かくして、復活させられた『仮面ライダー』たちの第一世代が出揃った。
〈人類が絶滅しかけたあの惨劇より来年でちょうど百年……その節目の年を前にして、こうして新たなる英雄たちが誕生しました〉
黄昏の時分、群衆詰めかけるスタジアムの中央。普段は球技やライブなどが行われるその場所で、スポットライトに照らされた、総統を称する『王』がスピーチをしている。
頭上の画面パネルに映し出されるその映像を、キッチンスペースにもたれながらケーキ屋……もとい青年
その背後では、オーブンのような形状の装置がジジと時折音を立てて、彼の耳はしっかりそちらへ意識を傾けている。
一方で映像では、見た顔もある五人の男女が、それぞれにボトルを模した奇異なバックルのベルトを腰に、そしてそれぞれの変身後のイメージカラー模た緑、青、黄、赤、灰の五色の段幕を背に並立する。
『仮面ライダー』というよりかは、まるでテレビ番組の戦隊ヒーローのようだった。
〈メイガス、アクエリアス、レギオンズ、アンカーズ、ゲリュオンズ。彼らは厳しい審査や訓練を乗り越えて、個人的な欲望を捨て去り、国家と皆様に奉仕するべく選ばれました〉
桂樹はその言葉に低く嗤い声を立てた。
〈この戦士たちが、我々の生活を脅かす卑劣なカルト教団を、遠からず駆逐することをお約束します〉
そう熱弁をふるう辺りでこの国家元首への興味を無くしている。
代わり、背後から聞こえてきたベル音に、彼は顧みた。
その『オーブン』は一人でにその口を開き、中から造成されたものを披露する。
それは、ケーキのスポンジでもトッピングに使うクッキーでもない。
『トライバルドライバー』。
五人のうち、蓮着央司が巻いているドライバーと同型のものが、3Dプリンターでもって物質化されていた。その出来に会心の笑みを浮かべつつ、それを強く掴み取って、
「あっっづ!」
……当然冷めやらぬその高熱に、飛び上がって悶絶する。
そして、画面の向こう側でも、悲鳴と爆発音があがる。
桂樹は傍に用意していたバイク用の赤い革手袋を右手に嵌めると、それでドライバーを掴み取った。
〜〜〜
いざライダーたちのお披露目という段になって、客席から爆発と悲鳴が上がった。
混乱の坩堝と化した観客席、何の前触れもなく出現したのは、紫色を基調とした、二足歩行の怪物たち。
「観客の避難を優先させるべく、現場の指揮を執るっ! 良いな、蓮着氏!」
「……お願いします!」
さすがは前線の長いだけはある。すぐさま現状を把握し、自身のやることを見出した揃の申し出を受け入れた央司は、言わんことではない、と父を顧みた。
「それにしても、今どき『ヤミーテロ』などとは芸がない……とにかく総統の安全が最優先です。SPとともに脱出を」
そう促した矢先で、彼は信じられぬものを目にした。
泰然と笑む父を。
信じられぬことを、耳にした。
「報告より、数が少ないなぁ」
平坦に放たれた、父の呟きを。
「……まさか、知っていたのか……っ」
そのうえで、わざと警備を緩めて襲撃させた。
犠牲者を出すことで、対テロ感情を煽るために。
そして、仮面ライダーたちのデモンストレーションの舞台を作り出すために。
その情報を、対応しなければならず、かつ息子の自分には、何一つもたらすことなく。
そして去り行く父の見立てを証明するかのように、頭上の照明電灯を突き破り、敵の増援、プテラヤミーの群体が空を飛来する。
〜〜〜
キリシャは指の中で、青いシャチの王冠を弄びながら、事の動向を静観していた。
この群衆の中に『真理の木』のメンバーが紛れていて、奴らが骨董品のセルメダル技術を使ってこの怪物どもを生み出したのは言わずもがな、それをただ看過した総統の思惑が不透明だ。
ただの無能か、それとも仮面ライダーの晴れ舞台とするつもりか。あるいはその数手先の狙いが存在するのか。
「いずれにしても、自分から率先して動くのはリスキーだな」
独りごちて、自らを狙うヤミーたちをドレスを翻していなしつつ、残るメンバーの動きに目を配る。
「先陣は、まぁ彼女らにやってもらうとしようか」
と不敵に見据えた先で、赤い修道女と、灰色の医者の姿が何やら揉めている。
〜〜〜
深羽のドレスの袖を、融は掴み取った。
「待ってシスター!? ダメっすよ、許可なく変身しちゃあ!」
「この状況で一体誰から許可をもらうというんですか!? 皆さんを、護らないと……っ」
「それはそうだけど……、でもシスターを危険な目に遭わすわけにいかないでしょ!?」
そう食い下がる彼の腕を振り払い、真紅の金属片をその手の内に握り込む。
コアクラウン、と呼ばれる、文字通り王冠と翼を広げた鷹を模したオーパーツ。
およそ九百年前、かの暴王に対抗するため、九枚のコアメダルに匹敵する王冠が作られたが、当時の技術ではその力を安定化させることが出来ず、技術が確立される当代まで封印され続けた厄種。
その出自の真偽のほどは定かでならずとも、まだベルトにセットしていないこの時点で、どことなく禍々しさを帯びている。
このそこはかとない恐怖を乗り越えたとして、単身この数を相手に出来るものか。
――否、出来るかどうかではない。やらなければならない。
たとえ命を落とすことになったとしても――きっとそれこそがいつかは誰しも迎えるべき
「誰かの明日のために自分の今日を捧げる……これこそが、仮面ライダーのあるべき姿……そうですよね? 救世主さま」
緩やかな、だが確かな決意とともにクジャクの刻印が入ったボトル、右に向かっているその口へ、タカクラウンをセットしようとした。
「駄目だな。まるでなっちゃいない」
――その間際に、音がした。声が聞こえた。
己を無常に否定する声。バイクの駆動音。
刹那的に彼女の前を、クリーム色の車体がよぎり、その上から伸びた手が、彼女の指先から王冠を掠め取る。
スタジアムの上を横転寸前まで傾き、スリップしながらバイクは止まった。
紅い革手袋を外し、メットを脱ぎ捨てた。そしてバイクには、あの目障りなケーキ屋のロゴがプリントされている。
「あんたは……っ!」
瞠目する融に横目を細めて嗤いかけ、バイクを降りた彼は、腰の後ろからデバイスを取り出し、それを自身の腹の手前に置いた。
〈トライバルドライバー〉
縞模様の刻印がそのボディに施された横倒しのバックルがベルトを両側から展開し、彼の腰を巻き取る。それと同型のものを身に着けている央司は、目に見えて動揺していた。
「明日というのは今日を変えたいという欲望だ。バースデーケーキをすきっ腹抱えたまま明日まで待つ馬鹿がどこにいる? 今日の自分を諦めた人間に、誰かの明日を祝福する資格なんてありはしない」
ひどく抽象的な物言いとともに彼は、五人のライダー候補者と無数の群衆と怪物たちの中心で、高らかに宣告する。
「だから――俺が変身する」
左の指で奪取したコアクラウンを弾き、天へと打ち揚げる。
右手でキャッチしたそれを、ボトルの口へと運んで装填する。
〈タカ!〉
オレンジ色を帯びたボトルの、虎柄の溝に、赤い色が混じ入る。
次いで取り出したのは、若芽のごとき緑色をした、栓抜きとも揃えたバッタの両脚を複合させたかのような、手頃な長さのスティック。
オープナーと呼ばれる補助ユニットである。
その先端に空けられた六角形の穴に、王冠を当てはめ、合体させた。
〈バッタ!〉
ライダーを完全たらしめる一式が揃った瞬間、音楽が辺りに響き渡る。
〈タートバ、タトバ、タートバ! Say−Ya! タートバ、タトバタートバ!〉
甲高い男の声で、弾むように、あるいは煽り立てるような音調で。
「……なんだね、あの妙なメロディーは?」
「はぁ、なんでもプロフェッサー曰く、『コアクラウンを安定化させるのに最適のリズム』だとかで」
言及したのは安全圏から模様見していた総統と護衛のみで、他の誰もが歌を気にする余裕はない。そしてベルトを巻いた盗人は、むしろ楽しげにそれを甘受しつつ、
「変身」
低く錆びた声で呟く。
オープナーを回す。冠が回る。天に右手の五指を突き上げるような動作の流れの過程で、ベルトの前に折り曲げて一体化させると、バックルは奇妙な一体感のあるデザインとなる。
〈Regret nothing! Tighten Up!〉
一度ボトルの中へ流入したコアクラウンのエナジーはその中で純正・安定化された力となる。刻印を象って外部へと射出された。
燃え盛る焔が、それぞれの獣虫を描き、互いに組み合わせた異形のシンボル。やがてそれは分離して青年を鎧う。
バッタの靴。袈裟懸けに喰らいつく虎の外套。パーツのない黒い頭部の上に、紅の王冠を戴く。そこ王冠が前へと滑り込み、展開。猛禽を想起させるマスクに緑の線を引くようにバイザーが組み合わさる。
〈Kamen Rider Ools〉
と、最後に個体名らしき響きとともに力の光輝は完全に
「仮面ライダー……」
「オー……ルズ?」
呆然とその名を口にする融と深羽の前で、その新たなる仮面ライダーは、
「戴冠の時だ。この誕生を、祝福しろ」
傲然と、言い放ったのだった。