強者に好かれ弱者に嫌われるスキルをもって転生した少年 作:三つ眼の荒木
多くの人に見ていただき嬉しいです。
2週間がたった。
俺は今、カインさんの家にお世話になっている。
2週間もたてば新しい環境にも慣れてきた。
基本的には家で家事をして生活をしている。
俺は床の拭き掃除をしながら分かってきたことを脳内でまとめていた。
この街は始まりの街。
これが正式名称である。かつて勇者が誕生しここから冒険を始めたらしい。当時は村だったようだ。
森にすむ精霊の力により弱い魔獣しか出ない為、勇者は順調に強くなっていったようだ。
今では精霊の力に加え勇者の加護も働いており、街には一切魔獣が近寄らないらしい。
そのためここはこの国で最も安全な街だそうだ。
村から街に発展したのもそういう経緯がある。
だから、俺は運が良かった。
転移された場所が普通の道なら、すぐに魔獣に襲われてお陀仏だっただろう。
そしてカインさんはこの街の衛兵長をしている。
警備隊の中では最も強い。
身元が分からない俺を居候させてくれることからも分かる通り彼はとても優しい。
街の有名人で、一緒に歩いていると多くの人から声をかけられていた。
頼りになり皆から慕われているようだった。
彼に見つけてもらって俺は幸運だ。
そしてこれらの事実からわかったことがある。
ここは異世界だ。
少なくとも地球上にある国ではないだろう。
魔獣や精霊、勇者と言った言葉が日常的に使われること。
槍を持った衛兵が街を守っていること。
そして何よりこの世界には魔法がある。
実際にカインさんに見せてもらい俺はこの世界が異世界だと確信した。
カインさんが見せてくれた魔法は火をつける魔法だった。
火と言ってもライター程度で危険なものではない。
魔法は基本的に才能のある人しか覚えられないが、この程度ならお金さえ払えばだれでも使えるようになるらしい。
俺は床拭きを終え空気を入れ替えるため窓を開ける。
そして街並みを眺めた。
この世界が異世界だということは、家に帰れないということだ。
勿論、俺が異世界から来ている以上、帰る方法があるかもしれない。
しかし簡単に見つかるとは思えないし、見つかったとしても力のない俺じゃそれを実現できるかは怪しい。
俺はこの2週間で最も苦労したことは覚悟だった。
この世界で生きる覚悟。
そして家族とは一生会えない現実を受け入れる覚悟だ。
すぐに受け入れることはできなかった。
しかし、カインさんの助けもあり俺は徐々にではあるが、この世界で生きる覚悟がついてきた。
遠くの方で鐘の音が鳴った。
俺は急いで雑巾をかたづけ外に出る準備をする。
カインさんの所へ行くためだ。
俺はもらったローブを被り外へ出る。
鍵をかけたことをしっかり確認すると外を走り出した。
この世界で生きる覚悟を決めるためしていることがある。
それは戦闘訓練だ。
カインさんは週に5日衛兵の仕事をしている。
俺は彼が仕事を終えた後、衛兵が使える訓練所で彼から戦闘訓練を受けていた。
2日に1回。2時間ほどの訓練だ。
勿論たったそれだけの時間で強くなれるわけではないが、何もしないよりはましだ。
訓練所にはすぐについた。
俺は息を整え許可証を見せ訓練所に入る。
「お疲れ様です!」
俺はできるだけすれ違う人に会釈と挨拶をする。
よそ者だからか俺の印象は悪い。
少しでも良くするためには挨拶は欠かせないだろう。
訓練所についてすることは走り込みと素振りだ。
カインさんが来るまで訓練室を走っては、教えてもらった型の素振りを決まった回数行う。これの繰り返しだ。
「坊主、やってるかー!」
「カインさん!お疲れ様です!」
カインさんが来た。
カインさんが来た後は彼とひたすら模擬戦を行う。
棍と呼ばれる長い木の棒で行うのだが、カインさんは勿論普通にあててくる。
手加減されているため重症にはならないがめちゃくちゃ痛い。
しかし、死ぬよりはましだ。
俺はこの世界で生き残るためにも我慢しながら訓練を行った。
それに訓練を終えた後、カインさんは優しく褒めてくれる。
愛のある鞭だと思うとこの訓練も耐えることができた。
また、たまにカインさんの部下であるビルキさんとも模擬戦をしている。
彼女はカインさんと違い厳しいが、最近は少し褒めてもらえるようになった。
今日もまた、カインさんと訓練を行った。
勿論ボコボコにされたが訓練を終えた後、カインさんは重要な話があると『勇者の安らぎ亭』に連れてきてもらった。
いつものシチューを食べた後、カインさんは俺に本題を話し始める。
「セカイ、そろそろ冒険者になれ」
☆
セカイが俺の家で居候を始めてから2週間がたった。
彼がどんな人物か徐々にわかってきた。
はじめは不思議な少年だと思っていた。そしてその印象は今でも変わっていない。
まず、彼は貴族の子供ではない。
俺はこんなに家事ができる貴族の子を見たことも聞いたこともない。
彼が来てから俺の借りてた家はピカピカになった。
少なくとも掃除や料理は常日頃からしていたのだろう。
動きが明らかになれていた。
洗濯は初めてだったのか少し苦労していたが、それもすぐに慣れていった。
大きな商家の息子とかだろうか?
少なくとも家事は自分でやるよう教育されていたんだろう。
会話をしていて教養を感じる一方、一般常識が欠けている場面も見られる。
特に魔法や魔獣の知識を忘れていたのはびっくりした。
彼は記憶喪失を起こしている可能性が高い。
彼が住んでいた二ホンという国も不可解な点が多い。
魔獣が一切出ない国。正確には魔獣が世に広まっていない国だ。
その国は争いがなく魔法も浸透していない。そして多くの子供が学校に通い教育を受けているという。
そこまで聞いて俺は確信した。
二ホンは彼が脳内でつくった虚構の国だ。
そんな国が存在するはずがない。
魔獣が一切出ない国はまだあり得る。おとぎ話レベルの話だが。
しかし、魔獣を知らずに生きることなんてこの世界では不可能だ。
それほどまでに魔獣はこの世界の脅威となっている。
やはり彼は記憶喪失の後、嘘の記憶を信じているのだろう。
彼の不可解な点はまだある。
それは彼の呪い。
彼は人から嫌われる呪いを受けている。
確信したのは彼と一緒に外出した際だ。
街の住民が彼を見る目は異常の一言だった。
嫌悪、または憎悪を抱いている人までいた。
中には石を投げてくる子供もいた。
当たる直前にキャッチし防いだから良かったが、いたずらではすまない。
投げた本人はいたずらのつもりではなく、あてるつもりで投げたらしい。
その子はセカイが人の皮を被った悪魔と言った。
事情を聞いても彼とは初対面だという。ただ皆が口をそろえて言うのは彼は信用ならないということだ。
明らかに印象操作が行われている。それも大規模なものだ。
俺はこれを呪いと予測した。
本人ではなく周囲に影響を及ぼす呪い。
聞いたことがない。相当に強い呪いだろう。
そしてなぜ俺が影響を受けていないかもわかっていない。
可能性としては一般人に比べ魔法の耐性があるからだろうか?
それに第一印象が悪いだけで、仲良くなった人もいる。
部下であるビルキも最初は彼をよく思っていなかったが、最近では彼と少し仲良くなった。
あくまで嫌われやすくなる呪いということだろうか?
それともビルキも同様に魔法の耐性が高かったからか?
しかし、魔法と呪いは別物だ。まだわからないことが多い。
とりあえず、セカイにはできるだけ一人で外出しないように指示をしている。
外に出るときも認識阻害の魔法が付与されたローブを着させている。
もう一つ不可解な点がある。
それは傷の治りが異様に早い点だ。
若いからでは済まない速さだ。訓練を受けた翌日は誰もが苦しむ。訓練でできた傷や筋肉痛で痛いからだ。
しかし彼は訓練中は痛がっているが一度寝るとけろっとしている。実際小さな傷は一晩で治っていた。
これも呪いに関係しているかもしれない。
そして今俺はセカイを『勇者の安らぎ亭』に連れてきていた。
ある提案をするためだ。
「セカイ、そろそろ冒険者になれ」
「冒険者?」
セカイは怪訝な顔をする。
「ああ。訓練も初めて10日ほどたち分かったことがある。セカイは筋がいい」
「そ、そんな!無理ですよ。カインさんは勿論、ビルキさんにもまだ一撃もあてれたことないのに」
「そりゃ当然だ。俺は元C級冒険者だぞ。体格や経験の差もある。
ビルキだって俺が鍛えて5年近くたつし、冒険者になったとしたらD級は難くない」
そう、セカイは体は貧弱だが戦闘センスの筋がいい。
というか俺たちの真似が上手い。
しっかりと考えながら戦っており、行き当たりばったりの戦闘をしていないことが分かる。
体さえできあがればそこそこには強くなるだろう。
もしかしたら同じC級まで上がれるかもしれない。
「働かざる者食うべからずだ。そろそろ自分で金を稼いでみろ
安心しろ。別に追い出す気もないし、俺に金を寄こせともいわん。ただ、自立に向けて動き出すべきだ」
セカイは黙っている。
「それにセカイはいつかは家族のもとに帰りたいんだろう?
それならここを離れ旅をする必要がある。そのためにも冒険者にはなるべきだ。
なぜかわかるか?」
「お金を稼げるようになるため?」
「違う」
「強くなるため?」
「違う」
俺はセカイの眼をまっすぐ見て答える。
「信頼できる仲間を見つけるためだ。旅は一人ではできない。そして俺はここを離れるわけにはいかない。
俺以外の仲間を見つけてこい」
きっと苦労するだろう。
セカイは人に嫌われる呪いを持っている。
仲間もすぐには見つからないはずだ。
だからこそ仲間ができた時、そいつは最も頼りになるはずだ。
セカイは少し悩んだ後、自分自身の頬を叩いた。
彼が何かを決意するときの癖だ。
「分かった!カインさん。俺冒険者になって頑張ってみるよ!」
俺はセカイの頭をなでる。
真面目でまっすぐで決して諦めない根性を持っている。
可愛い奴だ。
戦闘訓練を始めた時も俺と同じ武器を使いたいといって、棒術の鍛錬をしている。
息子が生きていたらきっと……
俺は笑顔で彼の頭をなで続けた。
【ステータス】
名前:始まりの街の住民(平均)
レベル:5
印象:嫌悪~憎悪
体力:5
攻撃:5
防御:5
俊敏:5
魔力:5
聖力:5
気力:5
備考:魔獣の脅威に晒されないため平和ボケしている。