スタジアムの中心に、嵐が生まれた。
そのキックが風を巻く。そのパンチが風を切る。
知れず怪物たちは、無作為に人を襲うよりもこの脅威に対する選択をそれぞれに本能で選び取り、渦を巻いて彼を覆い包む。
だが、力づくでこのライダーは跳ね除けていく。
近づく敵は片っ端から、ラフファイトも同然の手足の動きで叩き伏せていく。
〈タカ!〉
腰の王冠をひねると、彼の頭部がそれぞれのカラーリングを強調するかのように輝き始める。
いや、実際に膨れ上がった猛禽のクチバシが、
昏倒する怪人たちに、さも楽し気に笑い声を飛ばした彼だったが、元はメダルから生まれた怪人が物量で圧し包むのである。ずっと彼のさせるがままとはならない。
連携を取らず、分散して攻める愚を悟ったか。恐竜幻獣たちは、数を恃んで折り重なり、それをもって圧し潰さんと画策する。
〈トラ!〉
だがその下で、『仮面ライダー』は、今度はボトルを捻りまわした。
刹那、その右手には円形のガントレットが形成された。
〈オールスキャナー・ホールドモード〉
その装備の名らしい電子音が響き、数条のレーザーブレードがその先から伸び上がって敵の腹から胴周りにかけてを貫通する。それこそ、虎の爪牙のように。
〈バッタ!〉
「もう打ち上げ花火を御所望か。気の早ぇこった、な!」
次いでバッタのオープナーの脚を、拳で軽く叩いて上下に揺さぶる。緑の靴先が光の粒子を放ちながら、倒れ伏した分も含めて十数体の敵を巻き込み、宙へと蹴り出した。
〈タカ!〉
〈シュートモード〉
すっかり日の落ち、夜空。
照明も半壊した今となっては、星と、旋回する怪物たちの蠢きが見える。
そこに加わった光放たぬ禍つ星たち目がけて、今度はそのスキャナーからは真紅の光弾が、小さな翼を広げながら射出され、彼らを焼いた。
だが所詮は算段。隊列を組み直し、面で攻めるべく急降下してきたヤミーたちのすべてを射抜けるべくもない。
〈バッタ!〉
だがまたもバックルをシェイクさせた瞬間、狙いの逸れた紅弾は、にわかに緑に色づき始めた。
そして物理的にあり得ない挙動と軌道をもって跳弾と化して虚空を駆け巡り、執拗に上空の敵を追尾し、一体余さず撃ち落としていく。
ついには、ヤミーたちは個々体の維持を我から放棄した。それでもせねば、この敵を討てないと。
元のメダルへと戻った彼らは混ざり合い、組み合わさりながら、究極の一体を作り上げていく。
やがて巨大なトリケラトプスと化したヤミーは、息荒く、怒号すさまじく、大地を蹴って震撼させながら、迫る。
その巨躯、威圧感に周囲からは悲鳴があがるも、対するライダーは余裕の手さばきで迎撃の
クラウンを回し、ボトルをひねり、オープナーを拳で上下させる。
〈タートバ、タトバ、タートバ! タートバ、タトバ、フルキック!〉
再びあのシークエンスとともに、全身から放出されたエネルギーが霞のように彼の周囲を煙る。
そして臆することなく地を蹴り、
〈オールズ、ドランキングチャージ!〉
膨れ上がった力の塊が、ライダーの身を、飛び上がり、突き出した両脚を介して巨大ヤミーと衝突し、そしてドライバーの宣告通りに、相手を呑み込み、そして爆散させた。
あたかも、天が寿ぐがごとく、爆風で巻き上げられた銀貨が地表に降り注ぐ。
飛散したエネルギーの余波が火柱となって、着地した彼の周囲を照らすさまは、まるでケーキキャンドルのようであり。
その姿は、深羽の抱く英雄像からはまるで遠い。
その荒々しさも、不遜で挑発的な言動の数々も、深羽にとっては到底許容できない邪道である。
だが。
どうして。
(その姿が、重ねるというの?)
自身が神として戴く、英雄の姿と。
――すべてがおぼろげな、セピア色の記憶の片隅で、極彩色の羽が散る。