とあるセカイの『Untitled』 作:YEBIS_nora
そこは、何処とも知れない不思議な場所。
幾何学的な形をしたカラフルな『何か』が辺りを漂う、どこか浮世離れした白い空間。
曰く、そこはたくさんの想いが集まって、たくさんの『セカイ』が生まれる場所。
曰く、そこは想いの数だけ無数に生まれる『セカイ』から、歌が生まれるのを見守るための場所。
__『セカイの狭間』と呼ばれるその場所で、初音ミクはゆっくりと目を開く。
『__うん。どのセカイでも無事に、新しい歌が生まれたみたいだね♪』
彼女が見ていたのは、最近新たに生まれて活性化した5つのセカイ。
ほぼ同タイミングで5つもセカイが活性化する珍しい事態に驚きつつも、初音ミクはその全てを見守り続けた。
それぞれの人間関係に苛まれ、この先ずっとすれ違ったままになる可能性もあった。
理想と現実の乖離と後悔に、希望を失いかけてしまうこともあった。
同じ夢を追いたいと胸を張って言えるまでに、様々な葛藤があった。
自分が本当にやりたいことを見失っていたあまり、関係が破綻しかけてしまうこともあった。
現実と自分に絶望し、セカイ消滅の寸前まで状況が緊迫することもあった。
...それでも、彼ら彼女らは乗り越えた。
迷いや不安、苦しみを抱えながら『それでも』と手を伸ばし続け、ついに『本当の想い』に触れることが出来たのだ。
『皆が『本当の想い』を見つけられて本当によかった......だけど』
そう呟き、ミクはスマホの画面をフリックするように空中で指を滑らせる。
目の前に現れた大皿サイズのディスプレイには、激しく荒れ狂うスノーノイズが映し出されていた。
『...やっぱり、
そこに映る筈だったのは、数年前に生まれたとあるセカイ。
たった1人の『想い』によって生まれ、最終的には数十人ものバーチャルシンガーが
...そして、本来なら
まるで5つのセカイの誕生と活性化に呼応するように、突如としてそんなセカイの反応がシブヤに現れたのだ。
『『あの日』からセカイの
...悲しそうに目を伏せながら、初音ミクは確信した。
覆しようが無い程崩壊が進行していた
『あの子...ううん。
セカイがもたらすのは優しいモノだけでないことは、ミクだってよく理解している。
『想い』の在り方次第で、如何様にも変化出来てしまうモノであることを。
『...
彼の人となりを、ミクはよく知っている。
件のセカイで成長していく彼らの様子を、かつては夢中になって見守っていたのだから。
...それでも、願わずにはいられない。
初音ミクは目を閉じて、胸の前で両の手を合わせてただ祈る。
これから彼の行く末に、多くの希望と幸せがあらんことを。
____あまりに強すぎるその『想い』が、いつか『呪い』に転じてしまわないことを。