。

 事情は先日聞きましたが、心因性のものです。

 体のあざは数日で治りますし、妊娠はしていないようです。

 しかし、長い間暴行されていたようで、心を閉ざしてしまっています」

「どうすれば、どうすれば治りますか?」

「幸い、世話をする時にこちらがやりやすいよう体を動かしてくれる時があります。

 自我が完全に消えているわけではありません。

 毎日会って、話して、世話をしてあげてください。

 いつもの彼女のように接してあげると少しずつですが治っていくかもしれません」

 

 その日から青年は毎日病院へと通い彼女の世話をした。

 彼女が好きだった冒険の話を何度もした。

 勿論、入院費を稼ぐため冒険者稼業も再開し、新しい冒険譚も語った。

 

 しかし、最悪の形で彼女の声を聞くことになった。

 

「うぅ……ああ」

「どうしたんですか?」

「分かりません。彼女がいきなり苦しみ始めて……」

「うぁ……ああああ」

 

 彼女は一日中苦悶の声をあげた。

 青年は彼女の手を握ることしかできなかった。

 

 睡眠の魔法をかけ強制的に眠らせた後、青年は医者に話を聞く。

 

「何が何が起こったんですか」

「分かりません。一つ言えることは呪いのような魔力が彼女の体を蝕んでいます」

「お金ならいくらでも払います。だからなんとか……」

「このような事例は見たことありません。

 おそらく、エルフに何かされていたのかと……」

 

 エルフ、という言葉に青年は怒りが沸く。

 あの男が。死んでもあの男がアベリアを苦しませている。

 

 しかし、その怒りをぶつける先はもういなかった。

 

 その日から再び青年は情報収集に努めた。

 万病に効く薬、滅多に見かけない高価なポーション、呪いを解く魔法。

 様々なものを試したが彼女の症状が治まることはなかった。

 

 そしてある日、とある情報にたどり着いた。

 

「エルフの霊薬?」

「はい。聞いたことがあります。エルフは不老不死になれる霊薬を作ることができるって。

 権力者がそれを求めるがエルフは絶対に売ることがないとか」

「嘘に決まっている。エルフなんかがつくる霊薬を信用することはできない」

「そうですよね。不老不死なんてなれるはずがありません。

 なれたとしてもゾンビみたいになったりして」

 

 情報屋の何気ない発言に青年は気が付いた。

 

 そう。ヒューマンが不老不死になれるはずがない。

 なれたとしても高い代償が必要になるはずだ。

 

 それが例えば今の彼女のようにだったら?

 

 俺はすぐにある女性の元へと向かった。

 その女性は有名なエルフの冒険者だ。

 

 彼女は酒場で一人で飲んでいた。

 青年は一直線に彼女の元へ向かう。

 

「エルフには不老不死になれる霊薬がつくれるって本当か」

「誰よ、あなたは」

 

 当然、その女エルフとは初対面だった。

 女エルフは訝しげな顔をする。

 

「俺の正体なんかはどうでもいい。答えてくれ。

 本当に不老不死になれる霊薬を作れるのか」

 

 女エルフは彼を嘲笑う。

 

「本当にヒューマンが不老不死になれると思ってるの?

 おめでたいやつね」

「不老不死人になれるかどうかはどうでもいい。作れるのか、その霊薬を」

 

 思ってもいない反応と彼が放つ気迫に彼女は少し狼狽える。

 

「作れるんだな」

 

 青年はそんな彼女の反応を見て、彼女が霊薬を作れると判断した。

 そしてその場で頭を地面につけて土下座をする。

 

「お願いだ。妻を助けてくれ」

「え?」

 

 女エルフは呆気にとられた。

 

 彼は何度も女エルフに土下座をして頼み込んだ。

 妻を助けられるならエルフに頭を下げることに何の抵抗もなかった。

 

 女エルフは彼が必死に頼み込んだ結果、アベリアの様子を見ることにした。

 

「かなりまずい状況ね。霊薬の魔力が彼女の体を蝕んでいる」

「どうにかならないのか」

「……私にはどうすることもできないわ。本来長寿の霊薬は作るのを禁止されているの。

 エルフ以外が飲み続ければ長生きができるけど、少しでも飲むのをやめると急激に体が崩壊していく。

 強い依存性がある霊薬としてね」

「その霊薬を作ることはできないのか?お金ならいくらでも払う」

「私は作る気はないわ。というかほとんどのエルフは作ろうとも思わないはずよ。

 里でも作ることは固く禁じられていたから。

 それに今から彼女に飲ませたとしてももう治ることは難しい。

 もってあと半年の命よ」

「そんな……」

 

 青年は絶望し膝から崩れ落ちる。

 

「……死期を伸ばすことはできないけど、症状を緩和させる霊薬は作れるわ」

「……頼む。作ってくれ。せめて彼女の苦しみをとってあげたいんだ」

「ええ、作らせて。金をとる気もないわ。同族の罪滅ぼしをさせてちょうだい」

 

 その日から女エルフに特別な霊薬をつくってもらいアベリアに飲ませた。

 アベリアが呻き声をあげることはなくなった。

 

 青年はできる限りアベリアと一緒にいた。

 少しでも彼女と思い出を作るために。一日でも早く彼女が回復することを祈って。

 

 そして女エルフの霊薬を飲み始めて1か月近くがたった。

 

「アベリア、今日の調子はどう?」

 

 青年はアベリアに話しかける。

 彼女は何も話さない。

 

 彼は花瓶にある花の水を変えながら今日起こったことを話す。

 すると突如部屋の扉が開いた。

 そこには5歳くらいの男の子がいた。

 

「おかーさん、どこ?」

「はぐれちゃったのかな」

 

 青年は男の子に近づく。

 

「大丈夫だぞ、坊主。お兄さんが探してやるからな。ちょっと探してくる」

 

 青年は病室を抜け男の子の母親を探す。

 すぐに見つかり病室に戻るとアベリアと目が合った。

 

 涙にぬれたアベリアと。

 

「どうしたんだ、アベリア。何か怖いことがあったのか」

「―――――……」

 

 彼女は病院に来て初めて己の意思で口を開いた。

 

「うぅ」

「アベリア、大丈夫?」

「うああああああああああ!!!!!」

 

 

 慟哭の叫びだった。

 彼女は子供みたいに泣いていた。

 

「ごめんなさい。あなた、ごめんなさい」

「アベリア、落ち着いて。大丈夫だから、落ち着いて」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 私は、私は、子供を守れなかったの」

 

 彼女は泣きながらエルフに拉致監禁されている間何があったのかを話し始めた。

 

 毎日薬を飲まされたこと。

 夜に何度も乱暴されたこと。

 

 そして、監禁されて2カ月近くたった後、夫の子を身ごもっていたことが発覚したこと。

 エルフが怒り狂い暴力を加えたこと。

 次第にお腹が大きくなるにつれ、エルフの機嫌が悪くなっていったこと。

 そして、監禁して5カ月が経ったころ、エルフが槍で彼女の腹部をさし赤ちゃんを引きずり出したこと。

 自身はポーションにより生きながらえたが、子供は目の前で刺殺されたこと。

 

 泣きながら、過呼吸に成りながら懺悔するように彼女は話した。

 

 青年はアベリアを抱きしめる。

 そして泣き叫んだ。

 

 妻は帰ってきた。しかし大切な家族を失った。

 

 アベリアが話せるようになってから、二人はたくさん話した。

 彼はこの数カ月で起こった面白い話も悲しい話も全て話した。

 

 ただ、子供の話だけは一切しなかった。

 

 アベリアは毎日彼に謝罪をする。

 その謝罪が生まれることなく死んでしまった我が子に対してだと彼は理解していた。

 

 だから、青年も一緒に謝った。

 

 そして、1週間がたった。

 女エルフから死期が近いことを青年は知らされていた。

 

 二人は病室から夕日を眺めている

 

「もう夕方かぁ。君といると時間が経つのが早いなぁ」

「あなた、大事な話があるの」

「どうしたの?あらたまって」

 

「私が死んでもあなたは死なないでね」

 

「何言ってるんだよ。アベリアが死ぬわけないじゃん。だから俺も死なないよ」

「ううん、死ぬ気でしょ。何年、一緒だと思ってるの」

「死なないって」

 

「あなたは強いからたくさんの人を守ってあげて。

 私とあの子の分まで生きて幸せになって」

「だから死なないって」

 

「私はあなたといれて幸せだったから、きっとあなたはもっと多くの人を幸せにできるはず」

「死なない、アベリアは死なないんだ」

 

「そしていろんな人を幸せにしたらいろんな人から感謝されて」

「死なない……」

 

「きっとあなたが幸せになれるから」

「死なないでくれ」

 

「今までありがとう」

「俺が感謝したいくらいだよ、だから、だから」

 

「愛しているわ、カイン」

 

☆

 

「生きるのがずっと辛かった。妻が死んでからは過去を忘れるために冒険者をやめて新しい職業に就いた」

 

 カインさんは遠くを見つめながら話していた。

 俺の目から自然と涙が流れていた。

 

「衛兵になってからとにかく人のためになることをした。

 他人に優しくして、盗賊を倒して、弟子をとってとにかく他人に好かれようとした。

 でも何も満たされなかった。

 当然だ。俺は誰かに好かれたいんじゃない。俺はそこにいない誰かを好きになりたかったから。

 それでも俺は生き続けた。妻の今際の言葉を信じて」

 

 カインさんは俺の顔を見る。

 

「そしてセカイが現れた」

 

 カインさんは終始落ち着いて話している。しかし何かを怖がっているようにも思えた。

 

「始めは特別な感情はなかった。人助けの一環だった。

 でも、いつしかセカイとの日々が楽しかったんだ。

 セカイが強くなると自分のこと以上に嬉しかった。

 セカイに友達ができて何があったか話を聞いているときが何より楽しかった」

 セカイが帰りを待っていると思うと頑張れた」

 

 カインさんの声は震えていた。

 

「セカイ、俺は君に救われたんだ」

 

 多分、彼は怖いんだ。また失うのを恐れている。

 

「セカイ、俺と一緒にこの街を出よう。いや、この国から出よう

 エルフのいない平和な街で暮らそう。貯金は十分にある。新しい街で冒険者になるのはどうだ?

 俺はもう年だし無理かもしれないが全力でサポートする。

 ビルキも誘おう。あいつもセカイを気に入ってる。

 ついてきてくれる可能性は高いはずだ」

 

 今の俺に彼の提案を断る理由はあるのだろうか。

 

「そして俺の養子になってくれないか」

 

 俺の記憶は虚構なのかもしれない。

 しかし、カインさんとの思い出は紛れもない現実なのだから。

 

 

 





――――――――――

宣伝させてください。
新作を書き始めました。

ダンジョン配信初心者だけどヤバい美少女インフルエンサーに急遽コラボされてバズ「らせられ」た件

https://syosetu.org/novel/328960/

自分なりに流行りのダンジョン配信ものを考察した作品です。
ヒロインはおまけ程度ですがヤバイ女になってます。まだ序盤ですがお読みいただけると幸いです。
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