とあるセカイの『Untitled』 作:YEBIS_nora
...もしかしたらと、志歩は思う。
セカイの存在や『needLe』の成り立ちを話しても、小雨なら全部信じて受け入れてくれるのではないかと。
何しろ、出会ってから幼馴染の1人が復学するまでの2ヶ月弱は毎日のように顔を合わせていたくらいだ。
時々胡散臭いし破天荒だしバカだけど、相手の『本気』を感じ取れないような
突き放すようなことを言っても『それでも』と歩み寄ってくれる幼馴染達に困惑していた時だって、小雨が背中を押してくれたから『Leo/need』として歩む今を掴めたのだから。
......それでも。
「ごめん、小雨」
それだけ納得に足る根拠を
__あの曲のことを、誰かに教えることは出来ないのだと。
「あの曲は、私達4人の『本当の想い』を紡ぎ合わせて生まれた歌...『Leo/need』だけの、大切な曲」
「...うん」
「それに、いつも活動を手伝ってくれる『
「...そっか。まあそりゃそうだよな~」
苦笑いを浮かべて項垂れる小雨を見ながら、志歩はそっと息をつく。
セカイの当事者にあたるのは、『想いの持ち主』である志歩達4人だけではない。
以前から小雨には『バンド仲間』と呼んで話していた面々__初音ミクをはじめとしたバーチャルシンガー達も含まれるのだ。
バンドメンバーである幼馴染達__一歌と咲希と穂波なら、あるいはすぐに同意を得られるのかもしれない。
初めて小雨を紹介した時は『もしかして彼氏!?』と騒ぎ立てられたし、その後はそれぞれ違った形で交流を深めていることを知っているから。
...だけどミク達バーチャルシンガーは、小雨のことなんて殆ど知らないに等しい。
人物像は自分達の会話に時々出てくる情報くらいしかなく、写真だって見せたこともないのだ。
いくら志歩が小雨を信頼しているとしても、セカイや『needLe』のことを__もし存在が
「...やっぱ、そういうことなんだよな」
「...小雨?」
「うんにゃ、なんでも♪...しっかし日野森は義理堅いな。俺の質問なんて、なんかテキトーな作曲のコツとか話しとけば楽にやり過ごせたかもしれないのに」
「そりゃ、真剣な相手には真剣に返そうって思うのは当然でしょ」
というか、と言葉を区切って、志歩は隙を見つけたと言わんばかりに目を細める。
「『小雨は冗談でこんなこと聞いてこない』って私は信じてたけど、小雨は私が『テキトーな答えではぐらかすかもしれない』ってどこかで思ってたってわけ?...へぇ。ふーん?......私って意外と信用なかったんだね」
「いやいやいや待ってくれ違うぞ日野森...っ!さっきのは『新発見』っていうより『改めて実感した』みたいなニュアンスで言ったわけでっ!...ホントに大丈夫だよな?俺日本語間違ってないよな!?」
「出会ってからそこそこ経って、お互い気心知れた関係になれてるって思ってたけど......私が1人で舞い上がってただけだったんだ...」
「なんか凄いレアな拗ね方してる...!?なあ頼むよ聞いてくれ、そんな面倒臭い
「.........もし皆がいいって言っても、もう小雨にあの曲のこと教えないから」
「信じてるっ!日野森のこと世界で一番信じてるからっ!!だからソレは考え直そう?なっ?」
どうにかしてこちらの機嫌を直そうと必死な小雨の言葉を聞きながら、そっぽを向くように背を向けた志歩はそっと笑みを零す。
普段クールな一匹狼という印象を持たれがちな志歩ではあるが、何度か話してる相手ならからかったりすることだって当然ある。
だけどこんな風に、志歩の方から雑に絡んでいけるくらい気を許している相手は果たして何人いるだろう。
...
こんな殆ど言いがかりみたいな切り口で始めた掛け合いに迷わず乗っかってくれる事実が、志歩の胸にじんわりとした温かさを与えてくれていた。
「...まあ冗談は抜きにしてもさ、実際小雨に『needLe』のことを教えない方がいい気はしてるんだよね」
「嘘ぉん!?」
...そして彼女が思っている以上に、小雨にとって日野森志歩という少女は特別な友人と呼べる存在になれている。
なぜならば、そう____
「___だって、小雨はその方が燃えるでしょ?」
「......!」
こういう言葉を何の気なしに、本心から言ってくれる存在だから。
「直接的なヒントなんか与えられなくても、色んな知識や経験から得たもの全部駆使して__『needLe』に負けない凄い曲、いつか必ず聴かせてくれるでしょ?」
何時だって胸を熱く滾らせる
「___ああ、勿論だ...!」
そう力強く答えた小雨は、軽い足取りで屋上のフェンスに向かって歩を進める。
「どれだけ向いてないって言われても、周りのヤツらより遠回りが必要なんだとしても、俺は曲を作り続ける」
そこが到達すべき『高み』だとでも言うように、右手で正面に見える満月を指差して。
「沢山の人の心を震わせたいんだ。日野森達『Leo/need』よりも、
「......っ!」
瞬間、日野森志歩は息を呑む。
両腕を広げて振り向いた小雨の双眸が、その『青』を増して見開かれていたから。
「...俺は、必ずなってみせるよ」
...碧眼と呼べるような青さじゃない。
スクランブル交差点で歌っていた時よりも、隣で話していた時よりも...その『青』はずっと深く、より色濃く。
満月の光に呼応するようにギラギラ煌めくその瞳が、向かい合う少女の眼を真っ直ぐに射抜く。
「曲の好みなんて
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「(...あぁ、これだから)」
日野森志歩が、彼と初めて出会ったあの日から。
橘小雨の『青』に魅せられたあの日から、この気持ちは変わらない。
「(これだから、小雨といるのは退屈しない...!)」
少年とそれなりの付き合いになった志歩から見ても、橘小雨の生態は未だ掴みきれない部分が多い。
色んな
『音楽』に対する感性は常人以上に優れている筈なのに、なぜか自身の曲作りには応用出来なかったり。
だけど、これだけはハッキリしている。
橘小雨は、自分の『夢』に向かって膨大な熱量を投じて突き進んでいる。
...その瞳に、狂気的な『何か』すら内包して。
「...言っとくけど、負けるつもりは毛頭無いから」
そんな少年に挑むように。
いつもより力を込めて一歩を踏み出し、志歩は小雨との距離を詰めていく。
「もっと腕を磨いて、経験を積んで、何度だって『限界』を塗り替えて...私は必ずプロになる」
肘から指先程度の至近距離。
ポスッと正面にある胸元に拳を当て、斜め上にある『青』を射抜き返して言い放つ。
「誰かの心に最高の演奏を響かせるベーシストに、必ずなってみせるから...!」
「うははっ♪上等、やっぱ日野森はそうでなきゃ!」
こうして、お互いの視界にお互いのギラついた
これから先も、互いが互いに刺激を与え合う関係で在り続けられる...そんな確信を。
これこそが、自分達を一番強固に結びつける関係性のカタチなのだと。
「さて、じゃあそろそろ帰るとしますか!いつも通り、日野森ん家の手前の曲がり角までは送ってくよ」
「...別に家の前まで来てくれても良いんだけど?」
「...だって家の前に絶対
「今日は金曜日だから...うん、十中八九いるだろうね」
「うへ〜...アイツと目が合ったら厄介なんだよな〜。この前だって日を跨ぐギリギリまで説教くらったんだぞ俺...」
「まあ小雨は向こうからしたら、夜遅くまで
「そんな『せっかくだし寄ってけば?』みたいなノリで言われても嫌だからな?さしもの橘さんだって、ハイリスクノーリターンな場所にウキウキで足突っ込むような物好きじゃないんだからな?」
「...?見てて私が面白いから小雨にとってもハイリターンでしょ?」
「何その愉悦と傲慢が煮詰まったような理屈...!?出会った頃の日野森はどこ行っちゃったんだっ!」
相変わらずの遠慮のないやり取りを交わしながら、志歩は優しく目を細める。
...自分を取り巻く環境は、15年ちょっとの人生の中で最も目まぐるしく変化した。
橘小雨や、小雨をキッカケとした様々な人との出会い。
咲希の復学から始まった、セカイやミク達との接触に『Leo/need』の結成。
色んな人達に助けられながらではあるが、今はその波に乗り続けてよかったと本心から思える。
「ほら小雨、遅くなるとその分拘束時間が長引くよ?」
「なんか知らん間にアイツと会うの決定になってるし...!あと前々から思ってるけど、俺だけ説教されて日野森はお咎めなしなの絶対おかしいからなっ!」
決して楽ではない
日野森志歩
『Leo/need』のベーシスト。
アプリ本編でもやっていない『セカイで生まれた歌』に対する返答をすることになった苦労人。
誰よりもオリ主と交流を深めているため、作中より演奏技術が数段向上している。
橘小雨
本作のオリ主に該当する人物。高校2年生。
諸事情があって2月にシブヤの街にやってきた。
この後、志歩を送って行った先で案の定『彼女』に捕捉されて散々お説教という名の■■■を食らう。