とあるセカイの『Untitled』 作:YEBIS_nora
もうすっかり日も落ちた夜のシブヤの通りには、それでも多くの人々の姿があった。
店舗という店舗からBGMが漏れ出し、車やトラックの走る音や人々の話し声が入り交じるその様は、まさに『都会の喧騒』と呼ぶに相応しいモノであるだろう。
「............」(〜〜〜♪)
そんな人々の往来の中で少女__日野森志歩もまた、イヤホンから流れる音楽を聴きながら歩みを進めていた。
背負った楽器ケースから、某テーマパークのキャラクターストラップが揺れ動き。
加えてまだ制服姿である彼女を見れば、
「(......ん、そろそろかな)」
だけどまだ、彼女は家には帰らない。
今日の内にやっておきたいことが......聴いておきたい歌声が、まだ残っているから。
『~♪~~~♪♪』
イヤホン越しでも聴こえてくる、何度聴いても飽きない1コ上の少年の歌声が。
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『__♪~~~♪♪!』
国内最大規模を誇る、シブヤのスクランブル交差点に面する一角。
真っ黒な髪の少年は、青い瞳を輝かせていつものように歌っていた。
『~~♪____!!』
...厳密には、アクロバットじみた激しいダンスパフォーマンスをしながら歌っていた。
「(...やってるね、今日も)」
目的の場所に辿り着いた志歩はイヤホンを外し、いつもの立ち位置についたところで改めて周囲の光景に目を向けてみる。
半円状に取り囲む観客と、飛び跳ねるように踊る彼との間に確保された広めの
その中間地点には、配信アプリを立ち上げたノートパソコンやカメラなどの配信機材がセットされ、少年のパフォーマンスをネット上にリアルタイムで公開していた。
「すっげ...あんなに激しく動いてんのに、全然歌声が乱れてねぇ...!」
「ていうか歌上手くない!?名前なんて言うんだろう...?」
「...なあ、アイツってアレだろ?『WEATHER RECORD』の__」
「そうそう!
激しく動き回りながらもブレない発声に、幅広くも芯の通った声域。
何よりとても楽しそうにレベルの高い歌唱を披露する彼を見た周囲の反応は
既に彼を知っているという観客も、ここ最近は更に増えてるようだ。
「(...喜ばしいことでは、あるんだけどね)」
頭の中で独りごちりながら、どこか神妙な表情を浮かべる志歩は楽器ケースの肩紐を軽く握りこむ。
そう思ってしまうのは、ずっと応援していたアーティストが有名になって遠くに行ってしまうのを寂しいと感じる一種のファン心理...という訳では無い。
ただ単純に、日野森志歩は知っているから。
__単純な歌唱力だけなら、彼の
今の彼は、
...その要因は、志歩がこの場に来た時から示されていて。
他の観客達も、もれなく全員実感し始めている頃だろう。
「......なあ、でもさ」
「うん。でも何か...」
「...配信で見た時も思ったけど、改めて聴くとやっぱり___」
初見の人は『でも』を、既知の人は『やっぱり』を、続く言葉の前に付けて口にする。
____
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「......ん、やっと来た」
神山通りにある自販機に背を預けていた志歩は、こちらに小走りで駆けてくる少年の姿を見つけてイヤホンを外す。
「いやー、ごめんごめん!今日はいつにも増して声かけてくれる人が多くてさ」
「いいよ別に、いつものことだし......水買っておいたけど飲む?」
「おっ、マジで!?丁度水切らしちゃってたからスゲー助かるわ!」
ありがとな、と言って伸ばされた少年の手に、志歩は水の入ったボトルを近づけて___途中で1度引っ込める。
彼女がこの手のことをすると少しも思っていなかったのだろう。
虚をつかれて目を丸くする少年を見て思わず吹き出しながら、改めて志歩はボトルを持った手を伸ばす。
「今日もお疲れ様____
「__こちらこそ。今日も来てくれてありがとな、日野森っ!」
志歩のちょっとした茶目っ気も受け入れて、少年____