とあるセカイの『Untitled』   作:YEBIS_nora

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神高狂騒曲!~バカ騒ぎはこれからも~

「今回も助かりました、白石さん。彼への交渉カードはいくらか用意がありますが...肝心の起こす段階で、自分には打つ手がありませんから」

 

「いいですって、何度もそんな...!よければ今度教えますよ?小雨が一発で飛び起きる急所(ポイント)とか、インパクトの力加減とか!」

 

「......自分の場合、先に前宙を覚えなくてはいけませんね」

 

 

屋上から戻ってきた風紀委員の少女____白石杏からの物騒な表現がチラつく提案を受け流しつつ、風紀委員長は彼女と共に体育館へ向かっていた。

 

校門前で持ち物検査をしていた委員達と合流し、全校集会の準備に合流するためである。

 

 

「そういえば委員の先輩から聞きましたけど...小雨を臨時風紀委員として起用したのって、風紀委員長なんですよね?」

 

「ええ、そうですよ...意外でしたか?堅物風紀委員長がそんな起用に踏み切ったのは」

 

「え”っ...!いや、別に堅物とまでは...」

 

「全然いいですよ、自覚はありますから」

 

どこか焦った様子の杏に笑いかけ、風紀委員長は中指でメガネのズレを直す。

 

「さっきも言ったように、あの3人の中で彼への交渉材料が1番多かったという理由もありますが...決定打はやはり生徒会長の存在でしょう」

 

「生徒会長って...あの見るからに爽やかスポーツマンって感じのイケメンの人ですよね」

 

「ええ、その彼が役員会議で言ったんです...『あんな面白いヤツらを縛るために規制強化なんて勿体ない!!』って」

 

 

驚いて目を丸くする杏に、風紀委員長は当時の会議の様子を話し出す。

 

________

____

__

 

『アイツらは確かにやること滅茶苦茶だけど、なんの目的も無しにやってるわけじゃないのは()()()()()()()()()()()

 

『俺達のはたらきかけや受け止め方次第で、あの3人は学校生活を他にないくらいに面白くしてくれる存在になる!...そんなちょっとした確信があるんだ』

 

『先生達が本気で規制に踏み切らないよう、俺と風紀委員長(コイツ)でバランスとるからさっ!...この件は、しばらく任せてくれないかな』

 

__

____

________

 

 

「...それ、丸っきり委員長が生徒会長の巻き添えくらってますよね?」

 

「...まあ、彼とは小学校からの腐れ縁ですから。今更迷惑だとも感じないですよ」

 

 

ジト目でツッコむ杏に対し、風紀委員長は肩を竦めて苦笑いを浮かべる。

 

 

「...そんな訳で、橘君と個人的に縁がある自分が彼を臨時風紀委員として起用。生徒会長は他の生徒達にも利を得られるよう、食券を賭けての勝利予想を()()()()()()()()()()()()

 

「えっ、アレって生徒会長が始めて広がったんですか!?」

 

「上手くやるでしょう?...あくまで『見ていた生徒達が自然に始めた』風を装って、小~中規模のコミュニティにローカルな流行りやルールを広げてコントロールするのは彼の得意技ですから」

 

「えぇ...何者なんですか、生徒会長って」

 

「...普通の高校生ですよ。少し頭がキレ過ぎて、色々苦労した経験があるだけの.........おや?」

 

 

途中で言葉を切った風紀委員長を見て、杏もその場で足を止める。

 

つられるように前方を見やれば、何やらかなりのスピードで近付いてくる神高生が1人。

 

 

「おっ、いいんちょに白石ちゃん!!」

 

「...小雨?」

 

 

...なんでここに来たのかとか、変人ワンツーは捕縛したのかとか問いかける暇もなかった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「「......は?」」

 

 

杏と風紀委員長が呆気にとられる中、小雨は進路脇にある用務員倉庫によじ登り...。

 

 

「____だらっしゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「「...はぁ!?」」

 

 

____屋根の上で助走をつけた勢いそのままに、校舎2階の()()()()()()()()()()()飛び移った。

 

 

「よっこらせ...っと。じゃあ2人とも、今のは『ワンツーをひっ捕らえる』っていう目的達成のための致し方ない犠牲(ショートカット)ってことで...まあよろしく!」

 

 

こちらの返事までは聞くことなく、言うだけ言った小雨は窓の奥に姿を消す。

 

『スリーが先回りしてるぞ!』とか『どっから湧いたんだアイツ!?』などの大声が木霊する中、呆然としていた杏は隣からフツフツと湧き上がる気配で意識を戻す。

 

 

「......白石さん、ついさっき断っておいてなんですが、やっぱり自分に教えてくれませんか?」

 

「えっ...教えるってまさか...」

 

「ええ...彼が一発で飛び起きる急所(ポイント)というやつを、知っている限り全て」

 

 

無骨なメガネを輝かせ、引き攣った笑みを浮かべる風紀委員長は続ける。

 

 

「本来書かなくてもよかった反省文を書かせている途中で、万が一にも彼に居眠りされたら困りますから...フッ、フフフッ...フフフフフフッ.......!」

 

「わー...怒りが1周まわっておかしなことになっちゃってる...」

 

 

今日は変人3人揃って生徒指導室送りなんだろうなと思いつつ、杏は苦笑いを浮かべながら息をつく。

 

肩を揺さぶって風紀委員長のテンションを戻した頃には、1つの決着と同時に予鈴のチャイムが鳴り響き。

 

全校集会前の校舎には、賭けに勝った者達の雄叫びと、負けた者達の絶叫が響き渡るのだった。

 

 

________

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__

 

 

オレンジ色の夕日が校舎を照らす、放課後を迎えた神山高校。

 

グラウンドや体育館から響く運動部の生徒達の声が、混ざり合いながらもどこか心地良い音として耳に届く。

 

 

「...あっ、やっと来た」

 

「...寧々?」

 

 

昇降口前に立っていた寧々を見て、生徒指導室から解放された類は手早く下足に履き替えて歩み寄る。

 

 

「僕を待っていたようだけど、何か用かい?」

 

「......別に、たまにはオフの日でも一緒に帰ってみようかなって思っただけ」

 

 

何となく釈然としない類だったが、寧々がそそくさと歩き出したのを見て一旦納得することにした。

 

走りこみをする運動部の生徒達とすれ違いながら、寧々の歩くペースに合わせて校門へ向かう。

 

 

「そういえば、今日は逃げ切りおめでとう」

 

「うん?...ああ、ありがとう。これでスコアは2勝2敗だ」

 

 

変人達による朝の超次元鬼ごっこは、優勢と劣勢が目まぐるしく入れ替わりながら最後はワンツーの逃げ切りで幕を下ろした。

 

予鈴が鳴るまで鬼ごっこをした後は類と司も大人しくなり、放課後の生徒指導室でいつもの説教と反省文。

 

小雨は終盤に危険なショートカットをしたことで生徒指導室から生徒会室にも連行され、今も風紀委員長のもとで反省文を書いているところである。

 

 

「それで?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ああ、勿論♪新しい演出と必要な装置のアイデアがどんどん浮かんで、授業中は仕様の洗い出しと基礎設計に夢中になっていたくらいさ...!」

 

 

類たちがああして鬼ごっこをするのは、単に友人たちとバカやって楽しみたいという理由だけではない。

 

本気で遊ぶ中で浮かんだアイデアや実践した経験が、()()()()()()()()()()()()()()()()と回を追うごとに実感していたからだった。

 

 

「類は小雨を出し抜くために発明や改良に挑戦して、小雨は類を出し抜くために即興(アドリブ)に挑戦する...司は巻き込まれてるだけに見えるけど、いざ鬼ごっこが始まれば、小雨の身のこなしをちゃんと観察してる」

 

「そうだね。本気で遊べば遊ぶ程____()()()()()()()()()()、他では得られない経験とアイデアが手に入る...クリエイターやパフォーマーである僕らにとって、こんなにありがたい環境なんて他に無いくらいさ」

 

 

類が小雨から逃げ切るために作った空圧機構は、今やとある演目に欠かせない舞台装置に活用された。

 

類と司を捕まえるために無駄を省いた身のこなしを、小雨は自身固有のダンスパフォーマンスとして取り入れた。

 

類のトンデモ発明品(マシン)のスピードに耐えうる体幹と、小雨の身のこなしの一部を観察してトレーニングした司は、舞台上でより要求値の高い演出をこなせるようになった。

 

...『生徒会長はそこまで見抜いた上で容認してる』と小雨に言われた時は流石に驚いたが、今となってはありがたい。

 

危険な方向へヒートアップさえしなければ、もう暫くはこの挑戦を続けることが出来そうだから。

 

 

「でも驚いたよ。まさか寧々が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

鬼ごっこの終盤で突如小雨が先回りしてきた際、類は一瞬だが目撃していた。

 

小雨が出てきた空き教室の窓の傍らに立つ、幼馴染の少女の姿を。

 

 

「...どうしてだと思う?」

 

「...?そりゃあ、橘くんにお願いされたからだろう?流石の彼も、ショートカットのために窓ガラスを突き破るのは避けたかっただろうしね」

 

「残念、ハズレ...わたしは小雨にお願いされたくらいじゃ、態々(わざわざ)ゲームの時間を潰してまで教室を出たりしないから」

 

「...自慢げに言うことなのかい、ソレ」

 

 

「当然でしょ」と得意げに返しながら、寧々は前方に目線を向けたまま口を開く。

 

 

____ギリギリの状況で競り合う方が、類はもっとワクワクしてくれると思ったからだと。

 

 

「...!」

 

 

思わず立ち止まった類に対し、寧々は歩くペースを緩めながら続ける。

 

 

「学校で悪目立ちされるのは正直恥ずかしいけど...昔みたいに、類が目を輝かせながら笑う顔を見るのは結構好き」

 

 

...今でも鮮明に思い出す、中学時代の苦い記憶。

 

 

「司や小雨と走り回った日の夜に、電話で浮かんだアイデアを楽しそうに話してくれる時間も悪くないって思ってる」

 

 

貼り付けたような色のない表情を浮かべる幼馴染に、何も声をかけられなかった頃の少女の記憶。

 

 

「____怖がらないでね、類」

 

 

...だけど、もう自分も躊躇わない。

 

 

「類が本気で才能を発揮しても、(むし)ろ上等だって受け止めてくれる仲間は沢山いるし...きっとこれからも増えていく」

 

 

奇跡的に縁が巡り会い、セカイで『本当の想い』を通わせた今だからこそ、寧々も伝えることを躊躇わない。

 

 

「皆がワクワクする舞台(セカイ)を演出しようと頑張る類のことを、わたしはいつも()()してる」

 

 

夕焼け空を背に、寧々は類の方へ振り返り。

 

握られた2()()()()()を口元に寄せ、照れくさそうにはにかんだ。

 

 

「改めて、今日は逃げ切りおめでとう...明日のお昼休みは学食で食べるから、ちゃんと類も付き合ってよね...///」

 

「......うん。ありがとう、寧々」

 

 

...そう返答するまでの空白は、実際にはほんの数秒にも満たないけれど。

 

体感として確実に、類は茜さす幼馴染の姿に目を奪われていた。

 

 

「寧々が僕らを信じて手に入れてくれた食券なんだ。明日の昼休みは、是非ともご一緒させてもらうよ」

 

「...ん、ありがと......///」

 

「.........」

 

「...ちょっ、覗き込もうとしないでよ...!」

 

「さっきから寧々がこちらを向いてくれないものだから、体調が悪くなってしまったか顔色を確認しようと思ってね♪」

 

「それ絶対ウソ...っ!っ!」

 

「寧々?寧々?脇腹にグーは結構痛いんだよ?」

 

「...日替わり定食に載ってる野菜、1人で食べ切るまで席立たせないから」

 

「よそう寧々、その手口は小学生時代にやられて軽くトラウマなんだ」

 

「...ふふっ♪」

 

 

一気に神妙な表情(かお)になった類が面白かったのか、はたまた照れくささが抜けてきたのか。

 

笑みを零した寧々に再び並びつつ、類は自身の胸元に手を当てる。

 

今抱いているこの温かさが、彼女の胸にも灯っていることを感じながら。

 

 

「...新しい演出の話、聞いてくれるかい?」

 

「...いいよ。たくさん聞かせて、類」

 

 

校門を抜けた先に広がる、茜色に染まった住宅街。

 

先程よりほんの少しだけ影の隙間を縮めながら、2人は帰路につくのだった。

 

 

-----------------

 

 

夕焼けのオレンジと、夜の藍色が空に共存する時分であった。

 

 

「__おっ、弟くんじゃん!こんなところで奇遇だね」

 

「...暁山、『弟くん』はやめろって何回も言ってんだろ」

 

 

人々で混み合うスクランブル交差点で、暁山瑞希はオレンジ髪の少年____東雲彰人にいつもの調子で声をかける。

 

 

「あっはは〜、もう呼び方馴染んじゃったから難しいかな〜♪...それよりさ、それよりさっ!杏から聞いたけど、今日も変人3人の鬼ごっこあったんだよね!?」

 

「杏から聞いたって...お前、今日も学校サボったのかよ?」

 

「起きるの面倒くさくってつい...でもミスったな〜。ボク今のところ勝利予想全戦全勝してたんだよ?スゴくない?」

 

「...そうかよ、そりゃスゴイな」

 

「素っ気ないな〜......()()()()のこと、そんな好きになれない?」

 

「......別に、好きでも嫌いでもねぇよ」

 

「...っ、本当は弟くんだって「バイト行くから、じゃあな」......参ったな...」

 

 

スクランブル交差点を渡る人混みに消えていく少年を見ながら、瑞希は腰に手を当てて嘆息する。

 

 

「(ボクからすれば、弟くんとバナ先輩って結構相性いいと思うんだけどね〜...ホント、()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 

杏や冬弥に聞いても教えてくれないのだから、瑞希としてはこれ以上やりようがない。

 

...彰人の姉である彼女なら、そんなのお構い無しに行動(アクション)を起こすのだろうけど。

 

 

「(...まあそれも、えななんが『その気になれば』の話なんだけどね)」

 

 

「言うだけ言ってみよっかな〜...」

 

 

夜が更けて、仲間(メンバー)が集まる25時。

 

この話題をどう自然に切り出せるかを考えながら、瑞希もまた帰路につくのだった。

 




天馬司
神山高校2-A
『ワンダーランズ×ショウタイム』の座長を務める未来のスターにして、神山高校が誇る『変人ワンツー』のワンの人。
今まで書いた反省文は18枚。

神代類
神山高校2-B
『ワンダーランズ×ショウタイム』の演出家兼役者にして、神山高校が誇る『変人ワンツー』のツーの人。
今まで書いた反省文は20枚。

橘小雨
神山高校2-C
神代類と同じく、この春から神山高校で授業を受ける転入生。
『類は友を呼ぶ』と言うように、司や類と速攻で仲良くなって遊ぶようになったため、転入して1ヶ月経つ間もなく『変人スリー』認定された。
今まで書いた反省文は18枚

草薙寧々
神山高校1-B
『ワンダーランズ×ショウタイム』の歌姫。
後日ネネロボでリアル格ゲーを仕掛け、小キックハメ殺しをはじめとした理不尽コンボで小雨をボコボコにした。

青柳冬弥
神山高校1-B
草薙寧々のクラスメイトで、天馬司とは幼馴染。
寧々と同じく勝利予想を的中させ、後日司と学食へ出向いた。

白石杏
神山高校1-A
風紀委員に所属する黒髪の少女。
風紀委員長に小雨の急所は教えたものの、後日熟睡状態の小雨は起こせないことが分かったため、『目覚まし踵落とし係』は彼女の継続となった。

東雲彰人
神山高校1-C
冬弥と杏ともう1人の4人でチームを結成している。
ビビッドストリートで小雨と何かあったようだが...

暁山瑞希
神山高校1-A
白石杏のクラスメイト。
彰人と小雨の関係性について気になっている。

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