控室には、一組の男女がすでに居る。
いずれも、メディアへの露出に慣れた見事な礼服の着こなしだったが、その似合いのベクトルはまるで違う。
女の方は艶やかなナイトドレスを、自身の美貌とそれに伴う自負のもとに従属させ己のものとすることに成功していた。一方で男はそもそも他人の目など端から気にもかけておらず、その評価を無意味と断ずる頑なさが言外に現れていた。
そしてこの三十男、緑尾揃が腕組みしてむっつり押し黙っているのは、緊張のためからではなく、生来の気質からだったのだが、そこに北欧人たるこの女、キリシャが声をかけた。
「堅苦しいな。少しは対外的笑顔の練習でもしたらどうだ?」
揃はジロリとキリシャを横目で睨んだ。お前が言うなと返したかっただろう。彼女も、あまり好意的に他人に接触するタイプでもあるまい。事実、この小一時間、同席している揃に、今の今まで話題も振らず、今どき紙媒体の雑誌を開き、和菓子特集などを見ている。
「好かれることは任務の内に入っていない」
揃は答えた。
「むしろ、公僕とは疎まれるところまで含めてが役務だろう。虫と同じだ。他者から忌避されようとも、矮小で群れようとも彼らの多くは自然界において欠かすべからざる機能を果たしている」
「立派な心がけ、と言いたいところだが」
雑誌を閉じて初めてキリシャは揃と目線を合わせた。
「それは君の前職の話だろう。Kamen Riderは古来からこの国にとって正義と自由の象徴だ。つまりは我々にはマスコット的働きも求められていると考えるが?」
「貴様とて、マスコミには塩対応だったろうが」
「私はアレで良いのさ。今や氷に閉ざされた北欧州から来たクールビューティー。むしろミステリアスなぐらいがちょうどよく、ある程度の行動の逸脱も、そういう性格だからと許容される。つまり私の、いや我が
「あざといことだ……行動の逸脱など、自分は許さんぞ」
「だから、それが堅苦しい。だから」
議論になりかけたところで、勢い良くドアが開け放たれた。
「すんませんっ! 遅くなりました!」
と、土鶴融が息を切りながら開口一番詫びて踊り込んでくる。
その後ろから控えめに背を丸め、九練院深羽が追従してきている。
「三分五十秒の遅刻だ。自分の部下なら懲罰ものだな。このことは蓮着氏に報告させてもらう」
「堅苦しい……フカバ、着替えを手伝おう。こちらへ」
貴公子然とした振る舞いで深羽を更衣室に誘ったキリシャを、揃は舌打ちとともに見送る。そして所在なさげに居残った融に向けて、三人分の叱責と小言をまとめて飛ばすのだった。