とあるセカイの『Untitled』 作:YEBIS_nora
都立神山高校の朝は、
家族や他校の友人にその話をして、『何言ってんだコイツ...』みたいな
「風紀委員長!またやりやがりましたよあの2人!!」
「みたいですね...全く、全校集会のある日でもお構い無しですか」
慌てた様子で報告に来た1年生の風紀委員に対し、風紀委員長と呼ばれた少年は取り乱すことなく溜息をつく。
今日は全校集会の準備と持ち物検査。半ば形骸化しているような服装チェックと、風紀委員が多忙を極めるイベント集中デー。
普段なら件の2人の名前を叫びながら現場に向かう生徒指導教諭の手伝いに赴くところだが、この多忙極める日に委員長である自分を含めて人員を割く余裕は無い。
極めつけに、最近になってあの2人が現場から逃走するようになったのだから尚更タチが悪い。
「(...まあその点に関しては、
少し下にズレたメガネを中指で直し、風紀委員長は傍らに立つ1年生へ目を向ける。
「君、来てもらって早々悪いですが白石さんへ伝言をお願いします。校門前で持ち物検査をしていますから、その後は彼女の仕事を引き継いでください」
「えっ?...あっ、はい!それはいいですけど...白石さんにあの2人の対応を?」
「いいえ、彼女は...そうですね、目覚まし兼交渉役です」
「...?」
「目には目を、歯には歯を...
「...ああ、アレってそういうことだったんですね」
腑に落ちた様子で伝言を伝えに行った1年生を送り出し、風紀委員長は腰に手を当てて屋上を見上げる。
「頼みましたよ、白石さん...他の面々で寝入っている彼を叩き起こすのは、あの2人の対応をするより骨が折れますから」
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「____さて、今回もちゃんと来てくれるかな?司くんはどう思う?」
「ぜぇ...!ぜぇ...っ!その前にだな、類...!朝からお前に引きずられて先生から全力ダッシュで逃げる羽目になったオレに言うことがあるだろ...っ!」
「すまないね、司くん♪」
「謝罪が軽過ぎるんだが!?」
現在地が人通りの少ない区画でなかったら、そのツッコミの声量で居場所がバレていただろう。
朝っぱらから派手に爆発騒ぎを引き起こした
「......爆発に巻き込まれかけたことについては、謝罪を求めないのかい?」
「うん?そもそも『次のショーで使う装置の動作確認をしたい』という誘いに乗ってあの場にいたんだ。本番で爆発されるよりは幾らかマシだろう」
それに、と言葉を区切って、司はしゃがみ込んだ姿勢のまま傍らに立つ類を見上げて言う。
「____爆発の可能性が少しでもあるなら、類は周辺被害を絶対に出さないよう対策済だと分かっているからな!」
「...君には敵わないな」
当たり前のように自身へ向けられる信頼に、類は感慨深そうに目を細める。
『ワンダーランズ×ショウタイム』の演出家兼役者となってから早数ヶ月。
セカイとの接触をはじめとした
それはきっと、『本当の想い』を思い出した
何の屈託も無く自分の演出を『すごいすごい!』と喜んでくれる天真爛漫な少女のおかげであり。
ステージで歌いたいと自ら決意を固め、その上で自分を必要としてくれた幼馴染のおかげであり。
そして、仲間でなく学校の友人という立ち位置から背中を押してくれたとある少年の____
「____変人ワンツーみ〜つけたっ」
「...フフッ、どうやら来てくれたみたいだね」
もし階段から自分達を覗き込んでいるなら、先んじて気配や視線で気付けていただろう。
だが実際そうでないあたり、自分達がここに隠れていると当たりをつけられていたということか。
類と司は階段裏を離れ、踊り場から見下ろしているだろう声の主の前へ姿を晒してみせる。
「やあ、おはよう橘くん。どうやら今朝の爆発も、屋上で寝ている君の目覚ましにはならなかったみたいだね」
「モーニン、神代!なんでも白石ちゃん曰く、『小雨を起こすなら爆音より物理攻撃の方が効果ある』ってことらしいぜ?あっ、ついでに天馬もモーニン!」
ついでとは何だついでとは!とツッコみながらも律儀に挨拶を返す司に吹き出しつつ、類は改めて少年____橘小雨の方へと目を向ける。
カーディガンの自分達とは違いブレザーを身につけるも、袖はワイシャツの袖と一緒に肘のあたりまで捲られ、前のボタンも留まってないといった着崩れ具合。
左腕に目をやれば、『臨時風紀委員』と書かれた腕章が窓からの光を仄かに反射させていた。
「それで?今回は
「んー?風紀委員長ん家のラーメン屋のメニュー1品半額券!____そんで、始業までにお前らを捕縛でもう1枚追加だってよ...♪」
青い双眸にギラついた光を瞬かせ、小雨は身体を解すようにその場で軽くジャンプしてみせる。
「あの店は俺と日野森のお気に入りだからな!速攻ひっ捕らえて、きっちり2枚ゲットさせてもらうぜ?」
「おや、もう勝った気でいるような口振りなのは心外だね。僕も前回からアプローチを変えて新型を仕込んできたんだ...舐めてかかると、今夜交差点で歌う体力が無くなるかもしれないよ____
「フフん♪上等!睡眠時間削られた分きっちり楽しませてくれよ、天才演出家!」
「フフッ、勿論♪君の期待以上の驚きと興奮をお届けするつもりさ!」
「ちょっと待て橘!類はともかく、オレは別にこれ以上逃げ回るつもりは......おい待て何だその長いスノーボードみたいなヤツどっから出したどうしてオレの足を固定すr「さあ行こうか、司くん♪」__のわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」
先程新型と称していた発明品に乗り、類と司は文字通り爆速で小雨との距離を引き離す。
「(...とは言え、この程度の距離ならすぐに詰められるだろうけどね)」
橘小雨が『変人スリー』と呼ばれる
こうしている間に反省文の枚数が増えようと、生徒指導教諭の説教の時間が長引くことになろうと構わない。
自身の腰にしがみついて絶叫している天馬司とはまた違ったカタチで、
「____さあやろうか、僕らの本気の鬼ごっこだ...!」
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「____そくほ~う。案の定『いつもの』始まったみたいだぜ~」
「『いつもの』って~?」
「変人ツーVS変人スリーVSまたしても巻き込まれてる変人ワンの超次元鬼ごっこ」
「把握~。もう何回目だっけ?4回目?」
「(うわ...さっきの爆発で予感はしてたけどホントにやってるんだ......)」
もう慣れきった様子のクラスメイト達の会話を聞き、草薙寧々は呆れたように溜息を零す。
だがそこからクラスメイト達の会話の輪に入るわけでもなく、視線はスマホゲームの画面に落としたままであった。
「それで?今日はツーの先輩どんなモノ使ってんの?」
「あー...なんか小型のスラスターみたいなやつ取り付けたスノボで廊下滑走しとる」
「うわホントじゃん...てか何であのボード当たり前みたいに浮いてんの?斥力か反重力でも発生させてるわけ?」
「いや、スリー先輩の身体能力の方が異常だろ。なんで生身の人間があのスピードのワンツーと距離縮められるんだよ...」
「ワンツーのボードと違って、
「まだ登校してないやつらにメッセ飛ばしとけー。
「...てか前から思ってたけど、風紀委員ってどうやって
「確かに。普段体育と昼休みくらいしか動いてないイメージあるよな」
「あっ、それ聞いたことあるよ!1-Aの白石さんって子が、橘先輩の鳩尾に前宙踵落とし叩き込んで起こすんだって!」
「「...なんて?」」
クラスメイト達がスマホを覗き込んでいるのは、大方
周りに共有するように、クラスメイトの1人が音量を最大にして動画を再生する。
『流石は橘くんだね...!本気のえむくんに匹敵するその身体能力...君の周りだけギャグ漫画時空でも形成されてるんじゃないかな!』
『うっはは!ギャグ漫画
『曲がり角での衝突を無理矢理身体捻って回避しながら壁キックで加速するなんて芸当、
「(その状況下で舞台上さながらの発声と滑舌で話せてるのも大概って気付いて...ないか。司だし)」
頭ではそんなことを考えつつ、寧々はゲーム内の相手プレーヤーを流れ作業のように仕留めていく。
ギャグ漫画みたいな身体能力を備え、学校にいる時間の8割を寝て過ごす『変人スリー』橘小雨。
ギャグ漫画みたいな発想と、それを実現し
そして...なんかもう存在がギャグ漫画みたいな『変人ワン』天馬司。
あの馬鹿3人の生態を(不本意ながら)近くで見てきた彼女にとって、状況把握なら彼らの会話を聞くだけで十分なのだ。
「おっし、じゃあ
「んじゃ俺もワンツーに賭けよっかな。前回は魔改造ローラースケートでワンがずっコケて自滅したけど、今日のアレなら勝てるっしょ」
「アタシはスリーのセンパイに賭けちゃおっかな〜。なんだかんだ言って、あの堅物風紀委員長がセンパイけしかけなきゃこんな暇つぶし開かれないしね〜♪」
学生達の適応力とは凄まじいもので、変人ワンツーとスリーによる超次元鬼ごっこは暇を持て余した神高生達のちょっとした暇つぶしとして受け入れられている。
クラスメイト達が持ち出した食券____学食の日替わり定食のタダ券は、入学祝いから各種学校行事、定期テストの総合上位10名など割と頻繁に貰えるため、生徒共通のチップとして丁度いいアイテムとなっていた。
「...草薙。今、少しいいだろうか?」
「えっ?...あぁ、うん。何、青柳くん」
自分の
司の後輩ということでそこそこ話すようになったクラスメイト____青柳冬弥から声を掛けられ、寧々はスマホから顔を上げる。
「実は、今司先輩達のやっている超次元鬼ごっこ?についてなんだが...俺も賭けに参加してみないかと、周りから勧められているんだ」
「...ああ、大体分かった。青柳くん、クラスで1番食券持ってるもんね」
「...!流石、やはり草薙は頭の回転が早いな」
手放しで褒めてくれる冬弥から、寧々は気恥ずかしそうに目を逸らす。
成績優秀な冬弥は、この間の中間テストで総合4位の高得点。
加えて新入生歓迎会の懸賞企画で謎の強運により食券2枚を獲得しているため、彼がワンツーとスリーどちらかに2枚以上賭けてくれればクラスメイト達も盛り上がるだろう。
「直接お金を賭けてるわけではないし、食券自体無尽蔵に手に入る物でもないからリスクも低いことは分かっている...だが『
「...まあ、青柳くんはそういうタイプだよね」
雰囲気から滲み出る程の優等生な冬弥ではあるが、決して融通の利かないような
クラスメイト達の笑顔や盛り上がりに貢献できるなら、積極的に色々と挑戦してくれる稀有な存在だ。
「(...迷ってるってことで、いいんだよね...?)」
冬弥とはまだ大した付き合いでもないが、寧々なりに分かってきたこともある。
青柳冬弥は、根が純粋であるが故に深く考え込んでしまう人なのだと。
今回の場合、いっそ『その瞬間の気分』で参加を断ったって周りのテンションは下がらないし、『ノリの悪いヤツ』なんて思うクラスメイトは1人もいない。
...だからこれは、冬弥が冬弥自身を納得させるための材料探し。
自身の中にある2つの選択肢のどちらかを選ぶにしても...
「だったら「おっ!アイツらグラウンドに飛び出してったぞ!!」...!」
声を遮られた矢先、クラスメイト達が寧々達のいる窓際に殺到する。
冬弥と一緒に窓からグラウンドを見下ろしてみれば、朝練終わりの陸上部の間を縫うように疾走する3人の姿があった。
「ははっ!何でアイツら律儀に陸上トラックに沿って走ってんだよ...っ!」
「陸上部のハードルもツー先輩のトンデモ浮遊技術で突破してるしな...うおっ!今スライディングでハードルの下全部くぐり抜けたぞスリー先輩!?」
「...でも段々離されてきてる。やっぱり直線勝負はワンツーが有利だよね...あっ、校舎の方戻ってきた」
「おいおい頼むぜ橘パイセン...今日賭けた食券で手持ち最後なんだからな...!」
小雨が校舎内で詰めてきた距離は、トラックを一周する頃にはかなり引き離される結果となった。
始業まであまり時間が無い中、ここからワンツーに追いつくのは贔屓目に見ても厳しいだろう...と、寧々が思っていた瞬間である。
『____!』
「(うわ...今絶対見られた...っ)」
外から寧々のいる教室までの直線距離だとか、多くのクラスメイト達も窓から見ている中でとかいう前提は意味を成さない。
事実として、外からこちらを見た少年____橘小雨の姿が見えなくなった途端、寧々のスマホに彼から着信が入ってきたのだから。
「(あのスピードでどうやって掛けてきてるかはホントに謎だけど...)」
小雨が何の用事で掛けてきたのかは、正直出なくても容易に想像がつく。
...ついでに、寧々がソレを絶対に断らないことを見越した上で延々呼び出しを続けていることも。
内心を見透かされているようでちょっとムカつくが、それはそれ。
後日
...だから、その前にやっておきたいことをしよう。
「...さっきの続きだけどさ」
「草薙...?」
窓際から離れて教室の出入口に向かう寧々を見て、冬弥も彼女の後を追う。
「『応援』って思ってやれば、少しは抵抗もなくなるんじゃないかな?」
「...応援?」
「そう、応援...自分がどっちを応援しているかを対外的に証明する物として、その食券を渡してみるの」
「......」
「...例えアレが生徒指導案件だとしても、青柳くんは司側に立っていたいんでしょ?」
「...!」
思わず立ち止まった冬弥に、振り返った寧々は少しぎこちない笑顔を向けて続ける。
「自分は司を応援するってことを皆に示して、行く末を皆と騒ぎながら見守って...それで食券が増えたなら、司に渡しに行けばいいんじゃない?『ずっと応援してました』って会いに行けば、『巻き込まれた甲斐があったな!』とか言って喜んでくれるでしょ」
「......何と言うか、滅茶苦茶な理屈だな」
「...ダメだった?」
「...いや、そういうのもアリなんだなと思っただけだ」
どこかスッキリしたような顔で、冬弥は改めて寧々を見やる。
「ありがとう草薙。そういうことなら、俺も皆と楽しめそうだ」
「...うん。なら良かった」
そう言って教室の扉に手をかけたところで...何か思い出したのか、寧々は生徒手帳から1枚の紙を取り出す。
「良ければなんだけど...
「...?構わないが、どちらに出しておけばいい?」
冬弥にそう問われた寧々は...気恥ずかしそうに目を逸らし、少し口をもごつかせながら名前を告げる。
それを聞いた冬弥は納得したように笑みを浮かべ、彼女の食券を受け取った。
「...じゃあわたし、行くとこあるから」
「ああ、