とあるセカイの『Untitled』 作:YEBIS_nora
「__っていうわけでさ、あのサビ前の構成こそが
「...いや、むしろそのサビ前で曲のバランス崩壊してたまであるけど。何でサビ目指していい感じに駆け上がってたのに、直前で横っ跳びするようなことしちゃうわけ」
「正解までのルートは1つじゃないってことだな!」
「少なくとも、さっきの曲のあの場面にその理屈は該当しないから...」
そこかしこの店から激しい曲調の音楽が漏れ出る通りの奥にある、なぜか取り壊されない無人の雑居ビル。
そのビルの階段を小気味よい足音を鳴らして上りながら、志歩と小雨はあーだこーだと言葉を交わす。
話題は当然、先程の路上パフォーマンスで披露していた曲についてである。
「...相変わらず曲作りのセンスに関しては全然だね、小雨は」
「はー?そんなこと無いですー。センスをバチバチに磨いてる最中なんですぅー」
などと当人はのたまっているが、今現在の少年にセンスがないのは純然たる事実である。
スクランブル交差点で小雨が歌っていたのは、全て彼が作詞作曲したオリジナル。
...だがそれらを総じて表すなら、『微妙』という言葉が最も適しているだろう。
全体的にいい感じなのに、微妙に余計な楽器の音をねじ込んできたり。
曲調や主軸としているリズム的に表拍から歌い始めた方が絶対耳触りがいいのに裏拍で歌い始め、出だしから聴く側に微妙な印象を与えてしまったり。
微妙に曲の中に無理やり歌詞を乗せた感がする部分があったりと、いっそ突き抜けるくらい下手だった方がまだ救いがあるレベルで曲作りが下手なのだ。
「普通あれだけ歌えてたら、
「いやー、俺ってば頭カチコチの頑固ちゃんだからさ。いっぺん人前で試して反応見ないと善し悪しが分かんねーんだわ!」
うははははは!と両手を頭の後ろで組んで笑う小雨に、ジト目の志歩は肩を竦めてため息をつく。
「...歌い終わった後、また皆から色々言われてたでしょ」
「あは〜、今日は一段と言われたよな~!日野森も含めて、常連さん勢揃いだったし」
思い起こされるのは、小雨が歌い終わってから配信を終えるまでにあったいつもの一幕。
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「おい橘ァ!お前が2曲目歌ってる間に同接一気に減ってたぞ!変な意地張ってないで、もっとカバーアレンジとかで攻めればいいじゃねーか!」
『へっへ~ん!言ってろ言ってろ!橘さんの成長曲線はな、長期間の微細な成長を経て一気に跳ね上がるカタチになってるんですぅ!!』
「じゃあいつになったらその跳ね上がったオリ曲聴かせてくれんだよお前!その日になったらまた来てやるわ!」
『それは神の
「おい橘ァ!お前やっぱ面白アーティストの路線進んだほうがいいんじゃねーの?そっちの方がいい線いけるって!」
『うはははははっ!ほざきやがれ、諦めなければ夢は叶うんだよ!俺のとーちゃんの友達の後輩が分の悪いギャンブル中に言ってたから間違いねぇ!!』
「そいつその勝負勝ったのかよ」
『うんにゃ、ボロ負けして借金
「間違いあるじゃねーか!」
「おい橘ァ!配信アプリ見てみろよ!お前宛に長文お気持ちコメント届いてるぞ!」
『いやいやいやお兄さんそんな、こんなにも配信ルールとコンプライアンスを遵守して素敵な歌を歌ってる橘さんにお気持ちコメントなんtホントだぁぁぁぁぁ!!貴重なご意見が3件も来てるぅぅぅぅ!!!』
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「...あんな空気感でやってたら、いつまで経っても曲のレベル上がんない気がするんだけど......」
「な~に言ってんの。皆が意見を遠慮なく言ってくれる場を作れたのはとんでもない
思い出すだけで頭が痛くなってくる一連のやり取りでこめかみを押さえる志歩に、小雨はそう笑って返す。
「それに今日貰ったお気持ちコメントだって、俺への嫌悪剥き出しだったけど結構ためになること書いてあったし」
「でも8割方、小雨のパフォーマンスに直接関係ない話振ってきてるでしょ...ちょっとでも下手打ったら、配信のコメント欄が無法地帯化するかもしれない...」
「そこの取捨選択やバランス調整は受け手である俺の役目だわな!...まあ任せとけって。その手のことで致命的なヘマはしないし、
「...まあ、確かに知ってるけど___って、ちょっ...!急に頭撫でてこないでよ...っ!///」
「悪い悪い、日野森が心配してくれてんのがスゲー嬉しくってさ!...今だけは許してくんない?」
「〜〜〜っ///...こんの...っ!///」
「うははははは!こんないい後輩と仲良くなれて、橘さんは嬉しい嬉しい♪」
豪快に笑いながらも絶妙な力加減で頭を撫でてくる小雨に対し、志歩は両手を中途半端な位置でワナワナさせることしかできない。
...思えばいつもこうなのだ。
こちらがツッコミに回らざるを得ない言い回しでやり取りの主導権を握られ、偶に見せてくる年上っぽい雰囲気に虚を付かれて上手く丸め込まれるいつもの流れ。
...無意識にやってくるのが腹立たしい反面、どこかで悪くないと思ってる自分に気付く度に頭を机や壁に打ち付けているのは、また別の話である。
「...っと、もう屋上じゃん。行こうぜ日野森、今日は夜空がいい感じに見えてる筈だからな!」
「ぁ......うん...」
思いの外すぐに頭から手が離れて声が漏れていたが、当の
「......!」
広がるのは、まばらながらもキラキラ輝く星々と、少し眩しいくらいのシブヤの中心街。
そして視界の真ん中には、キレイなカタチをした満月が煌々と光を放っていていた。
「今日、満月だったんだね」
「おうとも!...しかしいかんぞ日野森後輩。月の満ち欠けの周期を把握してないと、いざって時十全なパフォーマンスを発揮できないぞ?」
「...月の満ち欠けでコンディション変わるの、小雨くらいだと思うけど?」
「やだなー、月の状態なんかで俺のコンディションが変わるわけ...いやゴメン今のは俺が悪かったからローファーで膝蹴らないでおねg痛ァ!?」
問答無用とでも言うように、志歩はつま先の一番硬いところを小雨の膝の皿に躊躇いなく叩き込む。
この手の軽口を叩いてきたら一発食らわせる位のスタンスでいるのが、小雨とつるむ時には丁度いいのだ。
「(全く......まあでも)」
膝を抱えて悶ている
...最初はお気に入りの場所と言われて連れて来られた、月を丁度いい角度で見られる雑居ビルの屋上。
単純な星の数や迫力は、
この場所で見上げる星空も、ずっと見ていたくなるような魅力と輝きに満ちていた。
「...日野森も感じてる通りさ」
屋上に来てから十分程が経ち。
膝の痛みが引いたらしい小雨は、そう言って志歩の隣に並び立つ。
「今の俺に作れる曲じゃ、聴いてくれる人の『芯』にまで届かないし...自分のパフォーマンスにすらマイナスに作用してる節だって確かにある」
...小雨が先程とはどこか違う空気を纏っているのを感じながら、志歩は黙って首肯する。
橘小雨の本来の実力は、今日披露していたレベルの比ではない。
観客の一人が言っていたように、誰かの曲のカバーアレンジや歌ってみたとして歌う方がそのポテンシャルを最大限発揮できているのだ。
「でも、自分達で作った曲にはもっと可能性がある」
「...それって?」
「んー?...自分がマックスだと思ってる場所の、更にその先へ到達する可能性♪」
夜空に指鉄砲を向けながら少年は続ける。
曲に込めた自分達の持つありったけの『想い』と、それを自分が歌に乗せて世界に解き放つ瞬間の『想い』。
それらがピッタリ重なった時、その歌は自分を夢に大きく近付けてくれる力になるのだと。
「なに抽象的で青臭いこと言ってるんだって思うかもしれないけどさ...この可能性の一端は、日野森達も見せてくれたんだぜ?」
「私達って...『Leo/need』が?」
「そうそう!ほら、この前披露してくれたじゃん___『
「...............っ...」
瞬間......少しだけ。
ほんの少しだけ、背筋が粟立つ感覚がした。
「あん時は凄かったよな!4人揃ってそんな日が経ってない頃だったから仕上がり心配だったけど、俺出だしから鳥肌立っちゃったもん!」
そう感じるのも無理はない。
だってあの曲は、まるで昔から練習していたみたいに
「何より曲だよ曲!メロディーラインもリズムも歌詞もこれ以上ない仕上がりで__まるで、『想い』をそのまま曲にしたみたいな完成度で」
そう感じるのも無理はない。
だってあの曲は、
「___なあ、どうやったらあんな凄い曲が作れるんだ?」
...そう、疑問に感じるのも無理はない。
「俺の目指す場所の凄く近くに位置している曲なんだ...日野森さえよければ、少しだけでも教えてほしい」
だってあの曲は、『セカイ』と呼ばれる不思議な環境下でカタチを成した___『Leo/need』だけの曲なのだから。